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  「碧空」と言いたいような、清澄な青空。エーゲ海の、ある小島である。

  広大な私有ビーチ。全景から、その中心にある建物へ。そして、そのベランダの手すりに手をかけて海岸を眺めている男。水辺で遊ぶ女たち。白いトーガのような物をまとった男は白い物の混ざった髭をふさふさと生やしているが、よく見るとあの「男」である。女たちは、水着姿か、これも「男」と同じく白いトーガをまとっており、まるでギリシア神話の中の人物たちのようだ。このパラダイスで只一人の男である「男」は、さしずめ「ゼウス」である。

  「男」の豪壮な邸宅は、オリンポスの神殿を思わせる。「男」は、その白いベランダから、水辺で遊ぶ女たちを眺め、手にしたワインを一口飲む。

  傍らに侍る女にグラスを渡し、室内に入る「男」。室内の様子もまた、神殿の内部を思わせる簡素さでありながら、そこを飾る彫刻や絵画は、一流の趣味で統一された品々である。室内全体が一つの大広間のようであり、壁は全面が窓で、天井から床まで広々と開いている。

  テーブルの上の大画面のコンピュータの前に座っていた女が、何かを見つけて男を振り返り、目で合図する。歩み寄る男。画面をのぞき込む男。

  コンピュータの画面に英文のメッセージが記されていく。

  「Mへ。    Kより。

お変わりないでしょうか。我々は全員元気です。」

  コンピュータの画面に重なって、薫の顔が浮かぶ。その顔が「男」に語りかける。

薫「と言っても、それは半年前までのことで、その後私たちはほとんどが整形手術で顔を変え、偽造された履歴とともに世界各地に散らばっていきましたので、その後の消息はわかりません。スイス銀行の口座にあなたから振り込まれたそれぞれ50億円の金は、多分一生かかっても使い切れないでしょう。しかし、僕にとっては、この50億の金よりも、あなたやみんなとともに過ごした一年あまりの日々のほうが、はるかに貴重なもののように思われます。僕にとっては、残りの平凡な人生は、まさしく余生です。でも、これは無い物ねだりかもしれません。僕はこの前結婚しました。もうすぐ子供も生まれます。これが、きっとあなたへの最初で最後のメールになるでしょう。あなたがこのメールに気づいてくれることを願っています。では、お元気で。……永遠に、さようなら。」

  コンピュータの画面を離れようとする「男」。しかし、「おやっ」という顔でもう一度画面に顔を戻す。

  コンピュータの画面。「P.S.  Who are you?」

  大笑いする「男」の顔。(ストップ・モーション)

  狂躁的で調子外れのロックにアレンジされたベートーベンの「歓喜の歌」が流れる中、エーゲ海の夕焼けの情景、島々の影、気が狂うほど美しい夕焼けの雲、夕日の反射光の中の海上のヨットなどのカット。そして、最後の光を投げかける太陽の輝きとともに……

  The Endのクレジット。

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