○ 六本木のバー。薫と「男」が奥のボックス席で飲んでいる。他のボックス席と違って、側に女がいない。
薫「マキさん、殺されてたんですね」
「男」(無表情に)「ああ」
薫「やっぱり、東亜会でしょうね」
「男」(黙って頷く)
薫「マキさんは、俺達の秘密に詳しくないから、大丈夫だと思いますが、何かヤバイことしゃべってませんかね」
「男」「気にするな。次の仕事が終われば、これですべて終わりだ。全員が、一生遊んでも使い切れない金を手に入れて、日本から永遠におさらばだ」
薫「その仕事ってのは何です? いや、ボスはいつも直前まで言わないってのは知ってますが、まさか、造幣局でも襲おうってんじゃないでしょうね」
「男」「口数が多いぞ。場所をわきまえろ」
○ バーの女(近づいてきて)「こちら、お静かね。お代わり、作りましょうか?」
「男」「ああ、作ってくれ。(女の顔を見て)あんた、名前は?」
女(軽薄に)「ミキでーす」
○ ホテルのベッド。絡み合う「男」とミキ。(フェイド・アウト)
○ ヨシオのぼろアパート。季節は冬になっている。アパート前の物寂しい風景。どこからか、「ジングルベル」の歌がかすかに聞こえてくる。
○ アパートのドアが開き、ヨシオが出てくる。後ろを振り向いて、母親に最後の言葉をかける。
ヨシオ「じゃあな、母ちゃん。体に気を付けなよ」
母親(布団の上で。ドアからのショット)「ヨシオ、お前、まさかこのままどこかに行ってしまうんじゃないだろうね?」
ヨシオ「大丈夫だよ。また、顔見せるから……」
○ 外に、誰もいないのを確かめ、安心した顔になるヨシオ。
○ 角を曲がるヨシオ。そこに待ち伏せていた黒服の男たちを見て、蒼白な顔になる。
○ にやっと笑ってヨシオに近づく男たち。
○ 背後を振り返るヨシオ。そこにも、黒服の男たち。
ヨシオ(泣き笑いの顔で)「またやっちゃったよ、薫。でも、今度はもうみんなに迷惑はかけねえ」
○ スーツの内ポケットから、小型拳銃を素早く取り出し、口にくわえるヨシオ。
○ アパートの室内。母親が、前に置かれた数百万の現金をぼんやりと見下ろしている。
○ 外から鳴り響く銃声。母親は、はっと顔を上げる。
母親「ヨシオ!?」(「ジングルベル」がかすかに響き、フェイド・アウト)
○ ダークエンジェルズの新アジト。軽井沢。ある倒産会社の保養施設で、周りは金網で囲まれ、4面のテニスコートがある。
○ 会議室。ダークエンジェルズの全員が集まり、沈痛な表情である。薫がメンバーの前に立っており、「男」は、オブザーバーのように、端のソファに掛けて、会議の様子を無表情に眺めている。
薫(暗い顔、厳しい調子で)「ヨシオが、無断で家に帰ったのは許せない。それを阻止できなかった、俺の監督責任もある。だが、いくらなんでも、東亜会がヨシオの家を一年以上も見張っていたというのはおかしい。俺達が日本に帰っていたのが、連中には分かっていたんだ。その原因は、これだ」
○ 薫、テーブルの上に、ボストンバッグを置く。
薫「前に菊岡組を襲った時に、金庫から奪った物だ。中身は、知ってるとおり、コカインだ。売れば、何十億になるが、足がつきやすいから、誰にも手をつけるなと言ってあったはずだ。どうせみんな金には不自由してないだろうから、これは俺の部屋の押入につっこんであった。誰でも手は出せただろう。こいつを持ち出した者がいる。自分でわかってるな?」(メンバーの顔を見回す)
○ メンバーの一人、吉岡が青くなってうつむく。
薫「みんなに内緒にしていたのは悪いが、このアジトから掛ける電話は、すべて録音してある。みんなの安全のためだ。……吉岡、前に出ろ!」
○ 吉岡、蒼白な顔で全員の前にでる。
薫「この前、お前のつきあっていた奈美に電話していたのを聞いた。シャネル狂いの奈美は、サラ金に五百万の借金があって、ヤクザに追い回されていると言っていた。そいつに、お前は、心配するな、俺がなんとかすると言っていたな。お前は、前の五千万は全部使い切っていたはずだ。その五百万はどうした?」
吉岡(うつむいて)「すまん、俺がそのコカインに手をつけた。誰かに借りるのはいやだったんだ」
薫「馬鹿な奴だ。お前から金を貰った奈美が、サラ金に金を返した後、どうしたか知ってるか? サラ金にまた金を借り直して、その足で、また洋品店に行って、高いバッグを買ったよ」
吉岡(唇を噛んで)「あいつ……」
○ 薫(同情するような、厳しいような、複雑な表情で)「吉岡、ついてこい」
○ 薫、「男」の顔を見る。「男」は、軽く頷く。
○ 部屋を出る薫と、首をうなだれておとなしくその後についていく吉岡。
○ 会議室で、次の事態を待ち受けるダークエンジェルズ。
○ 部屋の外から鳴り響く銃声。顔を見合わせるダークエンジェルズ。
○ 立ち上がって、窓の外を眺める「男」。(フェイド・アウト)