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だいぶ前に書いた脚本で、しかも原作小説は私の兄が書いたものだから、私には本当はこれを公表する権利は無いのだが、死蔵しておくよりも、ここに公開して、仮に映画に使われたとしても些少のアイデア料くらいでいい、とするのがいいかと思うので、公開する。
大藪春彦の小説みたいな内容だが、全体の構想と映画的テンポ、映画化した場合の絵面などは、貧乏くさい日本映画のスケールを超えていると思う。
脚本だから特に章立ては無いが、ブログに載せられる字数限界があるので、分割掲載する。





  東京、池袋の町。初秋の、曇り空の荒涼とした天気の日。殺風景な町を一人の長身の男が歩いている。周囲から浮き上がっているような異常な雰囲気であるが、周りの人間は自分のことしか頭になく、男の様子に気が付かない。

  「ほのぼのローン」とドアに書かれたサラ金会社。男は、その前で立ち止まり、少し考え込む。

  「ほのぼのローン」の中。カウンターに足を乗せ、週刊誌のヌード写真を見ている若い社員。見るからに、チンピラやくざが普通の会社員を装っているという感じである。

  ドアが開いて、入ってきた客を見て、ローン会社の社員はカウンターから慌てて足を下ろす。男は四十を少し越したくらいの年齢だが、ドアに頭がぶつかりそうなくらいの長身だ。入ってくると、男は室内をぼんやりとした感じで眺めている。どことなくその目はガラス玉みたいで、非人間的な感じを与える。顔はハンサムな中年だが、顔全体がマスクのような印象だ。レインコートで体型ははっきりしないが、肩幅がありそうだ。

社員(猫をかぶって精一杯愛想良く)「いらっしゃいませ。ご用件は?」

男(人間ではなく、物を見るような目で相手を見て)「金が欲しい」

社員(苦笑めいた笑いを浮かべ)「いかほど用立てましょうか」

男(静かに)「この店の金、全部もらおう」

社員(あざ笑うように)「どういうことでしょうか? 具体的に、五千万なら五千万、一億なら一億と言って貰わないと、困るんですがね。それに、初めての方には限度額があるんで」

  突然、客の男の手が若い社員の喉笛を襲い、貫き手が若者の気管にめりこんで絶息させる。

  少し離れた所にいた他の社員たち(もちろん白シャツにネクタイを締めたやくざたちだが)が三人、口々に「野郎!」「手前!」と叫び、ののしりながら椅子から立ち上がろうとする。

  長身の客は、カウンターをひらりと飛び越え、三人の前に降り立つ。

(ストップモーション。この間に数時間経過している)

  床に転がる三人の死体、少し離れた所に最初に殺された若い社員の死体。その前で、警察官たちが困惑している。

殺人課(捜査一課)課長小林(部下に向かって)「凶器が分からないとはどういうことだ?」

部下の警官「はあ、それがですね、この四人の社員、全員殺され方が違うんです。一人は喉を潰されて窒息死、もう一人は頸椎を折られて死亡、もう一人は内臓破裂。最後のはひどいです。壁に顔面をたたきつけられて、というか、めり込まされてというか、頭部が半分に潰れていました」

小林(あきれ顔で)「じゃあ、素手で四人を殺したとでもいうのか? 人間業じゃないな。ゴリラ並の怪力だ。ゴリラでなけりゃあ、プロレスラーか」

部下「いや、どちらかといえば空手でしょうね。二課の佐々木君に電話で聞いてみたんですがね、カウンターの側で死んでいた若い男は喉を潰されていましたが、あれは空手の貫き手みたいです。(片手を突き出して実演する)こんな奴ですね」

小林「空手の有段者なら、少しはホシの目安が絞れそうだな。で、被害額は?」

部下「不明ですね。親分を初めとして、上の人間が平気で金庫から金をつかみだしていくんで、ドンブリ勘定もいいとこです。社長、というか、組長の言葉では、少なくとも二億はあったという話ですがね。本当かどうか」

小林(嘲笑するように)「二億も金がありゃあ、税金も馬鹿にはならん。その親分、脱税でしょっぴけるな」




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