彼が死鬼と呼ばれたのは、その恐るべき剣の腕のためでもあるが、最愛の娘を失ってからの彼の姿が、まさに背後に死を背負った鬼のように見えたからでもある。本来の名は「式平右衛門」と言う。
妻を失ったのが彼が三十の時で、娘を失ったのが四十五の時だった。それから十年以上、彼は死鬼として生きている。なぜ死なないのか。別に死ぬのが怖いわけではない。単に、自ら死を選ぶのは、何かに負けたような気がするからだ。それも彼の業だろう。彼は不敗の剣豪だったから、自分自身にすら負けるのは誇りが許さないのかもしれない。
白峰城の城下町の居酒屋で酒を飲み、酒が回ると安長屋の一間に帰って寝る。彼の十年はそれの繰り返しだった。時々、彼を倒して名を上げようという若い侍が彼に挑みかかるが、相手が手を出したその瞬間、彼の剣は相手の喉笛にピタリと当てられている。剣に相手の剣が触ったこともない。だから「音無しの剣」とも呼ばれていた。
出仕して城主に仕えたこともある。だが、彼を必要とする仕事は城の中には無かった。彼の剣の腕は彼の天才によるもので、他人に教授できるものではなかったからだ。
しかし、城主は彼の腕を惜しんで、終身扶持を彼に与えた。何もしなくていい。ただ、いざという時にその腕を貸してくれたらいい、と城主は言った。
妻を失ったのが彼が三十の時で、娘を失ったのが四十五の時だった。それから十年以上、彼は死鬼として生きている。なぜ死なないのか。別に死ぬのが怖いわけではない。単に、自ら死を選ぶのは、何かに負けたような気がするからだ。それも彼の業だろう。彼は不敗の剣豪だったから、自分自身にすら負けるのは誇りが許さないのかもしれない。
白峰城の城下町の居酒屋で酒を飲み、酒が回ると安長屋の一間に帰って寝る。彼の十年はそれの繰り返しだった。時々、彼を倒して名を上げようという若い侍が彼に挑みかかるが、相手が手を出したその瞬間、彼の剣は相手の喉笛にピタリと当てられている。剣に相手の剣が触ったこともない。だから「音無しの剣」とも呼ばれていた。
出仕して城主に仕えたこともある。だが、彼を必要とする仕事は城の中には無かった。彼の剣の腕は彼の天才によるもので、他人に教授できるものではなかったからだ。
しかし、城主は彼の腕を惜しんで、終身扶持を彼に与えた。何もしなくていい。ただ、いざという時にその腕を貸してくれたらいい、と城主は言った。
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