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S10 米華劇場楽屋

・ホワイトボードの前に目暮警部、阿笠博士が立ち、その前に数人の人物(如月、水無月ほか)がいる。コナンと蘭は後ろの方にいる。

目暮警部「今日お集まりいただいたのは、米華デパート美少女遺体吊り下げ事件を解決するためです。この事件の謎を解いた阿笠博士にまずお話いただきます」
阿笠「最初に、この事件を混乱させたのは、気球に遺体を吊り下げるということに、合理的な意味が見いだせなかったことです。せいぜいが、誰かへの見せしめか、デパートの評判を落とすことくらいでしょう。そして、後者については、毛利小五郎氏の調査によって、その可能性は少ないことが分かりました。というのは、米華デパートのライバルであるケンジントンデパートは、今年中に店をたたむことが決定済みだということですから。
「さて、それでは、被害者の絢子さんはなぜ気球に吊るされねばならなかったのか。そもそも、ここにはどのような犯罪があったのか。
「確かに犯罪はありました。いや、未遂に終わった犯罪というべきでしょう。つまり、殺人は無かったということです。
「ここで思い出してほしいのは、遺体が見つかった日の前日、この米華町は大風が吹いていたということです。風は夜中すぎまで吹いていました。しかも、ほとんど同じ方向にです。」
阿笠博士、ホワイトボードに大きな地図を貼る。
阿笠「ご覧のとおり、ここが米華デパートです。そして気球の高さは、屋根の端からおよそ100メートル。さて、風が南から北に吹いて、気球をおよそ地上から30度の角度に傾けたらどうなるか。100コサイン30は、およそ85メートルとなります。さて、米華デパートの北85メートルの地点には何があるか。そう、米華城です。その天守閣のしゃちほこは金箔が貼られていることは有名です」
一同、驚いた顔になる。一人は驚くより、苦痛の表情になる。
阿笠「つまり、絢子さんは、あの強風の日に、気球に上り、命綱で体を縛った上で、米華城の上に下りてしゃちほこの金箔を盗もうとしたのです。いや、そうするように強制されたのです。
「しかし、それはあまりに無謀な試みでした。風の向きが突然変わった時、彼女の体は風にあおられ、天守閣の一部に激突したのです。彼女の遺体には頭部の打撲のほか、肩のあたりから背中にかけての打撲もありました。地面に倒れてできた打撲にしては激しすぎる打撲傷でした。
「そのまま、彼女の体は命綱にぶら下げられた状態のままでいたが、翌朝、風が止むと、気球は垂直にあがったため、彼女がどこで死んだのかが分からず、殺された後に吊り上げられたという錯覚を生んだのです」

如月「ならば、絢子が泥棒をしようとして、自分で勝手に事故死しただけだったんだ。これで事件は解決か。もう帰っていいかな」

目暮警部「お待ちください。彼女は犠牲者です。自ら望んで犯罪を行ったわけではありません。ここに録音されたものがあります」

(二人の人間の会話)
A男「じゃあ、如月さんの指示で絢子はあんなことをやったんだ」
B男「ああ、もともとサーカスで曲芸をやっていたから、身は軽いんで、そこを見込んだんだが、ドジをふみやがってな。運の無い女さ」
A男「で、借金の600万円はどうするんだよ」
B男「こういうこともあろうかと、俺を受取人にした生命保険に入らせていたんだ。俺にぞっこんだったんでな。まあ、それでなくても、危険なマジックもあるから、お互いを受取人にした上でアシスタントになるという約束だったんだ」
A男「安心した。これで、一座は無事だな」
B男「まあな」

幻影マジックショーのマネージャーの水無月が顔を青くして震えている。

目暮警部「声でもうお分かりですね。水無月さん、如月さん。お二人の声です」

如月「だが、こんなのは証拠にはならないはずだ。それに、あれは事故だったんだ」

目暮警部「日本の裁判では裁判官と検察が有罪と思えば有罪なんです。さあ、行きましょうか」

コナン「ひでえ話」
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S7 登下校路で

灰原哀とコナンが一緒に下校している。

哀「若くて美人なんでしょう? 恋愛関係のもつれに決まっているじゃない」
コナン「お前なあ、小学生のセリフかよ」
哀「でなければおカネね。まず、それが犯罪の動機の90%。あ、憎しみは恋愛と同じと数えること。可愛さ余って憎さ百倍って昔から言うでしょ」
コナン「でも、捜査しようにも、俺じゃあ、大人の話に首を突っ込めないからなあ」
哀「だから、無理な探偵ごっこなんかやめればいいのよ。大人しく小学生ライフをエンジョイしたら? 蘭お姉さんと一緒にお風呂に入ったりして」
コナン「お前、殺すぞ」
哀「私が幻影マジックショーの内情を探ってあげようか」
コナン「え? できるのかよ」
哀「簡単よ。少年探偵団のバッチは何のためにあるのよ。連絡だけしか使えないと思っているの?」
コナン「盗聴かよ。それ、犯罪だぜ」
哀「まあ、これも子供の特権ね。捕まっても、誤魔化せるんじゃない?」
コナン「うーん」



S8 米華デパート屋上


コナンが屋上で考えている。平日で人は少ない。
コナン(独り言、またはナレーション)「絢子さんを殺す動機のある人は彼女の周辺にはいないように見えたけどなあ。まあ、動機は後廻しにして、なぜ彼女を気球に吊り下げたのか。よほど彼女に恨みを持つ人物で、彼女の死体をさらしものにしたかったのだろうか」
小さい女の子が、手にした風船をうっかり放し、風船が手から離れる。
女の子、泣きだし、コナンの注意が風船に向けられる。
その時、風船が突然の風に吹かれ、大きく流される。
コナン、はっと何かに気が付いた顔になり、屋上の端に駆け寄る。
コナン(金網からやや下の角度で遠方を見て)「そうか、そうだったのか。これで、気球に彼女が吊り下げられた理由が分かった。……」

S9 灰原哀の部屋

コナンと哀が、テーブルの上の何かを見下ろして話している。
コナン「やはり、そうか」
哀「でも、これじゃあ、殺人の理由にはならないんじゃない? むしろ、絢子さんが死んだら困るでしょう」
コナン「そこが実はこの事件のポイントさ。忌々しいことに、絢子さんはこの犯人に殺されたようなものだが、おそらく犯人を殺人罪に問うことはできないと思う。だが、犯人を挙げないと絢子さんも浮かばれないだろう」 
哀「で、これをどう解決するのよ。今回は小五郎のおっちゃんを使うことはできないでしょう」
コナン「阿笠博士に働いてもらうかな」



S4 幻影マジックショー事務所

団長の如月、マネージャーの水無月が話している。
水無月「ですから、今月中に先方に600万振り込まないと、うちは倒産です」
如月「分かっている。何度も言うな」
水無月「ただでさえ苦しいのに、絢子ちゃんの変死まであって、踏んだり蹴ったりです」
如月「公演は続ける。絢子の後釜はシモーヌ美和子で行く」
水無月「はあ、そうですか。美和子は喜ぶでしょう。チーフアシスタントをやりたがっていましたから」


S5 米華劇場

蘭「珍しいわねえ。コナン君がマジックショーを見たいなんて」
コナン「うん、この前の事件があって、幻影マジックショーってどんなかなあって興味がでちゃった」
コナン(横を向いて独り言)「なんちゃって、本当はマジックなんて興味ないけどね」

舞台ではマジックショーが行われている。紋切型のマジックがほとんど。

蘭「魔術師如月のアシスタントさんはシモーヌ美和子って人に代わったんだ」
コナン「ふうん、あの人魔術師如月って言うんだ」
コナン(横を向いて独り言)「なあにが魔術師だよ。ペテン師の間違いだろ」

舞台で、如月が、ホスト風のにやけた顔で、マジック成功の後の気障な一礼をしている。

S6 劇場楽屋

美和子「絢子のこと? そうねえ、人から恨まれるような子じゃなかったけど、昔のことは分からないからねえ」
蘭「昔って?」
美和子「ここに来る前は彼女ファンタジックサーカスにいたのよ」
蘭「でも、そこ潰れたんですよね」
美和子「そう。だから、倒産のどさくさで、いろいろあったかもしれないわね」
蘭「恋人はいなかったんですか」
美和子「いなかったと思うけど、まあ、確かなことは言えないわ。案外、秘密の恋人がいたりして」
コナン「団長さんとか?」
蘭「こらっ、小学生がなんてこと言うの」
コナン「だって、ポスター見て、あの二人お似合いだなあって思ったんだもん」
美和子(笑って)「残念ながら見当ちがいね。実は、これは秘密だけど、うちの団長、女には興味無いの」
蘭「ええーっ。もしかしてそれって」
美和子「それそれ」
二人でくつくつ笑う。
コナン、まったく理解できないような顔を作る。




シナリオというよりは、漫画のネームを文章で書いたようなものになると思うが、橋本五郎の「空中踊子」を「名探偵コナン」のアニメ脚本にしてみる。骨組みだけである。



S1 米華デパート屋上の遊園地

コナンと「少年探偵団」メンバーが遊びに来ている。
コナン(独り言)「なんで俺がデパートの遊園地なんかに来なきゃならねーんだよ」
あゆみ「ねえ、コナン君、あれ乗ろうよ」(メリーゴーラウンドを指す)
コナン「いやだよ。子供っぽい」
あゆみ「あら、私たち子供じゃない」
玄太「何だ何だ。コナンだけ一緒かよ」
光彦「みんなで乗りましょうよ」
仕方なく、コナンも一緒に回転木馬に乗る。
大喜びのあゆみ。楽しげな玄太、光彦。やれやれという顔のコナン。
ふと遠くを見るコナン。
その目の先に、デパートの屋上端から上がっているアドバルーンが見える。
コナン「あれは……」


屋上と気球のちょうど中間くらいに、気球からロープで吊り下げられた物が見える。
風でその物の方向が変わり、それが何か分かる。

スポーティな身なりをした若い女性である。そして、それは死んでいる。

「それ」に気づいた他の客が悲鳴を上げる。


S2 米華デパート屋上

警察が屋上に出動してきている。
 目暮警部「死因は後頭部の打撲ですな。鈍器で頭を殴られて殺され、この気球に吊り下げられたらしい。コナン君より先に気づいていた人もいたようだが、その人たちはみんな人形だと思っていたようだ」
阿笠博士「しかし、何のために気球に吊り下げたんでしょう」
 目暮警部「世間を騒がすため、いわゆる愉快犯でしょうな」

近くで聞いている少年探偵団。
玄太「誘拐犯だって。誘拐犯じゃなく殺人犯だよなあ」
光彦「誘拐犯じゃなく、愉快犯です」
玄太「愉快犯? 愉快な犯人か? ピエロみたいな?」
光彦「世間を騒がして喜ぶという、精神の異常な犯罪者を愉快犯と言うんですよ」
玄太「へえ、そんな奴いるんだ」
あゆみ「こわいわ。そんな人がいるなんて。ねえ、コナン君」
コナンは難しい顔をしてコンクリートの上の死体を見ている。
コナン「この人、見たことあるよ」
目暮警部「ほう、そりゃあ助かる。身元の分かるものが死体には無かったからなあ」
コナン「ここに来る途中の米華劇場のポスターで見た顔だと思う」

S3 毛利探偵事務所

小五郎「あのフランシーヌ絢子ちゃんが殺されるとはなあ」
蘭「幻影マジックショーのアシスタントさんでしょう?」
小五郎「幻影マジックショーはマジックより、絢子ちゃんで持っていたようなもんだ。美人薄命とはよくいったもんだ」
蘭「私も気をつけなくちゃあ」
小五郎「お前は大丈夫だ。長生きするよ」
コナン、にやにやしながら聞いている。
蘭「で、お父さんがなぜ捜査に加わるの?」
小五郎「米華デパート社長からの依頼でな。デパートに悪い噂が立つ前に事件を解決してほしいそうだ」
コナン「ねえ、あのデパートの屋上は、夜は入れるの?」
小五郎「一応、鍵はかかるが、トイレの窓から出て屋上に入ることはできるようだ。特に盗まれるものは無いから、まあ飛び降り自殺志望者の侵入を阻止するだけが鍵の目的だったようだな」
蘭「お父さんは、何か事件解決の目当てはあるの?」
小五郎「まあ、ライバルデパートの社長なんか調べてみようかな、と思っているんだが」
コナン「幻影マジックショーの人は調べた?」
小五郎「特に絢子ちゃんの死に関係のありそうな人間はいない……って、何でお前が首を突っ込むんだよ」
コナンの頭をげんこつでなぐる。
コナン(頭をかかえながら呟く)「マジックショーに関係ないって本当かなあ」






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