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(2)至福のキス


俺はその少女の方に向かって歩き出した。近づくにつれて少女の様子がはっきりしてくる。明らかに外国人の顔立ちで、明らかに北方系、おそらくロシアかその周辺の国の顔だ。服装も、エプロンにスカーフで、農家の娘のようだ。色白で、目は青い。ほっそりしているが、顔はやや丸顔で可愛い。

「*******! ******」

何を言っているのか、さっぱり分からない。俺の心は不安感でいっぱいになる。

「******! ******?」

何か問いかけているのは分かるが、それ以上は分からない。

「****グレゴリー?」

たぶん、俺はグレゴリーと言うのだろう。仕方なく、おれはうなづいた。この世界で、うなづく仕草が同意を示すかどうかは分からないが、そうするしかない。

少女は途方に暮れたような顔で、まだ何とかかんとか言っていたが、まったく俺には分からない言葉だ。ただ、ロシア語であるような気はする。ロシア語なら、「ニエット」が「ノー」の意味だというのは知っているが、「イエス」は何と言ったか。「ヤー」とか「ダー」とか言った気がする。いや、「ヤー・チャイカ」が「私はカモメ」と訳されていたから、「ダー」の方か。

少女は俺の手を引っ張るようにして、近くにあった小さな家に連れていった。

家の作りは、二間か三間くらいだろうか。居間と台所が一緒で、奥に寝室があるようだ。
その居間のテーブルは大きい。家は小さいが家族は多いような気がした。
少女は俺を粗末な木の椅子に座らせて、暖炉(いわゆるペチカだろうか?)の上の妙な器具からお茶らしきものを注いで私の前に置いた。

「*****」

と少女が言った時、俺は、「有難う」と言ったが、少女は首を傾げる。

俺は思いついて「スパシーボ」と言ってみた。何となく、それが「有難う」のロシア語だという気がしたのである。もっとも、ここがロシアかどうかまだ分からないが。

少女は「スパシーボ? ******スパシーボ?」

と言って首を傾げたが、笑顔になったので、まあ、これでいいか、と俺は思った。

少女が俺の傍に来て、その身をかがめた時、少女が何をするつもりなのか、俺はまったく予想もしていなかった。

突然のキス。

生まれて初めてのキスに俺はパニクった。

いや、相手は、まあ、俺の感覚では美少女だし、実にラッキーだとは思うが、そもそも、キスとはどうするものなのか。唇と唇を合わせるだけではないような気がする。確か、舌を相手の口の中に突っ込むとか、舌と舌を絡み合わせるとか、あったような気がするが、気が動転するだけで、どうしていいか分からない。だが、美しい少女と唇を重ねるだけでも至福である。

「******! *****?」

少女が唇を離して何か言い、にっこり笑ったので、別に不快感は与えなかったようだと判断して俺は安心した。

家の外で足音と数人の人声がした。この家の人たちが帰ってきたのだろう。

さて、これからが地獄だ、という気がした。







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