忍者ブログ
[316]  [317]  [318]  [319]  [320]  [321]  [322]  [323]  [324
オヌアはくつくつ笑った。「それは私の母がよく私を脅すのに使った文句だよ。(注:ここまで訳すと、前の部分で「馬肉を使った饅頭」としたのが不適切だとなるので、後で訂正しておく。まあ、もう少し、先まで読んで訳せ、という話だが、それも面倒なので、これまでどおり、読み進めながら同時に訳すことにする。そのほうが面白いし。)さあ、あんたと私の犬のタホイを引き合わせようかね」彼女は指を唇に当て、口笛で二つの短い音を出した。大きな物体が囲いの後ろの壁から飛び出してきて、ポニーたちの間を、その蹄(注:hoovesが辞書に無いのでこう訳しておく。)や歯を、やすやすとかわしながらやってきた。柵の上を軽々と飛び越え、オヌアの足に体をこすりつける。自分の主人の尻までと同じくらいの高さで、灰色の巻き毛で包まれている。
「ポニーとほとんど同じくらい大きいのね」ダイネは掌を広げて差し出した。犬は機嫌悪そうに唸り声をあげ、彼女の指をwarily嗅いだ。

(注:辞書に無い単語が時々出てくるが、最終的には飛ばして訳すにしても、とりあえず、なるべく形跡だけ残すようにしておく。)
PR
「お前さんのものを私のものと一緒にしておきなさい」オヌアは片隅に積まれたものの上にかかっている粗布(注:カンバスのことだが、カンバスの訳語は「帆布」となっており、ここではふさわしくないので「粗布」と訳しておく。「カンバス」というカタカナ語は使いたくないので。)を指さして言った。「そこなら安全だ。このポニーたちは番犬よりマシさ」
ダイネはクラウドを囲いの中に導き、自分の荷物をオヌアの荷物と一緒に保管した。荷物を置いてきた時には、クラウドが黄色い種馬に噛み付こうとし、純血種の鹿毛の雌馬を蹴ろうとしていたが、それをあやうく止めた。「行儀よくしなさい」彼女は命じた。「私がそう言っているのよ」
クラウドは耳を後ろに振り、後ろ足を試すように持ち上げた。ダイネは身をかがめ、馬の耳に何かをささやいた。雌馬は鼻を鳴らし、四つの足を揃えて立ったが、その様は、まるで自分は夏空のように罪は無い、と言いたげであった。
「何て言ったんだい」オヌアは少女を囲いから出しながら尋ねた。
「馬肉で饅頭を作る男に売り飛ばすよ、って言ったの」(注:「I said I'd sell her to the man that makes dumplings down the way. 」をこう訳したが、いい加減な訳である。down the wayは、「その辺で」くらいかと思うが、特に訳していない。)
オヌアはダイネの熱意に打たれて、その肩に手を置いた。「大丈夫さ。うまく行かなくても、何かの仕事には就けてやるよ。お前を立ち往生させるような目には遭わせないから。それで安心できるかい?」
ダイネは元気よく頷いた。「ええ、オヌアご主人様」
オヌアはたこのある手を差し出した。「なら、握手しよう。で、私を『ご主人様』なんて呼ぶのは無しだ。私の名はオヌアだからね」
ダイネはこの女性の力強い手を同様に力強く握り返した。「クミリ・ラデーのオヌア・チャムトングでしたね」彼女は言った。「私、覚えてます」
オヌアは微笑した。「たいへんよろしい。さて、あんたの馬は他の馬と一緒でいいのかい?」
「そうしない理由はありませんわ」ダイネは荷物と鞍をクラウドの背中から降ろした。
少女の顔が輝いた。「そこは、女騎士が王の騎士の中の第一人者であるところですか? 女の子が軍隊に入れるという、あのトータール?」
「あんたもそんな話を聞いてるんだね」クミールは呟いた。「女は普通の軍には入れないよ。女王の護衛騎士団だけだ。いったい、あんた、兵士になりたいなんて馬鹿なことを考えちゃいないだろうね」
ダイネは首を振った。「私じゃ無理だって知ってます。でも、女が騎士になれるなら、女を馬飼いやキャンプの雑用係りや、そういった仕事に雇うかも」
彼女の目は苦痛のにじむ希望に満たされた。
「本当のところ、連中は女を馬飼いに雇っているよ。少なくとも私をね。私は騎士たちの馬を担当しているのさ」
「まあ、すごい」少女はささやいた。「もしもあなたが私を王宮に連れていってくれるなら、私、何でもします」

(注:余計なことだが、この話は「女騎士アランナ」のスピンオフ作品のようであるらしい。舞台は「アランナ」のシリーズと同じであるようだし、ここで噂に出てきた女騎士はアランナかその娘(もいるらしい)のことだろう。だが、がっかりさせて悪いが、「女騎士アランナ」を市民図書館から借りて読んでみたら、かなり質の低いファンタジーだった。子供向けらしい「練られていない」雑さと、ファンタジー性をそぐ恋愛描写、性描写などがあって、お勧めはできない。イギリスの児童文学にはみられない「不健全さ」である。この「ワイルドマジック」のほうが、かなり熟練した作品だと思う。ここまでは、だが。道学者ぶる気はないが、子供向けの騎士物語に肉体的恋愛の挿話を入れるなら、最初から騎士物語など書くな、と言いたい。)
私は彼女を雇うべきではない。彼女はまだねんねだ。この近辺には悪い噂が多いし、火の無いところに煙は立たないものだ。だが、私の魔術が夜には二人を守るだろうし、彼女は弓が使える。
「ダイネ!」彼女は呼んだ。
少女は去勢馬の耳の手当を終えた。こちらにやってくる。「はい?」
「今すぐあんたに言っておくがね、私は最近、荒野に住んで旅人を襲う怪物たちについてのたくさんの気味の悪い話を聞いている。伝説から来た話だと人々は言っている。私自身はこれまで一度も見たことはないが、それはこれからも見ないということにはならない。本当に私に雇われたいのかね」
ダイネは肩をすくめた。「そんな話は聞いてはいます。私は仕事が必要なのです、奥様。怪物に出遭うなら、出遭うだけのことです。私の家族は殺され、家は焼かれましたが、それは人間たちがやったのです」
「分かった。それなら、あんたを雇うことにする」クミールは言った。「あんたと私と私の犬で、さっき言ったように馬の群れを南に運ぼう。私は魔術の才があるから、夜には宿泊地をそれで守ることができる。一日に銅貨2枚、旅が完了したら銀2個を特別報酬に出そう。必要な出費は全部私持ち、毎日の雑用は二人で分担だ。酒や薬は禁止。私を見失って迷子になったときは、あんたは子供だから死ぬしかないよ」ダイネはくつくつと笑った。「旅の終わりには、私たちはトータールの首都に向かっていることになるだろうよ」
<<< 前のページ 次のページ >>>
プロフィール
HN:
冬山想南
性別:
非公開
P R
忍者ブログ [PR]

photo byAnghel. 
◎ Template by hanamaru.