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(4)

12月25日の朝、刑士郎は早めにチェックアウトしてホテルを出た。

彼が、アジトとしているマンションに着いたのは12時少し過ぎだった。

「おう、大丈夫だったか。旭組に襲われたそうじゃないか。心配してたよ」
大石大悟は本気で心配している顔で彼を迎えた。
「準備はすべていいか」
「ああ、総会が始まったら、ここから迫撃砲のタマをあの屋敷にぶちこむ」
「いや、始まったら、ではダメだ。始まって、少し待て」
「なぜだ?」
「面白いことになるはずだからだ」
「と言うと?」
「旭組が、あの屋敷に殴りこんでくると思う」
「なぜ、それが分かる」
「俺がそう仕組んだからだ。昨日、旭組の親分の高校生の息子を誘拐して、今朝旭組に手紙を放り込んできた。明治会が、自分たちが誘拐をしたから、悔しかったら奪い返しに来い、と挑戦状を叩きつけた、という体裁の手紙だ」
「息子はどこにいる」
「女子高生強姦事件の犯人だ、という名目で井上巡査が留置所に入れている。実際、そうかもしれんがね。だが、まあ、逮捕した時は、私も井上巡査も私服だったから、目撃者には逮捕ではなく誘拐に見えていたはずだ。今頃、旭組の中は右往左往、議論百出だろうが、殴り込み賛成派が反対派を抑えると思うよ。他人に舐められたらヤクザは終わりだからな」
「だが、相手がてぐすねひいて待ち構えているところに殴りこむかねえ」
「あんたのような元自衛官と、ヤクザの思考形態は違うさ。連中は戦略よりも面子で行動する」
「では、我々は具体的にはどういうスケジュールでどう動く」
「何も起こらなければ、1時半、いや、2時までは待とう。実は、井上巡査に頼んで、12時に旭組ビルに銃弾を2発撃ちこんでもらうことになっている。つまり、今頃旭組は大騒ぎのはずだ。それでも連中が動かなければ、明治会だけ先に攻撃するしかない」
「関ヶ原の、小早川秀秋への家康の督戦砲撃か」
「何だ、そりゃあ」
「ドンパチが始まるまでの待ち時間の間に教えるよ。日本史の豆知識だ。まあ、俗説かもしれんがね。で、殴り込みがあったら、その後の手順は」
「旭組のほぼ全員が敷地内に入ったら、10分くらい待って、あんたはここから砲撃してくれ。10発全部打ち終わったら、あんたは即座にここを撤去だ。旭組の殴り込みがあったなら、旭組ビルへの砲撃は不要になったということだから、その傍のT**マンションのアジトも撤去だ。あんたは、両方から回収した武器をトラックに積んで、この県から逃亡してくれ」
「了解した。後は、あんたがカタをつけるということだな?」
「そういうことだ。いろいろと有難う。気をつけて行けよ」
「心配ご無用。またどこかで会おう。こんな仕事ならいつでも手伝うぞ」


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