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馬たちを扱ってきた長い年月の間、彼女はこんな様子を見たことはなかった。この特別な血統の品種は激しやすいことで有名だったのだ。(彼女がそれらを買った理由の一つは、彼女の雇用者のためだった。)オヌアはこれまで馬との和平を達成してきたーある種の和平を―彼女の強さと、機知と、賄賂で。すべて、馬を扱う民はそんな風にやるものだ。ただこの子供だけは違った。ダイネはまるで彼女自身がポニーであるかのように、あの種馬に接した。より上位の馬として。
彼女は自分の家族のことでは嘘は言っていないし、逃亡者でもない―ただ、嘘をついたのは年齢のことだけだ。仮に私が彼女を放り出したら、彼女は面倒に巻き込まれるだろう。こうした可愛い娘を狙っている追いはぎはあちこちにたくさんいる。旅の道はそれほど安全ではないが、それが何だ?
彼女は少女がポニーたちの背中をなでながら、その間を動くさまを見ていた。ポケットから出したリンゴや砂糖のかけらを馬たちに与えている。彼女がこうした普通のやり方で動物たちを扱えるのを見て、オヌアは喜んだ。あの種馬を扱ったやり方は、一度見ればもうたくさんだ。
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ポニーたちはダイネが彼らの間を歩いていくのを見守った。耳は後ろに倒して。彼女の近くにいる馬は彼女に噛み付くべきか、蹴るべきか迷っているように見えた。
その群れの王である黄色い種馬が小股に彼女の背後に歩み寄ったとき、少女は振り返って、その馬の鼻づらの下に両手を置いてその顔を持ち上げ、じっと見た。「だめですよ、旦那」彼女は強く言った。「私は騙されはしません。私は人間だけど、馬鹿じゃないです」種馬は後ずさろうとした。彼女は力づくに馬を跪かせ、その鼻孔に息をそっと吹き込んで彼女の匂いを覚えさせた。馬は足を引きずり、もじもじして、それから、降参の印に頭を下げた。
馬の主人たちだ、とオヌアは思った。彼女は馬の王への主導権を確立し、群れ全体への支配権を手に入れた。
「私は馬たちを買っている。助手がいたんだが、そいつがここのある馬商人に、いい条件を提供されて、そこで働くことになり、彼を呼び戻す気にもならなかったんだ。もしお前さんが雇われてもいいというなら―まだ雇うとは私は言ってなかったが―お前さんは、私がこの馬たちを南へ連れていくのを手伝うことになる。3週間の旅だ。どつぼにはまらなければね。追いはぎに襲われたりせずに、他の連中より先んじて次の市にたどりつければってことだ。あんたと私と私の犬のタホイだけの旅だ。さて、囲いの中に入ってみてごらん。あんたが馬たちをどう扱うか見せてもらおうじゃないか」
ダイネは自分の雌馬、クラウドを振り返って見た。「そこにいるんだよ。他人なんかを噛んじゃだめ」彼女は厳しい口調で言って、囲いの柵をよじ登り、囲いの中に入った。
この哀れな娘は長い間一人だったのだろう、まるで馬が返事をすることができると信じているみたいに、馬に話しかけるほどに。オヌアは考えた。そして、柵の上に腰を載せて座った。
「どこから来たの?」
「スノウスデール、北の方。二週間ほど歩いたところ」
赤い炎は見られなかった―彼女は本当のことを言っている。オヌアはため息をついた。「あなた、逃亡者? 家から、あるいは悪い主人から」
「いいえ、奥様」柔らかな唇が震えた。「私には家族はいません。クラウドだけです」
今度も赤い炎は見えない。オヌアは手から粉を払い落とした。「私はオヌア・チャムトン、クミリ・ラーデーの」
ダイネは困惑した表情になった。「ク、ク、―何?」
「クミールは東に住む人々よ。ラーデーはクミリ部族の、1支族の名前」ダイネの困惑は少しだけ和らげられたようだ。「気にしないで。あんたは動物を扱うのが上手いと言ったね。こっちへ来な」彼女は少女を自分の囲いへと導いた。その中にはさまざまな色とさまざまな大きさの27頭の毛深い小型馬が動き回っていた。
「あなたの?」少女は頷いた。「いくらの値で売るの?」オヌアは小型馬で一杯の背後の囲いに向かって身を動かした。「私は市にいるんだからね」
「私はクラウドを売れません。彼女は家族です。たった一人の」再びオヌアは悲しみの閃きを見たが、それはすぐに脇に押しやられた。
「あんたの名前は何かね」クミール(訳者注:何を意味するか不明。魔術的な何かだと思う。あるいは、「クミール」と「目の光」は同一かもしれない。)が小袋の中で彼女の指にくっつき、「目の光」と呼ばれる粉を探らせた。
「ダイネです。奥さん」柔らかな声が返ってきた。「ベラリダイネ・サッラスリ」
「目の光」はオヌアが自分の魔術の才を使うときにはその指を痒くした。「いま何歳だね、ダイネ」
「十五歳です」オヌアだけに見える赤い炎の輝きが少女の顔を取り巻いた。この嘘は悪い嘘ではない―顔をしかめるような気持ちで馬買い人は考えた―彼女はそう言うべきだと街路で学んだのだろう、だが、嘘は嘘だ。彼女は13歳ほどに見えた。
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