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・軍歌「海行かば」を曲のみの荘重陰鬱なオーケストラ曲でバックに、船(軍艦?)に乗って大陸(満州)に渡る軍服(将校服)姿の須田銀三郎。

・関東軍本部の門を入る銀三郎。

・本部通路で真淵大佐と出会う銀三郎。お互い、複雑な表情で見つめ合う。

・本部の後ろの公園の小さな丘に登るふたり。木陰のベンチに腰を下ろす。

真淵「お前にここで会うとは思わなかった」
銀三郎「俺もだ」
真淵「今となっては、どれもこれも昔の話だが、理伊子さんのことは俺にはまだ忘れられん」
銀三郎「ひとりの女にそれほど執着できるのは、俺にはむしろ羨ましいよ」
真淵「あの事件でいったい何人の人間が死んだだろうか」
銀三郎「これから死ぬ人間の数に比べたら些細なものさ」
真淵「そうだ。その戦争を俺たちが起こすのだ」
銀三郎「それが日本のためになると?」
真淵「当たり前だ。日本が世界の大国になるためには通らねばならない試練だ」
銀三郎「その利益を得るのは、少なくとも兵士やその家族ではないな。俺は、兵頭のアナーキズムを馬鹿にしていたが、今のような風潮だと、それに賛成したい気になるよ」
真淵「それだのに志願して兵役に就いたのか?」
銀三郎「少なくとも、家にいるよりは刺激が得られるだろうからな」
真淵「札幌事件、つまり佐藤富士夫殺しの犯人は結局兵頭だったのか?」
銀三郎「さあな。自殺した桐井という男が、自分が犯人だと書き残していたらしいが、あのふたりは親友だった。話に無理がありすぎる。桐井の自殺死体が利用されたのだろう」
真淵「まあ、誰が犯人でもいい。理伊子さんが殺された件でも、群衆の誰が石を投げたのか分からずじまいだ。その辺の浮浪者が犯人だとされたが、あれは警察が適当に捕まえたのだろう」
銀三郎「放火事件では藤田という浮浪者と、富士谷、栗谷という社会主義者が犯人だとされて処刑されたが、真相は不明だ」
真淵「兵頭は上手く逃げたものだな」
銀三郎「少し延命しただけさ。関東大震災の時に、警察に逮捕されて、署内で殺されたようだ」
真淵「そうか。それは知らなかった。あまり新聞は見ないのでな」
銀三郎「理伊子さんや佐藤夫婦の死はもう十年も前になるのか。往時茫々だな」
真淵「お菊さんはどうなった?」
銀三郎「病気で死んだよ。一生俺の看護婦をすると言っていたが、自分が先に死にやがった」
真淵「軍人になれば、少なくとも個人的な看護婦も妻もいらん。そこが取りえか」
銀三郎「俺などは、誰よりも先に死んでいていい人間なんだがな」
真淵「お国のために死ねばいいじゃないか」
銀三郎「兵頭が言っていたらしいが、国とか政府というのは幻想らしい。その幻想を利用して上の国民が下の国民を支配しているんだとよ」
真淵「不敬な思想だな」
銀三郎「あれは、すべての人間が平等な世界を作りたいという夢を持っていたらしいがな。馬鹿だよ。あいつは自由な世界を作りたいとも言っていたが、自由と平等が両立するはずは無いじゃないか。この世界は誰かが誰かを支配することで動いているだけだ」
ふたり、少し沈黙する。
真淵「俺も、貧しい人々をその境遇から救いたいという気持ちはある。そのために国が強く豊かになる必要があるんだ」
銀三郎(嘲笑の表情を浮かべて)「他の国から奪ってか」
真淵「それが弱肉強食の世界なのだ」
銀三郎「強いものが弱いものの肉を食って栄える社会だな。弱者にとっては、まあ、一種の地獄だよ」
真淵「弱者は強くなる努力をすればいいのだ」
銀三郎「そして強者は弱者を食っていっそう強くなるわけだ。永遠の闘争か。俺たちは幸い強者の階級に生まれたが、そうでなければ、兵頭と同じ思想になったかもしれん」
真淵「……そうかもしれんな」
ふたり、黙って遠くを見る。町の尽きるところには地平の果てまで広がった平野がある。そして、その上の白雲を浮かべた青空に午後の日が傾いている。

(ラストシーン別案)

丘の上のふたりを見下ろすようにカメラがゆっくりと上昇し、雲の上に突き抜ける。そのままカメラは飛翔しながら雲の上に太陽が輝く様を映す。その間、ヘンデルの「ラルゴ」が流れている。
そして




(「終」の字が出て、終わる)


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