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  アジトの一室。薫と「男」が向き合って立っている。

薫(唇をきっと噛んで)「俺を抜けさせてください」

「男」「イエスと言うと思うのか?」

薫(挑戦的に)「抜けるのは殺すと言ってましたね。俺を殺しますか? いいですよ。抵抗はしない。どうせあんたに勝てないからな。ノーなら、俺を殺してください」

「男」「なぜ抜けたい? 命が惜しくなったわけではあるまい」

薫「ヨシオの仇をうちたいんです。あいつは、俺達の居場所を白状しないために、自分の頭をぶちぬいて死んだんだ。それに、あいつの母親も殺された……その敵討ちがしたいんだ。あんただって、マキさんの仇がうちたいでしょう。ヨシオの仇がうてないなら、俺は生きていたってしょうがない」

「男」「わかった。『仕事』の後ではだめなんだな?」

薫「正直言って、今度の仕事、成功の確率は五分五分だと俺は思っている。成功しても、何人死ぬかわからない。つかまっても、殺されてもいいが、それではヨシオの仇がうてない」

「男」「一人で抜けて、東亜会相手に何ができる?」

薫「何も東亜会全部と戦うわけじゃない。会長一人でもぶっころせば、俺の気は済む。日本一の大ボスだ。そいつと差し違えたと思えば、ヨシオだって満足だろう。それに……俺が殺した吉岡だって、間接的には東亜会のために死んだようなもんだからな」

「男」「わかった。これはこれで、面白い仕事かもしれん。どうせみんな金だけが目当てで生きているわけじゃない。全員でやろう。透を呼べ。作戦会議だ」

薫(顔がぱっと明るくなって)「はいっ!」(フェイド・アウト)

 

  東京。正月風景。明治神宮の人通り、六本木、渋谷のにぎわい、等々。

  世田谷の閑静な高級住宅街の一画。広い通りには車通りは少ないが、高い塀で囲まれた、巨大な敷地内にある豪壮な屋敷の周辺に、黒塗りのベンツがずらりと路上駐車しているのが目を引く。20台ほどの車の周りには、黒服にサングラスのヤクザたちが、徳大寺の新年会に出席している親分たちを待って、たむろしている。

  塀の中。神宮の参道にも見まがう広い道から屋敷の建物の途中にも駐車場があり、そこにもベンツやキャデラック、リムジンやロールスロイスまで三十台ほど停まっている。

  屋敷の大広間。東亜会の新年会が行われている。百畳敷きの広間に、ばかでかい一枚板のテーブルがあり、その左右に全国の東亜会傘下の暴力団組長がずらりと並んで座っている。

  上座に、徳大寺が機嫌良さそうに、でんと座っている。その背後の床の間には「天照大神」と書かれた掛け軸が掛かり、その前には、全国の大企業、政治家からの年始の品が山のように並んでいる。

  広瀬が徳大寺のそばに腰をかがめて近寄り、小声で報告する。

  天井を向いて高笑いする徳大寺。

  何事か、と戸惑いながら、追従笑いを浮かべる親分たち。

徳大寺(面白そうな顔で)「いや、失敬失敬。今、総理からの年始の品が届いたらしい。あの男、総理になってから、わしに挨拶無しだったが、この前少し注意したら、反省したとみえる」

  どよめき、笑い声を上げ、拍手する親分たち。

  屋敷の駐車場。宅急便のトラックが停まっており、その前で、制服を着た薫と透が黒服の男に形式的な尋問を受けている。

組員「よし、荷物をそこにおろせ」

  薫と透、トラックの荷台の後ろを開ける。振り向いた時、その手にはピストルが握られている。

  あっという間に、三人の組員を撃ち倒す薫と透。

  トラックの後部から、ダークエンジェルズがばらばらと飛び降りる。全員自衛隊風の軍服姿で、その手には、それぞれ機関銃があり、肩には予備の弾倉、腰の周りにはハンドグレネードが五個ずつつり下げられている。最後に下りてきた二人は、バズーカ砲らしきものをかついでいる。

  薫と透、ピストルを腰のガンベルトにつっこみ、機関銃を仲間から受け取る。

  異変に気が付いて、玄関から出てきた組員を、二人の機関銃が撃ち倒す。

  門の外から入ろうとしたボディガードたちも、ダークエンジェルズの機関銃であっさり撃ち殺される。

  玄関から、屋敷に突入する薫と透。屋敷のあちこちから飛び出してくるボディガードたち、組員たちが二人のマシンガンで倒されていく。

  薫のマシンガンが、弾切れしてカラ撃ちする。「しまった」という顔をする薫。

  しめた、と飛び出す組員。その手のピストルが薫を狙っている。

  観念した顔の薫。

  轟音とともに、薫を狙った組員の体が後方に吹っ飛ぶ。

  薫が振り向くと、いつの間に来ていたのか、「男」が例の大型ピストルを両手に構えて立っている。

  「男」「薫、弾切れには気を付けろ。早めにマガジンを換えるんだ」

  頷く薫。

  先頭に立って、大股に進む「男」。

  大広間で右往左往する親分たちを薫と透のマシンガンが撃ち倒していく。

  まったくひるむことなく仁王立ちする徳大寺。

徳大寺「何だ! 貴様ら、どこの者だ」

そのド迫力に、一瞬ひるむ薫と透。

「男」(つまらん、という顔で)「お前が東亜会会長か?」

徳大寺「そうだ! どこの者か聞いとるぞ! 答えろ!」

  発射される「男」のピストル。

  徳大寺の頭部が西瓜のようにはじけ飛び、首のない胴体が、ゆらりと揺れて、すとんと座り込む。

「男」周りの少年達に「全員殺せ」と命じ、踵を返して、大股に去っていく。

  他の部屋を開いて、隠れていた親分達、飛び出してくる組員達にマシンガンを乱射する少年達。

  (上空から)屋敷の外の敷地で、やくざたちにハンドグレネードを投げ、バズーカ砲でロケット弾を撃っている少年達。

  薫(他の少年達に)「よし、全員引き上げだ!」

  宅急便のトラックに乗り込む少年たち。

  それを見て、隠れていた組員が一矢を報いようと、ピストルを持って飛び出す。

  車の助手席に乗っていた「男」が、窓から、その男を大型ピストルで吹っ飛ばす。

  炎上する大徳寺の屋敷を後目に、猛スピードで逃走するトラック。(フェイド・アウト)

 

  警察と報道陣でごったがえす徳大寺邸。まだあちこち煙が立ち上っている。

テレビレポーター(カメラに向かって)「襲われた東亜会会長宅は、新年会の最中で、全国の東亜会傘下の暴力団組長が何十人と集まっており、徳大寺会長を初め、全員が死亡した模様です。正確な人数は不明ですが、少なくとも、死者百人以上に上るものと思われます」

  都内全体にわたって敷かれた警戒網。あちこちで、車を停めて不審尋問が行われている。

  カメラが引くと、それがテレビ画面に代わり、「男」と薫がその画面に見入っている。。

「男」「これで、都内に入るのが難しくなったな。だが、長引くと、かえって危険だ。最後の仕事をすぐに決行するぞ。全員をここに呼べ」

  厳しい顔で頷く薫。

  会議室に集まるダークエンジェルズ。いよいよ、という緊張感と興奮に溢れた顔である。

男(かすかに微笑して)「ダークエンジェルズ諸君、お前達とも長いつきあいになったが、いよいよ最後の仕事だ。これが終われば、一人五十億ずつ手に入れて残りの人生は死ぬまで遊んで暮らすのだ。いいか、最後の最後でドジを踏んで、せっかくのチャンスを棒に振るなよ」

  頷くダークエンジェルズの面々。

「男」「決行は、明日の朝だ。今晩9時に出発する。昼の間に少しでも仮眠を取っておけ。狙うのは、東京都内のある銀行だ。そこの地下には、旧満州国の財宝が眠っている。少なく見積もっても、五千億相当の品だが、その大半はお前らには処分できる品ではない。主な仕事は、俺と薫と透がやる。だが、それ以外の誰の仕事が欠けても失敗するだろう。特に、検問にぶつからないように気をつけるんだ。透、どこで検問が行われているか、警察無線と電話の盗聴をこれまで以上に しっかりやるんだぞ」

  透、頷く。

「男」「タカヨシ、健太郎、今から通過予定ルートを教える。お前らは、オートバイで我々より先に行き、検問がないか、不審な点がないか調べるんだ」

  タカヨシ、健太郎、頷く。

「男」(にやっと笑って)「言っとくが、お前らがドジを踏んで警察に捕まっても、お前らを助ける余裕はないぞ。捕まるくらいなら、死ね。ヨシオのようにな」

  タカヨシ、健太郎、顔を見合わす。だが、不敵な笑いを浮かべ、兵隊風に力強く「サー・イエッサー!」と答える。

「男」(満足そうに頷いて)「グッド・ボーイズ。では、全体の計画手順を説明しよう。テーブルの側に集まれ」(フェイド・アウト)

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