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  武道館。桜の花が満開の周辺の風景。武道館に急ぐ人々。生真面目そうな顔の中高年の男女に混じって、明らかに右翼らしい人間や、和服の人間、黒塗りの高級車から下りる、最高級の仕立ての背広を着た政財界の大物らしい人物の姿が見える。

  「天声神霊会全国大会」と書かれた大看板が、武道館会場入り口に立っている。

  一際豪華な黒塗りのリムジンから、一人の男が下りる。身長、体重とも常人の一倍半はありそうな巨漢で、奈良の大仏によく似た福々しい顔に、見事な白髪の、七十前の男だ。だが、にこやかな笑顔とうらはらに、その目は、異様に鋭い。

  彼を見つけて、口々に「徳大寺様だ!」「生神様だ!」と叫んで土下座し、拝む人々。それらに向かって片手で拝む仕草をしながら、ゆっくりと会場に入る徳大寺。

  会場の控え室。大きなソファに沈み込んでテレビに見入る徳大寺。

  テレビの画面。十五歳くらいのアイドル歌手が歌っている。

  黒いスーツの中年男、東亜会若頭の広瀬が部屋に入ってくる。凄みのある顔である。

  徳大寺に一礼する広瀬。

徳大寺(厳しい顔で、テレビを見たまま)「菊岡組の件はどうなっておる?」

広瀬「今の所、情報はありません。申し訳ありません」

徳大寺「盗まれたヤクも大事だが、俺の顔に泥を塗った奴らは生かしてはおけん。さっさと見つけだして、始末しろ」

広瀬「はい」

  一礼して引き下がろうとする広瀬を、徳大寺が呼び止める。

徳大寺「おい、この娘はなんという?」

広瀬「はい?」(テレビの画面を見る)

  画面の中で歌うアイドルタレント。清純な感じである。

広瀬「確か、沢村ユリといった人気タレントです」

徳大寺(好色そうな顔で)「プロダクションに電話して、今晩、サヴァランに来るように伝えろ。名目は対談でもなんでもいい」

広瀬(無表情に)「承知しました」

  画面の中で、インタビューを受ける沢村ユリ。

  それを見る徳大寺。

  控え室のドアが開いて、進行係が顔を出す。

進行係(おどおどした感じで)「徳大寺様、恐れ入りますが、間もなく出番でございます」

  横柄な感じで頷き、ソファから腰を上げる徳大寺。その間も、テレビから目を離さない。(フェイド・アウト)

 

  超高級フランス料理レストラン「サヴァラン」。

  徳大寺が、個室で一人でフルコースのディナーを食べている。

  料理長が、怯えたような恭しい態度で、部屋に入ってくる。

料理長「今日の料理はいかがでございましたでしょうか、徳大寺様」

徳大寺(にこやかに)「よかったよ。いつもながら、君の腕は、天才としか言いようがない」

料理長(安堵したような顔で頭を下げる)「恐れ入ります」

徳大寺「特に、カキは絶品だったな。だが、オマールは少し大味だ。君のソースで、うまく誤魔化していたがね」

料理長(青くなって)「さすがに、徳大寺様です。今年のオマールは、少し悪いようですが、それに気がつかれたのは徳大寺様だけです」

ボーイ(ドアの方から)「沢村様がお着きになりました」

  料理長、一礼して退出する。それと入れ替わるように、沢村ユリが入ってくる。自分の今晩のスケジュール変更に戸惑い、対談の相手が何者かわからず、あいまいな微笑である。

  立ち上がって、にこやかにユリを出迎える徳大寺。

ユリ「遅くなってすみません」

徳大寺「いやいや。こちらこそ。どうしても、今晩以外都合が悪くてね。無理に君の方のスケジュールを変えて貰った」

  ボーイがユリの前に、メニューを持ってくる。

  部屋の外。ユリのマネージャーが、心配そうに立っている。そこに、黒服、サングラスの男が近づいてくる。

男「ユリのマネージャーだな? 今晩は、あんたの仕事はこれで終わりだ。ユリは我々がちゃんと送って返すから、心配しないでいい」

マネージャー「し、しかし……」

男「プロダクションの社長から聞いてないのか? あの方は、東亜会の徳大寺会長だぞ。ただのタレントごとき、一晩相手をするくらい、光栄だと思え」

  男は、マネージャーに、封筒に入った金を渡す。マネージャーは観念して、頭を下げて立ち去る。

  ウェイターが料理を運んでくる。

男「ちょっと待て。毒味だ」

スープの中に、小瓶から何かの液体を垂らす。

  怯えた顔のウェイター。

男「このことは、外でしゃべるんじゃないぞ(にやっと笑って)お前も、女優やタレントが抱きたければ、政治家かやくざになるんだな」

  無心に料理を口に運ぶ沢村ユリ。やがて、その顔が硬直し、テーブルの上にすとんとうつぶせになる。

  それを満悦した顔で眺める徳大寺。

  ユリを抱えて運び出す男。その側に、並んで店を出る徳大寺。いつの間にか、数人のボディガードが、彼らを取り囲んでいる。

  徳大寺に頭を下げる、オーナー。

徳大寺(オーナーに)「沢村さんは、ワインに酔われたようだ。もしかして、悪い物でも食べたかな?」

オーナー(青い顔になって)「ご冗談を!」

  高笑いして、リムジンに乗り込む徳大寺。その側には、すっかり眠り込んでいるユリ。車を発車させると、徳大寺の手は、待ちきれないようにユリのスカートをまくり、そのしなやかな太股を撫でさすり初める。

  無表情に運転する運転手と、同じく無表情に横目でバックミラーに映る徳大寺の痴態を見るボディガード。(フェイド・アウト)

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