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  山並みの続くハイウェイ。夕暮れ時。一台のジャガーを囲むように走る数台のオートバイ。オートバイには、みるからに暴走族風の若者達。オートバイの若者たちは、のんびりと走らせているジャガーのドライバーを、奇声を上げて挑発している。

  平然とジャガーを運転する男。

  オートバイの後部座席に乗っていた若者の一人が、手にしていたミルクセーキの紙コップを、ジャガーのフロントグラスに投げつける。

  ピンクの液体が、フロントグラスに広がる。急ブレーキを踏む男の足。

  ガードレールに車体をこすりつけながら、急停止するジャガー。

  車から下りて、フロントグラスに広がった液体が、イチゴのミルクセーキであることを確認した男は、にやっと残忍な微笑を浮かべる。車に乗り込む男。

  ワッシャー液で洗い流されるフロントグラス。その中に男の顔が顕れる。もちろん、サラ金を襲ったあの男だ。

  集団走行するオートバイ。そのバックミラーの中に、後ろから猛スピードで近づくジャガーの姿が映る。

  後ろを振り返って、それが先ほど自分たちが危うく事故を起こさせようとしたジャガーの男であることを確認し、少年たちは騒ぎ出す。

少年の一人(緊張した声で)「やべえぞ、さっきの奴だ」

もう一人「車をこっちにぶつける気だ」

リーダーの少年(非常にハンサムで、喧嘩の強そうなタイプ)「スピードを上げるんだ。振り切れ!」

  あっという間に接近するジャガー。悲鳴を上げる少年達。

  ジャガーに接触し、あるいはその風圧で次々に転倒するオートバイ。路面を滑走し、互いにぶつかり合って、ドライバーは宙を飛ぶ。

  オートバイの間を駆け抜けていくジャガー。

リーダーの少年(ジャガーを睨み付け、激しい調子で)「手前ら、何してる! さっさと起きてあいつを追っかけるんだ! 絶対に逃がすんじゃねえぜ」

  倒れたオートバイを起こす少年達。次々に発進するオートバイ。

  闇の中を遠ざかるジャガーのテールランプ。(フェイド・アウト)

 

  横浜の繁華街。夜。復讐のために、ジャガーの男を探して歩く暴走族の少年達。

リーダーの薫「いたか?」

少年の一人(首を振る)

  他の路地から戻ってくる少年、何かを急いで知らせようと、小走りである。

少年「いたぞ! こっちだ」

  仲間を、路地の奥の駐車場に案内する少年。少年が指さす先に、銀色のジャガーが停まっている。

発見者の少年(得意げな顔で)「な、奴のジャガーだろ? ほら、ここにこんな擦り傷がある。ガードレールにぶつけた奴と、俺達のオートバイにぶつけた時の傷だ」

薫(頷いて)「よくやった。野郎、見つけた以上は、生かしちゃあおけん。だが、どの店に入ったかはわからんか?」

発見者の少年(肩をすくめて)「車しか見てない」

薫「誰か、奴の顔を覚えている奴はいるか?」

グループ最年少のミツル「中年で、鼻が高い、ちょっと外人っぽい顔だった。ハンサムというか、いい男だったような気がする」

薫(迷うような表情で)「そうか。これだけ店が多くちゃあ、一軒一軒探すわけにもいかんな。会員制の店に入ってるってこともあるし。ここで奴を待つことにしよう。お前ら、その辺に隠れていろ」

  二時間後。腕時計を見る薫。

薫「腹が減ったな。おい、ミツル、何か買ってこい」(財布を放り投げる。それを空中でキャッチするミツル)

  小走りに遠ざかるミツル。

  戻ってくるミツル。その背後に、二人の男女連れがくっついている。男は、明らかにヤクザであり、女はその情婦だ。男は黒シャツの上に白い上着、白いズボン、大きくはだけたシャツの間には金のネックレスという典型的遊び人スタイルである。女はプロポーション抜群のグラマーで、顔も美人だが、頭は悪そうである。

野村(横柄な態度で)「よお、薫! どうなってんだ。例のジャガーの男を見つけたってえじゃねえか。こんな所で何チンタラやってんだよ」

薫(不快そうに、顔をそむけて)「ああ、野村さん。奴が出てくるのを待ってるんですよ」

野村(あたりを見回し、女にいい所を見せようとして)「何だ何だ、こんなに雁首揃えやがって。相手は素人一人だろうが、みっともねえぜ。こんな時はリーダーが一人でがんがんいくもんだ」

薫(待ってましたとばかりに)「じゃあ、野村さん、手本を見せてくださいよ」

野村(うろたえて)「え? 俺がか? いや、そりゃあ、俺がやってもいいが、そうするとリーダーのお前の立場がねえだろうが」

薫(嘲笑を隠して)「野村さんが喧嘩が強いってのはよく聞かされてますが、まだ見たことはないんで、みんなのいい勉強になります」(仲間に、目でうながす)

薫の仲間たち(声を揃えて)「お願いしまーす!」

野村の連れの女「ケンちゃん、あんた、喧嘩強いんでしょ? やっちゃいなさいよ」

野村(虚勢を張って)「うるせえ! 男の世界は、そんな簡単なものじゃねえんだ……」

暴走族の一人(遠くを見て叫ぶ)「あ、あいつだ。ジャガーの男だ」

薫、野村に、目で促す。野村は覚悟を決め、渋々歩き出す。

  大股にジャガーに近づく長身の男。ジャガーのドアに手を掛けようとした瞬間、その周りをパラパラと囲む暴走族の少年達。

男(まったく冷静に)「何の真似だ?」

野村(精一杯に凄んだつもりの表情、ドスを利かせたつもりの声で)「おっさんよ、俺の舎弟になめた真似をしてくれたそうじゃねえか」

少年達(互いに顔を見合わせ、不満そうな表情で、しかし野村には聞こえないように小さな声で)「舎弟だってよ」「いつ、俺達が野村さんの舎弟になったんだ?」

野村(懐からジャックナイフを取り出し、器用にワンタッチで刃を開き)「痛い目に遭いたくなけりゃあ、それなりの挨拶はしてもらわんとな」

  あっという間に、男の長い足が野村の腕を蹴り上げ、バキッという音と共に野村の腕が折れる。悲鳴を上げてうずくまる野村。

  口々に罵声を上げながら男に飛びかかっていく少年達。乱闘が始まるが、男のあざやかな身のこなしに、ほとんど少年達は男に一指も触れられず、逆に少年達の方は、次々に倒されていく。

  地面にへたばり、腕を押さえて泣き声を上げる野村。そのそばで、心配そうに、だが、男の弱さにあきれた顔で見下ろす女。

ジャガーの男(自分を取り囲む少年達を見回しながら)「リーダーは誰だ?」

薫(すでに男に倒されていたが、起きあがりながら男を睨み付け)「俺だ! 畜生! 殺すなら殺せ」

男「元気がいい。殺してもいいが、それより、どうだ、俺の手下になる気はないか?」

薫「手下? ふざけるな! あんた、やくざか?」

男(にやりと笑って)「やくざではないが、まあ、悪党だ」

薫「俺達を手下にしてどうする? 何をさせようというんだ?」

男「面白いことさ。命の保証はできんが、面白いってことだけは確かだ。どうせ、退屈まぎれの暴走族だろう。人に迷惑を掛けるなら、もっとでっかいことをしてみんか」

薫「犯罪か?」

男(はぐらかすように笑って)「さあな。どうだ、決めるなら、今だ。二度とは誘わん」

薫「わかった。あんたみたいに強い男に会ったことはない。子分になろう」

男(他の少年たちを見て)「お前らはどうする?」

薫の仲間たち「俺達はいつも薫さんと一緒だ。薫さんがそう決めるなら、俺達もあんたの子分になる」

男(薫に手を差し出す)「よし、いい子たちだ。君は薫というのか。喧嘩はあまり強くないが、人望はあるんだな。いいことだ」

薫(憮然として握手する)

  男は野村の連れていた女を見る。女は、一瞬びくっとするが、男の鋭い、切れ長の目で見つめられ、磁力に引きつけられたような顔になる。

男「おい、そこの女、ここに来い」

  ふらふらと男に近づく女。男はジャガーに乗り込み、女はその後から、その助手席に乗り込む。

  発進するジャガー。その後ろで、折れた腕を押さえた野村が、半泣きの声を上げる。

野村「おい! マキ! おいっ、どうしたんだ、行くなよ」

○繁華街のネオンの中に消えていくジャガー。(フェイド・アウト)

 

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