When all the people assembled in the arena, and the king, surrounded by his court, sat high up on his throne of royal state on one side, he gave a signal, a door beneath him opened, and the accused subject stepped out. Directly opposite him, on the other side of the enclosed space, were two doors, exactly alike and side by side. It was the duty and the privilege of the person on trial to walk directly those doors and open one of them. He could open either door he pleased; he was subject to no guidance or influence but that of the earlier mentioned impartial and incorruptible chance. If he opened the one, there came out of it a hungry tiger, the fiercest and most cruel that could be got, which immediately sprung upon him and tore him to pieces, as a punishment for his guilt. The moment that the case of the criminal was thus decided, sad iron bells were rung, great cries went up from the hired mourners posted on the outer edge of the arena, and the vast audience, with bowed heads and unhappy hearts, went slowly on their homeward way, mourning greatly that one so young and fair, or so old and respected, should have deserved such a dreadful fate.
*ここで物語の鍵となる二つのドアのうちの一方の説明がなされている。
(注)
assembled:集められた court:廷臣 throne:王座 privilege:特権 pleased:好きなように subject to:条件として(このsubjectは形容詞だろう) but~:~以外には fiercest:獰猛な the hired mourners:雇われた泣き女たち(mournは悼むこと、喪に服することだが、ここでは「hired mourners」だから、職業的に、葬儀などで泣いて死者を悼む気持ちをアピールする「泣き女」あるいは「泣き男」であろう。ジャズの名曲である「モーニング」は、「朝」ではなく、亡くなった恋人だか知人だかを悼む意味である。) fair:美しい(「My fair lady」のfairである。端正な美しさという感じか。古語の「清らなり」や、沖縄方言の「ちゅらさん」を想起させる。)
[試訳]
すべての人々が闘技場に集められ、王が廷臣に囲まれて、闘技場の一方にある、王の尊厳を表す高い玉座に座ると、王は合図をし、玉座の下にある扉が開けられて、告発された廷臣が歩み出る。罪人の向こう正面の側には仕切られて閉ざされた空間があり、そこにはまったく同じ形の二つの扉が並んでいる。この扉にまっすぐに歩み寄ってどちらかの扉を開けるのが裁かれる人間の義務であり、特権であった。彼は自分の望み次第でどちらの扉を開けてもよいが、自分がこの扉を開けることで公正な裁きの機会を得るのだとあらかじめ述べられる以外には、その扉の向こうに何があるかについて何一つ案内も暗示も与えられていなかった。もしも彼がその一つを開けた場合、手に入る限り最も獰猛で冷酷で腹をすかせた虎がそこから飛び出して彼を襲い、彼の罪への処罰として即座に彼を八つ裂きにする。罪人の判決がこのように下った瞬間、鉄でできた鐘が悲しげに鳴らされ、闘技場の端に位置した雇いの泣き女たちの泣き声が沸き起こり、無数の観客たちは、若く美しい人間や年を取って尊敬されていた人間がかくも恐ろしい運命を受け取らざるを得なかったことを深く悼み、頭をうなだれ、悲しみの心とともに、足取りも重く帰途に就くのであった。
When a subject was accused of a crime of sufficient importance to interest the king, public notice was given that on an appointed day the fate of the accused person would be decided in the king’s arena – a building which well deserved its name ; for, although its form and plan were borrowed from afar, its purpose came from this man only, who, every inch a king, knew no tradition to which he owed more faith than pleased his fancy, and who added to every form of human thought and action the rich growth of his barbaric ideas.
*この段落はセミコロンで区切られただけの長い一文でできており、そのまま日本語にすると意味が非常につかみにくいので、いくつかの文に分けて訳すことにする。勝手に文を分けるのは原文への冒瀆である、などと言われるかもしれないが、もともと違う国の言葉をそのままの形で訳すこと自体が不可能に近いのではないだろうか。
(注)
accuse:告発する notice:掲示、公告 fate:運命 deserved:値する afar:遠い、遠方 every inch a king:あらゆる点で王である、すみずみまで王である owed:おかげをこうむる the rich growth:豊かな拡張
(研究)
and who added to every form of human thought and action the rich growth of his barbaric ideas
・彼(王)は「every human thought and action」に「the growth of his barbaric ideas」を付け加えた、という趣旨だろうが、「every human thought and action」というのが、今一つよく分からない。直訳すれば「すべての、人間の思考と行動」ということになるのだろうが、文意がつかみにくい言い回しだ。であるから、ここは「この闘技場におけるあらゆる事柄」と訳しておく。
[試訳]
王の臣民の一人が、王を面白がらせるのに十分な重要性を持った罪で告発されると、ある予定された日に、告発された臣民の運命が王の闘技場で決定されるという公告が掲示された。この建築物は「王の闘技場」という呼び名に恥じないものであった。なぜなら、その形態やプランこそはるか遠い所から借りてきたものではあったが、その目的は、あらゆる点で王であるこの男一人に出たものであり、自分自身の愉快な夢想以外にはいかなる伝統にもその起源を負うてはいなかったからである。そして彼はこの闘技場で行われるあらゆる事柄に、彼の野蛮な夢想による豊かで拡張されたアイデアを付けくわえたのであった。
Among the borrowed ideas by which he spread his barbarism was that of the public arena, in which, by exhibitions of manly and horrible courage, the minds of his subjects were refined and cultured.
But even here the tremendous and barbaric fancy showed itself. The arena of the king was built not to give the people an opportunity of hearing the last words of dying soldiers, nor to allow them to view the inevitable end of a conflict between religious opinions and hungry jaws, but for purposes far more useful in widening and developing the mental energies of the people. This vast arena was an agent of poetic justice, in which crime was punished, or virtue rewarded, by the commands of an impartial and incorruptible chance.
(注)
borrowed:採用された arena:闘技場 manly:男らしい
the minds of his subjects:彼が自分の課題(?)としていることへの関心(?)→◎訂正「subject」には「臣民」の意味があった。したがって、「彼の臣民たちの心」と訂正する。お恥ずかしい。
hungry jaws:ライオンなどの獰猛な獣の顎 *かつて、キリスト教徒がローマの闘技場でライオンに与えられたことをイメージしているのだろう。 inevitable:不可避の agent:代行者 impartial:公平な incorruptible:腐敗しない、買収されない *「impartial and incorruptible chance」が何であるかが、この話のキモのはずである。
[試訳]
彼に採用されたアイデアの数々によって、彼はその野蛮性を撒き散らしたのだが、その中には公共の闘技場があって、そこで人々は男らしさや恐るべき勇気を観衆に見せ、そしてそれによって王の臣民たちの心は洗練され陶冶されるのであった。
だが、ここにおいてすら、王の巨大で野蛮な夢想が姿を見せていた。王の闘技場は、死に行く兵士の最後の言葉を人々に聞かせる機会を与えるためや、宗教的意見と飢えた顎の争闘の不可避の結末を観衆に見せるためではなく、もっと有益な目的、すなわち人々の精神的な活力を拡大し向上させるために建てられたのであった。この広大な闘技場は詩的な公正さの代行者であり、ここには、偏りもなく買収されることもない機会があり、その裁定によって罪は罰せられ、美徳は報酬を与えられたのである。
「女か虎か」完全版
The Lady, or The Tiger ?
FRANK STOCKTON
In the very olden time there lived a half-barbaric king. He was a man of tremendous fancy, and, also, of an authority so irresistible that, at his will, he turned his varied fancies in fact. He was greatly given to meditating with himself ; and when he and himself agreed upon anything, the thing was done. So long as all things moved in their appointed course, he was smooth and gentle ; but if there was a little difficulty and something was not quite right, he was smoother and more gentle still, for nothing pleased him so much as to make the crooked straight, and crush down uneven places.
*さて、今日から「女か虎か」で翻訳練習をするが、私にとってはなかなか難しい文章だ。まず、1文1文が長すぎて、意味がつかみにくいし、どうやらひねくれたユーモアがこめられた文章のように思える。たとえば、この段落の最後の部分など。「命じた物事がうまくいっていると、この王様は上機嫌だが、あまりうまくいかないと」の後、不機嫌になるのかと思うと、「いっそう上機嫌になった」と来る。(私の誤読でなければだが)……やっかいな文章のようだが、まあ、難しいからこそ楽しいとでも思うことにしよう。
今回のシリーズでは、私の試訳も毎回付けることにする。原書には、まったく注が無いので、辞書を引いてもよく分からないところは、適当に訳するつもりである。
(注)
olden:古語・詩語で「昔の、古い」の意味 half-barbaric:半野蛮の
a man of tremendous fancy:巨大な空想力を持った男(ひどく夢想的な男)
meditating:もくろむ、企てる、熟考する、瞑想する so long as:~である限り
smooth:穏やかな crooked:ねじ曲がった
(研究)
for nothing pleased him so much as to make the crooked straight, and crush down uneven places.
・全体の中心構造は「~ほど彼を楽しませるものはなかった(からである)」だろうが、「to make crooked straight」は、「曲がったものをまっすぐにすること」か。「and」以下も「彼を楽しませるもの」の追加分、ということだろうか。とすれば、この両者は似たような趣味嗜好を表すものだろうから、「and」以下は「高さの異なる場所を壊して平らにする」というようなことだろうか。つまり、ある種の人間にあるような、シンメトリカルな構造や均整への好みかと思われる。この王様には、偏執的な気質がありそうだ。
[試訳]
遠い遠い昔、ある半野蛮な王がいた。彼は巨大な夢想を持った男で、また誰も逆らえぬ権力者であったから、彼は自分が望むままにその様々な夢想を実現した。彼は自分自身の夢想の世界に耽り、彼が自分でよしと認めたことは何でも実行された。彼の命じたことが適切に行われれば、彼は穏やかで優しかった。しかし、仮にちょっとした困難や非常に不適切な物事があった場合でも、彼はいっそう穏やかで優しかった。というのは、曲がったものを真っ直ぐにし、不揃いのものを平らにすることくらい彼を楽しませるものは無かったからである。
今さらではあるが、どこが間違っていたのか、少し考察してみる。
アニメの最初の数回を見るかぎり、「話が全体にちゃちいなあ」という印象を受けたのだが、それはどのあたりか、明確ではない。まあ、要するに、超能力者に起因する危機を、超能力で解決する、というのが毎回の主筋なのだが、これで長編にすると、マンネリの極致になるのではないか、ということかと思う。実際、最初の3回ほどで私は飽きたのである。しかも、最初から「超能力を制限するマシン(超能力リミッター)」の存在が明らかで、その強大化されたものを使えば超能力者は無能になり、敵との闘いに不利になるわけで、せいぜいがそのマシンを戦いの綾に使う程度しかバリエーションは考えられない。
とすれば、この手の話を作る場合は、超能力の存在を徐々に出していき、超能力という存在が持つ危険性や周囲との軋轢を細心にドラマ化していくしか長編化する方法は無いのではないか。最初から「超能力が珍しくない世界」として描いたら、読者や視聴者は「あっそう」で終わりになるように思う。そして、超能力バトルを1,2回見たら、もう飽きるだろう。実際、私はそうだった。
いくら、椎名高志的なギャグをちりばめても、本筋が真面目な性質の作品であっては、これは持たないだろう。荒唐無稽なものをドラマ化するには、視聴者の心に強く訴えるフック(ある種のリアリティ)が必要なのである。
荒唐無稽なもののドラマ化にこそ細部のリアリティが必要。