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坂口安吾の短編「心霊殺人事件」は、淡白なミステリーだが、ミステリーの素材として面白い要素が多い。第一に、終戦直後を舞台としているために、戦争時の混乱がまだ尾を引いていて、戦時の犯罪を戦後の犯罪の動機とすることができる。第二に、殺人事件が起こった「心霊実験」よりも、その前に発生している「荷物の移動」が実は殺人事件の動機だったこと(重要性の錯覚)。第三に、戦時の犯罪の事情や人物を膨らませることで、物語を重厚にできる。これは、戦犯のほとんどは実際には(米軍捕虜虐待など欧米関係以外には)実際には逮捕も処罰もされず、戦後の日本でのうのうと生きていたということなどの「哲学的問題」にもなる。また、話の脇役として出てくるサイコパス的人物が、キャラクターとして面白い。私は悪役を描くのが苦手なのだが、このキャラは活かせそうな気がする。中国で殺人強姦を繰り返した日本人将校が、戦後の日本社会で一見平凡なサラリーマンとして生きているのが面白い。なお、大金持ちのボディガード兼秘書という仕事も、悪役らしくていい。表向きは秘書、裏ではボディガードという二面性がいい。
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