森博嗣『作家の収支』
JUGEMテーマ:自分が読んだ本 文中敬称略
Kindle版
作家の印税は大体10パーセントであることはよく知られた事実だが、それ以外に原稿の相場はいくらか、新聞に小説を連載するといくらになるのか、対談本で何人もの人が話した場合印税はどのように配分されるのか、サイン会は金になるのか、小説が外国語へと翻訳された場合にはどうなるのか、テレビアニメ化や映画化された場合には支払いはどうなるのか、さらにそれにより本の売り上げはどう変わるのかーーーこうした誰もが疑問に抱く問いに対して、ことごとく具体的な数字を挙げながら答えたのが、19年間に280冊の本を出し、作家森博嗣(もりひろし)の『作家の収支』(幻冬舎新書)である。
森博嗣には2010年に出版された『小説家という職業』があるが、こちらではどの程度の本の数が出て、どの程度稼げたかといった大雑把な話しかしていないし、作家へのなり方や小説の文体などの創作論、編集者や慣習など業界の内部事情、電子書籍の登場による将来的な変化など総花的な内容であった。『作家の収支』では、最後にインターネットと電子書籍の時代の本の未来展望こそ一段と踏み込んで語られているものの、ほぼお金の話に終始している。『小説家という職業』がどうすれば作家になれるかが重点であるとすれば、『作家の収支』は、作家はどれくらい儲かるかが重点になっているのである。
著者の場合、そもそも本を読むのが特に好きというわけでなく、初めから金儲けのために小説を書くのだと公言している。そして、元国立大学工学部の教授らしく(作家デビュー後十年間は大学の仕事を続けていた)ドライに本の売り上げ部数や印税の総額といった数値を一種のデータとして集約し、分析している。文学への思い入れがあれば、なかなかこうはいかなかっただろう。
本書にまとめられた収入の中には、たとえば本の帯に推薦文を書くといくらか、学校の入試問題に採用されるといくらかなど、ものすごくトリビアなものもあり、話のネタとしても尽きることがない。他方において、作家の支出に関しては、人件費を使わなければ税控除をとるにも困るほどにあっさりした扱いである。
今は、ウェブなどでちょっとしたきっかけで作家になる人も少なくないが、そこから多方面に活動が広がった場合、収支決済が煩雑になって収拾がつかなくなることもあるだろう。初めからこれはやる、これはやらないと戦略を決めておかないととんでもないことになることもある。そんな転ばぬ先の杖としても、本書は重宝するはずである。
作家をめざす人に対しては、小説家としてデビューするためにも、職業作家として長く生活してゆくためにも、他人の小説やノウハウ本も読むのは無駄であり、ただ時を置かずに小説を書いて書いて書きまくること、それしかないというのが著者の主張である。将来的な予想としては、これから出版業界は大変な時代になるが、作家のニーズは失われることはない、作家は、誰でも何の用意なしに、すぐ明日からでも始められる仕事ではあるが、それだけに競争は熾烈で、何らかの個性、新しさをひねりだせないと、サバイバルは厳しいだろうということになる。
『F』に関していえば、ノベルスで約1400万円、文庫で4700万円の印税であり、この1作で、合計6000万円以上をいただいている。この作品は18万字くらいだったので、執筆に30時間以上かかっている。ゲラ校正などを含むと、60時間ほどが制作時間になる(最初なので時間がかかった)。時給にすると100万円だ。ただし、すぐに得られるわけではない。20年かかってこれだけを稼ぎ出したのである(今後もまたもう少し稼ぐことになるだろう)。
Kindle版
作家の印税は大体10パーセントであることはよく知られた事実だが、それ以外に原稿の相場はいくらか、新聞に小説を連載するといくらになるのか、対談本で何人もの人が話した場合印税はどのように配分されるのか、サイン会は金になるのか、小説が外国語へと翻訳された場合にはどうなるのか、テレビアニメ化や映画化された場合には支払いはどうなるのか、さらにそれにより本の売り上げはどう変わるのかーーーこうした誰もが疑問に抱く問いに対して、ことごとく具体的な数字を挙げながら答えたのが、19年間に280冊の本を出し、作家森博嗣(もりひろし)の『作家の収支』(幻冬舎新書)である。
森博嗣には2010年に出版された『小説家という職業』があるが、こちらではどの程度の本の数が出て、どの程度稼げたかといった大雑把な話しかしていないし、作家へのなり方や小説の文体などの創作論、編集者や慣習など業界の内部事情、電子書籍の登場による将来的な変化など総花的な内容であった。『作家の収支』では、最後にインターネットと電子書籍の時代の本の未来展望こそ一段と踏み込んで語られているものの、ほぼお金の話に終始している。『小説家という職業』がどうすれば作家になれるかが重点であるとすれば、『作家の収支』は、作家はどれくらい儲かるかが重点になっているのである。
著者の場合、そもそも本を読むのが特に好きというわけでなく、初めから金儲けのために小説を書くのだと公言している。そして、元国立大学工学部の教授らしく(作家デビュー後十年間は大学の仕事を続けていた)ドライに本の売り上げ部数や印税の総額といった数値を一種のデータとして集約し、分析している。文学への思い入れがあれば、なかなかこうはいかなかっただろう。
この本に、これから客観的事実を書く。それらを僕自身がどう評価しているかは、なるべく書かないつもりだが、トータルとして、特に、それで満足しているわけでもなく、また不満を持っているのでもない。仕事をして、その報酬を得たというだけのことである。幸運に恵まれたのか、それとも労力に見合った結果なのかも評価するつもりは全然ない。そんな評価をする必要がそもそも僕にはないので、余計なことに頭を使いたくないのである。
本書にまとめられた収入の中には、たとえば本の帯に推薦文を書くといくらか、学校の入試問題に採用されるといくらかなど、ものすごくトリビアなものもあり、話のネタとしても尽きることがない。他方において、作家の支出に関しては、人件費を使わなければ税控除をとるにも困るほどにあっさりした扱いである。
今は、ウェブなどでちょっとしたきっかけで作家になる人も少なくないが、そこから多方面に活動が広がった場合、収支決済が煩雑になって収拾がつかなくなることもあるだろう。初めからこれはやる、これはやらないと戦略を決めておかないととんでもないことになることもある。そんな転ばぬ先の杖としても、本書は重宝するはずである。
作家をめざす人に対しては、小説家としてデビューするためにも、職業作家として長く生活してゆくためにも、他人の小説やノウハウ本も読むのは無駄であり、ただ時を置かずに小説を書いて書いて書きまくること、それしかないというのが著者の主張である。将来的な予想としては、これから出版業界は大変な時代になるが、作家のニーズは失われることはない、作家は、誰でも何の用意なしに、すぐ明日からでも始められる仕事ではあるが、それだけに競争は熾烈で、何らかの個性、新しさをひねりだせないと、サバイバルは厳しいだろうということになる。