忍者ブログ
[243]  [244]  [245]  [246]  [247]  [248]  [249]  [250]  [251]  [252]  [253
守衛は手にしたクリップボードのページをめくった。「私はその事をまったく聞いていない」彼は言った。「そういう事はあらかじめ連絡されてるはずだ」
「そいつはおかしい。連絡済みのはずだが。誰かヘマをしたんだろう。中にいるその連中に会って話してみよう」
守衛は鼻を鳴らして立っているだけだった。私は、彼が生産を遅延させており、誰か上階の人が私に怒ったら、私はその責任は彼にあると主張するつもりだと警告した。最後には、ぶつぶつ言いながらも彼は私を中に入れてくれた。




PR
「神経索が品切れになったんだ」私は咳払いをして言った。「ここにそれを借りにきたんだ」
「そいつは奇妙だな」彼は私のユニフォームを睨みつけて言った。「君は耳セクションの者だろう。耳の神経索と脚のそれとは交換不可能だ」
「ええと、簡単に説明させてくれるかな。元々は、僕は鼻(訳者注:trunkには胴体の意味と象の鼻の意味があるが、どちらの意味か不明。後で、「脚の神経索が足りなくなって」云々とあるから、鼻よりは胴体のほうが適切かもしれない。)セクションから借りるつもりだったんだが、連中、余分なストックは無いらしい。で、彼らは脚の神経索が足りないらしくて、僕がそいつを1巻き借りてきたら、上等な奴を僕にくれるという話なんだ。ここを訪ねた時、ここには余分な脚の神経索があると言われたんで、僕はここにいるというわけさ」



昼休みはほとんど終わりかけていたが、いつもどおり、私のセクションの午後の仕事は無かったので、私は適当な口実をつけてステージ8に行った。そこに行くためには地下トンネルを通る必要がある。トンネルの入り口にはガードがいたが、彼は私が仕事に戻るのだと思ったので、入るのに苦労は無かった。
長いトンネルの出口は川の土手に向かって開き、ステージ8のビルディングは少し下流に行ったところにあった。屋根も煙突もピンク色である。ステージ8は象の脚を作っていた。ちょうど4か月前にそこで働いていたので、私はそこのレイアウトをよく知っていた。入口の若いガードは新入りで、私が見たことのない男だった。
「何の用だね」彼は尋ねた。ぱりっとした制服を着た彼は型通りの「新しい箒」で、規則を杓子定規に守らせるつもりのようだった。(訳者注:New broom sweeps well.=新しい箒はよく掃ける。新入りは旧弊を一掃したがる意)
「すげえ美人の女の子なんだぜ」私のパートナーは言った。「男どもは皆、その子に目を奪われているが、まだ誰も彼女に爪を立てていない」
「本当にそんなに美人なのか」私は尋ねた。私は疑問に思っていたのだ。私は何度も「すげえ美人」を見に行ったのだが、すべて大したことはなかったのだ。これもまた信頼できない噂のひとつにすぎない。
「嘘じゃないぜ」彼は言った。「自分の目で確かめてみろよ。もしも彼女が美人じゃないと思うなら、ステージ6に行って、新しい目のセットを入れてもらうんだな。ああ、俺が女房持ちでなけりゃあなあ。彼女にアタックして手に入れるか、死ぬかするんだが」














私はそれからドワーフの夢を見ることは無かった。私は毎日製象工場に行き、耳を作り続けた。最初は蒸気で耳を柔らかくし、プレスハンマーで平らにし、五つの耳の形を切り出し、五つのフルサイズの耳にするための成分を加え、それらを乾かし、最後に皺を付ける。午後には、私のパートナーと私は弁当を食べるために休憩し、ステージ8の新しい女の子について話をした。
製象工場には多くの女の子が働いていたが、その大半は神経システムを継ぎ合わせたり、継ぎを当てる機械や清掃する機械の仕事に従事していた。暇な時間には我々はいつも彼女たちの話をしていた。そして暇な時間にはいつも彼女たちは我々の話をしていた。


<<< 前のページ 次のページ >>>
プロフィール
HN:
冬山想南
性別:
非公開
P R
忍者ブログ [PR]

photo byAnghel. 
◎ Template by hanamaru.