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・翌朝、ホテルから実家へ一人で徒歩で帰る途中の理伊子。
・火事の焼け跡が続く町の一角に来ると、前方に人だかりがあり、その一番後ろにいる兵頭、富士谷、栗谷の3人が何かを話している。
・理伊子がその後ろを通ろうとした時、栗谷が振り返り、理伊子に気づく。
栗谷「おやおや、これは大富豪岩野さんのお嬢様じゃないですか。おひろいで朝帰りですか」
・理伊子はツンと頭を上げて通りすぎようとする。
民衆のひとり「岩野の娘だって?」
他のひとり「須田銀三郎の情婦だろう」
別のひとり「ということは、銀三郎の女房を殺した一味か?」
・銀三郎の妻が殺されたと聞いて、理伊子は驚いて立ち止まる。
民衆のひとり「火事にまぎれて死体を燃やそうとしたんだろうが、残念ながら燃えてねえよ」
他のひとり「ひでえことをするもんだ。もしかしたら死体を隠すために火事を起こしたのか」
別のひとり「資本家という連中はみんな俺たちを虫けらだと思っているんだ」
・呆然と立ちすくむ理伊子。
・その時、誰かの投げた石が彼女の頭に当たる。(スローモション撮影で、「飛んでくる石」「理伊子の頭に当たる瞬間」「その時の理伊子の顔」が映される。)
・(スローモーション撮影で)倒れていく理伊子の身体。
一市民「おいおい、ひでえことするなあ」
他の市民「大丈夫かな」
・理伊子の身体の周りに多くの人が集まって見下ろす。
市民「おい、動かないぞ」
他の市民「まさか、死んじゃいないだろうな」
・後ずさりしてその場を離れる野次馬たち。
・カメラは上方から、雪と泥の上の理伊子の死体と、そこを離れて広がって行く人々の輪を映す。


(このシーンはここで終わる)

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・同日夕刻、粗末な荷馬車を駆って札幌市内に向かう藤田。荷台の「荷物」には覆いがかけられている。遠景に沈んで行く夕日。
・市街地が見える小さな丘で小休止する藤田。ごく平静な顔で市街地を見て「まだ始まっていないか。間に合いそうだな」と呟く。物凄い色の夕焼け。

・札幌の東の端にある高級ホテル最上階の一室。窓からは札幌市が一望できる。
・窓越しに見える、部屋に入って来る銀次郎と理伊子。夕食の後である。
・同じく窓越しに。抱き合って接吻するふたり。
・札幌市の或る工場。壁に積まれた可燃物の小さな山に点火する誰かの手。小さな火が生まれ、それが大きくなって壁に移る。
・ベッドで抱き合う銀次郎と理伊子。体が映るのは最初だけで、あとはふたりの、それぞれの表情だけ。銀次郎の愛撫を受けて陶酔する理伊子の表情、それと対照的に、銀三郎の顔に或る「焦り」と苛立ちの表情が浮かぶ。

・ベッドルームの戸を開けて、ガウン姿の理伊子の姿が現れる。その顔に浮かぶ失望感。
・窓の外の夜景を無表情に眺める理伊子。
・札幌の夜の闇の中に、小さく「動く灯り」が現れ、それがしだいに広がっていく。
・銀三郎が理伊子の背後に現れ、彼女の首筋に接吻する。何の感動も無く、それを受ける理伊子。
銀三郎「済まない」
理伊子「何を謝るの」
銀三郎「君とこうなったことだ」
理伊子「私たち、どうなったの?」
銀三郎「君の名誉を失わせた」
理伊子「最初から覚悟していたことよ。あなたには何の責任もない」
ふたり、沈黙する。
銀三郎(窓の外を眺めて)「火事のようだな」
理伊子「幸い、私たちの家の近くではなさそうね。でも、このホテルでこのまま死んだほうが、私は幸せかもしれない」
銀三郎「それほど僕は君を失望させたのか?」
理伊子「失望? 私はただ夢を見ていただけよ。あなたの奥さんみたいに」
銀三郎(ぎくりとして)「君はあれに会ったのか」
理伊子「あの人こそ、一番幸せな人ね。永遠に夢の中で生きている」
沈黙する銀三郎。その中で去来する思いは、その表情からは分からない。

(このシーン終わり)





・藤田に「承認」を与えた翌日。晴れた日の午前。

・自分のベッドで横になって天井を見ながら考え事をしている銀三郎。
銀三郎(忌々し気な顔で呟く)「ええい、くそっ。あんな連中がどうなろうと知ったことか!」
ベッドの上で身を起こす銀三郎。窓辺に歩み寄り、何か考えながら親指の爪を噛む。
銀三郎「畜生、自分でつけた火を自分で消しに行くとは、俺もよほどの阿呆だ」
そう呟きながら外出の身支度をする。

・家から馬で出る銀三郎。
・馬上から見る街中の風景の描写。
・その風景の中に、工場労働者のデモ隊の姿が見える。(ほんの点景でいい)

・郊外の野を行く馬上の銀三郎。馬を軽速歩で走らせる。
・道の傍だが、林の中に隠れるような田端兄妹の家の前に岩野家の自家用車が止まっている。その車は今出発しようとしていたが、停止して中から理伊子が出てくる。
理伊子(運転手に)「お前は先に帰りなさい。私は歩いて帰るから遅くなるとでも言っておいて。ここで起こったことは口外無用です」
・初老の運転手うなずく。
・運転手の視点で、ずっと離れたところで馬上の銀三郎に何か必死で訴える理伊子。
・銀三郎が理伊子を拾い上げて自分の後ろに乗せ、来た方向に馬の首をターンさせて走らせる。
・「困ったお嬢様だ」という感じで首を横に振り、車を出発させる運転手。

・ほんの暫く後、田端兄妹の家の横から懲役人藤田が姿を現し、車の去っていった方角を見送る。そして、玄関の前に立つ。凶兆のような野鳥の声。

(このシーン終わり)


・札幌の大火の前に理伊子が銀三郎のもとに奔るんだが、それをどういう手順にするか。
・岩野氏は炭鉱経営者としたので、札幌の大火と関係づけるにはどうするか。
・岩野氏の別企業として工場経営があるとする。
・その工場労働者がストライキをする場面を入れること。
・警官によるストライキ鎮圧。

・理伊子は田端兄妹のもとを一人で訪れる。そこで、銀三郎の「妻」を見て衝撃を受けるとともに、自分は彼女から銀三郎を「取り戻す」ことが可能だと考える。そこへ藤田に「承認」を与えたことを反省した銀三郎がやってきて(来る途中で警察隊によるストライキ弾圧現場を見て過ぎる)、理伊子とぶつかる。(ここまで、銀三郎中心に描写)銀三郎は理伊子を連れて、札幌の高級ホテルに行く。それとすれ違うように、藤田が田端家にやってくるが、その後(殺人場面)は描かれない。
・ホテルで一夜を過ごした銀三郎と理伊子だが、同じ夜に札幌の離れたところで大火が起こるのを目撃する。
・翌朝、岩野家に戻った理伊子を力弥が訪れ、田端兄妹の死体が焼け跡から見つかったと話す。理伊子は興奮して、それを確認するために、車で焼け跡に行く。後を馬で追う力弥。
・(工場は岩野氏とは無関係でもいい。)
・しかし、資本家や華族への群衆の憎悪の結果、「人殺し須田子爵の情婦だ」とされて理伊子は投石されて殺される。
・雪の残る道路に落ちているアジビラ。靴に踏まれ、泥にまみれているが、煽情的な赤い大文字で、何かを糾弾するアジビラだと分かる。
・家々やビルの壁に貼られた同じアジビラを剥がす警官。その際、「夕張炭鉱」「労働者弾圧」「不正資本家を糾弾せよ!」などの字が読める。
・家の玄関の戸の隙間から投入されたアジビラを見つけて読む少年。その姿を見て慌てて少年の手からアジビラをひったくり、叱責する家人。
・岩野家の屋敷の前を通りながら、屋敷を見上げて、何かひそひそ話をする通行人たち。そのひとりは、着物の懐から例のアジビラを出し、相手に見せた後、すばやく引っ込める。
(上のシーンはすべて無音)

富士谷の家の中。富士谷、兵頭、栗谷が集まっている。
兵頭「あのビラを撒いた以上、我々に捜査の手が伸びるのは確実だ」
富士谷「前と話が違う。あんたは、この件で我々が逮捕されることはないと言っていた」
栗谷「まあ、俺はそうなると最初から思っていたけどな。富士谷さんも覚悟の上だろう?」
兵頭「逮捕されるとは言っていない。ただ、捜査されると言っただけだ。その追及から逃れるには、いい手がある。それは、もっと大きな事件を起こして混乱させ、しかも、その犯人を警察に密告することだ」
富士谷「俺は、これ以上の直接行動は嫌だ」
兵頭「アジビラ程度は直接行動の範疇に入らん。お前はまだ何もやっていないのだ。破壊無しに建設ができるか」
栗谷「誰を犯人にするんだ?」
兵頭「佐藤と桐井だ」
富士谷「それは可哀そうだ。我々とは方針が違うだけで、悪い奴らじゃない」
兵頭「犠牲無しに革命はできん。大きな事件を起こすことで、全国民にこの社会の悪に気づかせるのが目的なのだ。つまり、国民ひとりびとりが問題の存在に気づき、考えることが革命の第一歩なのだ。偉い学者が学界の片隅で何を言おうが、何の足しにもならん。俺たちのような無学者でも、行動すれば、社会は動く。まあ、要するに、家が火事になれば、生命の危険は誰でも分かるが、資本家が労働者の給与を低くするという「殺人行為」は、それが殺人行為だと気づかれないのだ。」
富士谷「だから、我々が火事を起こすのですか? それじゃあ、資本家と変わらないじゃないですか」
兵頭「どの家が火事になるかで意味は違ってくる」
栗谷「火事というのは、ただのたとえですか?」
兵頭「本物の火事でもいい。中身の腐った家は壊すか燃やすしかない。だが、我々が火をつける必要は無い。そういう仕事にはそれに適した連中がいる」
富士谷と栗谷、物問いたげに兵頭を見るが、兵頭は冷酷な微笑を浮かべているだけである。

(このシーン終わり)
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