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エラリー・クイーン「チャイナ蜜柑の秘密」感想。
作中の「謎」の解答は、これまで読んだ中では一番合理的かもしれないが、西洋の衣服、特に神父などの衣服についての知識が無いので、なんとも言えない。ネクタイが無いくらいでこれほど大騒ぎでわざわざ隠蔽工作をする必要があったのか。そもそも、人が大勢出入りする事務室の待合室で殺人を犯すという神経が理解できない。
自分のいる場所を密室にすることで、自分には殺人ができなかったというアリバイにするというアイデアは、通常の密室殺人をひねった面白いアイデアだが、そのアイデアをもっとうまく生かせなかったのだろうか。
その「密室」の作り方は「名探偵コナン」風というか、横溝正史風というか、例の「針と糸」式の奴で、馬鹿馬鹿しく見える。こういう「ドアの鍵」を使った「針と糸」式のトリックは、ドアの下と上にはわずかな隙間があって、そこから紐くらいは通る、というのが前提のようだが、左右の隙間と上下の隙間とはそれほどの違いがあるのだろうか。あまりピンとこない話だ。この「チャイナ蜜柑の謎」の場合は、トリックの作り方が大げさすぎて阿呆くさい。死体の衣服を裏返したり、死体の重さを使ったトリックを作ったり、部屋じゅうのあれこれをひっくり返したりしているうちに別の来客があったらどうするのだ。(それに、槍を二本服の背中に通しただけで「殺したて」の死体が直立するだろうか。死体を直立させるに足る死後硬直が起こるほどの時間はこの場合無かったと思われるのだが。)
あまりに、この犯罪は、そういう無謀さの点で不合理だろう。まあ、好意的に解釈すれば、犯人が被害者を殺す機会はこの時しかなかった、ということで大胆な犯行に及んだ、と言えないこともない。
なお、犯行機会は、真犯人以外にも誰にでもあったのだから、「密室を作ったのは、密室を作ることでアリバイを作った人間しかいない」という探偵クイーンの追及で気弱にも犯人が白状しなければ、犯人は罪に服す必要は無かったのである。要するに、この「密室」は「犯人を保護する密室」ではあるが、「殺人可能性」という点では、密室でも何でもなく、誰でも出入りでき、そこに通じる外部への非常階段すらあったのだから。
要するに、この「かんぬきのかかったドア」は誰に利益を与えたか、という一点で、この犯人はすぐに分かるわけである。だから、探偵クイーン自身、この犯罪は簡単明瞭だ、と言ったのだろうし、それは正しい。作者クイーンがこの作品がお気に入りである理由も、そういう「答そのものの単純さ」が、数学の公理の単純さを思わせるからではないか。逆に言うと、クイーン式の煩雑なミスディレクションを削ぎ落としたら、何も無くなるような作品だとも言える。
なお、例によって小説のタイトルの「チャイナ蜜柑」は犯罪にはまったく無関係であり、それを推理の手がかりとしようとした読者は腹を立てることになる。
今回は、クイーンのアンフェアなやり口も分かってきたので、「読者からの挑戦」の前に考えようとすらしなかった。そして、案の定、であった。
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