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  都内の高級ホテル。

  そのホテルの豪華なスイートルーム。テーブルの上に、デパートから届いたばかりの品々が、包み紙を破られ、乱雑に置かれている。例の、サラ金から金を強奪した男が、着ていた服を脱ぎ捨てて、大股で浴室に向かう。

  シャワーを浴びる男。

  浴室から出た男は、上から下まで、取り寄せたばかりの新調の服に着替える。そのまま、ヨーロッパの社交界に入っても引けをとらない、堂々たる美丈夫だ。

  古い服を紙袋に入れ(その手首には金色のローレックスが輝いている)、それを部屋のクローゼットの隅に押し込んで、男は部屋をでる。

  ホテルの駐車場にあったジャガーに乗り込む男。

  湾岸道路を走る銀色のジャガー。男は窓を一杯に開け、片手を窓にかけて気持ちよさそうに車を走らせている。

  初秋の気持ちの良い湾岸風景。夕焼けのベイブリッジ。クールなジャズとともに流れ往く風景が男の満足感を表している。(フェィド・アウト)

 

  夜。横須賀の繁華街。若者や外人の姿が目立つ通り。

  あるナイトクラブの内部。1950年代風の雰囲気が売り物の店である。室内にはジュークボックスやピンボールマシン、流れている曲は50年代から60年代にかけてのポップスである。客の若者にも、それを意識したファッションが多い。

  サーファー風の、髪を金髪に染め、ピアスをした軟弱な顔の若者二人が、連れの、黒っぽいファウンデーションに白いリップクリームの、軽薄そのものの二人の娘に向かってこの店の自慢をしている。

サーファー風「な、いい店だろ!」

ガングロ娘「かっこいい! ここ、よく来るの?」

サーファー風「まあな、この辺は俺のシマみたいなもんだからな」

  他のボックス席で、その若者たちを見ている三人の黒人。黒人たちの視線は、娘たちの、だらしなく開いたスカートの間に向けられている。

黒人の一人(にやにや笑いながら、英語で)「見ろよ、あのスケ、パンティ丸見えだぜ」

他の黒人(同じくにやつきながら)「誘って欲しいんじゃねえか」

もう一人の黒人「ジャップのガキ二人がいるじゃねえか。よせよせ、面倒なことは」

最初の黒人「なあに、少し脅かしゃあ、向こうから女を差し出すって」

三人目の黒人(肩をすくめ)「オーケイ。レッツゴー」

  若者たちのボックス席の前に立ちふさがる三人の黒人。それを見上げて怯える若者達。

黒人「(娘たちに、英語で)なあ、ねえちゃんたち、俺たちと遊ばないか」

  娘達、白痴的な微笑を浮かべ、困惑したように顔を見合わせてもじもじする。

サーファー風の一人(たまりかねて、ひどい発音の英語で)「あ、あの、……ええと、……ヘイ、デイス・イズ・マイフレンド。ドント・テイク・アウト」

黒人「ワット?」

げらげら笑いながら、娘達の手を引っ張って自分たちの席に連れて行こうとする。

若者の一人が、それを引き止めようと黒人の肩に手を掛けると、黒人は「ドント・タッチミー」と叫んで、若者の胸を押す。若者はへなへなとソファーに座り込む。娘達はあまりいやそうでもなく、きゃあきゃあ言いながら向こうの席に行ってしまう。

  黒人たちと嬉しげに酒を飲んでいる娘達。

  それを遠くから物欲しげな顔で眺めるサーファー風の若者たち。やがて二人はぶつぶつ文句を言いながら店を出ていく。

  ガングロ娘の一人が、酔っぱらった足取りで席を立ち、カウンターに向かう。

ガングロ娘「ビールちょうだい」

  娘の足元がふらつき、カウンターで静かに飲んでいた長身の男にぶつかって、その手のグラスの酒をこぼす。

  あっという間に、男の手が娘の横っ面を張り飛ばし、娘は腰を抜かして座り込む。

娘(泣き出す)「痛い! いたいよう」

もう一人の娘(駆け寄って)「ヨーコ、大丈夫!? (男を睨んで)何よ、あんた、ひどいじゃない!」

  駆け寄ってくる三人の黒人。口々に何かののしり声を上げている。

  ストゥールから下りて、ゆったりと黒人たちに向かう男。

男(静かな残忍さを感じさせる表情で、なめらかな英語で言う)「黒んぼども、アフリカに帰れ。ここはもう少しお行儀良くするところだ」

  男に殴りかかる黒人たち。ボクシング風のパンチでストレートを出した最初の黒人は、軽くかわされ、カウンターストレートでひっくり返る。もう一人は、マーシャルアーツの経験でもあるのか、長い足でハイキックを男の頭に飛ばすが、簡単に片手で受け止められ、足を捻られて一回転する。すぐさま、その両足の間で男が妙な動作をすると、黒人は股関節を外され、悲鳴を上げる。

  三人目の黒人は、仲間が簡単にやられたのを見て、尻ポケットからジャックナイフを取り出し、さっと刃を出す。

黒人(憤怒と恐怖で顔色を変え)「アイ・キル・ユー!」

  男はまったく平静な表情を変えない。黒人は力任せにナイフを突き出すが、その手首を男に簡単に掴まれ、足で蹴ろうとする。だが、その足ももう一方の手で掴まれ、片足立ちになる。

  男の手が、黒人のナイフを持った手をもの凄い力で支配する。

  じりじりと、自分の意志でなく動くナイフ。恐怖にひきつる黒人の顔。ナイフは黒人の空中の足に突き立つ。悲鳴を上げる黒人。

  カウンターの中で、警察に通報するバーテンの若者。

  虫のように倒れてもがく三人の黒人と、それを遠くから取り巻いて眺める他の客達の俯瞰。パトカーのサイレンの音が被さる。(フェイド・アウト)

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だいぶ前に書いた脚本で、しかも原作小説は私の兄が書いたものだから、私には本当はこれを公表する権利は無いのだが、死蔵しておくよりも、ここに公開して、仮に映画に使われたとしても些少のアイデア料くらいでいい、とするのがいいかと思うので、公開する。
大藪春彦の小説みたいな内容だが、全体の構想と映画的テンポ、映画化した場合の絵面などは、貧乏くさい日本映画のスケールを超えていると思う。
脚本だから特に章立ては無いが、ブログに載せられる字数限界があるので、分割掲載する。





  東京、池袋の町。初秋の、曇り空の荒涼とした天気の日。殺風景な町を一人の長身の男が歩いている。周囲から浮き上がっているような異常な雰囲気であるが、周りの人間は自分のことしか頭になく、男の様子に気が付かない。

  「ほのぼのローン」とドアに書かれたサラ金会社。男は、その前で立ち止まり、少し考え込む。

  「ほのぼのローン」の中。カウンターに足を乗せ、週刊誌のヌード写真を見ている若い社員。見るからに、チンピラやくざが普通の会社員を装っているという感じである。

  ドアが開いて、入ってきた客を見て、ローン会社の社員はカウンターから慌てて足を下ろす。男は四十を少し越したくらいの年齢だが、ドアに頭がぶつかりそうなくらいの長身だ。入ってくると、男は室内をぼんやりとした感じで眺めている。どことなくその目はガラス玉みたいで、非人間的な感じを与える。顔はハンサムな中年だが、顔全体がマスクのような印象だ。レインコートで体型ははっきりしないが、肩幅がありそうだ。

社員(猫をかぶって精一杯愛想良く)「いらっしゃいませ。ご用件は?」

男(人間ではなく、物を見るような目で相手を見て)「金が欲しい」

社員(苦笑めいた笑いを浮かべ)「いかほど用立てましょうか」

男(静かに)「この店の金、全部もらおう」

社員(あざ笑うように)「どういうことでしょうか? 具体的に、五千万なら五千万、一億なら一億と言って貰わないと、困るんですがね。それに、初めての方には限度額があるんで」

  突然、客の男の手が若い社員の喉笛を襲い、貫き手が若者の気管にめりこんで絶息させる。

  少し離れた所にいた他の社員たち(もちろん白シャツにネクタイを締めたやくざたちだが)が三人、口々に「野郎!」「手前!」と叫び、ののしりながら椅子から立ち上がろうとする。

  長身の客は、カウンターをひらりと飛び越え、三人の前に降り立つ。

(ストップモーション。この間に数時間経過している)

  床に転がる三人の死体、少し離れた所に最初に殺された若い社員の死体。その前で、警察官たちが困惑している。

殺人課(捜査一課)課長小林(部下に向かって)「凶器が分からないとはどういうことだ?」

部下の警官「はあ、それがですね、この四人の社員、全員殺され方が違うんです。一人は喉を潰されて窒息死、もう一人は頸椎を折られて死亡、もう一人は内臓破裂。最後のはひどいです。壁に顔面をたたきつけられて、というか、めり込まされてというか、頭部が半分に潰れていました」

小林(あきれ顔で)「じゃあ、素手で四人を殺したとでもいうのか? 人間業じゃないな。ゴリラ並の怪力だ。ゴリラでなけりゃあ、プロレスラーか」

部下「いや、どちらかといえば空手でしょうね。二課の佐々木君に電話で聞いてみたんですがね、カウンターの側で死んでいた若い男は喉を潰されていましたが、あれは空手の貫き手みたいです。(片手を突き出して実演する)こんな奴ですね」

小林「空手の有段者なら、少しはホシの目安が絞れそうだな。で、被害額は?」

部下「不明ですね。親分を初めとして、上の人間が平気で金庫から金をつかみだしていくんで、ドンブリ勘定もいいとこです。社長、というか、組長の言葉では、少なくとも二億はあったという話ですがね。本当かどうか」

小林(嘲笑するように)「二億も金がありゃあ、税金も馬鹿にはならん。その親分、脱税でしょっぴけるな」




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