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まだキチンと読んでいないが、メモである。


▼ 韓国・朝鮮の食文化

1)大家族制度から核家族化へ

 朝鮮半島では薬食同源を基にする食生活があり、農水産物や山菜や野菜、家畜の飼育などによる多様な食材の飲食文化が生まれた。しかし、百済・新羅から高麗時代に至っては仏教の影響によって肉食文化が次第に衰退し、植物性食材を利用した料理や茶、酒類が好まれるようになった。また、野菜などの塩漬けや乾燥させて使う貯蔵食文化も発展した。

朝鮮王朝時代になるとオンドル部屋(床下暖房)が普及し、床に座って食べる座式膳へと変った。また、儒教によって家父長制が強まり、家族の秩序と結束が重んじられる一方、大家族化と男尊女卑思想が著しくなり、家事全般を女性が担うことになった。中でも飲食を用意する台所の仕事は主婦の役割であったため、毎回の食事を男女別もしくは年長者別に用意することは嫁いだ女性にとっては重い負担となった。体面を重視する儒教社会で盛んに行われる通過儀礼や儀式、接客などに伴う料理の内容がその家の評価にも繋がったため、豪快かつ多様で豪華な飲食文化へと発達する経緯となった。しかし、1960年代からの韓国の近代化政策による女性労働力の需要が拡大し、女性の社会進出と核家族化の増加、少子化現象の台頭により、それまでの主婦中心の台所文化や食生活も多様化してきた。大家族社会では一家の大黒柱と言われた祖父や父親など年長者が座ってから食事が始まったが、最近では外食産業の拡大と洋食・加工食品の普及、男性の家事協力が増加し、食生活も大きく変化している。

2)韓国・朝鮮の配膳

 食膳を朝鮮半島では飯(バップ)床(サン)と称し、主食や汁物、チゲ(鍋物)類などの基本料理を除く飯饌(バンチャン)(総菜などのおかず)の数は身分によって異なった。庶民は3~5種類、両班は7~9種類、王は12種類の飯饌の水剌(スラッ)床(サン)を出すのが普段の食膳であった。主食は米を炊いたご飯で、麦飯や雑穀飯などの穀物の調理法も発達した。細長い地形の朝鮮半島は、北部は山が多く、南部は大きな川に沿った平野が広がり、北部では畑で取れる野菜や雑穀による主食が多く、穀倉地域が多い南部では米や麦による主食が多かった。一方、朝鮮半島には所々に聳え立つ山脈で自由な往来が出来なかったため、各地の独特な郷土料理の発達をもたらした。例えば、漬け物のキムチだけでも地方によっては味付けや漬け方、薬味の内容などが異なっており、今になっては多種多様のキムチが楽しめる。また、仏教や儒教の盛んな儀式・儀礼でいろんな模様や色彩豊かな餅類と祭祀料理などが発達し、独創的な食器具類も表れるようになった。

食器は主に真鍮でできたノックルッや瀬戸物を使ってきたが、日本で使われた木製の食器よりも重かったため、今でも食器を食膳においたまま食べるのが一般的だといえる。また、食器に匙や箸などによる音や食事の際の音を出さないのも作法とされる。匙は主に主食を、箸はおかず類を食べるのに用いられ、ご飯の右側に汁物を置き、匙と箸をその右手前に並べておく。昔は銅製や真鍮製のほか、銀製の匙と箸が嫁入り道具として珍重されてきたが、最近はステンレス製が多く、食べ物の多様化とともに食器類も変遷している。

韓国の食膳には主食と副食が分離され、味噌やコチュジャン(唐辛子味噌)で味付けしたチゲ(鍋物)のような料理は真ん中において取り皿に移して食べる形を取るが、親しい仲ではみんながチゲを取り囲んで一緒に食べる場合が多い。そのほか、山菜・野菜を茹でて味付けしたナムル類、酢の物、蒸し物、魚や肉類のクイ(焼き物)、チョリム(煮物)、塩辛、漬け物などが並ぶ。これらは季節別にその内容を変えて食膳をより豊かに飾ってくれる。これらは韓(ハン)定食(ジョンシク)専門食堂で簡単に注文できるが、10種から40種前後の料理を前にした時は豊かな気持ちになる。韓国の食堂では副食は何度でもお代わりができる。

3)日本における韓国・朝鮮の料理

 日本でよく目にする韓国・朝鮮の食べ物にキムチ、ブルゴギ、カルビ、ユッケ、ホルモン、ビビンパブ、ジャプチェ、チヂミ、ナムル、チゲ、冷麺などがある。焼き肉屋の多くがこれらをメニューに取り揃えている。特に韓国・朝鮮の基本食品であるキムチは各種ビタミンや乳酸菌の豊富さで世界のブランド化し、今や世界5大食品の一つとしてアメリカの健康専門誌Health Magazineでも高く評価されている。キムチは200種類を超えており、白菜や大根などの野菜類や果物類、魚介類、肉類、海草類、そして水キムチ類などに分類される。キムチを活用したキムチチャーハン、キムチチゲ類、豚キムチなどもよく目にすることができる。

古くから伝わってきたブルゴギは醤油とニンニク、ニラなどの薬味に肉を味付けて焼いて、サンチュやレタスなどの野菜に挟んで食べる人気料理である。日本では戦後の焼け跡が残る1946年に、在日コリアンが大阪の千日前に開いた焼き肉文化が、今は日本を代表する食文化の一つになっている。韓国では調理された焼き肉を食卓に運ぶのだが、関西で「食道園」を創業した林光植(日本名は江崎光雄)は、七輪をテーブルにおいて客が焼いて食べるスタイルを考え、故郷の平壌の名物である冷麺とともに看板に掲げた。その結果、今の1兆3,000億円の市場規模を支える焼き肉文化の土台を築いたのである。また、戦後の貧しさの中で捨てられる肉の内臓部位を商品化し、タン塩やホルモン(放る物という関西弁)焼きを普及し、今では在日文化として生まれた日本の焼き肉文化が逆に韓国でも好まれている。

4)現代の飲食文化

韓国は最近高度成長とともに普及された加工食品や外食産業の発達で食事を簡単に済ませることに慣れてしまった食生活、動物性食品に好みが偏るようになったことを見直し、より健康的でバランスが取れた献立を求めるようになった。食品の量よりも高級かつ機能性食材を重視する消費者の購買心を満たすのが大型のスーパーやショッピングセンターの急増である。世界各地から直送される新鮮な野菜や果物、イキの良い魚介類、肉類など溢れんばかりの食材が消費者の選択を幅広くしているのである。そのため、野菜や海草をふんだんに使った植物繊維が豊富な健康食や有機農産物や無農薬の野菜など、「健康で美味しいもの」を追求する「Well-Being」の志向性が高まっている。また、素朴な伝統食品やキムチ、醤油、コチュジャンなどのソース類に洋食材などを混ぜてアレンジした新感覚のフュージョン料理も増えている。また、ファストフード店の増加でキムチハンバーガーやブルゴギハンバーガー、キムチピザ、ブルゴギピザなどの韓国的素材も開発され、若者らの人気を得ている。しかし、パンやパスタ、ハンバーガー、ピザなどの小麦粉使用の食べ物を食べる人が急増したため、米の一人当たりの年間消費量が80年の132.4キロから99年には96.9キロに減っている。また、最近は朝食を取らない人や偏食のような、乱れた食生活をしている人が増加し、かつての家族の団欒な食生活も、暖かい家族的関係も失われつつある傾向にある。一方、韓国と対峙状態の北朝鮮は、「白米のご飯、肉スープ、瓦屋根の家」を人民に保証する建国の目標を掲げているが、ジャガイモ・トウモロコシの大量栽培やヤギ・ダチョウの畜産業にも力を注ぐものの、気候や育て方の問題等によって思ったよりも収穫が上がっていない。そのため、国民全体の豊かな食生活のレベルには至っておらず、南北の食生活の格差は大きくなっている。

 

李修京『この一冊でわかる韓国語と韓国文化』明石書店、2005年。

姜連淑「韓国のお膳立て-もてなしの心づかい」『韓国文化』第289号、2003年12月号。

『ウリ民俗図鑑』ソウル、芸林堂、2000年。

出典:李 修京「韓国・朝鮮の食文化」『歴史地理教育』No.702、10~13頁。

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