○ 大日本興業銀行頭取、三ツ木守の家の前の道路。午前3時頃。音もなく近づいてきた一台の車が静かに停止し、三人の男が下りる。三人とも黒いスーツ姿である。薫、透、「男」の三人だ。
○ 薫と透が手を組み合わせてはしごを作り、「男」が、それに足を掛けて、軽々と塀の上に飛び乗る。
○ 塀の外で待つ二人。
○ 門が開いて、「男」が現れ、二人に頷く。
○ 中に入る二人。門の近くに、「男」に殺された番犬、ガードマンの死体が転がっている。
○ 三ツ木守の寝室。大いびきをかいて寝ている三ツ木の姿。
○ 三ツ木の肩を揺すって起こす「男」
○ 寝ぼけた感じで目を開ける三ツ木。「男」を見て驚愕する。
三ツ木「ど、泥棒! 誰かいないか」
○ ベッドから這い出し、逃げる三ツ木。「男」はそれを止める様子もなく、見送る。
○ あたふたと廊下から階下の居間に下りる三ツ木。そこには、ガムテープで猿ぐつわをされ、縛られた家人と、ガードマン、女中がいて、その側には薫と透がピストルを手にして立っている。
三ツ木(虚勢を張って)「お前達、何が目当てだ。うちには金などないぞ」
薫(さげすむように)「有り金を出して、家の人間の命を救おうとは思わないのか? けちな爺さんだ」
三ツ木「い、いや、十万円くらいなら、ある」
透(テーブルの上に、小型金庫を乗せ、開けてみせながら)「これが十万円か。少なくとも、五百万はありそうだぜ」
○ いつの間にか、居間の戸口に「男」が立っている。
「男」「そんなはした金はどうでもいい。三ツ木さん、あんたにやってもらいたい事がある。いやだと言えば、ここであんたの家族もあんたの命も貰う」(フェイド・アウト)
○ 大日本興業銀行。朝。黒いBMWから、三ツ木と「男」が銀行の前に下りる。
○ 階段を上り、行内に入る二人。
○ 頭取の姿を見て、挨拶する行員たち。
○ 頭取室の前で、秘書の女が頭取に挨拶し、側の「男」を不審そうに見る。
三ツ木「こちらは、大蔵省の大石さんだ。大事な用件で、緊急に見えられた。すぐに児島君を呼んでくれ」
○ 頭取室に入る児島。
○ 頭取の側の「男」に不審そうな目を向けながらも会釈をする児島。
三ツ木(やや早口に)「こちらは、大蔵省の中でも、特別な部局におられる方だ。特別会計というか、いわば国家財政の隠し金専門だ。で、実は、この銀行にもそういった隠し金があるんだが、それを緊急に、大蔵省の中に移したいとおっしゃるんだ。もちろん、もともと大蔵省の金だから、こちらとしても断ることはできん」
児島「大蔵省の隠し金と言うと?……(ポンと手を叩いて)あの、旧満州国の財宝ですか?」
三ツ木(頷いて)「そうだ。で、君を呼んだのは、その搬出の手配をして貰いたいんだ。なにしろ、五千億から六千億に上る金塊が大半だから、その重さだけでも大変なものだ。手の空いている行員を総動員して、運ばせてほしい。(時計を見て)10時には、大蔵省からのトラックが来ることになっている。あまり、時間がない。行員たちには、このことは知らせるな。変な噂になりかねん。それでなくても、今は不祥事続きで大蔵省はマスコミにはナーバスになっているからな」
児島(頭を下げて)「承知しました」
○ 部屋を出ていく児島。出ながら、一言もしゃべらない「男」にもう一度不審の目を向ける。
○ 窓をバックに、腕組みして立っている「男」
○ 銀行の裏口に停まる10トントラック。制服姿の警官が、その荷台から10人ほど出てくる。
○ 児島によって鍵を開けられる地下金庫。大金庫の中には、天井近くまで積まれた金塊と、無数の木箱がある。
○ 裏口から、台車でどんどん運び出され、トラックに積み込まれる財宝。金塊には、カバーがされている。児島がそれを眺めている。
○ 報告のために、金庫室に戻る児島。
○ 三ツ木と「男」が、カラになった金庫室に立っている。
児島「搬出は完了しました。受け渡しの書類などは?」
三ツ木「ああ、それは私がサインしておいたからいい」
○ 児島、何気なく三ツ木の左手を見る。三ツ木は、「男」に見えないようにして、左手の人差し指と中指をクロスしたサインを出している。
○ 児島、事態に気が付き、青ざめてかすかに頷き、部屋を出る。
○ 地下金庫室の廊下の端にある緊急電話に急ぎ足で近づく児島。
○ 電話に手を掛けようとした瞬間、後ろから「男」の腕が伸び、児島の首に巻き付く。
○ 地下室を出る「男」。その後ろに転がる、三ツ木と児島の二つの死体。(フェイド・アウト)
○ 東京近郊の廃工場の倉庫。10トントラックが現れ、倉庫の一つに入る。
○ 倉庫の中で、ダークエンジェルズが荷物を下ろし、その一部を小型トラックに積み分ける。
○ 小型トラックに乗り込み、発車させる「男」
○ 湾岸道路を走る小型トラック。運転する「男」
○ とあるヨットハーバー。「男」のトラックが停まったところには、一台のクルーザーが停泊している。「男」がマイアミで購入したクルーザーである。
○ トラックから降り、クルーザーに乗り込む「男」
○ クルーザーの後方の屋根が開き、クレーンがトラックを持ち上げ、屋根の中に格納する。
○ 港に停めてあったメタルグレーのベンツに乗り込む男。
○ 走り去るベンツ。(フェイド・アウト)
○ 警察。尋問に答えているのは、吉岡の恋人だった奈美である。
奈美「だから言ってるでしょ。あたいの五百万は、ダークエンジェルズのメンバーの吉岡から貰ったもんだって。金の出所なんか知らないわよ。あいつが勝手にあたしに惚れて、くれたんだから」
刑事「薫って奴は知ってるか?」
奈美「知ってるわよ。ちょっといい男だけど、うるさい奴」
刑事「この男か?」(モンタージュ写真を見せる)
奈美「似てるわね。あいつ、何したの?」
刑事「銀行から、五千億円相当の品を強奪したんだ。これは、殺された三ツ木頭取の家族の証言で作ったモンタージュだ。どうやら、ダークエンジェルズの全員が、一連の事件に関わっているらしい」
奈美「私は関係ないわよ。金は吉岡が勝手にくれたんだから」
刑事(舌打ちして)「ああ、その通りだ。あんたは、貰い得ってわけさ」
○ 小林刑事(マジックミラー越しに尋問の様子を見ながら、他の刑事に指示して)「すぐにダークエンジェルズ全員を指名手配しろ。もちろん顔写真付きでだ」(フェイド・アウト)