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第九章  ある会話

 

グエンたちから王女と王子を奪いそこなった黒衣の男二人は、馬も失っていたので、徒歩で国境の砦まで歩くしかなかった。首都オパールまで戻る気は毛頭なく、国境の砦で兵士を徴発して再度、グエンたちに挑むつもりであった。だが、グエンたちよりも、おそらく半日から1日程度の遅れがある。

「ランド砦まで、あとどれくらいだ」

一人が、もう一人に聞いた。

「あと30ピロほどだろう。今日の夜もこのまま歩けば、明日の朝には着けると思う」

「おそらく、あの虎頭たちは、夜は休むはずだから、その間に追いつけるかもしれんな」

「だが、追いついても、逆にこちらが危ない。追いついたら、あいつらに見つからないように、隠れながら、後を追おう」

「あの、虎頭は何者だ。サントネージュに、あのような騎士がいたという話は聞いたことがない」

「あの頭が仮面だとしても、あれほどの力量を持った騎士は誰がいる?」

「俺の知っている騎士ではウジェーヌとマリオンが一番良い腕をしているが、あいつとは強さの次元が違う」

「では、他の諸侯のところの騎士か。それでも、あれほどの腕の者がいるという話は聞いたことがない」

「サントネージュの者ではないかもしれない」

「ユラリアの兵士たちを殺害しているのだから、ユラリアの者ではないだろうな」

「では、タイラスから、王子と王女を救出するために遣わされた者か?」

「その可能性はあるが、あまりにも救出が早すぎる。それなら、まるでユラリアの侵攻をあらかじめ知っていて、王子と王女が落ち延びることも知っていたみたいだ」

「よい魔道士を抱えているのかもしれない」

「デルマーボッグ様は、遠く離れた場所で起こっていることが見えるというから、他国にもそのような魔道士がいてもおかしくはないな」

デルマーボッグとは、サントネージュ魔道士界の有名人であり、魔道士たちの畏怖の対象であった。過去や未来を見通すことや、空中浮遊などもできるという。彼が呪いをかけた人間のうち、死んだ人間が5人、彼に命乞いをして助かった人間は無数にいる。

「なんでも、デルマーボッグ様は、今回のユラリアの寇略がずっと前から分かっていたそうだ。ごく親しい者たちに見せた『未来記』には、それが書かれていたらしい」

「では、なぜそれを国王に伝えなかったのだ?」

「滅びるものは滅びるに任せるのがいいというのがあの方のお考えなのだ。俗世の戦乱など、あの方の関心には無いのだな。ある意味では、国王などの上に立つお方だから」

「すごいお方だ。我々も、修行すれば、そのような高みに行けるだろうか」

「ああ、苦しい修行に耐えればな」

「あるいは、あのお方が前前からおっしゃっていた地上の天国が、この戦乱の後に来るのかもしれない。我々の指導者であるあのお方が俗世の支配者にもなれば、地上はそのままで天国になるというあの予言が実現されるかもしれないな」

「いや、アルト・ナルシス様を国王としてもいいのではないか。ナルシス様はデルマーボック師を崇拝しておられるからこそ、我々もナルシス様に従っている。ナルシス様が俗権の支配者、デルマーボック師が精神界の支配者でいいのではないか?」

「いずれにしても、我々の活躍する時代が目の前にあるのは確かだ」

「その通りだ」

この会話はこの二人の精神を高揚させる効果があったらしく、彼らは夜を徹して歩き続け、どうやらグエンたちとの距離をかなり縮めたようであった。

 

 

第十章  タイラス宮廷

 

サントネージュ王国崩壊の知らせはサントネージュに置いてある間者(スパイ)を通じて、急報としてタイラスに届いていた。そして、王子と王女が宮廷を脱出した後、行方が知れなくなっていることも。

タイラス王妃エメラルドは、夫である国王エドモントに王子と王女の救出を頼んだが、国王は良い返事をしなかった。というのは、実はエドモントの母はユラリアの出で、ユラリア国王とは血縁関係にあったからである。サントネージュがユラリアに占領されることで、タイラスとして損になるということはない。むしろ、国王エドモントが危惧していたのは、義理の甥と姪、つまりダイヤ王子とサファイア姫がタイラス宮廷に来たらどうするかということであった。

「一番いいのは、彼らをつかまえて、ユラリアに引き渡すことでしょう」

宰相のケアンゴームが言った。年の頃は40代後半だろうか、銀髪で褐色の顔色をした体格のいい男だ。短い顎髭が堂々としていて、宰相よりは将軍のタイプだが、無表情で、物腰は穏やかである。しかし、その眼の奥には、何か得体の知れないものがある。美男と言ってもいい中年男だが、どことなくいかがわしい雰囲気を持った男だ。

「しかし、そうすると、お妃さまは王をお許しにならないでしょうから、困りましたな。どうなさいます?」

「まあ、妃がどう言おうと、国王はわしだから、わしの好きなようにやるまでだが、正直言って、妃に泣かれるのもいやだ。どうしたものか」

エドモントは色白のでっぷり肥った顔に困惑の色を浮かべる。

「宮廷に来る前に、途中で殺しますか?」

「ふむ、しかし、それも乱暴だな。まだ相手は子供だし」

「やはり、捕まえて、ユラリアに送るのが一番でしょう。処置はユラリアに任せれば、王の責任ではありませんから」

「ふむ、やはりそうするべきだろうな」

「まあ、国境地帯はユラリアの兵が固めているでしょうから、そこをわずかな人数の逃亡者が突破できるとも思えません。今の段階では、これは考える必要もないことでしょう」

「そうだな。それより、モーリオンの件はどうなった」

「はい、すべて順調です。モーリオン様はランジュ公爵の養女ということにしてあります。いつでも、そちらへいらっしゃれば、お会いになることはできます」

「ランジュ公爵があの女に手を出したりはしないだろうな?」

「それは無理でしょう。なにしろ、70歳の老人ですから」

「できれば、宮廷に入れて、毎日会えるようにしたいものだが、妃には知られたくはないのでな」

「まあ、会えない間が、また恋の薬味というもので」

「まったく、いくつになっても、新しい美しい女というものは、男をわくわくさせるものだわい」

「さようですか」

「お前も、澄ました顔はしているが、やることはやっているだろう」

「まあ、適度に」

「また、美しい女を見つけたら、知らせるのだぞ」

「はい、それはもちろんです」

 

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