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・岩野家、客間。午後3時ころ。理伊子が真淵力弥(軍人)を招いて、父母同席でお茶を飲んでいる。

理伊子「お茶をもう一杯いかが? 真淵さん、それとも力弥さんとお呼びしたほうがいいかしら」
真淵「下の名で呼ばれたほうが嬉しいですね」
岩野夫人「日清日露戦争以来、軍人さんはおもてになるでしょう」
岩野氏「おいおい、そんな昔の話など、若い人は知らんだろう」
真淵「まあ、知ってはいますが、それほど詳しくはありません。それより、この前の大戦で乗り遅れたのが残念で。もう少し戦争が続けば、日本も活躍できたでしょう」
岩野「まあ、あれは欧州方面が主な舞台で、アジアはあまり関係なかったがな。それでも石炭輸出でうちもかなり儲けはしたよ。戦争さまさまだ。いや、これも軍隊や軍人のお陰だと感謝しとるよ」
真淵「しかし、庶民の間には不満も多いようですね」
岩野「誰もが利益を得るといううまい話は無いさ。名誉の戦死で恩給が貰えるだけでも嬉しいという家も多いだろう」
夫人「本当にねえ。新聞を見ると、不平不満を並べる記事ばかりでうんざりしますよ」
岩野「そういう記事のほうが売れるのさ。貧乏人のひがみを代弁しているわけだ」
理伊子「軍人さんの間では、日本の次の敵はどこだとされているのかしら。それとも、軍事機密?」(笑う)
真淵「そういう話は上でだけ話されるので、我々下級軍人では分かりかねます」
理伊子「私は、アメリカあたりが怪しいと睨んでいるの。他の欧州諸国は遠すぎるし、ソ連はできたてで戦争する力は無いでしょうからね」
真淵「鋭いですね。軍隊で参謀をなさる資格がありそうだ」(笑う)
夫人(岩野氏に向いて)「戦争の話より、あなたの会社のストライキ問題は解決しそうなの?」
岩野氏「心配いらん。首謀者が昨日3人逮捕された。これで治まる。治まらなければ、怪しい奴らをどんどん首にしていけばいいだけだ。労働者はいくらでもいるからな」
理伊子「あまり労働者いじめをしたら、そのうちテロ事件が起こるわよ。ほどほどにしてね、パパ」
岩野氏「馬鹿なことを言うんじゃない。労働者が働き、会社が給料を与えるから連中は生活できるのだ。その会社に反抗する不届きな連中を雇う義理は無い」
夫人「まったくだわ。恩知らずな連中が多すぎるのよ」
理伊子「例の、労働者に同情的だという鳥居教授の縁談の話はどうなったのかしら」
夫人「あのおじいさんも恩知らずのひとりよ。こんないい縁談を渋っているらしいのよ」
理伊子「へえ、あんな若い子と結婚できるだけでも素晴らしい好運じゃない」
夫人「まったくだわ。それが、どうやら、あの菊という娘は銀三郎さんとできているんじゃないかと鳥居さんは疑っているんじゃないかね」
岩野氏「若い男と女が同じ家にいるのだから、それはありそうなことだな」
岩野夫妻は、理伊子の顔色が変わったのに気づいていない。真淵力弥だけが気づく。その後は、彼はほとんど無言で、理伊子を観察している。
理伊子「まさか、そんなことは無いと思うわ。銀三郎さんはインテリですから、無学な女に興味を持つかしら」
岩野氏「結婚はしないだろうが、関係を持つことはあるだろう」
理伊子「不潔ね。パパもそうなの?」
岩野氏「ば、馬鹿な。これは一般論だ。わしとは無関係な話だ」
夫人、少し冷ややかな目で岩野氏を見ている。
岩野氏(目を逸らし)「部屋の中がだいぶ暗いな。電気をつけなさい」
理伊子、立ち上がって部屋の戸口にある電気のスイッチを入れる。テーブルに戻る前に、窓に目をやり、何かに気づいたように窓に近づく。
理伊子「雪だわ」
夫人「初雪ね」
理伊子「夕張ではかなり前に降ったんでしょう? パパ」
岩野氏「そうさな。一週間ほど前か。しかし、山ではもっと前から降っている」
一同、少し沈黙して窓に目をやる。




(このシーンはここまで)



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・岩野夫人の夫は工場経営者で、その工場で労働争議が起こっている。
・その工場は何工場にするか?
・一番、労働争議が起こりそうで、しかも弾圧されやすいのは炭鉱経営か。
・夕張炭鉱の所有者にするか。だから、妻子は札幌在住で、夫は夕張にいることが多い。
・岩野氏も登場させるか?
・鳥居氏の結婚問題を先に出すこと。
・真淵力弥も早めに出したい。
・札幌市内での火事。労働争議で逮捕者が出たことへの労働者の報復。警察や裁判所への放火。
・その前に、労働者の決起を促すアジビラが撒かれる。佐藤富士夫所有の印刷機が使われる。
・その印刷機を奪うために佐藤富士夫は殺される。「改良派」粛清を兼ねる。
・その前に佐藤鱒子の登場。出産。死。
・鱒子の出産を巡る、富士夫や桐井の献身的行為。新しい生命を得た感動。その場から、佐藤は引き離され、殺害される。その同じ夜に、桐井は「哲学的自殺」を遂げる。

順序としては
1:鳥居教授の結婚問題:岩野家(岩野氏、岩野夫人、理伊子、力弥の会話)で、菊と銀三郎が関係があるのではないかというゴシップとして語られる。理伊子と力弥だけになると、力弥は理伊子が銀三郎に惚れていることを察知する。「お菊さんはあの人とは合わないと思うわ。大人しいだけで無学な人だから、話すことが何も無いでしょうからね」「家庭を守るだけの、奴隷みたいな女で良ければいいでしょうけどね」
2:労働争議の話(労働者逮捕の話):上に同じく、岩野家での会話。岩野夫人と夫。
3:鱒子の登場から佐藤の殺害(印刷機引き渡しの要求と拒否)、桐井の死
4:銀三郎が麻里江と結婚していることを真淵力弥に告げる。力弥は激怒する。
*アジビラが出回っている件をこのあたりに挿入。鳥居教授と兵頭の会話?兵頭が教授の縁談をからかう。教授は「他人の不始末」と結婚する気は無い、と言う。
*帰途、兵頭と藤田が接触しているシーンをインサートする。
5:藤田が田端兄妹殺害を銀三郎にそそのかす。(暗黙の了承?)
6:理伊子が銀三郎の元へ奔る。
6:札幌の大火(同じ夜)各所の官庁、工場などが放火される。
7:(翌朝)田端兄妹の死骸が火災現場から出る。現場に現れた兵頭が、「この女は銀三郎の内縁の妻だ」と暴露する。
8:死体を見るために現場に来た理伊子が群衆の投石で殺される。
9:放火が死体隠蔽のためではないかとして、銀三郎が疑惑を受ける。(8の前にする)
10:藤田が逮捕されるが、銀三郎ではなく、放火は兵頭の指令だと言う。殺人の件ではシラを切る。
11:兵頭が銀三郎に救いを求めるが、銀三郎はカネだけ与える。兵頭は上海に逃亡する。佐藤富士夫殺害の件と放火疑惑で富士谷と栗谷の逮捕。銀三郎は菊を連れて札幌を離れる。
12:関東大震災と兵頭の死。
13:銀三郎の帰国、兵頭の墓前のモノローグでラストとなる。

(参考)
 明治時代の中頃から、「殖産興業」の一環として北海道で採炭事業が開始されますが、当初は採炭作業のほとんどを人力で行っていたため、その労働実態は過酷なものでした。
 このため、明治25年に北海道最初の炭鉱争議が開坑間もない夕張で発生し、労働組合誕生のきっかけとなります。以降、産炭地の労働組合は、徐々に組織化され、大正から昭和にかけて、組合員の経済的地位向上のため賃金引上げ、安全確保要求、合理化反対などの諸活動を展開します。しかし、閉山に伴う組合員の減少などによりその活動は縮小します。





・前の場面の続き。
・銀三郎は先ほど見えた小さな洋館の玄関(鍵はかかっていない)の扉を開けて中に入る。
・玄関の間の奥に部屋がふたつあり、奥の部屋(洋間)が麻里江の寝室である。その部屋の扉は開いたままで、ベッドに麻里江がスヤスヤ寝ている。
・その寝顔を上から見下ろす銀三郎の顔に殺気に似た表情がかすかに浮かぶ。
・軽くうなされる麻里江。突然、目を開く。自分を見下ろす銀三郎を見て驚く。
・小さく悲鳴を上げた麻里江をあやすようになだめる銀三郎。
銀三郎「僕だよ。大丈夫、僕だ」
麻里江「ああ、あなたでしたの、侯爵様」(彼女は銀三郎をそう呼ぶ)
銀三郎「何か悪い夢でも見たのかい。うなされていたが」
麻里江「夢? そうだわ。悪い夢を見ていた。その中にあなたのような人が出てきて……なぜ、私の夢の中身を知っているんだい? あんたは何者だい」
銀三郎「落ち着きなさい。僕だよ。お前の侯爵さまさ」
麻里江「嘘だ。あんたは私の侯爵さまじゃない。私の侯爵さまは、誰よりも素敵な人で、お前のような下種じゃない。顔は少し似ているけど、あんたは偽物だ」
狂女の侮辱的な言葉を聞いて、銀三郎の顔が醜く歪む。
麻里江「はは、怒ったのかい。夢のように、私をナイフで殺すつもりかい? ほら、その懐には私を殺すためのナイフがあるんだろう?」
銀三郎はギクリとした顔になる。先ほどの殺意が、なぜかこの女の夢に通じたようだからだ。
銀三郎「馬鹿馬鹿しい。いい加減にやめないか。お前の兄はどうした。どこに行ったんだ」
麻里江「あんな奴、知るもんか。あんた、私の赤ちゃんをどうした。まさか、川に捨てたんじゃないだろうな」
銀三郎「お前は赤ん坊など生んでいない。私と寝てすらいないんだ」
麻里江「じゃあ、何でここにいる。この偽物の侯爵が。はは、侯爵が聞いてあきれるよ。お前なんか、下男や御者にも劣る能無しだよ。悪魔の下働きが相当だ」
たまりかねて、銀三郎はその部屋から急ぎ足で出て行く。
玄関から田端兄が入ってくるのとぶつかりそうになる。

田端兄「おお、これは銀三郎様、子爵様。このようなところにお越しいただくとははなはだ名誉でございます」
銀三郎「君から手紙をもらったから来たんだ。何の用だね」
田端兄「まあ、慌てなさらないで、ひとつ舶来の酒でもいかがですか。貧しい中にももてなしの酒くらいは準備しております」
銀三郎「ふん、自分が飲むためにな」
田端兄「もちろん、わたくしもご相伴いたしますが、主にあなた様のためでございます」
銀三郎「酒はいいから用件を言ってくれ」
田端兄「そこでございます。こういうデリケエトな話は、私のような繊細な人間は酒も入らずには話しにくいのですが、思い切って申しましょう。前にお約束になったお手当はいつ貰えるのでしょうか」
銀三郎「手当など約束した覚えも無いし、お前たち兄妹にはこの家を買ってやり、生活費も十分に与えたはずだ」
田端兄「さはさりながら、やはりこうした日陰の身ではあれも可哀そうで、ちゃんとした世間との人付き合いをするには頂いたお金では少々不足かと」
銀三郎「あれを世間と人付き合いさせるだと? 面白い冗談だ」
田端兄「へへへ、やはり子爵様の奥方ともなると世間との交際は必要ではないかと思いまして。なあに、私がいつもそばについていてうまくやりますから、ご安心を」
銀三郎「いらん。いい機会だから、言っておこう。俺は明日明後日にも、あれとの結婚を世間に公表するつもりだ。だから、これまでお前がこそこそゆすっていたような手口はもう通用しない」
田端兄、呆然とする。
田端兄「まさか、冗談でございますよね。そんなことをしたら、御身の破滅でございますよ」
銀三郎「俺には似合いの妻かもしれん。もっとも、先ほどはあいつのほうから俺に縁切りの言葉を言われたがな」(ニヤリと笑う)
銀三郎「まあ、そういうことだ。俺の気が変わったら、これまで通り、小遣い銭くらいはやるかもしれんが、俺をゆするつもりなら無理だと覚えておけ」
銀三郎、立ち上がって出て行く。呆然としてそれを見送る田端兄。


(このシーンはここまで)

・初冬だが、よく晴れた日。須田家。

菊が居間のドアをノックする。
須田夫人「お入り」
菊、お辞儀をして入る。
菊「何か御用でしょうか」
須田夫人「まあ、そこにお座り。ちょっと話があるんだよ」
菊、不安そうな顔でソファに座る。
須田夫人「話というのはね、お前もそろそろ結婚を考えた方がいい年頃だということだよ」
菊、驚いた顔になる。
菊「結婚など、まだまだ早うございます」
須田夫人「何をお言いだい。二十歳を超えたら十分年増ですよ。あと数年したら行かず後家です。せっかく養女にしたお前を行かず後家にはさせないよ」
菊、無言でうなだれる。
須田夫人「で、お相手だがね、お前も良く知っている人だよ」
菊の顔に、一抹の希望の色と、まさかそんな奇跡はあるまいという不安が浮かぶ。
須田夫人「ほら、うちによく来る、鳥居さんだよ」
菊の顔に絶望の色が浮かび、うなだれる。
須田夫人「おや、お嫌かい? そりゃああの人は、年はいっているけど、今でもなかなかの好男子だし、先生と人から呼ばれる、いわゆるインテリさね。不満を言ったらバチが当たるよ。それでも、お前、まさか好きな人でもいるんじゃないだろうね」
菊、顔を横に振る。
須田夫人「相手の年が気になるようだけど、これくらいの年の差は世間でよくあることさ。それにお前くらいのネンネには、人生経験の豊かな人のほうがいいのだよ。持参金はもちろん、私が出すし、結婚祝いに新築の家でも建てさせてあげるよ」
菊「恐れ多いことです。そこまでしていただくのは、心苦しゅうございます」
須田夫人「なら、承知だね」
菊「あまりにも急な話で、頭が混乱して。少し考えさせていただいてよろしいでしょうか」
須田夫人「まあ、考えるまでもないことだけど、お前がそれで気が落ち着くならゆっくり考えればいいさ。私としては明日にでもあちら側に話をしに行こうと思っているんだよ」
菊「済みません。部屋で考えてみます」
須田「いいよ。話はそれだけだ。ああ、銀三郎はお出かけかい?」
菊「はい。先ほど馬で」

・葉の大半が落ちたカラマツの林を馬に乗った銀三郎が行く。
・前方に小さな洋館が見えた時、林の間からひとりの男が銀三郎の馬の前に出て来る。
・馬を止める銀三郎。相手が浮浪者風の男だと見て不愉快そうな顔になる。

男(懲役人藤田)「へへへ、少しお待ちを、須田子爵様」
銀三郎「何だ、お前は」
藤田「名乗るほどの者ではございませんが、藤田と申すケチな野郎で」
銀三郎「藤田? 覚えがあるぞ。うちの小作人だったが、何かの罪で懲役刑になった男だな」
藤田「はい、よくご記憶で。その節はご迷惑をかけました。しかし、刑期も明けて、こうして戻ってきた次第で」
銀三郎「俺に何の用だ」
藤田「へへ、何しろ、懲役帰りだと、仕事を探すのも大変でして、少しお恵みいただけたらと思うんですよ」
銀三郎「カネか。今はさほど持っていない」
藤田「どれほどでも結構で」
銀三郎、懐から小銭入れを出し、そのまま相手に投げる。
藤田「さすがに気前がよろしくていらっしゃる。これで失礼しますが、もし私のような男が必要なら、いつでもお声をかけてください。たいていすぐ近くの炭小屋におりますから」
藤田は林の間に姿を消す。何か考えるように見送る銀三郎。

(このシーンはここまで)



・同じ夜、かなり遅い時間。桐井と佐藤の下宿の前の道。
・酔いつぶれた田端兄を富士谷と栗谷が肩で支えて歩かせてこちらに向かってくる。その後ろから兵頭(着物姿)がシガーを吹かしながら悠然と歩いてくる。

富士谷「そう言えば、ここが佐藤と桐井のいる下宿ですよ」
兵頭「まだ明かりのついている窓があるな」
栗谷「たぶん、桐井の部屋でしょう。あいつは、夜はほとんど起きているという話です」
兵頭「勉強家なのか?」
栗谷「いや、歩きまわりながら、一晩中考え事をしているらしいです」
兵頭「それは面白そうだ。訪ねてみよう。君たちはそいつを宿に送り届けてくれ」(シガーを地に捨て、下駄で踏み消す)
玄関のガラス戸を叩く。
しばらくして、中から「誰だい、こんな時間に」と不機嫌そうな声がする。
兵頭「桐井君に至急の用だ。須田伯爵家からの使いだ」

・桐井の部屋の中、外からノックされる。
桐井「佐藤か?」(開ける。)
兵頭「失礼するよ、桐井君」(中に入ってくる。)
桐井「どなたですか。こんな夜中に」
兵頭「兵頭栄三という者だが、社会主義者の君なら私の名前は知っているだろう?」
桐井「ああ、アナーキストの。私はもう社会主義者じゃありませんよ」
兵頭「どうして社会主義者をやめたんだね」(勝手に、机の前の椅子に座る)
桐井「社会のことなどどうでもよくなったからです」
兵頭「自殺すると決めたからかい?」
桐井「自殺? 誰から聞いたんです?」
兵頭「まあ、そんなのはいいじゃないか。後学のために君の自殺論を聞かせてもらいたいね。僕の聞いたところでは、絶対の自由の証明は自殺だ、という論のようじゃないか」
桐井「そうです。それで終わりです。さあ、お帰りください」
兵頭「なぜ自殺が絶対の自由の証明になるんだい?」
桐井(面倒くさそうに)「神が存在すれば、人間は神の命令を聞くしかない、つまり神の奴隷であり、自由は無い。自殺することで、人間は自分が自由意思があり、神の奴隷でないことを証明できる。QED。はい、御帰りください」
兵頭「まるで証明になっていないとしか思えないな」
桐井「あなたはなぜアナーキストなんですか。アナーキズムの理屈を僕に説明できますか」
兵頭「君と根っこは同じさ。絶対の自由がほしいからだ。ただ、君のように神だとか何だとかには僕はまったく興味がない。神がいたとしても、神はこの世に関与していない。善悪も道徳も法律もすべて人間が作ったもので、それは人間を縛るものだ。その基盤が国家であり政府だ。つまり、国家や政府は人間から自由を奪う存在だ。ゆえに僕は無政府主義を主張する。QED」
桐井「あなたは法律や道徳をすべて破壊したいと?」
兵頭「極端に言えばね」
桐井「野獣のように力だけが支配する世界を作りたいと?」
兵頭「そうとも言える。政府や国家に陰険に縛られた世界より僕はそのほうが好きだ。何も闘争だけしなくても、穏健に話し合いで社会が作れるさ」
桐井「僕よりあなたのほうがはるかに夢想家だ」
兵頭「同じく自由を求めても、君は自分を破壊し、僕は社会を破壊する。それだけの違いさ」
桐井「まあ、警察に捕まらないように気をつけることです。さあ、お休みなさい」
兵頭「また議論したいものだね。もっと時間をかけて真剣にな」
桐井「これで十分です。あなたの考えはだいたい理解できたつもりです」
兵頭「そうか。ところで、君は須田銀三郎とは知り合いなのだろう?」
桐井(黙っている)
兵頭「須田銀三郎が田端という男に何か弱みを握られているという話は知らないか?」
桐井「どうしてです?」
兵頭「いや、田端が分不相応なカネを持っていて、それが須田銀三郎から出たカネらしいんだ。須田が田端にカネをやった理由が知りたい」
桐井「僕は知りませんね。興味もない」
兵頭「そうか。夜分お邪魔した。今日はこれで失礼しよう。SEE YOU AGAIN」(人好きのする笑顔。椅子から立ち上がる。)
桐井「もう来なくていいですよ」
・兵頭を送り出す。

(このシーン終わり)


 

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