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そのドワーフは半年近くこの居酒屋で踊った。ここは彼が踊るのを観る客で溢れかえった。そして彼が踊るのを見た客たちは限りない喜びに浸るか、限りない悲しみに打ちのめされた。まもなく、そのドワーフはダンスのステップを変えるだけで人々の感情を自由に操る力を持つようになった。

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老人は、そのドワーフがいかにして北の国から無一文でここまでやってきたか、話し続けた。彼は、製象工場の工員たちが集まるこの居酒屋に居場所を得て、つまらない仕事をやっていたが、それも、マネージャーが彼が素晴らしいダンサーだと知って、彼をフルタイムのダンサーとして雇うまでだった。工員たちは女性のダンサーを期待していたので最初はぶつぶつ文句を言ったが、それほど長いことではなかった。飲み物を手にして彼らはまさに催眠術にかかったように彼のダンスを見た。そして彼は他の誰でもできないようなダンスを踊った。彼は見ている連中から、それまで彼らが感じたこともなく、自分がそういう感情を持っていると知りもしなかったような感情を引き出した。彼は彼らのそうした感情を、まるで魚の腸を引き出すように白日のもとに裸にした。
「じゃあ、もう一杯俺のぶんの酒を注文してくれ。別のブースに行こう」
私はMecatolを2杯注文して、バーテンダーから離れたブースまで運んだ。その席のテーブルには象の形のシェイドの付いた緑色のランプがあった。
「あれは革命前のことだ」老人は言った。「そのドワーフは北の国から来た。何て素晴らしいダンサーだったことか! いや、単にダンスが上手だったんじゃない。彼はダンスそのものだった。誰も彼の域に達することはできん。風と光と匂いと影。それらが彼の中で爆発した。あのドワーフにはそれができた。たいした見ものだった」
彼のグラスが、そのわずかに残っている歯に当たって軽い音をたてた。
「あなたは実際に彼が踊るのを見たんですね」私は尋ねた。
「見たかだって?」老人はその両手の指をテーブルの上に広げて言った。「もちろん見たさ。毎日、ここでな」
「ここで?」
「聞こえただろ? ここでさ。彼は毎日ここで踊っていた。革命前にな」









「踊るドワーフだと?」彼は言った。「君は踊るドワーフのことを聞きたいのか?」
「ええ、聞きたいです」
彼の目が私の目をまっすぐに睨んだ。「一体全体、何のためにだ?」彼は尋ねた。
「さあ、何でかな」私は嘘をついた。「誰かが私にその話をしたんです。面白そうに聞こえたので」
彼は私を厳しい目で見続けたが、その目は酔っ払い特有のどんよりした目になっていった。「いいだろう」彼は言った。「よくないわけはない。あんたは俺に酒を奢ったし。だが、ひとつだけ」彼は指先を私に突き付けて言った。「誰にも言うな。革命はずっと昔の地獄だが、今でも踊るドワーフの話はしちゃいけねえ。だから、俺が言うことは何であれ、お前さんの胸ひとつに納めておくんだ。そして、俺の名前をよそで出すな。いいか?」
「わかった」
「本物の古い写真に見えるね」私は彼の興味を惹こうとして言った。
「革命前は」と彼は事実を述べる口調で言った。「私のような年寄りでも小僧だったのさ。だが、誰でも年を取る。あんたもすぐに私のようになるさ。待っててみな、坊や」
彼は大口を開いて笑った。唾が飛び、歯が半分失われた口の中が見えた。
それから彼は革命の話を始めた。明らかに彼は王も革命軍も嫌っていた。私は彼の喋るままにさせ、Mecatolをもう一杯彼に奢った。そして、タイミングを見計らって、彼はもしかして踊るドワーフのことを知らないかと聞いた。

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