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  ダークエンジェルズのアジト。例の廃工場である。その事務室で、薫が、いらいらした顔で、無線機の前の透の様子を見ている。

薫「なぜ、サンタマリア号は来ない! 本当なら、もう十二時間も前に着いているはずだ」

透(クールに)「南方海上での時化のため、遅れるそうだ。到着は、明日の夕方以降になると言っている」

薫(あきれた顔で)「二日近くも遅れるのか! まさかこんなつまらん事で、すべてがパアになるんじゃないだろうな」

「男」「うろたえるな、薫。みっともないぞ。それより、お前らみんな指名手配されてるんだから、絶対に外に出るんじゃないぞ」 

薫「もう遅いですよ。ほら、奴ら、やってきました」

  パトカーのサイレンの音。夕暮れの中、無数のパトカーがアジトに迫ってくる。

  アジトのビルの屋上から、見渡す限りパトカーに埋め尽くされた情景を眺める「男」と薫。

「男」(微笑して)「壮観だな。これだけのパトカーを総動員したのは、日本警察始まって以来だろう」

薫「そして、我々は壮大な失敗者として犯罪史に名を残すってわけですか?」

「男」「まだ、そう決まったわけじゃない。我々には、あのヘリがある」

薫「しかし、あのヘリは、航続距離がたった70キロしかないんですよ。10トン近い荷物を抱えて、ここから東京湾まで持つかどうかもわからないくらいだ。それに、持ったとしても、船はまだ来ていない。東京湾まで出たところで、海にボチャンだ」

「男」「海まで出る必要はない」

薫(不思議そうに)「どこに下りるんです? どこに下りようが、下りたところで逮捕、あるいは射殺、爆殺ですよ」

「男」「いいから、全員をヘリに乗り込ませて、エンジンを掛けておけ。いや、健太郎とタカヨシの二人は、バズーカ砲を持ってここにくるように言え。少し時間稼ぎをしよう。」

  廃工場の周りを埋め尽くすパトカー。パトカーばかりでなく、トラックから機動隊がぞろぞろ出て、ピストルやライフルを手に、配置についている。

  真っ赤な夕焼けの中、ビルの屋上に一人立って、下を見下ろす「男」。手にはライフルを持っている。

  警官隊の中から、小林刑事が前に出て、拡声器を口に当てる。

小林「ダーク・エンジェルズの諸君! 君たちは完全に包囲された。武器を捨てて、手を上げて出てきなさい」

  ライフルを肩に当て、小林を狙う「男」

  スコープの中の小林の上半身。発射音とともに、その眉間に穴が開いて、血が噴き出すのが見える。

  一斉に射撃を開始する警官隊。

  屋上の物陰に腰をかがめる「男」。

  二階の窓からバズーカ砲で警官隊のパトカーを狙う健太郎とタカヨシ。

  バズーカ砲が発射され、轟音とともにパトカーが火柱をあげて吹っ飛ぶ。

  次々にパトカーを砲撃する二人。恐慌に陥る警官隊。

  屋上から飛ぶように駆け下りる「男」。バズーカ砲を捨てた健太郎とタカヨシがそれに続く。

  ビルからの砲撃がやんだのに気づいて、ビルを見上げる警官隊。

  異様な振動音がビルの背後から響き、やがてビルに隠れた中庭からビルの後ろ側に、巨大なヘリコプターが現れる。

  呆然とする警官隊。だが、すぐにヘリコプターへの射撃を開始する。それを後目に、ヘリコプターはどんどん上昇し、夕日に輝きながら射程距離を離れていく。

  夕闇の中を飛行する巨大ヘリコプター。その姿は、モビー・ディックさながらである。

  内閣官房長官室。警視総監と内閣官房長官が、腕組みをして思案している。

  警察官僚並木警視正が、事件の報告に現れる。

並木「総監、連中の行く先が判明しました。この進路からして、連中は、ここに向かうつもりです」

  地図の一点を指す並木の手。官房長官は奇妙な悲鳴を上げる。

官房長官「こ、皇居だと?」

並木「はい。単に着陸するためか、皇居を攻撃するつもりかはわかりませんが、皇居を目指していることは確実だと思われます」

警視総監「そ、それだけは何としても避けなくてはならん。連中が皇居に達する前に、爆破できんか?」

並木「しかし、下はすべて民家で、上空であのヘリを爆破した場合、少なくとも百人以上の死傷者が出ますが?」

官房長官「それは困る。そんなことになったら、内閣総辞職だ」

警視総監「背に腹は代えられんでしょう。並木君、すぐに自衛隊に連絡して、奴らが皇居に達する前に、ヘリを爆破するように頼んでくれ」

並木(不賛成だ、という感じで頭を振りながら)「奴らが、皇居を攻撃するとまだ決まったわけではありませんよ」

警視総監「何を悠長な事を言ってる。陛下の御身が危ないんだぞ!」

  官房長官の机の上の電話が鳴る。受話器を取る官房長官。

官房長官(他の二人を振り返って)「犯人たちから電話が入ったそうだ。今、拡声器につなぐ」

拡声器から流れる「男」の声「警視総監はいるか? あるいは総理でも誰でもいい。とにかく、そちらの最高責任者に伝える。我々は、ヘリコプターに、ロシアから入手した小型原爆を搭載している。広島、長崎に落ちた原爆くらいの威力はある奴だ。もしも、我々を攻撃したら、すぐにこの原爆を東京の中心地に落とすつもりだ。少なくとも、東京の都心地はすべて破壊されるだろう。我々の邪魔をしなければ、これ以上の被害は与えないと約束しよう。後ほど、我々の要求は伝える。期待して待っていたまえ」

  腰を抜かしたように、ソファに座り込む官房長官。

官房長官「げ、原爆!……」

警視総監「はったりです! ブラフに決まってます!」

官房長官「なぜ、そう断言できる? もしブラフでなかったらどうするつもりだ?……東京に原爆が落ちる!……そんな馬鹿な」

並木(携帯電話に耳を当てて)「ヘリが降下し始めました。やはり、皇居に着陸する模様です」

  頭を抱える警視総監と官房長官。(フェイド・アウト)

 

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