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  (フェイド・イン)官房長官のデスクの上の電話。突然、プルルと呼び出し音がする。

  電話機に飛びつく官房長官。拡声器から声が流れる。

声(切迫した感じで)「もしもし、もしもし。こちら、宮内庁の侍従長の一色です。皇居にヘリで下りた犯人たちによって、皇居は占拠されました。ただ今から、彼らの要求を伝えます。……」

  固唾を飲んで、待ち受ける官房長官、警視総監。それに、総理大臣、与党幹事長もいる。並木は、彼らから一歩下がって控えている。

電話の声「犯人たちの言葉どおりに報告します。いいでしょうか。……一つ、我々は、今夜、ここを出発する。今から二時間以内に、ジェットヘリ用燃料2トンを皇居に運び入れること。燃料に細工したり、警官、自衛隊員などを忍び込ませてはいけない。そんな事をしたら、人質の安全は保障しない。

二つ、我々のヘリコプターが洋上に出るまで、ヘリコプター、ジェット機、セスナ、その他どのような飛行物も、東京上空を飛行させてはならない。民間機、米軍飛行機なども含めてだ。

三つ、我々が洋上に出てからも、我々に対して、攻撃はもちろんのこと、いかなる追尾もしてはならない。不審な行動を取った場合、人質の安全は保障しない。

 なお、我々が目的地まで着くまでの安全保障として、皇太子殿下に御同行願うことにする」

警視総監(顔を真っ赤にして)「馬鹿な! それだけは飲めん!」

声「以上が、我々の要求である。なお、すでにご存じのとおり、東亜会を壊滅させたのは、我々である。以上の要求、および大日本興業銀行からいただいた金は、日本を大掃除した事への、ささやかな謝礼と考えていただきたい。国民も、それで納得するだろう。さらに、皇太子殿下が人質になったのは、警官隊を含め、他の人々にこれ以上の被害を出したくないと、殿下御自身の申し出によるものである。諸君が、この崇高なご配慮を台無しにしないよう、無謀な行動にでないように自重することを望む。……

 以上が、犯人たちの声明です。なお、この声明への回答を30分以内にするように、との事です」

官房長官(総理大臣に向いて)「総理、どうします?」

総理(腕組みしていた手をほどき、電話に歩み寄って受話器を取り)「すべて承知した。私は総理の大友だ。犯人たちにそう伝えてください」

幹事長(顔を真っ赤にして、怒鳴るように)「総理、こんな屈辱的な要求を飲む気か!」

総理(目を閉じて、腕組みし)「それしかなかろう……」(フェイド・アウト)

 

  皇居。サーチライトに照らされた周囲には、何百台ものパトカーのほか、陸上自衛隊のジープ、装甲車、トラックが無数に詰めかけている。その周囲には、何千人もの武装警官、自衛隊員が、銃を持って、いらだった表情でたたずんでいる。さらに、その外には、テレビや新聞の報道隊や無数の野次馬たちが、わいわい騒ぎながら見物している。

  皇居内からヘリコプターの爆音が響き、やがて闇の中をサーチライトに照らされて、巨大ヘリが少しずつ浮上していく。

  見上げる警官隊、野次馬の顔、顔。

  一際ものものしく警戒された一画に、総理大臣らの顔も見える。

  皇居の堀。黒い水の中から、黒ずくめの姿の男が頭の半分ほどを出す。男は泳いで堀の側面に達し、人気のない茂みに隠れて上陸する。

  茂みの側に立って上空のヘリコプターを見上げている警官。その後ろから「男」の腕が巻き付いて首の骨を折り、茂みに引きずり込む。

  茂みの中から、警官の制服を着て現れる「男」。

  側のパトカーに乗り込み、発車させる「男」。

  群衆の間を抜け、脱出するパトカー。

  サーチライトに照らされながら、ゆっくりと皇居の上を離れていく巨大ヘリ。

  都内を走るパトカー。

  ライトアップされた東京タワーをバックに走るパトカー。

  サイレンを鳴らしながら、品川、大井を走り抜けるパトカー。

  ヨットハーバー。暗く静まり返った中、車のライトが道の彼方に現れる。

  「男」の乗ったパトカーが猛スピードでハーバーに進入し、桟橋に停泊しているクルーザーの側に停止する。

  車から素早く下りて、クルーザーのタラップを駆け上る「男」。

  操縦席でエンジンのスイッチを入れ、運転する男。

  ハーバーの桟橋をゆっくり離れていくクルーザー。

  ぐんぐんスピードを上げ、東京湾の入り口に達するクルーザー。背後に、東京の夜景が美しい。

  自動操縦に切り替え、操縦席を離れる「男」。

  つんつるてんの警官の制服を脱ぎ捨てながら、パンツ一つになり、奥の部屋に入る「男」。

  冷蔵庫を開け、冷えた缶ビールを取り出し、口に付けて一息に飲み干す「男」。

  ガウンを羽織ったあと、続けて、同じく白ワインを取り出し、これも冷蔵庫で冷やしてあるグラスを手にして操縦席に行く「男」。

  操縦席のナビゲーターと計器を見て、自動操縦装置が順調であることを確認し、操縦席に深々と座り込む「男」。

  グラスにワインを注ぎ、それを目の前に掲げ、「コングラチュレーション!」とつぶやいて、それを飲み干す「男」。

  目を閉じる「男」の顔。満足感に溢れている。やがて、「男」は眠り込む。(フェイド・アウト)

 

  暗い海上を飛ぶ巨大ヘリ。

  (上空から)航行する空母「サンタ・マリア」の姿。

  「サンタ・マリア」に近づくヘリ。

  「サンタ・マリア」の甲板にゆっくりと下りていくヘリ。(フェイド・アウト)

 

  新聞紙面の見出し。「5000億強奪犯人グループ、リビア入国」「人質の皇太子様、無事解放」「犯人グループ消息不明」「ダーク・エンジェルズ北朝鮮亡命か?」(フェイド・アウト)

 

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