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鮎川哲也編「あやつり裁判」感想。
全体のレベルは高い。読後感もいい。推理小説というよりは怪奇小説や冒険小説と言うべきものも中にはあるが、読んだだけの甲斐はある作品がほとんどだ。
順位をつけて短評をしておく。

1位:古風な洋服(瀬下耽):謎の解明や小説の構成が見事で、文学的香気がある。小さな人間悲劇。モーパッサン風。読後に心に残るものがある、という点で一番。推理小説に限定せず、日本の短編小説ベスト100くらいには入れてもいいように思う。
2位:翡翠湖の悲劇(赤沼三郎):恐怖美がある。殺人トリックも説得力がある。「動物を使った殺人」トリックとしては世界短編推理小説のナンバーワンではないか。大正昭和初期風のエロが話にからんでくるのが気に障る人もいるかもしれない。映像化するなら、これが一番だろう。
3位:海底の墓場(埴輪史郎):推理小説というよりは冒険小説だが、読後感は一番爽やか。
4位:あやつり裁判(大阪圭吉):実に筆の立つ作家だと思う。作品も多いようだから、まとめて読んでみたい。推理小説というよりは、「文学的短編小説」がつい面白い方向へ行ってしまったという雰囲気。中島敦の庶民版と言えば褒め過ぎか。ペンネームで損をしている。大阪というだけで下卑た匂いがして嫌いだ、という人間は関東人以外でも多いだろうから。
5位:霧の夜道(葛山二郎):トリックは一番つまらないし、そもそも、話の筋自体が朦朧としているのだが、これも筆が立つ人で、「罪と罰」のポルフィーリーの長口舌を読むような面白さがある。作者自身、それを意識して書いているようだが、これだけ雰囲気を出せるだけでたいしたものだ。



それ以外の作品も、部分的には面白いし、読んで損をした、という作品は無いが、上記の作品には劣るように思う。もちろん、私の好みだけでの話だ。吉野賛十の「鼻」などは、盲人の生理や感覚が見事に描かれていて面白い。だが、トリックの解明が、何となくがっかりさせられる。上記5位の「霧の夜道」よりは、こちらを5位に入れてもいい。
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