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第二十一章 ロイヤル・ファック

 

 エルマニア国の侵攻の噂で、パーリャの町は慌てふためいており、町の通りは、戦乱を避けて地方にしばらく逃れようとする人々で溢れていた。そのほとんどは商人で、町の無頼漢たちはむしろ、戦の混乱に乗じてあわよくば女を犯し、財物を奪う機会を狙っていた。こうした機会なら、普通なら一生手の届かない貴族の婦人や姫君を犯すことも可能である。なにしろ、普段なら女たちを護っている男たちはみんな戦場に出ているのだから。

 もちろん、身分の高い者たちや金持ちたちはその辺のことは重々承知していて、家には警護の者を残しているが、実のところ、その警護の人間も怪しいもので、その家の奥方や娘と通じる者、強盗に早変わりする者も少なくない。

 要するに、戦という物は男にとっても女にとっても割に合わないもので、戦が割に合うのは、それで商売をする人間と無頼漢にとってだけだということである。自分が戦場で命を賭けて戦っている間に、家では自分の女房や娘が浮気をしたり強姦されたりしているわけで、戦場になど出ないに越したことはない。もちろん、自分自身が戦場で敵国の女たちを犯そうと思うのなら、それはお互い様、ということで、ひどい目に遭うのは女だけ、ということになる。まあ、いずれにせよ、自分が戦で死んでしまえばそれまでだが。

 フリードは、戦に出るに際して一つ心残りがあった。王女ジャンヌの事である。戦に出たら、いつ死ぬか分からない身、ならば、死ぬ前にジャンヌを一度抱いてみたい、と彼は考えた。庶民が王女を抱くなど、現代では、途方もない夢想だが、昔ならありえない事ではない。古代のギリシアだかローマだかでは、王が何かの情報を手に入れるため王女を娼婦にして目的を果たした話もあるし、王妃自身が自分の好みで娼婦になっていた例もある。また、中世の封建領主の娘、つまり姫君の役目の一つは騎士の世話をすることで、その中には当然夜の勤めもあったようである。お伽噺とは違って、姫君と言っても、それほど大事にされていたわけでもないのである。

 フリードが王宮に入る手蔓としては、当然、今は皇太子妃となっているマリアしかいないが、さすがに皇太子妃と連絡を取るのは難しい。しかし、アキムの妻サラを通じて、フリードはマリアと面会する機会を得ることができた。

 マリアは、ジャンヌに会いたいというフリードの願いに小首をかしげたが、やがてあっさりと

「いいわ」

と言った。

「戦の準備で宮中が騒がしい今なら、あなたが紛れ込んでも分からないでしょう。夕方まで兵士の中に紛れて、日が暮れたら私の部屋にいらっしゃい」

 フリードは、この言葉を聞いて、天国にも昇るような気持ちになった。マリアがどんな気持ちで彼の望みを聞いたかは分からないが、フリードはそんなことなど気にも留めなかった。

 王宮の中庭で出陣の準備をしている兵士たちに紛れて、フリードは日暮れを待った。

 やがて日が落ちて、あたりが薄暗くなった頃、フリードはこっそりと王妃の部屋に向かった。

「ここよ、ここから王女たちの部屋に行けるわ。ジャンヌの部屋は廊下の手前から三番目の部屋。しっかりね」

 マリアは、フリードの手を握って、そう囁いた。フリードはその柔らかな手の感触に欲情し、思わず彼女を抱きしめてしまった。

 柔らかな体は、以前よりも少し豊満になったようだ。マリアの体も、電気に打たれたようにすぐに反応した。実のところ、皇太子は性的に虚弱で、マリアの体は男に飢えていたのである。しかし、さすがに皇太子妃としての慎みが彼女に我慢させた。

「あん、駄目。皇太子が間もなく来るわ。さあ、行きなさい」

 フリードは、マリアに心を残しながらそこを離れた。

 王女ジャンヌの部屋のドアをフリードは開いた。もちろん、錠などない。

 壁に掛かった松明は薄暗いが、豪華な室内の調度は見える。そして、天蓋の掛かったベッドでうたた寝をしているジャンヌの姿も。

 フリードは、ジャンヌの寝顔を見下ろした。金髪の巻き毛に埋もれるように眠っているその寝顔の美しいこと。まさに、天使である。フリードは、ジャンヌの寝姿を上から下まで眺め下ろしながら、この美しい存在のすべてが今、自分の手中にあることにぞっとするような興奮と欲望を覚えていた。

……

(以下半ページほど、エロシーンになるので、再び割愛する。実に健全な物語作法ではないか。)

……

ジャンヌは目を覚ました。そして彼女は、自分が男にのし掛かられているのに気づいて、恐怖に駆られた。

(エロシーンはまだ半ページ続く。)

……

ジャンヌは男の体を持ち上げて逃げ出そうとした。

 しかし、男の太い腕が彼女を捕らえて放さない。凄い力である。

「王女様、お静かに。あなたの処女はもう私が頂いた。この事が他人に知られるのは、あなたにとってはまずいでしょう。私の名前はフリード、あなたをお慕いするあまりに、このような無礼に及びました。許せ、とは申しません。私はいずれ一国の国王になってあなたを王妃として迎えます。その時までお待ちください」

 男はズボンをはき直すと、一礼して立ち上がった。

 松明の光で見えたその顔は、ジャンヌの見たことのない顔だったが、ハンサムな若者だったので、ジャンヌは一安心した。これなら、突然の夜這いで犯されて処女を失っても、まあ、幾分か我慢はできる。(我慢などできるか! と柳眉を逆立てている女性の読者もいるかもしれないが)それにしても、この男は一体何者だろう。ジャンヌはフリードというその若者の名前と顔をしっかり心に焼き付けた。

 フリードは、今の出来事を反芻しながら、皇太子妃マリアの所に戻った。マリアの方は、先ほどフリードに抱きしめられた時から体に火がついていた。皇太子は例によって、マリアと短い交接をした後、自分だけ満足して眠りについている。

 フリードが戻ってきたのを知ってマリアは寝床から立ち上がった。

 闇の中でフリードを探し、マリアは自分からフリードを求めた。続き部屋にフリードを導き、真っ暗な中でふたりは口づけをした。もちろん、若いフリードの体はとっくに元気回復している。

 (以下、約半ページ割愛。)

 マリアと二回交接した後、フリードはこっそりと宮廷を抜け出した。かくして、一晩のうちに国王の娘は処女を失い、皇太子妃は結婚後最初の浮気をしたのであった。

 

第二十二章 進軍

 

 ジャンヌの体を手に入れた事で、もはやフリードには思い残す事はなかった。後は、思いのままに暴れて、戦に勝てば良し、負ければ死ぬまでのことである。死が日常であった時代の人間だから、フリードに限らず、当時の人間は死をそれほど怖がってはいない。

 フリードはライオネルと相談して、ローラン国に向かう事にした。アキムとの約束で、エルマニア国がパーリャに迫った場合は、駆け戻る事にしているが、都合良く戻れるかどうかは分からない。アキムにしても、フリードの軍にそれほど大きな望みを掛けているわけではない。これほどの商人になると、自らを護るための手段は、幾つか講じてはいる。

 フリードの軍勢は、今は百人を超えていた。そのうち、弓兵が二十人ほどで、後は皆、騎兵である。騎兵だけで八十人なら、立派な軍隊と言える。

 弓兵たちも、馬にこそ乗れないが、山の民で健脚であるから、一日に四十キロは歩ける。武器が軽い弓であるから、大して疲れることもない。

 この軍隊には、例の三人の女も付いて来ていた。そして、彼女たちは、兵士たちの夜の相手をした。今で言うなら、従軍慰安婦であり、世の人権主義者やフェミニストたちが眉を逆立てて怒りそうだが、これは彼女たちが望んでやっているものである。男好きの女にとって、一日に何人もの男を味わえるのは、願ってもないことである。しかし、女騎士である赤毛のミルドレッドは、その巨大な胸で男たちを悩殺し、生唾を飲み込ませたが、夫以外の男とは寝ようとしなかった。といっても、他の男と卑猥な冗談に打ち興じたり、若いハンサムな男に流し目を呉れたりすることはあったから、他の男に興味が無いわけでもなさそうだ。他の男と寝ないのは、亭主を傷つけたくないというだけのことのようである。

 ミルドレッドは、特にフリードには気があるようで、フリードはミルドレッドが自分に馴れ馴れしくするたびに、ライオネルをはばかってびくびくした。彼はライオネルが好きだったから、彼と揉め事は起こしたくなかったのである。

「ミルドレッドはお主に気があるようじゃな。隊長として、この危機をどう脱出するか、見物じゃわい」

 ジグムントは、そうした状況を面白がって、フリードをからかった。

 パーリャを出て数日後、フリードの軍はローラン国に入った。

 首都アルギアへ向かうその途中の村落や町で、彼らは早くもローラン国王の兵士たちに誰何され、衝突した。しかし、村や町を守る兵士は、わずか数十名ほどであり、百姓をいじめる能力しかない連中で、鍛えられたフリード軍の敵ではなかった。

「我々は、ルドルフ王の暴政に抗して立ち上がった者たちである。お前たちの命を無駄に奪おうとは思わない。降伏して我々の味方になるがよい。そうすれば、お前たちは悪王の手下から救国の英雄になれよう」

 例によって、ジラルダンが熱弁を振るって敵の兵士たちを説得すると、敵兵たちは動揺し、こちらに寝返る者も多かった。敢えて戦った者も、味方が圧倒的に劣勢であることを知ると、すぐに投降したのである。

 フリードとライオネルは、味方の兵士たちに、民百姓の物は奪うな、女は犯すな、と固く戒めていた。もちろん、それが大半の兵士の戦に加わった目的だったから、この指示に対して兵士たちの不満は大きかったが、二人が、それが戦を勝利に導く手段なのだと説得すると、大半は納得して指示に従った。だが、もちろん、中には指示に従わない者もいる。明らかに暴行略奪をした自軍兵士を、フリードは占領地の人民の前で斬り殺した。今で言えば、もちろんパフォーマンスである。これによって、フリードの軍は侵略者ではなく正義の軍隊であり、悪政を行なう国王から全国民を救い出す存在なのだという事をアピールしたのである。

 この噂は、やがてローラン全土に広がった。これはライオネルの策であり、占領地の住民から何人かを選んで、フリードの軍は救国軍だ、という噂を述べ広めさせたのである。

 こうして、フリードの軍は雪だるま式に膨れ上がっていった。投降した国王軍の兵士や、占領地の住民から兵士を希望する者が加わって、今では五百名を超える軍隊に成長していた。もちろん、全員に渡すだけの武器はないから、装備は貧弱だが、人数がいるというだけでも大きな戦力である。装備は使い廻しできるし、敵から奪うこともできる。しかし、人間の命は簡単には補充できない。

 フリードの軍には女もいると知って、従軍を希望する女たちも多かった。大半は、町や村で貧困にあえぎ、あるいはいわれのない差別に苦しむ女たちである。中には、驚くほどの美貌の娘もおり、これはもちろん隊長の特権で、フリードが自分専属の女にした。それに対して文句が出るほど民主主義的な時代ではない。偉い人間は、それなりの特権を持って当然だ、というのがこの当時の人間の考え方なのである。

 娘の名はアリーと言った。父が泥棒をした廉で死刑にされ、母は父の弟と再婚したが、アリーが美しいのに血迷った義父に強姦された後、二人の関係に気づいた母親から毎日のように折檻されるのに耐えかねて、従軍を希望したのである。

 マリアにどことなく似た寂しげな風貌で、境遇も似ている。なまじ美しいために酷い目に遭ったという点も同じである。今なら芸能界や水商売で体を売って金を稼ぐこともできるが、下層階級の美貌の娘は、男の慰み者になるしかない時代である。

 フリードに女が出来たことでミルドレッドは機嫌を損ねるかと思われたが、そうでもなかった。逆に彼女はアリーを自分の妹のように可愛がったのである。孤独に生まれ育ったミルドレッドは、妹が欲しかったらしい。人形のように可愛く大人しいアリーはある意味ではミルドレッドの理想の玩具なのかもしれない。

 アリーにとっては、生まれてからもっとも幸福な日々が、この軍隊に入ってからであった。つまり、それほど彼女の人生は酷いものであったというわけだが。

 夜、フリードに抱かれることも快いものだった。義父に抱かれている時は、母親に見つかる恐怖と罪悪感しか無く、義父の中年男の臭い匂いや弛んだ腹も嫌悪感しか抱かせなかったが、今、この若い男に抱かれる事は、何かに守られているような安心感を彼女に与えた。ある意味では、世界の中で、ここが彼女の居場所だ、という気分になれたのである。

 やがて、フリードの軍隊は、アルギアまであと五十キロという地点まで来た。そして、国王軍がフリード軍を迎え撃つためにアルギアの野に軍勢を進めているという情報が偵察部隊からの報告で分かった。いよいよ、決戦の時が迫ってきたのである。

 





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