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そうするうちに、ドワーフは宮殿内に部屋を与えられ、そこで侍女たちが彼を風呂に入れ、絹の服を着せ、王にお目通りする際の適切なエチケットを教えた。次の夜、彼は大きな広間に連れていかれたが、そこでは王のオーケストラが、指揮のもとに、王の作曲したポルカを演奏した。ドワーフはポルカに合わせて踊ったが、最初は音楽に体を慣らすように静かに、そして段々とスピードを上げ、しまいにはつむじ風に巻かれたような速さになった。人々は息を呑んで彼を見つめた。誰も話すこともできなかった。貴婦人の数人は気絶して床に倒れた。王の手からはgold-dust wine(訳者注:そういうワインがあるのかどうか知らないのでそのまま英語表記しておく。)の入った水晶のゴブレットが落ちたが、誰一人としてその砕ける音に気がつかなかった。











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踊るドワーフの話は遂には、製象工場に強いコネを持ち、工場近くに領地を持つ貴族評議会議長の耳に達した。この貴族は、後に聞いたところでは、革命軍に逮捕されて煮えたぎるニカワの壺に投げ込まれたが(訳者注:話全体が大人の御伽噺風なので、この妙な処刑法もそのまま訳しておくが、原書ではどうなのか知らない。)まだ存命していると言われているが、その、踊るドワーフに関する話が若い王様まで届いた。音楽愛好者である王は、そのドワーフのダンスを見ることにした。彼は王家の紋章付きのvertical-induction ship(訳者注:意味不明。直訳すれば垂直誘導船か。これも御伽噺的な洒落だろうか。なぜ船なのかも不明。宇宙船という可能性もある。)をこの居酒屋に急送して、王室付き親衛隊がドワーフを丁重に宮廷に護送した。居酒屋の持ち主は、この損失について寛大すぎるほどの保障を得た。常連客たちはドワーフを失ったことにぶつぶつ文句を言ったが、彼らは王に文句を言うよりマシなことを知っていた。彼らはドワーフのことはあきらめて自分たちのビールとMecatolを飲み、若い娘たちがダンスをするのを眺める毎日に戻った。





そのドワーフは半年近くこの居酒屋で踊った。ここは彼が踊るのを観る客で溢れかえった。そして彼が踊るのを見た客たちは限りない喜びに浸るか、限りない悲しみに打ちのめされた。まもなく、そのドワーフはダンスのステップを変えるだけで人々の感情を自由に操る力を持つようになった。

老人は、そのドワーフがいかにして北の国から無一文でここまでやってきたか、話し続けた。彼は、製象工場の工員たちが集まるこの居酒屋に居場所を得て、つまらない仕事をやっていたが、それも、マネージャーが彼が素晴らしいダンサーだと知って、彼をフルタイムのダンサーとして雇うまでだった。工員たちは女性のダンサーを期待していたので最初はぶつぶつ文句を言ったが、それほど長いことではなかった。飲み物を手にして彼らはまさに催眠術にかかったように彼のダンスを見た。そして彼は他の誰でもできないようなダンスを踊った。彼は見ている連中から、それまで彼らが感じたこともなく、自分がそういう感情を持っていると知りもしなかったような感情を引き出した。彼は彼らのそうした感情を、まるで魚の腸を引き出すように白日のもとに裸にした。
「じゃあ、もう一杯俺のぶんの酒を注文してくれ。別のブースに行こう」
私はMecatolを2杯注文して、バーテンダーから離れたブースまで運んだ。その席のテーブルには象の形のシェイドの付いた緑色のランプがあった。
「あれは革命前のことだ」老人は言った。「そのドワーフは北の国から来た。何て素晴らしいダンサーだったことか! いや、単にダンスが上手だったんじゃない。彼はダンスそのものだった。誰も彼の域に達することはできん。風と光と匂いと影。それらが彼の中で爆発した。あのドワーフにはそれができた。たいした見ものだった」
彼のグラスが、そのわずかに残っている歯に当たって軽い音をたてた。
「あなたは実際に彼が踊るのを見たんですね」私は尋ねた。
「見たかだって?」老人はその両手の指をテーブルの上に広げて言った。「もちろん見たさ。毎日、ここでな」
「ここで?」
「聞こえただろ? ここでさ。彼は毎日ここで踊っていた。革命前にな」









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