私は、現代を舞台にしたアクションものならリボルバーは不適切だと思っている。大型拳銃ならなおさらだ。携帯しにくく、所持がバレやすいし、抜く時に引っかかりが多すぎる(下の写真参照)からだ。下手をしたら、抜く瞬間に自分で引き金を引いて自分の手足や腹を撃ちかねないwww
まあ、映画なら見かけ見栄え中心だから多用されるのだろう。
なお、警官の拳銃両手持ちというのも、リボルバーだからこそだろう。それを、(フィクションでは)非リボルバー(オートマチック)でもやっているのは愚劣なのではないか。毎度言うが、両手持ちというのは、相手に自分の所在を知られていない、「敵地強襲」の侵入時の話に限定され、乱戦では、体全体を標的に向けないと撃てない(つまり、動作が遅れる)両手持ちは無意味有害であるはずだ。
(以下引用)
現在Netflixにて配信中の、鈴木亮平主演『シティーハンター』。原作の持ち味を現代風にアレンジし、誰がどう見ても『シティーハンター』としか言えない内容に仕上がっている作品だ。そんな本作にも、主人公である冴羽獠の愛銃、コルト・パイソンは登場している。
考えれば考えるほど、コルト・パイソンは冴羽獠という主人公の武器として完璧なチョイスである。ペルセウスにせよヤマトタケルにせよアーサー王にせよ、物語のヒーローは特別な武器を持たなければならないと相場が決まっている。その「特別な武器」として、パイソンほど条件を満たした拳銃はなかなか存在しない。
基本的にヒーローの武器は、誰でも簡単に手に入れられる粗悪なものであってはならない。入手するだけでエピソードが生まれるくらい手に入れることが難しく、高貴で精密、見た目も他とは異なるものでなければならない。天叢雲剣を手に入れるためには八岐大蛇を退治せねばならないし、普通の鎌ではメドゥーサの首を落とすことはできないのだ。
さらに言えば、ヒーローの武器は、他を圧倒する絶対的な威力を持っていなければならない。刀剣であれば切れ味鋭い業物である必要があるし、銃であるならば一発でターゲットを倒せなくてはならない。一撃必殺の説得力を持ち、もしも敵に向かって振るわれたならば必ず相手を倒すことのできる武器こそが、ヒーローには相応しい。
この条件をひっくり返すと、逆にリアルなテイストの作品が生まれることになる。『装甲騎兵ボトムズ』は主人公キリコがATをバンバン乗り捨てることで従来のロボットアニメとは一線を画するリアルさを演出していたし、『96時間』シリーズの主人公ブライアン・ミルズは「敵の銃を奪って撃つだけ撃ち、弾が切れたらすぐに捨てる」という撃ち方を繰り返すことで、銃にも敵にも興味がなく娘の救出を最優先するプロフェッショナルな雰囲気を醸し出していた。「ヒーローがヒーローらしい武器を使う」点を潔く捨てると、リアルでスパルタンで従来の枠組みに収まらない主人公像を提示できる。
だがしかし、『シティーハンター』はマンガである。リアルな銃撃戦ではなくコミカルなドタバタと大人なギャグとラブコメ要素と冴羽獠のカッコよさを堪能する作品であり、そのテイストはNetflix版でも強く意識されていた。銃撃戦はあくまでファンタジーとして演出され、生々しい流血や人体損壊もなく、冴羽獠が徹底してカッコよく敵をシバいていく。今となっては正直ちょっと恥ずかしい「発砲された銃弾がスローで飛んでいく演出」も堂々とやるし、冴羽獠たった一人で完全武装の敵を圧倒してしまう。「これは『ジョン・ウィック』ではなく『シティーハンター』なので、こういうテイストでいきます」というメッセージが伝わってくるアクションシーンは、この作品ならではだ。
リアルさをほとんど志向しないマンガ的な物語であるならば、やはり冴羽獠の武器は「ヒーローの武器」でなければならない。その点において、コルト・パイソンは様々な条件を満たしたうってつけの武器である。
まず、パイソンは高い。最上級のターゲットリボルバーを目指して設計された銃であり、製造において手作業で調整しなくてはならない部分が多い。初期のモデルは表面も美しいガンブルーで仕上げられており、トリガーの調整など内部に関しても入念に手が入っていたとされる。これらの特徴のため、生産コストは他社の同クラスのリボルバーと比べて高くなり、それは価格に反映された。さらに生産が進むにつれて仕上げも品質も下がっていったとされており、初期モデルこそ最高というプレミア性もある。そもそも手に入れにくい銃なのだ。
さらに、原作での冴羽獠のパイソンは、伝説のガンスミスである真柴憲一郎が調整したものであり、単なる量産品ではない。同じものがふたつとない武器であり、ここでまず「ヒーローの武器は、誰でも簡単に手に入れられるものであってはならない」というポイントを満たしている。
威力の点でも申し分ない。パイソンの弾薬は.357 S&W マグナム弾である。1935年に発表されたこの弾薬の名前は、酒の増量ボトルである「マグナム」に由来する。その名の通り、.357マグナムは従来の県縦断より薬莢を長く設計して火薬量を増やした弾薬で、自動車のドアや初期のボディアーマーのような障害物を貫通することができる拳銃弾として登場した。以来、「マグナム」の名は大口径・大威力なリボルバーの代名詞となっており、銃に詳しくなくても一撃必殺の強力な武器であることはイメージできる。「絶対的な威力を持っていなくてはならない」という条件も、これでクリアしている。
また、パイソンは見た目からして強そうであることが重要だ。機関部から突き出た銃身の上にはベンチレーテッドリブ、下にはフルレングスアンダーラグが取り付けられており、銃身自体がひとまわり太くゴツい印象になっている。機関部から銃身がひょろりと伸びている普通のリボルバーと比べると、巨大でいかつい雰囲気が漂っているのだ。これもまた、ヒーローの武器らしいポイントだと言えるだろう。
もうひとつ書いておくと、「リボルバーである」というのも大事な要素であるように思う。高威力で生産数の少ない自動拳銃もたくさんあるが、冴羽獠というヒーローの武器はリボルバーでなければならなかったのだ。それはおそらく、リボルバーという武器のイメージに原因がある。
我々日本人が実際に目にする機会が最も多い銃は、おそらく「お巡りさんが腰に吊っているリボルバー」だろう。警官が装備している銃であることから、リボルバーは「犯罪者に立ち向かうための武器」というイメージと密接に絡みついている。さらに西部劇での使用や、映画『ダーティハリー』でのM29(ハリーも警察官である)の発砲も、リボルバーの活躍シーンとして印象深いものだ。
これらの作品や実際の警察官の姿を通して、我々には「大型のリボルバー=正義の拳銃」というイメージが結びついている。そして自動拳銃には、このような善悪に関するイメージの結びつきはほとんどないように思うのだ。善玉的ムードが漂うリボルバーであり、そしてヒーローの武器として様々な条件を満たしているパイソンは、どう考えても『シティハンター』という作品の主人公が持つに相応しい武器である。
北条司先生が、どのような経緯を経て冴羽獠にパイソンを持たせようと思ったのかは、自分にはよくわかっていない(おそらくどこかにインタビューがあるのだろうと思うが……)。が、この拳銃を持たせることを決定したというだけで、北条先生のセンスの良さは伝わってくる。Netflix版でも、時間経過とともにだんだん冴羽獠に見えてくる鈴木亮平には、パイソンがよく似合っていた。このNetflix版を見て、改めて「冴羽獠とパイソン」は最高の組み合わせだな……と思わされたのであった。