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全体の構想はある程度あるし、後少しで話はほとんど終わるのだが、「ワルプルギスの夜」を書いて、どう続けるか、まったく思いつかない。
最初は、兵頭が須田銀三郎に逃走資金を借りにきて、論争になる予定だったが、理伊子が死んだ直後にのんびり政治問答をするのはあまりに不自然だろう。ならば、兵頭と銀三郎は接触しないまま、それぞれに別の道を行くか。そうすると、ラストシーンに用意していた兵頭の墓前での銀三郎のモノローグが使えなくなる。つまり、別のラストシーンを考える必要が出て来る。というわけで、少し頭を休めようかと思うのだが、逆にここで止めると再開する気力が湧かない可能性もあるわけだ。

後で、もう少し工夫してみたい。



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・前の場面に続く。
・画面が数秒暗いまま。
・佐藤らの下宿の戸を叩く音。
・赤ん坊に見入っていた佐藤と鱒子がハッと顔を上げる。
佐藤「富士谷の奥さんかな?」
・佐藤、立ち上がって部屋を出る。
・玄関の外の兵頭・富士谷・栗谷、玄関から顔を出した佐藤を見る。
佐藤「何だ、君たちか。富士谷さん、さきほどは奥さんに世話になった」
富士谷「うむ。それで、赤ん坊が生まれて慌ただしい時に済まないが、君が組織から預かった例の品物を我々に引き渡してほしいんだ」
佐藤「あれを? 今さら、なぜ?」
富士谷「君は組織を脱退したから、あれを所有する権利はないからだ」
佐藤「ふん、五人組か。あれの上部組織なんてのがあるのか」
富士谷「じゃあ、引き渡しを拒否すると?」
佐藤「いや、君の奥さんには世話になったし、渡そう。しかし、あれは人気の無いところに隠したんで、少し歩く必要があるが」
富士谷「かまわん」
佐藤「兵頭さんも、この件に関わっているのか」
兵頭「まあ、まったく無関係でもない」

・佐藤が部屋に戻り、鱒子に少し待っているように告げる。不安そうな顔の鱒子。

・闇の中を歩いていく四人。町の外に出て、寂しい郊外の土手の上を歩く四人を、空をバックに映す。

・その四人から遅れて、彼らの後をつける、赤子を抱いた鱒子。

・或る沼の傍の小屋に入って、中から風呂敷に包んだ何かを持ってくる佐藤。

佐藤「これが、例のあれだ」
富士谷「中身を確認させてもらう」
・富士谷が風呂敷包みを開ける間に、佐藤の背後に回った栗谷が兵頭にアイコンタクトを取る。
・兵頭は顎を動かして「やれ」という合図をする。
・鈍器で佐藤の後頭部を殴る栗谷。
・(スローモーション撮影で)ゆっくりと倒れる佐藤。
・地面に倒れた佐藤の鼻に手をかざし、心臓に手を当てる富士谷。頷く。
・三人が佐藤の死体に石を縛り付け、沼に投げ込んだ瞬間、やっと彼らに追いついた鱒子が即座に状況を理解して悲鳴を上げる。
・沼に沈んでいく佐藤の死体の後から、赤子を抱えて飛び込む鱒子。
・驚いてその様子を見守る三人。
・鱒子の姿も沼に沈み、数個の泡だけが暗い水面に昇る。
・顔を見合わせる三人。

(このシーン終わり)
ワルプルギスの夜・第二夜の構想

・佐藤と桐井の下宿に兵頭・富士谷・栗谷が来る。

・佐藤は、印刷機の引き渡しを求められ、近くの林の中の小屋に案内させられる。
・その直後、兵頭・栗谷・富士谷の手で佐藤は殺害される。
・不安を感じた鱒子は赤ん坊を抱いて4人の後を追い、佐藤が投げ込まれた沼に赤子もろとも自ら飛び込んで死ぬ。
・佐藤の部屋を覗いて佐藤一家がいないことを知った桐井は富士谷の家を訪ね、富士谷が不在であることを知る。そこへ帰ってきた兵頭らの手で桐井も殺される。
・兵頭によって佐藤の「犯罪告白書」と桐井の「遺書」が案文され、栗谷と富士谷の手で書面にされる。桐井の死体は桐井の部屋に運ばれ、首吊り自殺を仮装して吊るされる。
・富士谷の妻は、3人の行為のあまりの非道さに、家を出ていく。富士谷はその後を追って行く。
・栗谷はどうするか、考慮すること。

・桐井六郎の部屋。桐井が歩きながら考え事をしている。
・部屋の戸が叩かれる。
桐井「佐藤か? 入れ」
・佐藤が入ってくる。少し恥ずかしそうな顔をしている。
桐井「どうした?」
佐藤「富士谷の女房に、邪魔だからと追い出された。こういう時、男は何の役にもたたん」
桐井「そうだな」(笑う)

・階下から、ひときわ大きな産婦の苦痛の声。

佐藤「ああ、たまらん。できるなら、あの苦しみを代わってやりたい」
桐井「須田とのことは、もういいのか」
佐藤「あれが帰ってきただけで十分だ」
桐井「子供はどうする」
佐藤「もちろん、僕の子として育てる。誰にも渡さん」

・階下で、産婦のひときわ高い苦痛の声がして、その数秒後、かすかな赤ん坊の産声がする。その声はだんだんとはっきりした泣き声になる。

・佐藤と桐井は目を見かわし、次の瞬間、佐藤は階下に駆け下りる。それを微笑して見送る桐井。

・佐藤の部屋。赤ん坊に産湯を使わせている富士谷の女房。
・佐藤が部屋の扉を開けて飛び込んでくる。
佐藤「生まれたのか、赤ん坊は、鱒子のほうは大丈夫か」
富士谷夫人「どちらも大丈夫ですよ。お産くらいで騒ぎなさんな。こんなことは、百姓なら畑のへりで済ませて野良仕事を続けますよ」
鱒子「赤ちゃんを、赤ちゃんを見せて」
・富士谷夫人、産着にくるんで鱒子に赤ん坊を渡す。
鱒子「何て、何て可愛いの。こんなに皺だらけだのに、ちゃんと赤ん坊の顔をしているのね」
富士谷夫人「で、この子はどうするんです? まさかすぐに孤児院に捨てるとか言うんじゃないでしょうね。まあ、ふたりともおカネが無さそうだから、そうしても誰も悪くは言いませんけどね」
佐藤(憤慨して)「何てひどいことを言うんだ。もちろん、僕が育てるに決まっている」
富士谷夫人(平然と)「あんたの子供なんですか?」
佐藤「僕の妻が生んだのだから、僕の子供に決まっている」
富士谷夫人「はいはい、そうですか。じゃあ、頑張ってお馬鹿さんふたりで育ててください。私はもう帰って寝ますからね。お代はいいですよ。なかなか愉快な喜劇を見ましたから。赤ん坊は様子を見に、後でまた来ますよ。まあ、分からないことはこの下宿の奥さんでも聞くんですね」
・佐藤と鱒子はロクに聞きもしないで赤ん坊に見入っている。富士谷夫人は「あきれた」という表情で帰っていく。

(このシーン終わり)


・(一案として)後で出て来る殺人の場面では、ヘンデルの「ラルゴ」が静かに流れる。

・夜、雪が激しく降っている。佐藤富士夫と桐井六郎の下宿の前の道。明かりが点いている家は少なく、雪の積もった小さな道の遠くは闇の中に消失している。その道を遠くからゆっくりと歩いてくる女の姿。時々、道に倒れるが、起き上がって歩く。その姿がいかにも苦しそうである。
・外から見ると、佐藤の部屋(一階)と桐井の部屋(二階)はまだ明かりがついているが、下宿の主人の部屋の電気は消えている。
・佐藤の部屋。富士夫は机の前で椅子に掛け、ぼんやりしている。下宿の表の戸を叩く音に、妄想から覚める。しばらくしてまた音がする。下宿の主人が早寝していて気付かないのである。
・舌打ちして佐藤(昼間のままの服の上にどてらを着ている)は部屋の戸を開けて玄関に行く。
佐藤「どなたですか」
鱒子「佐藤鱒子と言います。ここに佐藤富士夫さんはいらっしゃいますか」
・佐藤、驚愕の表情になる。慌てて玄関の戸を開ける。
・雪を頭に散らした鱒子の凄惨な姿。顔は真っ青で、腹は明らかに臨月である。
佐藤「お、お前、……鱒子」
鱒子「今言ったでしょ。私に会えて嬉しい?」(皮肉な表情)
・富士夫は返答できない。やっとのことで絞り出すような声で
佐藤「ア、アメリカからひとりで帰ってきたのか」
鱒子「そうよ。こんなお腹でね」
佐藤「銀三郎は……」
鱒子「この姿を見れば分かるでしょ。私を捨てたのよ。赤ん坊付きで」
佐藤「そうか。とにかく、入りなさい」
鱒子「この辺に産婆はいるの? どうやら、今夜中に生まれそうなの」
佐藤「まず、部屋で寝ていなさい。産婆を探してくる」
慌てて鱒子を部屋に入れ、寝床を敷き、寝かせる。火鉢を寝床の傍に据える。
佐藤「すぐに戻ってくるから、大人しく寝ていてくれ」
佐藤は大急ぎで二階に駆け上り、桐井の部屋の戸を叩く。
戸が開いて、桐井が顔を出す。
桐井「誰か来たようだな」
佐藤「鱒子が…鱒子が帰ってきたんだ」
桐井「そうか。彼女を許すのか」
佐藤「分からん。とにかく、彼女は今にも子供が生まれそうなんだ。産婆を呼んできたいが、カネが無い」
桐井「カネの心配はいらん。富士谷の女房が産婆をしていたはずだ。呼んでくるまで、俺が鱒子さんの看病をしておくから」
佐藤(カネを受け取って)「すまん、頼んだ」
慌てて転げるように階段を下りていくその姿に桐井は微笑む。

・富士谷の家の奥の部屋。兵頭、富士谷、栗谷が会合を開いている。(放火事件の善後策についての会合である。)
・表の戸が激しく叩かれる。
・警察かと思ってぎょっと驚く三人。
兵頭(富士谷に)「出てみろ。俺たちがここにいることは言うんじゃないぞ」

・玄関の戸を開ける富士谷。そこに佐藤がいるのを見て驚く。
富士谷「どうした、こんな時間に」
佐藤「お前にじゃなく、奥さんに用がある。俺の女房が産気づいて、今にも産まれそうなんだ。すぐに来てほしい」
富士谷「女房だと? お前、女房などいたか?」
佐藤「今日来たんだ。そんなことはどうでもいい。奥さんを呼んでくれ」
富士谷「少し待ってろ」
・富士谷、いったん戸を閉めて中に入る。外で寒さをこらえて待つ佐藤。
・その玄関の戸が開き、富士谷の妻が出て来る。産婆姿。
・ふたりが去っていくのを二階の窓から確認する栗谷。
・階段を下りて奥の部屋へ戻る栗谷。
富士谷「驚いたな、佐藤の話をしていたら、本人がやって来るとは」
兵頭「さすがに、こちらに心の準備ができていなかったな、ははは」
栗谷「で、先ほどの話のように、佐藤を殺して、その死体を池に沈めた上で、放火事件の犯人は佐藤だと警察に密告するんですか?」
兵頭「そうだ」
富士谷「それはひどい。赤ん坊が生まれそうだというのに」
兵頭「桐井を言い含めて、自分が犯人だという告白書を書かせた上で自殺してもらうという手もあるが、そういう不名誉な死に方はたぶん断るだろう。まあ、桐井が自殺した場合はその死体を利用させてもらうが、なかなか死なないようなら、やはり佐藤に死んでもらおう」
・電灯ではなく、テーブルのランプの灯りでの会合なので、壁に揺れる影にいっそう悪魔的な感じがある。

(このシーン終わり)
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