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エラリー・クイーン「中途の家」の「読者への挑戦」まで読んだところなので、少し整理しておく。

1)ビル・エンジェルを「中途の家」に呼ぶ電報を打ったのは誰か。それとも、これはビルの嘘か。なお、ジョーが打った電報であるとは考えにくい。この家にビルを呼ぶことは、これまでの重婚生活を告白することになるからである。あるいは、そういう覚悟で呼んだのか。ビルはジョーからの電報を提示しているが、それが本当にジョーの打ったものかどうか。
2)同様に、誰がなぜアンドレアを「中途の家」に呼ぶ電報を打ったのか。それともこれはアンドレアの嘘か。アンドレアの話の通りにジョーが電報を打った人間だとしたら、その意図は何か。もっとも、これに合理的な意図は考えにくい。この家にアンドレアを呼ぶことは、ジョーにとって破滅を招くことにしかならないからだ。また、これがアンドレアの嘘でないとしたら、なぜ母親や婚約者に無断で、わざわざパーティを抜けてジョーに会いに行ったのか。二人の間に肉体関係でも無いならば、この行動は不自然である。
3)エラリーは、なぜ「中途の家」にフォードが止まっていただろうと言ったのか。あの殺人の時点でこの「中途の家」にフォードが止まっていたとしたら、ジョーはパッカード、ビルはポンティアックに乗ってこの家に来たはずなので、犯人はルーシーだ、とエラリーは指摘しているに等しい。それに対して、ビルが抗議しないのも不自然。フォードが犯罪現場にあったという目撃証言は誰からも出ていなかったはずである。フォードのエンブレムとタイヤ跡による警察説をエラリーは受け入れたということか。

4)時系列で、書いておく。

ⅰ 8時ごろ:アンドレア「中途の家」に着く。家を覗いた後、しばらく車を走らせて時間つぶしをする。この時には皿の上のマッチは0本。(アンドレアの言による)
ⅱ 8時半ごろ:アンドレア、「中途の家」に戻る。死体発見と同時に「犯人」に殴られ気を失う。気を失う前に見た灰皿の上のマッチの燃え殻は6本。(アンドレアの言による)
ⅲ 9時少しすぎ:アンドレア気がつく。手の中に「話すと母親の命がない」という脅迫状。家から飛び出し、キャデラックで逃走。(この時点で、灰皿のマッチが20本になっている)
ⅳ 9時少し前:ビル、「中途の家」につき、しばらく車の前で待つ。(なぜ? たかが15分くらい前なら、家に入ってジョーに会うほうが自然ではないか?)家の前に、ジョーのパッカードとアンドレアのキャデラックが止まっているのを見ている。フォードは見ていない。(8時からわずか30分ほどの間で、フォードがこの家に到着し、それに乗っていたらしい「犯人」がジョーを殺し、8時半ごろに入ってきたアンドレアを殴って気絶させ、「脅迫状」を苦心して書いてアンドレアの手に握らせ、それから逃走した直後にビルが来たことになる。犯人にとってはすれすれの行動で、実に都合がよすぎる時間配分と言うべきだろう。)
ⅴ 9時少しすぎ:ビル、家から逃げるアンドレアを目撃、家に入って死体を発見する。

5)以上から、合理的に導ける解は、一番合理的であるのは、ルーシーが犯人であるというもの。動機は、a 夫の重婚の事実を知った怒り。b 夫の生命保険で手に入る巨額のカネ

6)その他の解として、アンドレアが犯人という考えもある。行動が一番怪しいのは彼女。ただ、動機は不明。ビルの生命保険が母親を経由して将来は自分の手に入ると誤解して殺したか、痴情のもつれか。

7)第三の解として、ビルが犯人であるという解もある。現場にいた人間はアリバイの無いルーシーと、挙動不審のアンドレア以外は彼しかいないからである。動機は不明。ビルの生命保険をどこかから聞いていたか、あるいは単にジョーが嫌いだったからとか、あるいは8時から8時半の間にすでに「中途の家」に到着し、ジョーとの会話の中でカッとなるようなことがあって突発的に殺したか。これが正解だとしたら、一番意外性があるが、一番アンフェアな解である。もしも、ジョーが重婚の事実と保険金のことを、ビルに告白してそうなったとすれば、これが正解かもしれない。つまり、ルーシーにカネを与える目的と、気に入らない義弟を片づける目的。ビル自身もアリバイは無いも同然である。なお、これに加えて、この場にルーシーもいた、としてもいいが、そうするとルーシー犯人説であってもべつにかまわないということになる。

8)その他の人物に関しては、特記するほどの記述が文中に無いから、もし上記以外の人物が犯人なら、それこそアンフェアの最たるものだろう。

9)「マッチの数」に何の意味があるのかは、まったく分からない。問題は、8時から8時半までの間で、タバコを吸う以外の目的でマッチをするとしたら、何のためか、だろう。コルクを焦がすため、というのは殺人が起こって後、つまり8時半以降である。その前にすられた6本の意味は? ランプをつけるため? アンドレア自身も8時にランプを点けたと言っているから、特に問題になることは無さそうだが。それとも、マッチの外函(包み紙というか、ケースと言うか)が現場に無いのが問題なのか? エラリー・クイーン探偵が言うほど、マッチの数が謎の解明に決定的な意味を持っているという可能性はまったく考えられない。



(解答編)というか、解答を読んだところだが、答えは8)で、まさにアンフェアの最たるものであった。何しろ、マッチの意味が、「犯人はパイプを吸っていたはずだ。パイプを吸うのは男しかいない。だから犯人は男に限定される」というもので、あきれてしまう。まあ、西洋ではパイプは男しか吸わないという不文律があるのかもしれないが、そんなのは男尊女卑時代の遺習だろう。それはいいとしても、犯人の犯行動機が「ある女性への思慕の気持ち」なのだが、それについてほとんど作中で言及されていなかったはずだ。ロクでもない若い男女のいちゃつきはくどいほど描写されていたが、推理の根幹に関わる男女関係の描写がほとんどゼロで、最後に言われても、何の説得力もない。その他の根拠もほとんど屁理屈である。
これだから、推理小説は子供の読み物と馬鹿にされるのである。
毎度言うが、エラリー・クイーンの作品には「余計な描写」が多すぎて煩わしい。これはその追従者のA川Aりすにも共通している。おなじクイーンの信奉者の法月綸太郎は、余計な描写は少ないが、推理の根幹となる部分がクイーン同様に馬鹿馬鹿しいのは、「生首に聞いてみろ」で分かった。




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