#11 ザイン、ゾルレン、シャイネン
世の中には、覚えておくと思考の整理に役に立つ言葉がある。ザイン、ゾルレン、シャイネンもその一つだ。ザイン(存在すること、現実存在)とゾルレン(在るべきこと、理想や目標)はよく知られているが、シャイネンは私も最近知ったばかりである。シャイネンとは、「仮想すること、そうであるかのように見なすこと」のようだ。鴎外の「かのように」が、すなわちシャイネンであろう。「かのように」は、彼の処世哲学で、世の中の解決困難な諸問題について、とりあえず一つの立場をとって当座の答えを出しておくというものである。たとえば絶対神の存在について確信が持てないなら、とりあえず自分の今の気持ちに近い説を拠り所として、神がいる「かのように」、またはいない「かのように」振る舞うのである。
ザインとゾルレンの区別ですらつかない人間も世の中には案外多いもので、特に若い人々の自己認識はザインとゾルレンがごっちゃになって訳がわからなくなっていることが多い。多少年を取った人ですら、一攫千金を夢見て会社を作っては潰し、あるいはギャンブルに狂ったりするのは、これは現実(ザイン)を見ずに、あらまほしき状態(ゾルレン)だけを夢想しているのである。(ただし、哲学用語のゾルレンはもっと高尚な意味だが)
我々の人生判断のほとんどは、実はシャイネンによっている。それがわかれば我々はもっと謙虚になるはずで、そのことを知らない人間が狂信に走り、正義を振り回すのである。
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