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  六本木。良く晴れた日差しの中、人出でにぎわう六本木風景。ビジネススーツ姿の薫が通りを急ぎ足で歩き、裏通りの目立たない雑居ビルに入っていく。

  階段を上る薫。「信頼証券」と金文字で書かれたドアを開けると、中は一応、ビジネスデスクがずらりと並び、パソコンや電話が揃っているが、そのデスクの前にいるのは、板に付かないビジネススーツを着てネクタイを窮屈そうに締めた、ダークエンジェルズたちである。パソコンの画面をよく見ると、ほとんどはゲームかインターネットのHサイトである。

  薫が奥の部屋のドアを開けると、どっしりとしたデスクの後ろで、ふかふかのソファに沈み込んで本を読んでいる「男」の姿が見える。

薫「ボス、野村が発見されたようですよ。発見したのは菊岡組です」

「男」「そうか。日本のヤクザは警察よりは優秀だな。では、我々の事も知られたな」

薫「野村はうんと脅しときましたが、拷問されれば、すぐに吐くでしょう」

「男」「少し仕事を急ぐ必要が出てきたな。野村の奴、殺しとくべきだった。で、お前らの足取りは悟られてないだろうな」

薫「あの仕事が我々の仕事らしいということは、おそらく警察も推測していると思います。なにしろ、我々全員が失踪して、もう三ヶ月になりますから。メンバーの中には、家族に会いたいと言う者もいますし……」

「男」「家族? 何を馬鹿なことを。お前らは、捕まれば無期懲役か死刑間違いなしの犯罪者だぞ。そんな人間が家族に何の用がある」

薫「もちろん、メンバーの大半は、その覚悟を決めてます。だが、中には家族思いの奴もいて……」

「男」「家族のことはあきらめるように、お前からよく言い聞かせておけ。偵察目的以外では、自分の家の近くには立ち寄るなとな」

薫「はい」

  電話の音。ドアが開いて、透が顔を出す。

透「ボス、例の刀剣商から、注文の品が出来たという電話です。届けさせますか? それとも、俺が取りに行きましょうか?」

「男」「いや、俺が自分で行く。薫、後は任せたぞ」

薫(深々とお辞儀をして)「はい。いってらっしゃい」

  刀剣商の店。「男」が店内に入ってきたのを見て、店の主人が会釈をする。

「男」「できたそうだな。見せてくれ」

  主人、無言で、品物を差し出す。見かけは只のステッキだが、男がその上部をひねって抜くと、刀身が現れる。鍔のないサーベルを仕込み杖にしたものである。

「男」(満足そうに)「見事なものだな」

主人「観賞用としてもたいしたものですが、切れ味はもっといいですよ。奥の部屋に、試し切り用の巻き藁がありますが、お試しになりますか?」

「男」「いや、後で試してみよう。支払いはこれでいいな?」

  「男」は背広の内ポケットから札束を取り出し、主人に渡す。

主人(不審そうに)「お約束より、だいぶ多いようですが?」

「男」「取っておけ。その代わり、この品のことも、俺のことも、誰にも言うな。もしも、口外したら、この剣、真っ先にお前の首を取るかもしれんぞ」

主人(男の目の色に震え上がり)「は、はい、もちろんです」(フェイド・アウト)

 

町で聞き込みをするヤクザたちを数ショット連続、無音で。(フェイド・アウト)

 

  背後を気にしながら六本木のアジトを出るヨシオ。

  電車に乗っているヨシオ。

  オンボロの自分のアパートの前で、キョロキョロとあたりを窺うヨシオ。人気の無いのを見極め、アパートに入る。

  汚い煎餅布団から首を起こして、ヨシオを見るヨシオの母。

ヨシオの母「ヨシオ! 今までどこに行ってたの!」

ヨシオ「母ちゃん、御免な……」

○ ヨシオのアパートの前の貧しげな風景。

  アパートのドアが開いて、ヨシオの顔が見える。背後に心を残しながら、出ようとしている。

ヨシオ「……じゃあな、母ちゃん。金を無駄遣いすんなよ……」

  ヨシオ、ドアの前に立ちふさがる男達にぶつかる。

  ヨシオを見下ろす男たち。ヤクザである。

ヤクザ(にやりと笑って)「ヨシオだな。やっとつかまえたぜ」

  蒼白になるヨシオの顔。(フェイド・アウト)

 

  六本木の「信頼証券」。「男」の部屋で薫が男に頭を下げている。

薫「お願いします。俺はあいつを助けたいんです」

「男」「規律を破って家に戻り、捕まった奴だ。殺されて仕方がないところだが、今度ばかりはお前に免じて助けてやろう」

薫「菊岡組の連中は、俺達が盗んだ金を全部持って、今晩、組の事務所に来いと言ってます。俺一人で来いと言いましたが、一人で持てる金じゃないと言うと、三人までいいと言っていました」

「男」(頷いて)「わかった。透を呼べ。今から、ヨシオを助ける段取りを話す」(フェイド・アウト)

 

  新宿歌舞伎町。夜。大通りから少し奥まった所にある菊岡組のビル。貧相な三階建てのビルである。一階は不動産屋、二階三階が組の事務所である。

  菊岡組の事務所内部。窓から見下ろしたチンピラが、後ろを振り向いて報告する。

チンピラ「来ましたぜ。ダークエンジェルズのガキどもです」

  菊岡組の実質的ナンバーワンの富永。ゴルフのパター練習をやめて、窓に近づく。

富永(窓から見下ろし)「三人だな。奴らが来たら、武器を持ってないか、入り口でボディチェックしろ」

  下の舗道から菊岡組に入ろうとする薫、透ともう一人のダークエンジェル。それぞれ、両手にボストンバッグを持っている。

  見張りのチンピラにボディチェックを受ける三人。

  二階の事務所。いかにもヤクザの事務所らしい凶悪さと悪趣味さに溢れた調度や掛け物。

富永(ふてぶてしい態度で相手を威圧しながら)「薫ってえのはお前か。お前ら、とんでもねえことしやがって、自分らのやったことわかってんのか? 日本中のヤクザが目の色変えて、お前らの後を追ってんだぞ」

  顔を見合わす三人。本当はたいして怯えてもいないが、精一杯しおらしい表情を作っている。

富永「金は持ってきたな? そのテーブルの上に置きな」

薫(バッグをテーブルの上に置きながら)「ヨシオは? 引き換えが条件のはずだ」

富永(テーブルを拳でどすんと殴って)「このガキャあ! 条件だあ? 生きて帰れるかどうかてめえの心配しろ!」

  ビルの側面の狭い路地。闇の中から姿を現した「男」が、上を仰いで、手にした細いロープを投げ上げる。ロープの先端のフックが、屋上の一部にかかる。

  ビルの壁を、ロープで鮮やかに上る「男」。

  三階の窓から、中をのぞき込む「男」

  窓の中の情景。大きなデスクの後ろに、ソファに座った菊岡組組長のでっぷり太った姿が見える。そして、その前の絨毯敷きの床に転がっているのは、ヨシオの姿である。彼は後ろ手に手錠をかけられ、顔は拷問されて青黒く腫れ上がっている。室内には、もう一人、若くたくましいヤクザがいる。

  窓に手を掛け、それを開く「男」。

  室内に飛び込んできた男に驚く組長と、そのボディガード。「男」は素早く若いヤクザに近づき、背後に持っていた仕込み杖のサーベルを、横になぎ払う。

  宙を舞う若いヤクザの首。

組長(驚愕して、銜えていたパイプが口から落ちる)「き、貴様!」

  その太いのど頸に、「男」のサーベルが、すっと突き刺さる。

  二階事務所。上を見上げる富永。

富永「上が騒がしいな。誰か、様子を見てこい」

  部屋を出ようとしてドアを開けるチンピラ。足を止めて、後ずさりする。

  不審そうな顔になる、室内のヤクザたち。

  チンピラの胸に突きたったサーベルが見え、そのままチンピラは床に崩れ落ちる。

  室内にゆっくり入ってくる「男」

  「手前!」と叫びながらピストルを抜く富永。その手首を、「男」のサーベルが切り落とす。

  ピストルを握ったまま、ぼとっと床に落ちる手首。

  床に転げて苦悶の声で泣き叫ぶ富永。その間にも、男は素早い身のこなしで、室内の、他のヤクザを次々に斬殺する。

  床に転がる富永を見下ろす「男」

「男」(富永の首にサーベルを当てて)「ヨシオの手錠の鍵と、金庫の鍵をよこせ」

富永(苦痛の声をあげながら、やっと答える)「……手錠の鍵は、三階の、見張りが持っているはずだ。金庫の鍵は、組長のポケットか、デスクの中だろう」

「男」(頷いて)「なかなか素直だ。今すぐ楽にしてやる」

  富永の心臓に突き立てられるサーベル。

  三階のヨシオを救出し、金庫を開ける薫たち。

  菊岡組の事務所を出て、近くに止めてあったライトバンに乗り込む「男」とダークエンジェルズ。

  闇の中に消えていく車。(フェイド・アウト)

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