第三十九章 イマジン
作者の願望充足的な、能天気そのもののこの物語に、前章のような場面が出てきたことに違和感を感じておられる方もおありだろうが、中世というのはそういう時代だったのである。最近の学者(御用学者ではないかと私は疑っているが)の中には、それに異論を唱える者もいるようだが、生産力の低い時代には、上位の階級が、下の人間の生産した物を奪い取って生活していたというのは、確固とした事実である。そして、その事は不正極まりない出来事であり、いつまでもそれを忘れるべきではない。なぜなら、権力の不正は、常に形を変えて繰り返され、これからも繰り返され続けるからである。プロローグに書いた内容からも想像できるように、作者の心には、幼児的な願望や動物的欲望ばかりではなく、権力の不正に対する怒りが常にあるのであり、それは多分、この物語を書いた一つの原動力でもあるのだ。その事とこの物語の内容が部分的に矛盾するように見えるかもしれない。しかし、確かに主人公は権力を得るが、それはその方が話が面白いからにすぎないのである。権力自体は正義でも悪でもなく、その正しい使用と不正な使用があるだけだ。
民衆の歴史は苦役と悲惨そのものであり、人類の大半が安楽な暮らしができるようになったのは、やっと前世紀後半くらいからのことにすぎない。それは、基本的には科学の発達と、それによる生産力の向上のためであり、政治や宗教のためではない。政治や宗教がちゃんとしていたら、人類はとっくにユートピアを実現していただろう。真の偉人は、生産力の向上に尽くした無数の無名の科学者や技術者であり、ナポレオンやアレクサンダーやシーザーではないのである。もちろん、政治の変革が民衆の生活向上を促したというのも正しいのであり、それはただ一つ、「民主主義」という思想によってである。つまり、科学や技術の発達は、生産力を向上させ、民主主義は、その正しい配分を促した。したがって、現在の人間は、ルソーをこそ自分たちの恩人と思わなければならないのだ。マルクスの誤りは、パイの配分にのみ目を引かれ、パイの総量を増やすことに目が行かなかったことにある。
政治の歴史や現代政治を冷静に眺めれば分かるように、政治は常に、政治によって利益を得ている一部の人間たち(「政治によって生きる人間」だ)、つまり、国王、貴族、政治家、官僚、ブルジョワジー(現代なら、企業経営者や重役)やその一族の利益に奉仕する事を第一義としており、一般民衆はそのおこぼれに与っているにすぎない。したがって、民衆にとって正しい政治のあり方は民主主義しかない、ということも分かるだろう。一部の保守思想家のように民主主義を批判し、愚弄する人々は、自分をエリートや貴族的人間だと勘違いしているか、食卓の傍の犬のように、権力におもねって食べ残しの骨を得ようとしている汚らしい連中であるが、その言説に迷わされる庶民も多い。民衆自身が民主主義を否定することほど、滑稽なことがあるだろうか。
ただし、どのような政治的手続きが民主主義かは大きな問題であって、選挙によって為政者を選び、それに自分たちを支配させる「代議制」は、選ばれた人間が公約を守らず、勝手に自分たちの判断で政治を決定していくならば、それは少しも国民の意思を反映していないわけで、真の民主主義からは遠いものである。「代議制」はどうしても、代議士の利益のための政治にしかならないのだから、真の民主主義は、すべての議題を民衆の投票で決定する直接民主制しかない。現在の代議制は、そこに至る過渡的段階と考えるべきだろう。直接民主制が実現するためには、もちろん、民衆の政治的判断力が高度に発達しなければならないわけで、現在の日本のように国民が政治的に無知な状況ではそれは不可能な話だが、国民に真の批判精神が根付けば、いつかは可能になるだろう。
ついでに言っておけば、日本の教育は、為政者(あるいは、政治的寄生虫ども)に都合がいいように、政治に無知な国民を作るのに大いに役立っているのであり、十二年から十六年もあの無意味な知識の詰め込み教育(特に、あの無味乾燥な「政治社会」や「日本史」!)を受けたら、現実への批判精神など、消えてしまうのは確実である。おそらく、日本の若者の中で、新聞を読む習慣のある人間は、一割か二割くらいのものだろう。まして、政治欄を読む人間など、一割もおるまい。まったく見事な公教育の成果である。
また。宗教は、確かにその存在によって人々に幻想的な慰安を与え、この世の苦しみを忘れさせるものではあるが、それによって現実への不満を忘れさせ、改革への意欲を失わせるものであり、マルクスの言うように、一種の阿片であることは確かだ。それに、歴史上、戦争に反対した宗教家がほとんどいないことからも分かるように、これも第一義的には為政者に奉仕するためのものか、あるいは宗教家たちの生計手段でしかない。スタンダールのジュリアン・ソレルが、「赤」か「黒」か、つまり、軍服を選ぼうか僧服をえらぼうかと迷ったのは、それがこの世での立身出世の手段だったからであった。
では、政治や宗教に代わる物が何かあるか、と言われれば、それは無い。と言うより、必要ないと言っておこう。ジョン・レノンの「イマジン」ではないが、遠い未来には宗教も国もなくなり、人間の自然な倫理(これは、おそらく、過度の欲望は幸福には結びつかないということが全人類の共通の理解となることから生まれる倫理である)が法律よりも上位に来て、人々が完全に自律的に行動して誤らない世界が来るだろう。これは確かに夢想だが、人類のすべての偉業は、たとえばライト兄弟の飛行機のように、最初はみな御伽話の類としか思われなかったのである。多くの人間が同じ夢を見るようになれば、この夢想も、やがて予見であったとされる日が来るかもしれない。
第四十章 物語論
さて、物語もお終いに近くなってきたので、このあたりで物語そのものについての筆者の考えをまとめておこう。これは、この物語がなぜ、あちこちに政治や倫理や人間性についてのお喋りがはさまるのかということについての言い訳でもある。
小説や物語を書く面白さは、基本的には、書くに従って、新しい世界が形成されていくことである。しかし、その世界は無から生じるものではなく、作者の世界観や社会認識の反映であり、フリードたちのこの物語も、自分の力一つで、つまり腕力で世の中を生きていく男たちの物語を書いてみたいという漠然とした考えで書き出したものだが、その中に社会批判めいたものが含まれてしまうのは、それはやはり作者がどうしても現実社会に対して無関心ではいられない人間だからである。それに、後で述べるように、物語の書き方には決まりは無く、小説は、作者の思想を述べる場でもあるからだ。
しかし、思想とか世界観と言っても実は大した物ではない。作者の興味の対象となるものが自ずと作品中に出てくるのであり、この作品なら、たとえば武器や女性などである。作者の中には幼児的な願望や好みがあり、それが剣やピストルなどの武器への偏愛である。筆者は、金物屋へ行くとナイフ売り場につい立ち止まってしまう人間である。いや、包丁でも金槌でもバールでも、武器になるものならなんでも好きだ。これは男の原始的本能だろう。だからといってそういう物を無闇に振り回したりはしないが。
本当なら、現実の人生で出会う厭な人間どもを剣で斬り、ピストルで撃ってみたいのだが、それをすると刑務所行きであるから、現実の生活ではストレスが溜まる。そこで、剣で斬ることの快感を、たとえ紙の上、空想の上だけでも味わいたいから、こうした物語を書くのであり、その事自体は幼稚だとも恥ずかしい事だとも筆者は思わない。「千一夜物語」などに見られるような、こうした願望充足こそが物語の原点だろう。興味のあり方が違うと言えばそれまでだが、その点、純文学の作品など、書く事に何の意味があるのやら、さっぱりわからない。多くの純文学の作品は、上手くてケチのつけようは無いとは思うが、読んでいてちっとも楽しくも面白くもないのだから、書いている本人も本当は楽しくはないだろう。物語は、書いている本人が楽しいというのが一番の書く目的ではないのだろうか。そして、書く楽しさは、内容が願望充足的であるということと、書くに連れて世界が作られていく事による、というのは先に書いた通りだ。そのためには、綿密な構想に従って書いてはいけないのではないか。フイールディングの「トム・ジョウンズ」は、私のもっとも好きな作品の一つだが、作者のフイールディングは、あの作品を綿密な構想のもとに書いていったとは思わない。大体の筋だけ決めて、後は出たとこ任せで書いていったのだろうと思っている。その方が楽しいに決まっているのだから。
もっとも、ポオのように、物語は後ろから書くべきだと主張する者もいる。つまり、全体の構想を綿密に立ててからでないと、書くべきではない、ということだ。彼の見事な作品は確かにそうした考えの結果だろうが、そのために作品に一種の息苦しさがあるのも否定できないのではないだろうか。一部のファルスや「黄金虫」だけは、開放感があるが、それはポオ自身が、「前から」書いていったからだと思われる。ポオに限らず、多くの推理小説にはこの種の息苦しさがあり、筆者などには、読む気を起こさせないのである。筆者がこの物語を書いたもう一つの動機は、そうした世上の「完璧な」小説やら文学やらへの批判もある。筆者自身はスターンの「トリストラム・シャンデー」は読み通してはいないが、その物語思想には大いに共鳴する。小説は、そのように気楽で楽しいものであるべきだと思っている。
さて、脇道が二章も続いて、フリードたちの物語の方が、いつのまにやらどこかへ行ってしまった。もともと、筋など考えてもいない物語ではあるが、これではエッセイなのか物語なのか分からない。まあ、そのどっちでもあると思って貰いたい。もともと小説の書き方には決まりなどない、作者が思うように書けばいいのだ、とフイールディングも宣言しているのである。物語にすら規範を求める、お堅い人間の目からは、このような物語は、小説とも言えない下らぬ作品としか見られないだろうが、小説は、作者とのお喋りである、というのが、筆者の基本的な考えである。そして、それならば、小説においては、細部に面白さがあれば十分であって、ストーリーというものは、実はそう思われているほど大きな意味は持たないのではないか、と考えてもいるのである。いや、そうではない、キャラクターの造形、背景描写、心理描写、堅牢なストーリー展開、といったものがなければ小説ではない、という人間がいても勿論いいが、いや、それがおそらく小説読みの大半だろうが、そうではない人間もいるはずだ。作者の私自身が読みたいのも、夏目漱石の「猫」や、フイールディングの「トム・ジョウンズ」のような小説である。あの、気楽な、自由な、作者とお喋りする雰囲気こそ、小説を読む楽しさであると筆者には思われる。だから、そういう作品を筆者も書きたいのである。それに、ストーリーは、読めばそれで終わりだが、作者の思想は、もしも読者がそれに共鳴するならば、読者の心に長く続く影響を残す。それも小説の大きな意義ではないだろうか。
物語も終盤近くなって、このような駄弁もどうかとは思うが、これが多分最後の駄弁なので、お許し願いたい。
第三十七章 冬の夜
冬が来た。雪の降り積もった山はひっそりと静かだったが、フリードとミルドレッドの山の家には大きな石造りの暖炉があり、秋の間に蓄えた豊富な薪と食糧で、長い冬も安楽に過ごせそうであった。
さすがのジグムントも、人恋しさのためにフリードの家に来て過ごす事が多くなり、今では彼の家に泊まる事の方が多かった。
周りが雪に閉ざされた冬の間は、する事もほとんど無い。フリードは、木を削って弓矢を作ったり、家の内部の様々な調度を作ったりする事で日々を過ごしていた。そして、ミルドレッドは、やがて生まれる子の肌着を縫い、着物を作る。
単調だが、退屈ではない。人間の暮らしとは、もともとそういうものだ。
昼の間はまだ、屋根の雪下ろしなどのために外に出ることもあるが、夜には炉辺で話をしたり、居眠りなどをしたりするだけだ。
ジグムントは、暖炉の前で手足をあぶりながら、フリードたちと別れてからの話をした。
フリードから、エルマニアの郡の一つの領主となるように言われて、それを断ったジグムントは、一人でふらりと旅に出た。いや、一人ではなく、従者を一人連れていた。例の、人参小僧ティモシーである。
最初は、物珍しさから、未知のエルマニア国のあちこちを旅して回ったが、やがて故郷が懐かしくなり、彼はフランシアに戻った。
そこで聞いた話は、思いがけないものだった。
あの、皇太子妃のマリアが王妃になったという話である。国王のマルタンが死んで皇太子が即位したわけではない。息子の嫁に欲情した国王マルタンが、マリアを奪って自分の物にしたのである。例によって人にノーと言えない性格のマリアは、それに素直に従ったのだろうが、皇太子は、いい面の皮である。前の王妃は、離婚こそされないものの、遠くの離宮にほとんど幽閉状態にある、ということで、まったく美貌というものは罪作りなものである。
国王の義父となったアキムは、大変な権力者となり、今では財務大臣となってフランシアの国家財政のすべてを管理していた。
ジグムントと久し振りに再会したアキムは、大喜びをして、彼にフランシア宮廷の廷臣となる事を勧めたが、彼はそれを断った。陰謀だらけで、油断も隙もならない宮廷で生きることなど真っ平だったからだ。
彼は里心のついたティモシーをパーリャに残し、一人で再び放浪の旅に出た。その間、様々な冒険もあったが、やがて体の衰えを感じ、人生最後の日々をひっそりと暮らそうと、この住み慣れた山小屋に戻ってきた、というのがジグムントの話であった。
「そうそう、そう言えば、アキムには妾がいたぞ。今では、正妻のサラよりよほど威張っておった」
ジグムントの言葉に、フリードは答えた。
「まあ、大臣ともなれば珍しい事ではないでしょうな」
「それが、あのシモーヌじゃ」
「シモーヌ?」
「ほれ、わしとお前が最初にアキムの家に行った時、美人の女中がいたじゃろう。あの女中のシモーヌじゃよ」
「ああ、思い出しました」
フリードの心に、あの、つんと澄ました、きれいな顔をしたシモーヌの顔が思い浮かんだ。実は、彼女を見た時、フリードの心には、彼女の体を得たいという欲望が生じていたのだが、家の主人への遠慮と、田舎者の気後れのために何も出来なかったのであった。今の自分なら、さっさと手に入れていたものを。
そうしたフリードの心を見透かしたように、ミルドレッドが口を挟んだ。
「あんた、そのシモーヌって子に惚れていたんでしょう」
妻の勘の良さに、フリードはびくっとした。こいつ、魔女ではないだろうな。
「ま、まさか」
「ふん、どうだか。男なんて、みんな同じよ。少しきれいな子を見るとすぐに鼻の下を伸ばすんだから」
「はっはっはっ。まあ、許してやれ。あの頃はこいつも純情で、あの美人の女中に手は出さなかったのじゃから。もっとも、あの女は澄ました顔に似ず、好き者で、わしとは寝ておるのじゃよ。だから、アキムの前で、妾になったあの女と顔を合わせるのは、何とも面映いものじゃったわい」
フリードはあきれて、この、手の早い老人の顔を見つめた。
長い冬の夜はしんしんと更けていく。
暖炉の灰の中で焼き栗のはぜる音がする。
窓の外では時折ごうっと強い風の音がするが、室内は火に照らされ、平和で暖かだ。
こうして、時間はゆっくりと過ぎていくのであった。
第三十八章 春と死体
やがて春になった。
雪解け水が、割れた雪の間を流れ、黒い湿った土があちこちに姿を現し、草や木の緑の芽生えが伸び始めた。
太陽の光も輝きを増し、風に春の匂いが漂いだしている。つまり、草木と土の匂いである。太陽の匂いさえもするようだ。
ミルドレッドのお腹はずいぶんと大きくなっていたが、出産にはまだ間がありそうである。
フリードは、ミルドレッドが欲しがっている台所の品物を手に入れるために、山を下りて近くの村へ行ってみることにした。
ある村の近くまで来た時、フリードは異様な気配を感じた。この季節の村は、春の農耕の準備で活気に溢れているはずだのに、村の近辺がひっそりと静まり返っているのである。
村に入ったフリードは、そこである物を目撃して、思わず顔をそむけた。
道端の、露出した黒土の間に転がっているのは、腐乱した人間の死体であった。
よく見ると、あちこちに人間の白骨が転がっている。しかし、そのほとんどは、手足や頭部がばらばらになった物である。肉がついて腐乱したものは、最初に見た一体だけだ。
フリードは、事情を理解した。つまり、この村は、飢饉のために同じ村の人間同士が食い合ったのである。
フリードは幾つかの家に入って、どこにも食糧がひとかけらも無い事を確認し、自分の想像が誤っていない事を確信した。家の中にも、白骨死体があちこちにあった。その多くは子供や幼児の白骨である。まず子供や幼児が食われ、最後に大人たちが食い合ったのだろう。
フリードは、小さな子供の白骨を見下ろして眉根を曇らせた。
この子供たちは、何のためにこの世に生まれてきたのだろうか。この世に生まれることに何の意味があったというのだろうか。彼らがこんな目に遭わねばならないどんな理由があるというのか。神は、こういうことをお許しになるのだろうか。
フリードはもともとあまり信心深い人間でもなかったが、この当時の人間の常として、神の存在自体は疑った事はなかった。
しかし、目の前の光景は、もしも神がこの世界を作ったのなら、その神は人間の理解する善や悪とは無縁の、非人格的な存在でしかないだろうと思わせるものだった。
このような事をフリードは概念的に思考したわけではなく、ただ漠然と考えただけであったが、神への疑いの気持ちが生じたことは確かであった。また、神の宣伝者である、僧侶たちへの疑いも彼の中に生じた。確かに、僧侶たちの中には善人も多く、人々への施しをすることもある。しかし、彼らに十分の一税を納めるために人々が苦しんでいる事を考えれば、雀の涙ほどの施しなど、何の意味も持たないだろう。彼らは貴族と同じ特権階級であり、この世の寄生者である。
彼自身、国王として人々を苦しめていたのではないかと考えると、フリードは目の前の子供の白骨が、自分のせいであるような気持ちになった。
この世は、神が作った世界かもしれない。それは確かめようのないことだ。しかし、この世はこのような悪と悲惨に満ちている。それを変えられるのは、神ではなく、人間である自分たちだけだ。神はこの世のことに関与しないのだ。
フリードは、重苦しい気持ちを抱いて山の家に戻って行った。
第三十五章 街道
フリードは、次の日、引き連れてきた軍隊を部下の一人に預け、自分はミルドレッドとともに馬でライオネルの屋敷を離れた。
軍隊と一緒でさえなければ、現国王ケスタの追跡をかわすのは難しいことではない。フリードはまず、南東のローラン国の方に向かった。国境を越えれば、ケスタの追っ手に捕まることはないだろう。
フリードの心は軽かった。まるで、これまでの国王としての生活が、籠の中の鳥の生活ででもあったかのようである。あの、無為の日々の安楽と退屈は、もはや彼方にある。
フリードは、傍らで馬を走らせるミルドレッドを見やって微笑んだ。ミルドレッドも笑顔を返す。
青空の下を、そして星空の下を二人は走った。
爽やかな風の吹く夏である。
「これで、元通り。まったくの素寒貧から出直しだ」
フリードが言うと、ミルドレッドは答えた。
「それは違うよ、フリード。あんたが旅に出たときには一人だった。今は私がいる。それがあんたの財産さ」
「そうだな。素晴らしい財産だ。俺はそういう財産をずっと忘れていた。馬鹿だったよ」
宿屋など滅多に出会うこともないから、夜には野宿をする。寝る前には、もちろん心行くまで交合する。男と女の体が一つになる時の、この安らぎは、快感以上に貴重に思われる。近くで野獣がうろついていようが、剣の達人の二人には、怖くもなんともない。
これこそ、自分の求めていた生活だったのだ、と今ではフリードは考えていた。
だが、ローラン国を放浪して二月ほど過ぎた頃、ミルドレッドは体の変調を来し始めた。
妊娠である。
彼女の腹に子供が出来た事を知ったフリードは、馬を走らせる事をやめ、歩ませるだけにするようにした。
どこかに定住して、彼女に無事に子供を産ませようと考えた時、フリードが思い出したのは、ジグムントの山小屋であった。
ちょうど、今いる所からその山小屋までは、そう遠くはない。彼はそこに向かうことにした。
道々、強盗や追い剥ぎに何度か出会ったが、相手が何人いようが、フリードとミルドレッドの敵ではない。なるべく、ミルドレッドに負担をかけないように、フリードは、ほとんど一人で戦ったが、危なくなるとミルドレッドが手助けしたのはもちろんである。
そうした追い剥ぎや盗賊から逆に奪い取った金や武器が二人の旅の資金になった。なにしろ、街道や野山で出遭う人間の二人に一人は盗賊であるという時代である。獲物の山賊盗賊には事欠かない。彼らが歩いた道の後は、山賊盗賊がきれいに掃除されてしまったわけであった。
やがて、二人は山に入り、フリードがジグムントと出会ったあの山小屋に辿り着いた。
第三十六章 山小屋
フリードたちが山小屋に着いた時は、夕方になっていた。なだらかではあるが、木が鬱蒼と茂り、馬に乗っては歩きにくい山道を徒歩で歩いてきて、フリードとミルドレッドはかなり疲れていた。
山の谷間の、谷川に面した岸辺に山小屋が見えた時、フリードは不思議な感覚を感じた。まるで、四年前に戻ったみたいである。
小屋には、明かりがついていたのであった。
もしかしたら、この四年間の事はすべて夢で、今の自分は、役人を殺してムルドの村から逃げてきたばかりではないだろうか、とフリードはふと思ったが、後ろを振り返ると、そこにはちゃんとミルドレッドと二頭の馬がいた。
「誰かいるらしい」
「ジグムントかしら」
「まさか!」
フリードは小屋の戸を叩いた。
「どなたじゃな」
中からしわがれた老人臭い声が聞こえた。
フリードとミルドレッドは、顔を見合わせた。まさか、本当にジグムントではないだろうか。
「旅の者です。一晩泊めていただきたいのですが」
「旅の者だと? 盗賊ではないだろうな。ならば、ここには何も取る物はないぞ」
フリードは、中の人間がジグムントである事を確信した。
「ジグムント! 僕です。フリードです。ミルドレッドもここにいます」
「フリードじゃと? まさか……」
戸が開いた。
中から顔を出したのは、紛れも無くジグムントだった。しかし、この三年の間に髪はすっかり真っ白になり、体も一回り小さくなったようである。
「おやおや、これは本当にフリードじゃわい。それに、ミルドレッド、相変わらず美しいのう。さあ、中に入るがよい」
ジグムントは二人を室内に招き入れた。
「一体、どういう風の吹き回しじゃ。エルマニア国の国王や、領主様が、こんな山小屋を訪れるとは」
ジグムントは懐かしそうに二人を見ながら言った。
フリードは、自分がエルマニア国を追われた事、ライオネルが死んだ事を話した。
「では、お前さんは振り出しに戻ったわけじゃな。いやはや、世の中というものは面白いものじゃ。いや、面白いと言っては、ミルドレッドには済まないな。何しろ、亭主が死んだばかりじゃからな。しかし、どうやら、お前さんたち、只の仲じゃないな」
二人は顔を赤らめた。
「実は……」
フリードは、ライオネルからミルドレッドを託された事を話した。
「何とまあ、亭主直々の譲渡とはな。もともとお主たちが好き合っていたのは誰もが皆分かっていた事じゃから、ライオネルもお主に女房を譲ったんじゃろう。……しかし、あのミルドレッドが母になるとはな。いいじゃろう。ここでゆっくり過ごすがいい。しかし、わしの目の前で乳繰り合われるのはかなわんから、まぐわいたいときは、そのへんの野原に隠れてやってくれ」
フリードは、ジグムントに感謝の言葉を述べた。
翌日から、フリードはジグムントの小屋の側に、新しい山小屋を作る作業を始めた。なにしろ、ジグムントの小屋は三人で暮らすには狭かったからである。
近くの林の木を切り倒し、枝を払って木材を作る。ジグムントやミルドレッドの手はわずらわせず、ほとんどフリードはそれらの作業を一人でやった。もともと狩人のフリードには、山小屋作りは慣れた作業である。
こうして体を動かして物を作っていると、フリードの体の中には不思議な喜びが沸き起こってきた。それは、一つには、この作業が、やがて生まれる自分たちの子供のための作業でもあったからだろう。
木を切り倒すのにはジグムントの斧を借りたが、枝を払ったり、木の表面を削ったりするのには、剣を使う。あの、アキムに貰った高価な剣である。人を殺す為に作られた名剣も、自分がこのような平和な利用のされ方をする日が来るとは夢にも思わなかっただろう。
ミルドレッドは、嬉々として主婦の仕事をやっていた。放っておくといつまでも同じ物を着ている不潔な男たちの衣類を強引に脱がせ、川で洗濯する。破れた衣服は糸で繕う。
ジグムントには、まるで只働きの使用人が二人もできたようなものである。孤独を慰める話し相手もでき、彼はまったく幸福な老人となった。
秋になると、三人は冬籠りの支度を始めた。
木の実や草の実で、食用になり、保存の利く物を集め、フリードは得意の弓で、冬眠前の肥え太った動物たちを射る。狩った獲物は、皮を剥ぎ、肉は燻製にして地下の貯蔵室に格納する。
そして、秋が終わる頃、フリードとミルドレッドの家が完成した。
木造二階建て、5LDKという豪華な家である。ただし、そのうち二部屋は馬小屋と鳥小屋だったが、いずれにしても、一生働いても安っぽいマンション一つ買えない現代日本のサラリーマンから見れば、羨ましい話である。なにしろ、いつでも好きな場所に、好きな家を勝手に建てていいのだから。そう考えると、現代は昔より進歩しているのか、退歩しているのかよく分からない。
ミルドレッドは、もちろん、完成した自分の家に大喜びである。二人が新居に移った後、ジグムントも新しい家に同居するように勧められたが、この頑固な老人は意固地に古い小さな自分の山小屋に住み続けたのであった。
第三十三章 ライオネルの遺した物
ビンデン郡に入ったフリードは、領主の館を訪ねた。ライオネルとミルドレッドの住んでいる館である。二千人の軍隊を見たビンデン郡の兵士たちは慌てふためいたが、国王の巡幸であると思って、フリードを恭しく迎えた。ここには、まだケスタの謀反の噂は届いていないらしい。
久し振りに見る赤毛のミルドレッドは、以前と変わらず逞しく美しかったが、ライオネルの方は病床に臥せっているということであった。
「病気の具合はどうだ?」
尋ねるフリードに、ミルドレッドは首を横に振った。
「いけないのか?」
「医者の話では、あと数日の命だとか」
「わしが会っていいものだろうか」
「是非、会ってやってください。きっと喜ぶでしょう」
フリードは寝室に入って、寝台に寝ているライオネルを見た。
室内は暗かったが、窓から入る光に照らし出されたライオネルの寝姿は、どことなく神々しい雰囲気がある。
彼は目を開けて、フリードを見た。そして、にっこり微笑んだ。
「国王陛下! わざわざ見舞いに来てくださったのですか?」
フリードは心に恥ずかしく思った。
「いや、済まぬ。お前が病気だということさえ知らなかったのだ。こんなことなら、もっと早く来るのであった。いい医者に見せたものを」
「いやいや、最後にお目にかかれてよかったです。あなたと出会ったおかげで、楽しい日々を送ることができました。もう、思い残すことはありません。ただ一つ、ミルドレッドとの間に子供ができなかった事を除いては。あいつも子供は欲しがっていたのですが。……そうだ!」
ライオネルは、何かを思いついたように、目を輝かせた。
「陛下、恐れ多い事ですが、どうかミルドレッドとの間に子供を作っていただけないでしょうか」
「な、何を馬鹿な事を!」
「陛下がお厭でなければ、私が死んだ後、ミルドレッドの事を頼みたいのです。どうせ、私が死ねば、心細い女の身、誰か他の男の物となって、この領地も財産もすべて失ってしまうでしょう。どうか、陛下があいつを引き受けてください」
フリードは、彼の言葉が、実は以前からミルドレッドに気があった自分の事を見抜いてのことだと分かった。
「お前がそう言うのなら、引き受けよう。もしも男が生まれたらライオネルと名づけよう」
フリードの言葉に、ライオネルは、頷いて、目を閉じた。
「どうか、ミルドレッドを呼んでください。この話をしておきましょう」
寝室から出たフリードは、ミルドレッドに、中に入るように告げた。
しばらくして部屋から出てきたミルドレッドは、何ともいいようのない泣き笑いのような顔をしていた。
「何て馬鹿な、何て優しい男だろう! 自分が今にも死のうとしている時に、他人の事しか考えていないなんて」
フリードは、彼女にどういう顔を向ければいいのか分からなかった。
「私があんたに惚れていた事を、あの人はずっと知っていたんだよ。でも、本当に馬鹿だよねえ」
ミルドレッドは、涙のにじんだ顔をまっすぐにフリードに向けた。
「で、あんた、……陛下なんて言わないよ。女にとっては男はみんなただの男だからね……あんたは私の事をどう思ってるのさ。ライオネルの言う通りにしてもいいのかい?」
「ああ、そうしたい。ずっとあんたが好きだったんだ」
「ならば、もっと早く言えばよかったのに!」
ミルドレッドは、顔をフリードの胸に埋めた。
その顔を持ち上げて、フリードは彼女に接吻した。その接吻は、甘く、官能的であり、彼女の唇や舌は思ったより小さく可憐で、柔らかであった。
第三十四章 死者のベッドも楽し
その晩、ライオネルは静かに息を引き取った。
翌日、葬儀の後で、フリードは、ミルドレッドに、今の自分は国王の座を追われた身であることを打ち明けた。
「で、あんたはどうしたいのさ。ケスタの軍と戦って国王の座に返り咲きたいのかい。それとも、何かやりたい事でもあるのかい」
ミルドレッドにそう言われて、フリードは考え込んだ。果たして、自分は国王の座に戻りたいのだろうか。
「もしも、国王の座に返り咲きたいのなら、昔の仲間に連絡すれば、一緒に立ち上がってくれると思うよ。でも、本当にそうしたいのかい?」
「いや、そうでもない」
フリードは煮え切らない答えをした。
「ケスタが私を追討する軍を出している以上、それに追いつかれたら戦わざるを得ないが、あまり戦いたくはない。無駄な犠牲を出したくないのだ。それに、国王の座にも大して未練はない」
ミルドレッドは微笑んで頷いた。
「そうさ。国王なんて、国王になりたい奴がやればいいんだ。あんたや私のような人間は、宮廷の中に収まっているより、自由に生きているほうが、よっぽど楽しいはずさ。ライオネルには悪いけど、私はこの領地も財産も捨ててもいいんだ。さあ、あんたと私の新しい生活を祝って、ひとつやろうじゃないか」
「何をだ?」
「決まってるよ」
ミルドレッドは、フリードに接吻し、彼の股間の物をぎゅっと握って言った。
「もう私の物は濡れっぱなしだよ」
昨日までライオネルが寝ていた寝台に、二人は縺れて倒れこみ、素っ裸になった。
裸になったミルドレッドの体は思ったより細身で締まっており、美しかった。
フリードはそのミルドレッドと心行くまで交わり、この数日の心労を忘れたのであった。
第三十一章 有為転変
それから三年が経った。今では、エルマニア国の政治の実権はローラン国から連れてきた宰相のケスタが一手に握っていた。最初の王妃であったジャンヌは、第二夫人のマリカの策謀で毒殺され、今はマリカが第一王妃となっていた。
年を取って容色の衰えたカーミラはフリードの寵を失い、アリーは存在を忘れられた。何しろ、フリードの後宮には、前国王の時代に国中から集められた選りすぐりの美女が百人近くいたからである。フリードの仕事は毎日毎晩違う女と寝ることだけであり、これはケスタの思う壺だった。
そして、エルマニア国の人々は重税と苦役にあえいでいた。
かつて自分たちが苦しめられた事を、今は自分が原因となってしていることに、フリードは気づいていなかった。それほどに国王の暮らしは安逸に満ちていたからである。
ある日、宰相のケスタが報告をした。
「フリード様の弟御のヴァジル様が殺されました」
フリードは顔色を変えた。
ヴァジルはフリードの後のローラン国王となっていたのである。
フリードは気持ちを落ち着けて、強いて冷静に聞いた。
「どういう事情だ?」
「お后の密通相手の大臣に殺されたようです」
「そいつの名は?」
「エドモンとかいう男です」
「よし、すぐにそのエドモンを討伐に行くぞ」
「それはおやめになったほうが」
「何故だ?」
「ヴァジル様の悪政のために、国民はヴァジル様を恨んでおりました。エドモンはまるでシーザーを殺したプルータスのように、ヴァジル様の悪政を殺害の理由とし、国民の人気と支持を得ています。しかし、どうしても討伐に行かれるなら、軍勢は二千人までに願います。なにしろ、国家財政が不如意なもので」
「そうなのか?」
「はい。今年は不作のため、税収が少のうございます」
「そうか。なら、二千人の軍勢で行こう」
三年間の殿様暮らしですっかり頭の鈍ったフリードは、ケスタの言う通り、僅か二千の軍勢だけを引き連れて出陣した。
彼がローラン国との国境近くまで来た時、ケスタが即位し、新国王となったという噂が流れて来た。
フリードは呆然となった。
しかも、ケスタはフリードを追討するために二万の軍勢を差し向けたということである。
ケスタが自分に二千の軍隊しか与えなかったのはこのためか、とフリードは地団駄を踏んで悔しがったが、後の祭りである。
フリードはローラン国との戦争をあきらめ、古馴染みのライオネルの治めるビンデン郡に向かった。
第三十二章 二つの愛
どうも言い訳ばかり多くて申し訳ないが、前章で作者がジャンヌを殺してしまったことについて一言言っておこう。
「王冠を戴く頭に眠りなし」とかいう意味の言葉をシェークスピアが言っているが、国王と同様に、王妃の座も危険極まりないものなのである。いや、王妃の権力は自分の力ではなく、国王に依存した力であるから、その危険性はいっそう大きい。国王の寵愛が冷めれば王妃の座を追放され、あるいは殺されてしまうことは珍しくない。
それよりも危険なのは、他の国王夫人、側室らの策謀、暗殺である。特に皇太子継承問題が絡むと、血で血を洗う抗争になることも珍しくない。国王夫人というものは、我が子を次期国王にするためなら、現国王、つまり自分の夫を暗殺することも厭わないのが普通である。なぜなら、女にも権力欲はあるが、国王を支配するのは難しい。しかし、我が子を通してなら自在に権力を行使できるからだ。ライバルである他の夫人たちやその子供の命を奪うことなど、ありふれすぎていて歴史の本に書く価値さえないくらいである。もちろん、正夫人が側室への寵を妬んで側室を殺した話も珍しくない。中国では、嫉妬のあまり、前国王の愛妾の手足を斬り、便所の汚物槽に住まわせて「人豚」と呼んで笑い物にしたというすさまじい話もある。(頭でしか物事を考えない現代の人間には、そのすさまじさをイメージすることも難しいだろうが、たまには、自分をその状態に置いて想像してみるが良い)
ジャンヌの死について、フリードもマリカの手によるものではないかと疑わないでもなかったが、その頃にはフリードのジャンヌへの愛も冷め、無関心になっていたので、深い追求はしなかったのであった。人間の恋愛感情など、そんなものである。強い恋愛感情というものも、相手との肉体関係が出来るまでの話であり、もしも恋愛感情を永続させたいなら、恋愛が成就したその瞬間に死ぬしかない。いや、成就する直前で死ぬのがベストだろう。多くの結婚生活では、結婚とともに、恋愛感情は無くなり、もっと穏やかな夫婦愛に移行していくのが普通である。特に女性の中には、それを不満に思い、もっとドラマチックで刺激的な不倫に走る向きも多いようだが、性愛などというものの刺激は、短期間しか続かないものであり、次から次へと相手を変える以外には、刺激を維持する手段はない。それによって傷つけられる人間関係の被害の大きさを考えれば、不倫は「やむなく」するものであり、自分から求めてするものではない。(旧約聖書の雅歌に曰く、「愛の自ずから起こるまでは、呼び、かつ覚ますことなかれ」と。)
夫婦の愛は、肉体関係とは別の愛情であり、子供への愛と同じような家族愛である。家族への愛は、しばしば、自分自身への愛以上に強いものであり、多くの家庭の父親のように、家族のためにはどのような自己犠牲も厭わない人間も多い。しかも、恋愛は相手への幻想の上に成り立つものであるのに対し、家族愛は、相手の長所も欠点もありのままに見た上で愛する愛である。恋愛がロマン主義的、幻想的愛なら、これは自然主義、リアリズムの愛だ。もっとも、幻想は現実以上に力強いもので、美的観点からは価値がある場合も無いではない。
こんなお喋りばかりしていると、話の方がおろそかになるが、フリードの栄達は行き着くところまで行き着いており、普通なら、後は没落を語るしかない。話がそのように進みそうなので、作者としてもこの後は、実はあまり書くのに気乗りはしないのだ。
だが、人間の上昇は、物質的、社会的なものばかりとは限らない。ジャン・ヴァルジャンのように、悲惨の中に死にながらも、精神的な栄光に包まれるというエンディングも考えられるし、マルキ・ド・サドの「呪縛の塔」の主人公ロドリグのように、神との壮大な対決をする、という手もある。まあ、多分、そのどちらにもなりそうもないが、フリードが風に乗ってこのままどこまでも飛んで行くのか、それとも風に吹き落とされるのか、もう少し見守っていただきたい。