石子順の話題が出ると、「待ってました!」的な笑いが出る訓練された観客たち
「ジェームズ」客の一人がバーテンに言った。
「とても元気そうにみえるね」
「あなたもとてもお元気そうです」バーテンは言った。
「古い顔なじみのジェームズ」もう一人の客が言った。「あなた太ったわね」
「それはヤバイですね」バーテンは言った。「なんで脂肪がついたやら」
「ブランデーのこと、無視しないでくれよ」(訳者注:ここは意味不明)最初の客が言った。
「はい」バーテンは言った。「大丈夫ですよ」
バーの二人はテーブルの二人を見やって、再びバーテンに視線を戻した。バーテンに向かう姿勢の方が心地よかった。
「そんな風な言葉を使わないほうが私は好きだわ」少女が言った。「そんな言葉を使う必要など無いじゃない」
「君は、それをどんな言葉で言ってほしいんだ?」
「言う必要など無いわ。どんな名前も付ける必要など無いわ」
「さっきのあれが、そいつの名前さ」
「いいえ」彼女は言った。「私たちはいろんな関わりがある。あなたも知っているでしょ。自分でもたくさんあるでしょ」
「そのことは繰り返して言う必要は無いよ」
「あなたに説明するために言ってるの」
「分かった」彼は言った。「分かった」
「あなたの考えているのは全部間違い。私には分かる。全部間違い。でも、私は戻ってくるから。戻ってくると言ったでしょ。すぐに戻るから」
「いや、戻らないね」
「戻るわ」
「いや、戻らない。俺のところにはな」
「後で分かるわ」
「そうさ」彼は言った。「それが最悪なところだ。君は思う通りに行動するだろう」
「もちろんよ」
「それなら、行きな」
「本当?」彼女はその言葉を信じられなかったが、彼女の声は幸福そうだった。
「とても元気そうにみえるね」
「あなたもとてもお元気そうです」バーテンは言った。
「古い顔なじみのジェームズ」もう一人の客が言った。「あなた太ったわね」
「それはヤバイですね」バーテンは言った。「なんで脂肪がついたやら」
「ブランデーのこと、無視しないでくれよ」(訳者注:ここは意味不明)最初の客が言った。
「はい」バーテンは言った。「大丈夫ですよ」
バーの二人はテーブルの二人を見やって、再びバーテンに視線を戻した。バーテンに向かう姿勢の方が心地よかった。
「そんな風な言葉を使わないほうが私は好きだわ」少女が言った。「そんな言葉を使う必要など無いじゃない」
「君は、それをどんな言葉で言ってほしいんだ?」
「言う必要など無いわ。どんな名前も付ける必要など無いわ」
「さっきのあれが、そいつの名前さ」
「いいえ」彼女は言った。「私たちはいろんな関わりがある。あなたも知っているでしょ。自分でもたくさんあるでしょ」
「そのことは繰り返して言う必要は無いよ」
「あなたに説明するために言ってるの」
「分かった」彼は言った。「分かった」
「あなたの考えているのは全部間違い。私には分かる。全部間違い。でも、私は戻ってくるから。戻ってくると言ったでしょ。すぐに戻るから」
「いや、戻らないね」
「戻るわ」
「いや、戻らない。俺のところにはな」
「後で分かるわ」
「そうさ」彼は言った。「それが最悪なところだ。君は思う通りに行動するだろう」
「もちろんよ」
「それなら、行きな」
「本当?」彼女はその言葉を信じられなかったが、彼女の声は幸福そうだった。
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「証明しろなんてこれまで言ったことないじゃない。そんなの、優しくないわ」
「君は面白い子だね」
「あなたは違うわ。あなたは立派な人で、私の心を粉々にし、あなたから離れてしまいたくさせる」
「ぜひ、そうすべきだな。当然だ」
「ええ」彼女は言った。「そうすべきね。あなたの言う通り」
彼は何も言わなかった。彼女は彼を見て、また相手を求めて腕を差し出した。バーテンはバーの中のずっと離れた隅にいた。彼の顔は白く、ジャケットも白かった。彼はこの二人を知っていて、若いきれいなカップルだと思っていた。そして、そうした若いきれいなカップルが別れ、新たな、さほどきれいでもないカップルが誕生するのを何度も見てきた。彼はこのカップルのことは考えておらず、ある競走馬のことを考えていた。もう半時間も、彼は前の通りを横切って、その馬がレースに勝ったかどうか見に行きたいと思っていた。
「私に優しくして、あそこに行かせてくれることはできないの?」
「君は、俺がどうするつもりだと思う?」
二人連れの客がドアから入ってきて、バーの方に行った。
「いらっしゃい」バーテンはオーダーを取った。
「すべてが分かっても、あなたは私を許さないの?」少女は尋ねた。
「いやだね」
「あなたと私のこれまでのすべての事も、お互いの理解に何も役立たないの?」
「『売淫は恐るべき容貌をした醜悪な怪物である』」若い男は苦い口調で言った。「『それは必要に応じて何者かに形を変えるが、目には見えない。そしてその何者かを、何者かを、我々は抱擁する』」彼はその後の言葉を思い出せない。「引用できないや」
「売淫なんて言わないで」彼女は言った。「不潔な言葉よ」
「売春」彼は言った。
「君は面白い子だね」
「あなたは違うわ。あなたは立派な人で、私の心を粉々にし、あなたから離れてしまいたくさせる」
「ぜひ、そうすべきだな。当然だ」
「ええ」彼女は言った。「そうすべきね。あなたの言う通り」
彼は何も言わなかった。彼女は彼を見て、また相手を求めて腕を差し出した。バーテンはバーの中のずっと離れた隅にいた。彼の顔は白く、ジャケットも白かった。彼はこの二人を知っていて、若いきれいなカップルだと思っていた。そして、そうした若いきれいなカップルが別れ、新たな、さほどきれいでもないカップルが誕生するのを何度も見てきた。彼はこのカップルのことは考えておらず、ある競走馬のことを考えていた。もう半時間も、彼は前の通りを横切って、その馬がレースに勝ったかどうか見に行きたいと思っていた。
「私に優しくして、あそこに行かせてくれることはできないの?」
「君は、俺がどうするつもりだと思う?」
二人連れの客がドアから入ってきて、バーの方に行った。
「いらっしゃい」バーテンはオーダーを取った。
「すべてが分かっても、あなたは私を許さないの?」少女は尋ねた。
「いやだね」
「あなたと私のこれまでのすべての事も、お互いの理解に何も役立たないの?」
「『売淫は恐るべき容貌をした醜悪な怪物である』」若い男は苦い口調で言った。「『それは必要に応じて何者かに形を変えるが、目には見えない。そしてその何者かを、何者かを、我々は抱擁する』」彼はその後の言葉を思い出せない。「引用できないや」
「売淫なんて言わないで」彼女は言った。「不潔な言葉よ」
「売春」彼は言った。
「慰めてくれなくてもいいよ」彼は言った。
「御免なさい、って言っても無駄かしら」
「無駄だね」
「あの事が、どういうことなのか言っても?」
「聞きたくないね」
「あなたをとっても愛しているの」
「そうだな。君があそこに行くことでそれが証明されるさ」
「御免なさい」彼女は言った。「どうしても理解してもらえないのね」
「理解しているさ。理解しているのが問題なんだ」
「そう」彼女は言った。「もちろん、あなたには気分のいい事じゃないわね」
「確実にね」彼は、彼女を直視して言った。「これから先ずっと、俺は理解しているさ。昼も夜もずっとな。特に夜には一晩中考えるだろうよ。俺は理解しているよ。その点に関しては君の心配は要らないさ」
「御免なさい」彼女は言った。
「その相手がもし男ならーー」
「言わないで。男のはずが無いでしょ。私を信用しないの?」
「面白いな」彼は言った。「君を信用する? ほんっとうに面白い」
「御免なさい」彼女は言った。「私の言えることは全部言ったわ。でも、私たちが信頼し合っていたら、そうじゃないふりをするのは無意味よ」
「いや」彼は言った。「たぶん、信頼など無いと思うよ」
「あなたが私を望むなら、私は戻ってくるわ」
「いや、そうしなくていい」
それから二人はしばらく黙り込んだ。
「あなたを愛していると言っても、信じてくれないでしょうね」少女は聞いた。
「どうしてそれを自分で証明しないんだ?」
「御免なさい、って言っても無駄かしら」
「無駄だね」
「あの事が、どういうことなのか言っても?」
「聞きたくないね」
「あなたをとっても愛しているの」
「そうだな。君があそこに行くことでそれが証明されるさ」
「御免なさい」彼女は言った。「どうしても理解してもらえないのね」
「理解しているさ。理解しているのが問題なんだ」
「そう」彼女は言った。「もちろん、あなたには気分のいい事じゃないわね」
「確実にね」彼は、彼女を直視して言った。「これから先ずっと、俺は理解しているさ。昼も夜もずっとな。特に夜には一晩中考えるだろうよ。俺は理解しているよ。その点に関しては君の心配は要らないさ」
「御免なさい」彼女は言った。
「その相手がもし男ならーー」
「言わないで。男のはずが無いでしょ。私を信用しないの?」
「面白いな」彼は言った。「君を信用する? ほんっとうに面白い」
「御免なさい」彼女は言った。「私の言えることは全部言ったわ。でも、私たちが信頼し合っていたら、そうじゃないふりをするのは無意味よ」
「いや」彼は言った。「たぶん、信頼など無いと思うよ」
「あなたが私を望むなら、私は戻ってくるわ」
「いや、そうしなくていい」
それから二人はしばらく黙り込んだ。
「あなたを愛していると言っても、信じてくれないでしょうね」少女は聞いた。
「どうしてそれを自分で証明しないんだ?」
今時の若い人はヘミングウェイなど読まないだろうから、彼の作品の中であまり知られていないものを、私が「超訳」してみようと思う。前に、「踊るドワーフ」でやったみたいな奴だ。知らない英単語は辞書を引くかもしれないし引かないかもしれない。おそらく原作の版権は切れていると思うが、切れていないかもしれない。まあ、わざわざ日本語訳まで調べはしないだろう。
作品は「THE SEA CHANGE」という、原書で5ページほどの短編で、日本語ではどういう題で訳されているかは知らない。「潮の変わり目」かもしれない。何ということもない若い男女の痴話喧嘩で始まる短編だが、その一方にとっては、まさに人生の潮の変わり目かもしれない或る出来事と、その周辺の日常的風景の対比の残酷さが面白い作品だ。
少し、内容を露骨に表しすぎる題名だが、「心の死刑宣告」という題名にしておく。「夏の終わり」というのも詩情があっていい。もちろん、「終わり」は季節の終わりだけではなく、別の何かの終わりも意味している。
「心の死刑宣告」
「分かったよ」
若者が言った。「それでどうだい」
「いやよ」少女が言った。「できないわ」
「やる気が無いってことだろ」
「できないって言ったの」少女は言った。「そう言ったじゃない」
「そりゃあ、やる気が無いって意味だろ」
「いいわ」少女は言った。「何とでも好きなように取ればいいわ」
「そういう問題じゃない。俺はそうしてほしいんだ」
「しつこいわよ」少女は言った。
朝の早い時間で、カフェの中にはバーテンと、隅のテーブルで向かい合っている若い二人以外には人がいなかった。今は夏の終わりで、その二人は日に焼けており、パリの街では場違いに見えた。少女はツィードのスーツを着て、肌はなめらかな金褐色をし、そのブロンドの髪は短くカットされ、額の周りを美しく飾っていた。若者は少女を見た。
「あの女、殺してやる」彼は言った。
「お願い、やめて」少女は言った。彼女の腕はほっそりとし、日に焼けて美しかった。彼はその腕を見た。
「やってやる。神に誓ってな」
「あなたが不幸になるだけよ」
「ほかにやりようがあるか?」
「何も思いつかないけど、本気なの?」
「言っただろ」
「だめ、本当に、だめよ」
「自分でも分からないんだ。どうすればいいのか」彼は言った。少女は彼を見て、手を伸ばした。「可哀そうなフィル」彼女は言った。彼は彼女の腕を見たが、その腕に触れようとはしなかった。
作品は「THE SEA CHANGE」という、原書で5ページほどの短編で、日本語ではどういう題で訳されているかは知らない。「潮の変わり目」かもしれない。何ということもない若い男女の痴話喧嘩で始まる短編だが、その一方にとっては、まさに人生の潮の変わり目かもしれない或る出来事と、その周辺の日常的風景の対比の残酷さが面白い作品だ。
少し、内容を露骨に表しすぎる題名だが、「心の死刑宣告」という題名にしておく。「夏の終わり」というのも詩情があっていい。もちろん、「終わり」は季節の終わりだけではなく、別の何かの終わりも意味している。
「心の死刑宣告」
「分かったよ」
若者が言った。「それでどうだい」
「いやよ」少女が言った。「できないわ」
「やる気が無いってことだろ」
「できないって言ったの」少女は言った。「そう言ったじゃない」
「そりゃあ、やる気が無いって意味だろ」
「いいわ」少女は言った。「何とでも好きなように取ればいいわ」
「そういう問題じゃない。俺はそうしてほしいんだ」
「しつこいわよ」少女は言った。
朝の早い時間で、カフェの中にはバーテンと、隅のテーブルで向かい合っている若い二人以外には人がいなかった。今は夏の終わりで、その二人は日に焼けており、パリの街では場違いに見えた。少女はツィードのスーツを着て、肌はなめらかな金褐色をし、そのブロンドの髪は短くカットされ、額の周りを美しく飾っていた。若者は少女を見た。
「あの女、殺してやる」彼は言った。
「お願い、やめて」少女は言った。彼女の腕はほっそりとし、日に焼けて美しかった。彼はその腕を見た。
「やってやる。神に誓ってな」
「あなたが不幸になるだけよ」
「ほかにやりようがあるか?」
「何も思いつかないけど、本気なの?」
「言っただろ」
「だめ、本当に、だめよ」
「自分でも分からないんだ。どうすればいいのか」彼は言った。少女は彼を見て、手を伸ばした。「可哀そうなフィル」彼女は言った。彼は彼女の腕を見たが、その腕に触れようとはしなかった。
この書き方だと、石子順というのが「漫画における差別」問題に関して嘲笑の対象になっていると思われるが、どういうことなのか、調べようがないのでこちらの居心地が悪い。(自分と無関係でも、他人がほとんど知っていて自分が知らないのは居心地が悪いのだ。)そもそも、石子順と石子順造の違いが分からない。まあ、昔から名前は知っているが、たぶんどちらも漫画業界に関係の深い批評家か何かで、名前が似すぎていて区別がつかない。
近藤ようこさんがリツイート
(追記)気になって調べたが、特に嘲笑の対象となる言動があったようには見えない。むしろ、「はだしのゲン」を高く評価するなど、差別問題と真摯に向き合った人のように思えるが、上記の「笑い」の理由は何なのか。
石子順
石子 順(いしこ じゅん、1935年1月10日[1]- )は、日本の漫画評論家、映画評論家。本名は石河 糺(いしこ ただし)で、1960年代後半ごろから「石子順」のペンネームを使用する。
評論家の石子順造とは名前が似ている上に、主たる評論分野が同じ漫画及び映画であり、活動期間が1970年代において重なっていて、しかも両者ともに日本共産党との関係が深い(石子順造は離党している)ために混同されやすく、親子もしくは親戚とおもわれている場合もあるが全くの別人で血縁関係もない。
石子順造も石子順同様にペンネームであり、両者の年齢は7歳しか違わない。
来歴[編集]
京都府京都市生まれ。1961年、東洋大学文学部卒。1960年代から1970年代にかけての漫画評論草創期における活躍が特に知られる。当時PTAや教育委員会から「悪書」とされた漫画の地位および質的な向上に尽力し、また、政治的な問題で集英社が出版を躊躇していた週刊少年ジャンプ連載漫画「はだしのゲン」全4巻(当時)の刊行および一般への普及に大きな役割を果たす。『手塚治虫 漫画の奥義』などで、手塚治虫に対するインタビューの手腕でも評価が高い。
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冬山想南
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