私の愛好するものベスト10
Ⅰ 映画
① ローマの休日(ウィリアム・ワイラー) ② 無法松の一生(稲垣浩) ③ 第三の男(キャロル・リード) ④ 道(フェデリコ・フェリーニ) ⑤ 東京物語(小津安二郎) ⑥ 時計仕掛けのオレンジ(スタンリー・キューブリック) ⑦ 野いちご(イングマール・ベルイマン) ⑧ 椿三十郎(黒澤明) ⑨ 用心棒(黒澤明) ⑩ マイ・フェア・レディ(マンキーウィッツ他)
*「野いちご」は、かつてはベスト3以内だったが、重い内容なので、改めて見たいとは思わない。そういうものは上位には入れないことにする。「道」も重いのだが、こちらはなぜかいつでも見ることができる。
*本当は「お熱いのがお好き」のような純粋な喜劇も入れたいのだが、ベスト10となると、入らない。
Ⅱ 小説(世界長編文学)
① 戦争と平和(トルストイ) ② カラマーゾフの兄弟(ドストエフスキー) ③ ゴリオ爺さん(バルザック) ④ レ・ミゼラブル(ユーゴー) ⑤ 罪と罰(ドストエフスキー) ⑥ 従妹ベット(バルザック) ⑦ 高慢と偏見(オースティン) ⑧ 白鯨(メルヴィル) ⑨ トム・ジョーンズ(フィールディング) ⑩ パルムの僧院(スタンダール)
*「西遊記」・「水滸伝」を除く。
*「トム・ジョーンズ」は、好きという点では本当は第一位で、「高慢と偏見」が第二位である。書き直すのが面倒なので、そのままにしておく。「高慢と偏見」は夏目漱石が絶賛した作品だが、日本では知名度が低いようだ。これほど面白い作品も珍しいのだが。なお、漱石は「トム・ジョーンズ」や「ガリバー旅行記」も絶賛している。漱石の文学鑑賞眼も素晴らしいと思うし、漱石が素晴らしいと言う作品を素晴らしいと思う自分が少し自慢である。なお漱石の『文学評論』(『文学論』ではなく)は、抜群に面白い評論であるので、未読の人は、ぜひ読むことをお勧めする。
*「レ・ミゼラブル」は、面白さの割りに、最近はあまり読まれない作品ではないだろうか。ストーリーの面白さという点では、古今屈指の小説である。これを第三位にしてもいい。
*「パルムの僧院」と「ファウスト」のどちらをベスト10に入れるか、迷ったが、王侯貴族も普通の人間であるという事実を見事に描いた「パルム」の方を選ぶことにした。読書に使える時間がたっぷりあった学生時代ならいざ知らず、忙しい現代人には「ファウスト」の悠然たる記述につきあうのは、なかなか難しいだろう。
Ⅲ 小説(短編小説)
① お春(小泉八雲) ② 野ばら(小川未明) ③ わがままな巨人(オスカー・ワイルド) ④ 虚栄の塔(マルキ・ド・サド) ⑤ 虔十公園林(宮沢賢治) ⑥ 偽百姓娘(プーシキン) ⑦ 春の鳥(国木田独歩) ⑧ クリスマス・キャロル(デイッケンズ) ⑨ 黄金虫(エドガー・アラン・ポー) ⑩ みずうみ(レイ・ブラッドベリ)
*第一位の「お春」は、実は題名をよく覚えていない。あまりの感動で、読み返したことがないのである。小説ではないが、同じ小泉八雲の「停車場にて」という随筆も、感動させられる。
*7位の「春の鳥」は、第二位にしてもよい。
*プーシキンは、もう一つ「その一発」という傑作がある。
Ⅳ クラシック音楽
① ラルゴ(ヘンデル) ② カノン(パッヘルベル) ③ 主よ人の望みの喜びよ(バッハ) ④ 椿姫前奏曲(ヴェルディ) ⑤ ノクターン(ボロディン) ⑥ 交響曲第七番(ベートーベン) ⑦ パガニーニの主題による変奏曲(ラフマニノフ) ⑧ レ・シルフィード(ショパン原曲・グラズノフ他による編曲) ⑨ スペインの踊り(チャイコフスキー) ⑩ ピアノ協奏曲21番(モーツァルト)
Ⅴ 俳優
① 三船敏郎 ② 仲代達矢 ③ ポール・ニューマン ④ 志村喬 ⑤ ジェームス・スチュアート ⑥ ジョン・ウェイン ⑦ オードリー・ヘップバーン ⑧ マリリン・モンロー ⑨ 笠智衆 ⑩ ピーター・オトゥール
*ピーター・オトゥールは第三位くらいに好きだが、初期の頃を除いてはあまりいい映画に出ていないのが残念である。ビリー・ワイルダーが彼を使って「シャーロック・ホームズ」を撮ろうという計画があったそうだ。実現しなかったのは残念だ。彼の作品では「お洒落泥棒」が、一番彼に向いた役柄だったと思う。いわゆるロマンチック・コメディこそが彼の柄に適していたのに、シリアスな映画への出演が多かったために、個性を生かしきれなかったのではないか。
*オードリー・ヘップバーンの出た映画は傑作が多いが、これは彼女を使ったのがウィリアム・ワイラーやビリー・ワイルダーという名監督だったためである。ウィリアム・ワイラーは、私から見れば黒澤明と並ぶ世界最高の監督だ。彼以外の誰にも「ローマの休日」のような完璧な作品は作れないだろう。しかも、映画の後味の良さという点でも最高だ。
*志村喬は世界一の名優である。剣豪から小市民まで、何をやっても見事に演じる幅の広さは素晴らしい。その他、三国連太郎、丹波哲郎、クラーク・ゲーブル、ヘンリー・フォンダ、バート・ランカスター、オーソン・ウェルズなどが好きな俳優だ。
*山崎勉が「天国と地獄」一作にしか出ていなければ、伝説の俳優になっていただろう。それほど、この作品での彼の演技は素晴らしかった。その後、愚作駄作への出演があまりに多いので、このリストからは外した。
Ⅵ オールジャンル芸術家
① 与謝蕪村(前衛詩人として) ② 徽宗皇帝(書家として) ③ 宮本武蔵(画家として) ④ マルキ・ド・サド(小説家として) ⑤ 小川未明 ⑥ 宮沢賢治 ⑦ フェルメール ⑧ ヴォルテール(小説家として) ⑨ 正岡子規(随筆家として) ⑩ 黒澤明
*ここでの順位には意味はない。思いついた順序に書いただけである。好きというだけなら、夏目漱石なども、もっと上位に来る。手塚治虫など、あまりに有名すぎる芸術家は、ここで挙げるまでもないだろう。書家としての徽宗皇帝や、画家としての宮本武蔵を知っている人間は、そうは多くない気がする。
*副島種臣(蒼海)の書も大好きだ。
Ⅶ 好きな大衆小説(日本、中・長編)
① 我輩は猫である(夏目漱石) ② 銀河英雄伝説(田中芳樹) ③ グイン・サーガ(栗本薫) ④ デルフィニア戦記(茅田砂胡) ⑤ 十三妹(武田泰淳) ⑥ 宮本武蔵(吉川英治) ⑦ さぶ(山本周五郎) ⑧ 富士に立つ影(白井喬二) ⑨ 竜馬がゆく(司馬遼太郎) ⑩ 陽の当たる坂道(石坂洋二郎)
*10位は、ある時代の良さが作品となって結実したような作品で、その記念として挙げてある。井上靖の「夏草冬濤」もベスト10級の作品だが、大衆文学かどうか。
*映画あるいは漫画「少年時代」の原作である柏原兵三の「長い道」も傑作である。
*田中芳樹は何でも面白い。最近の「薬師寺凉子」シリーズも面白いし、「創竜伝」や「アルスラーン戦記」「マヴァール年代記」も面白い。しかし、完成度という点では、やはり「銀河英雄伝説」がベストだろう。
*「グイン・サーガ」は、はっきり言って、欠点が無数にある作品だが、文字で書いた人間が生きて動いているという点では、古今無双の作品である。そして、話自体の面白さも、抜群だ。残念ながら未完のままで作者が亡くなったが、これから「グイン・サーガ」を読む人には、127冊の羨ましい楽しみがあるわけだ。ただし、途中がかなりだれるので、そこで読むのをやめてしまうと、100巻目以降の素晴らしい展開は味わえない。特に私が好きなのは、「グインのふりをするグイン」という傑作な展開である。
Ⅷ 好きな大衆小説(外国、中・長編)
① 夏への扉(ハインライン) ② Yの悲劇(エラリー・クイーン) ③ 連続殺人事件(ディクスン・カー) ④ 足長おじさん(ウェブスター) ⑤ ライ麦畑でつかまえて(サリンジャー) ⑥ ディビッド・コパフィールド(ディッケンズ) ⑦ ハックルベリィ・フィンの冒険(マーク・トゥエイン) ⑧ 赤毛のアン(モンゴメリ) ⑨ 小公子(バーネット)⑩ カンディード(ヴォルテール)
*9位は大衆小説というよりは児童文学だが、「小公女」などのようにアニメ化されていないために日本では知名度が低い不遇な作品である。明るさ、面白さという点では「小公女」よりもこちらがずっと上だと思うのだが。
*作品自体はあまり読み返すことはないのだが、ディズニーのアニメも含めて、「不思議の国のアリス」は人類史上もっともユニークな傑作だと思う。
*10位は、面白いわりに知名度が低いので、あえて挙げたという所がある。好きという点では、コナン・ドイルの「白衣の騎士団」の方が好きかもしれない。
*第二位の「Yの悲劇」は好きというよりは、文句なしの傑作ということだ。あまりの感動に、二度と読み返していない作品である。それに対して、第一位の「夏への扉」は、何度読んでも面白いという作品である。それは、多分、主人公のキャラクターのためだろう。ハインラインは短編でのキャラ作りが上手な作家だが、長編ではこの作品が屈指である。ハインラインの短編の中に、人相の悪いギャング映画俳優みたいな科学者と、頭の軽いセクシー女優にしか見えない女性科学者(つまりハンフリー・ボガードとマリリン・モンローのような感じだ)の出る作品があって、そのキャラクターだけでも十分に面白かったものである。この設定は、ぜひ誰かに使ってほしいものである。
Ⅸ 漫画(長編)
① じゃじゃ馬グルーミングUP!(ゆうきまさみ) ② GS美神(椎名高志) ③ よつばと!(あずまきよひこ) ④ あずまんが大王(あずまきよひこ) ⑤ テレプシコーラ(山岸凉子) ⑥ ヒストリエ(岩明均) ⑦ るきさん(高野文子) ⑧ ラブラボ(宮原るり) ⑨ とめはねっ!(河合克敏) ⑩ 夢幻紳士・冒険活劇編(高橋葉介)
*漫画史上に残る作品というなら、「火の鳥」や「寄生獣」「エースを狙え!」などいろいろあるし、萩尾望都や大島弓子の作品の中には永遠の名作がたくさんあるが、あまりに昔の作品は、ここでは除外する。もっとも、そう言いながら、高野文子や高橋葉介などを入れているあたりは一貫性がないが、まあ、どうせお遊びのリストだ。好きという点では吾妻ひでおなども大好きなのだが、彼の作品は漫画エッセイに近いので、これ、といった作品は思いつかない。
*大島弓子の初期作品「雨の音が聞こえる」や、山岸凉子の「クリスマス」、萩尾望都の「11人いる!」など、もしも漫画の殿堂入り作品を選ぶなら、絶対に入るべき作品である。もっとも、彼女らはそれと同じ水準の作品を無数に書いているのだが。
*8位9位は、最近の好みの漫画である。オールタイムベスト10というわけではない。
*第一位の作品よりは「パトレイバー」などのほうがゆうきまさみ作品としては有名だが、「じゃじゃ馬グルーミングUP!」は作中人物と共に生きる喜びを与えるという稀有な作品であり、それは「よつばと!」などにも通じるものである。さらに、この漫画は日本の漫画としては珍しい、ビルドゥングス・ロマンでもある。つまり主人公の成長物語だ。作中のユーモアの質の高さと描写の繊細さは、稀有なものである。この作品だけでもゆうきまさみは日本漫画の殿堂入りをする資格がある。