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結局、ドワーフは正しかった。国中の警官が今は私を探している。私が踊っているのを見た誰かがーーたぶん、あの老人だと思うがーーあのドワーフが私の体の中で踊ったのだと当局に密告したのだろう。警察は私を監視し始め、私を知っている者は皆、聞き取り調査をされた。私のパートナーは、私が一度彼に踊るドワーフのことを話したことを証言した。私の逮捕のための令状も出された。警察は工場を取り囲んだ。ステージ8のあの少女はこっそりとやってきて私に警告した。私は作業場を抜け出して、完成品の象が格納された倉庫に身を潜めた。その象の一体の後ろに隠れ、途中で数名の警官を粉砕して道を開き、私は森の中に紛れ込んだ。
それからひと月近く経つが、私は森から森、山から山へと走り続け、草の実や虫を食べ、川から水を飲んで生きながらえている。だが、あまりにも警官が多すぎる。遅かれ早かれ彼らは私を捕まえるだろう。そうしたら、彼らは私をウィンチに縛り付け、私をばらばらにするだろう。でなくてもそれに近いことをすると私は聞いた。
ドワーフは毎夜私の夢の中に出てきて、自分を私の体の中に入れろと命令する。
「そうすれば、少なくとも、君は逮捕されないし、警察に追われることもなくなるだろう」彼は言う。
「嫌だ。そうすると私は永遠に森の中で踊ることになるだろう」
「その通りだ」ドワーフは言う。「だが、君はその選択をしなければならない唯一の人間なのだ」
彼はくつくつ笑ってそう言ったが、私はその選択はできない。
犬たちの吠える声が聞こえる。彼らはすぐそこまで迫っている。



「踊るドワーフ」完


(訳者注:いろいろと解釈のできそうな作品だが、ドワーフを体の中に入れて踊り続ける、というのは、作家という仕事自体の象徴にも見える。虚構と虚構内の現実、虚構内の夢と虚構内の現実、夢よりも嘘みたいな虚構内の現実という骨組みの多層性が見事なバランスを取って、笑い話でもありほら話でもあり、ホラー小説でもあり象徴小説でもある、という傑作だと思う。)




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