二階から階段で下りてきていた者が彼を背後から撃ったのである。
一瞬気が遠くなりかかったが、弾は防弾チョッキで防がれている。
振り返って、機関銃を浴びせかける。その男は蜂の巣になって倒れた。
注意深い足取りで、二階に上る。
二階は、廊下で二部屋に分かれている。
手前の部屋のドアを開けると同時に、中から銃弾がドアに向かって降り注ぐ。
そちらは放っておいて、奥の部屋のドアを開けると、そこには一人、初老の男が椅子にかけているだけである。
「何だ、お前は」
(さっきから同じセリフばかりだなあ)と思いながら、刑士郎は構えていたCZ75の引き金を引いた。機関銃よりは、近距離での正確性はこちらが上だ。ヤクザなどと問答するのは無意味である。相手は人間からただの肉塊になった。
部屋から出ようとしたのと、先ほどの部屋から中にいた男が顔を出したのと同時であった。
奥の部屋の様子を見に行こうと出てきたのだろう。
相手が撃つのと刑士郎が撃つのと、ほぼ同時だった。相手の弾は外れ、刑士郎の弾は相手のど真ん中を射た。
列車の窓から見える景色が後ろに流れていく。
イヤホーンを通して聞こえてくるのは、男の好きな曲だ。オスカー・ピーターソンの「you look good to me」。目を閉じていれば、生きるのもたやすい。過去に目を閉じていれば。
男はコート下の背広のポケットから取り出したラッキー・ストライクの箱から1本を抜きだしかけて、少し思案した。箱に戻す。
(吸い過ぎだな。少し健康に気をつけよう)
列車の車輪の音が単調なリズムを作り、男を眠りに誘う。男の傍に置かれた新聞には「北**市の暴力団抗争で旭組明治会とも壊滅。死者128人、重傷24人。両組の組長死亡」と書いている。男はやがて安らかな眠りに落ちる。
1998年1月3日作 2016年7月15日第二稿(笑)
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