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目を覚ました時はまだ夜明け少し前だった。口の中が昨夜の煙草と酒で不快だ。トイレで糞をして体の中の残留アルコールを外に出した後、熱い湯を溜めた風呂に体を浸け、体に血が回るのを待つ。
すっかり生き返った気分になったところで一服目の煙草をつける。肺の中に浸み込む煙を味わいながら窓のカーテンを開けると朝日が部屋の中に差し込んだ。「朝日のように爽やかに」というジャズソングのフレーズが心に浮かぶ。

softly as is the morning sunrise

「朝日がそうであるように柔らかく」とでも訳すのだろうか。何が柔らかくなのだろう。

ホテルの食堂で貧弱な朝食を食べながら新聞を読む。全国紙ではなく地方紙を選ぶ。一面の政治記事よりも第三面(というのも古い言い方で、本当は裏から二面目だが。)の犯罪記事に先に目が行くのは習性だろう。市職員の汚職疑惑、公共工事に関する土建屋の談合、チンピラの強姦事件、高校生のオートバイ事故、どこの地方都市にもつきものの事件ばかりだ。

近くの公園までの散歩から帰ってきた刑士郎は、ホテルの入り口を入ったところで足を止めた。
カウンターで二人の男がフロントマンに何かを尋ねている。明らかにヤクザ者だ。フロントの男が二人にキーを渡したのを見て刑士郎は、まずいな、と考えた。そのキーはおそらく彼の部屋のものだろう。
二人の男が二階に上がっていった後、ホールの椅子にさりげなく腰を下ろしていた刑士郎は立ち上がってカウンターに近づいて行った。
「203号室の鍵を貰えるかな」
「あ、今ちょっと清掃中なんで、少しその辺で待っててもらえますか」
「こんな朝早くに清掃かい。もしかして、その掃除のオバさんはさっきの二人かな」
刑士郎はこわばった顔のカウンター係に笑顔を見せて大股に階段へ向かった。
階段を上って203号室の前に来てノブを静かに回してみると、部屋のドアの錠は閉まっていないようだ。自動で錠のかかるドアではないのが幸いした。
そっと覗き込むと、二人の男は刑士郎のトランクをこじ開けようとしているところだった。
「泥棒っ、泥棒だーっ」
刑士郎は大声を上げた。
二人は慌ててトランクを放り出し、戸口にいる刑士郎を突き飛ばすようにして部屋を飛び出した。そのまま階段の方へ逃げ去って行く。
刑士郎はニヤニヤしながら部屋に入って行った。
トランクは幸い、まだ開けられてはいなかったが、いずれにしてもこのトランクの中には見られてヤバイものは入っていない。まあ、金がけっこう入っているのがヤバイと言えばヤバイのだが、本当に見られてヤバイものと言えば、刑士郎の背広の下のホルスターに吊った拳銃、ワルサーPPKと、背広の内ポケットの中の大型ナイフくらいのものである。刑士郎にとってはヤクザよりも警察官の不審尋問がよっぽど怖い。
それにしても、あの二人はどういう素性のヤクザなのか。ホテルのフロントマンと顔見知りのようだから、地元のヤクザだと思うが、地元のヤクザが何を嗅ぎまわっているのか。まさか、一心会の手がここまで回っているとはとても思えないのだが。
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