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第十六章 グエン一座

 

盗賊たちの歓待を受けた翌朝、グエンたちはフロス・フェリたちに別れを告げて彼らの野営地を離れた。

「もしも、あんたたちが一騒動起こしたくなったら、この森に来るがよい。力を貸すぜ」

フロス・フェリはニヤリと笑いながらグエンに片目をつぶってみせた。

「ああ、世話になった。このお礼はそのうちさせてもらう。では、さらばだ」

「ああ、また会おう。多分、また会えるさ。俺の予感は当たるんだ」

フロス・フェリは片手を上げて別れを告げた。

 

「さて、国境は越えたが、これからが難しいかもしれん。ランザロートまでは200ピロほどだと言ったな?」

「ええ、国境からそのくらいのはずです」

「ふむ。その間に関所が幾つかあると考えたほうがいいだろう。問題は、タイラス国王が俺たちを歓迎するかどうかだ」

「と言うと?」

「俺たちを捕まえて縛り上げ、ユラリアかサントネージュに送るということもありうるということだ」

「まさか。タイラス王妃のエメラルド様は、サントネージュ王妃の妹君ですよ?」

「だが、国王はべつにサントネージュの縁者ではないだろう。俺がタイラス国王なら、ユラリアから強く言われたら、そうするかもしれん。ユラリアを敵に回したくないならな」

フォックスは考え込んだ。

「では、どうすればいいと?」

「分からんな。一番いいのは、しばらくランザロート近辺に潜んで、タイラス宮廷の状況を調べることだ。幸いに、俺たちの素性はまだ知られてはいない。まあ、俺のこの目立つ頭が少々邪魔になるが……」

「いっその事、旅芸人のふりでもしますか」

「旅芸人?」

「そうです。旅芸人なら、そのような頭もわざとやっていると思われますから」

「なるほど。それは気づかなかった。俺はこの頭を隠すことばかり考えていたが、逆にこの頭を隠れ蓑にするわけか。面白い」

「でも、芸人が一人では、寂しいですね。私には何も芸がないので」

「あのう」

とおそるおそる声をかけたのはソフィであった。

「私、歌が歌えます。ダンも」

「へえ、そうなんだ。お足が貰えるくらい上手ならいいけど」

「お母さまはよく僕たちを、世界で一番歌が上手だとほめてくれたよ」

フォックスはグエンの方を見て苦笑いをした。母親のひいき目の言葉を、この子供たちは信じて疑わないのである。

「じゃあ、何か歌ってみてくれる? 幸い、人里や関所は遠いようだから」

ソフィはダンと目くばせをした。

「じゃあ、『バラとナイチンゲール』を」

ソフィのきれいな高音が、まるで銀の鈴を鳴らすように流れ出した。天使の声が空の高みに昇っていく。それにダンの子供らしいあどけない高音が唱和する。

グエンとフォックスはあっけにとられながら聴きほれた。これほど美しく、胸を打たれる歌を聞いたのはフォックスにとっては生まれて初めてであった。なつかしく、悲しく、そして嬉しいような寂しいような、明るく透明な歌声であった。

「まあ、何て素敵な歌なの! こんなにきれいな歌声を聞いたのは初めてよ」

歌が終わるとフォックスは思わず手を叩いて言った。

「これなら、十分に出し物になる。で、俺とお前は、剣劇でもやろう」

「剣劇ですか?」

「そうだ。ソフィとダンがお姫様と王子さまで、お前はそれを助ける剣士だ。俺が悪役をやって、お前と剣劇をするのだ」

「面白そうですね。ちょっとやってみますか」

「ああ、まずは、その辺の木の枝で木剣を作ろう。真剣でやってもいいが、わざと芝居くさくしたほうがいいだろう」

グエンは軽く剣を振って、頭上の木の枝を斬り落とした。それが地上に落ちる前にもう一度剣が動いて、枝の先も切られ、棒きれになる。

同じ要領で棒きれをもう一本作る。細かい木の枝も切りはらう。長さ1マートルほどの棒きれが2本できた。

「やってみよう。最初はお前が斬りかかってこい。俺がそれを受けたり、よけたりしよう」

「いきますよ」

どうせ自分が本気で打ちかかっても、相手がそれをよけるのは造作もないと分かっているので、フォックスには気が楽である。

何度か打ち込んでみて、改めてグエンの剣の技量が自分とは桁違いであることを実感する。「だめです、グエンがあまりにうますぎて、私の下手さが見物人にばれます」

「そうか。じゃあ、もう少しおおげさにやろう。本気で殴ってもいいぞ。棒で殴られたぐらいなら俺は平気だ」

今度は、先ほどのようにわずか一寸ほどで体をかわすのではなく、おおげさに飛び下がったり、飛び上がったりして木剣をよけると、逆に迫力とユーモラスさが出る。それを見てソフィとダンは歓声を上げて大喜びである。なるほど、芝居とはこういうものか、とグエンもフォックスも悟るところがあった。

時にはグエンが反撃に出るが、もちろんフォックスの体に当たる寸前で剣は止める。しかし、見ている方には、フォックスが相手の剣を軽くさばいたように見える。

「真剣でやったら、すごい出し物になるでしょうけどねえ」

「いや、それはまずいだろう。俺たちの正体を隠すのが目的なのだから、べつにそれほど客受けを考えなくてよい」

「グエンの頭はそのままでやるの?」

ダンが聞いた。

「お面をかぶればいいじゃない」

「まあな。それもいいが、お面を作る材料がない」

「人里に出たら、芝居衣装や小道具を作る材料を探してみましょう」

「私はグエンの頭はそのままでもいいと思うわ。どうせお芝居だとみんな思っているのだから、かえってその頭は好都合よ」

ソフィの言葉にフォックスも「そうね」と同意した。

「俺は、怪物の役でもいいぞ」

「あら、そんなつもりじゃないの。お芝居なんだから、奇抜なほうがいいと思うのよ。その頭は、それだけで観客をびっくりさせるわ」

「ふむ、そうだろうな。客を喜ばせるにこしたことはない。では、俺は剣ではなく、棍棒か何かを持とう」

「それもいいわね。で、お願いなんだけど、上半身は裸でやるのはいやかしら?」

フォックスの言葉にグエンは少し考えた。

「できるだけ人間離れしていたほうがいいということだな。まあ、かまわんさ」

「そうじゃなくて、グエンのその素晴らしい体は、それだけで立派な出し物になるのよ。それを服で隠すのはもったいないと思うの」

「まあ、どんな案でも試してみるさ。では、そろそろ行こうか。腹もへってきたし、昼食をするのにいい場所でも探そう」

 

 

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