大都市にいくと、大きなビルごとに眼科が入っているような状況です。たとえば私の開業している横浜駅近くの場合、駅の周りだけでも30以上の眼科があるでしょう。しかし、そのほとんどは「コンタクトクリニック」です。
医療法では、コンタクトは医師が扱うべき医療材料とされています。しかし実際には、メガネ店やコンタクト会社のお店でコンタクトを扱って、宣伝して売っていることが多いものです。
ただ、医療法上の体裁を整えるために、診療所としても届け出て、形だけ医師を雇って、コンタクトの付き具合(フィッティング)を見た後に、形だけ眼を診てもらいます。
つまり多くのコンタクトクリニックは、「メガネ屋さんに医師が雇われている」状態なのです。本来、眼科医は「外科医」なのですが、コンタクト屋さんの診療所では、未熟な、もしくは眼科医ではない医師が、形だけ眼を診ていることが少なくありません。
このコンタクトクリニックの問題は、実は根深いものがあります。
そもそも、コンタクトレンズの材料費は数十円です。原価など知れています。つまりコンタクトレンズのメーカーは、数十円のものを数万円で売っているのです。
もちろん、その中には、メーカーの研究開発費が上乗せされてはいますが、高い値段のもう一つの根拠は、以前は、医師が診療する際の医療サービス費も代金として含んでいるからということでした。
ところが開業医たちが、「メガネ屋にコンタクトを売らせるのはけしからん」「診療所での診察を経ないとコンタクトは売らせないようにしろ」と、厚生省にねじ込んだのです。
ところがこれはまったく裏目に出ました。今度はコンタクト屋が、診療所を併設してきたのです。コンタクトのお店とは入口を別にして、「保険診療をしている」ということで、別に診察代金を取るようになりました。コンタクトの料金は高いままです。
さらに、コンタクト屋のほうでは、店舗とは別に診療所の入口を作ることができましたが、街の小さな眼科診療所のほうでは、コンタクトを販売するためには、お店と診療所の入口を別にしないといけないのに、小規模診療所なので入口を別に作れないのです。
結局、町医者がコンタクト販売のもうけ話を自分たちに奪い返そうとしたことによって、かえって自分たちではコンタクトを扱えなくなる、という、皮肉な状況となりました。
コンタクトの話題にもどりましょう。要するに、コンタクトレンズ販売は、お店にとってはすごい利益率なのです。原価数十円のものを、仮に2万円で販売したとします。
半額の1万円で大売出しと広告を打って、それに飛びついた人に、併設の診療所で診療代金を取り、かつ1万円をもらったら、広告費をいくら打っても十分利益が上がります。どんどんと売りつけるわけです。
もうお分かりでしょう。コンタクトレンズ販売は、未熟な診療所を併設したコンタクトクリニック兼メガネ屋での販売が普通となっているのが、日本の現状です。このために、質の悪い眼科診療所が駅の周辺に乱立してしまったのです。
コンタクトクリニックは、もともとコンタクトレンズを販売するためだけにできた診療所なので、眼科の検査を充分にできるだけの機械はそろっていません。
また、眼科の研修医がアルバイトで診療所に勤務したり、眼科医かどうかも怪しい医師がいることもあります。本来は皮膚科の医師が、コンタクトレンズを診る、もしくは形だけ診るふりをする場合さえもあります。
診療所という形をとっているし、待たされることもあまりないので、あえてこうしたクリニックで診てもらうという人もいます。
しかし、待たされない理由は、現実には流行っていないからですし、また、簡単な診療しかせず、治療を求めていない患者しか来ないので、待たされることもないのです。あなたの大切な眼を、そんな適当な診療所にまかせて、ぞんざいに扱ってはなりません。