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・前のシーンの翌日、岩野家。
・よく晴れた日である。庭にテーブルと椅子。その椅子に岩野理伊子と佐藤富士夫が座って対面している。二人は初対面で、ともにやや緊張している。
・木漏れ日が二人に落ちている。

理伊子「お呼びだてして済みません。本当は私の方から伺わないといけないのですが」
佐藤「いえ……」(目を伏せている)
理伊子「私、小さな出版社を作ろうかと思っていて、あなたが出版について詳しいと桐井さんにお聞きしまして、相談したかったのです」
佐藤「はあ」
理伊子「出版社と言っても、新聞社としての仕事が主になるんですの。それ以外に、本もいろいろ出したいのですよ」
佐藤「新聞?」
理伊子「まだここにはいい新聞社が無いので、必要じゃないでしょうか」
佐藤「必要なんですか?」
理伊子「そう思います。ここにもいろいろ事件があるでしょうし、その事件の詳しいことを知りたいと思うのが普通じゃありません?」
佐藤「金棒引きはたくさんいますから、そいつらがあれこれ触れ回りますよ。わざわざ新聞に書かなくてもいいでしょう」
理伊子「でも、新聞なら、高尚な論文も載せることができますから、人々の教化にいいんじゃありませんか」
佐藤「教化などしたら、人々は社会の現実を知って不満を持つだけですよ」
理伊子「でも、社会主義というのは、人々を教化することで現実的な力を持つんじゃないですか」
佐藤「あなたは社会主義の何を知っているんですか。それに、僕が社会主義に何か関係があると思っているんですか」
理伊子「大学生のころ、須田銀三郎さんと一緒に、そういう活動をしていたと伺って」
佐藤「昔の話です。今さらほじくり返されるのは迷惑ですね。それより、僕のことは桐井から聞いたとさっきおっしゃいましたが、桐井なら面白いパンフレットが書けますよ」
理伊子「どのような?」
佐藤「真に自由な人間は自殺するべきだ、という思想です」(意地悪い顔の笑顔)
理伊子「(?)どういうことですの?」
佐藤「さあね。僕は桐井じゃないから分かりません。そういうパンフレットをあなたの出版社が出したら面白いでしょうね。それを読んだ人間は続々自殺するわけです」
理伊子「意地悪をおっしゃるのね。なぜ、そんな意地悪なんですか」
佐藤「あなたの目的は、僕から須田銀三郎の話を聞きたいだけでしょう」
理伊子「お友達だとお聞きしたので……」
佐藤「お友達どころか、むしろ敵ですね。あいつは人非人ですよ」
理伊子「まさか、なぜそんなことをおっしゃるのですか。何か、あの人との間にあったのですか」
佐藤「言いたくありませんね。僕はこれで失礼したほうがよさそうだ」
佐藤は立ち上がって庭を出て行く。残されて呆然とする理伊子。

・インサートショットで、函館港に着いた船から降りる銀三郎の遠景。顔も身なりもほとんど分からない程度に遠くからのショットで、誰かが船から降りたことしか分からない。

(この場面終わり)
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