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  アメリカ。ミネソタの地方空港。

  小さな飛行機が着陸し、ダークエンジェルズのタカヨシ、ミツルの二人がタラップを下りてくる。

  周りを見回す二人。

  殺風景な周囲の景色。

タカヨシ「ひでえ田舎だな」

ミツル「おい、迎え、来てるよな……。こんな所に置いてかれたらたまんねえよ」

  空港の外に出る二人。

  猛スピードで近づく一台のジープ。

  運転席から二人に笑い賭ける仲間の健太郎。日焼けした、たくましい様子である。

健太郎「おせえぞ。お前達が一番最後だ。ぎりぎりに来やがって。どうだ、南米は楽しかったか?」

タカヨシ「ああ、面白かったぜ。これで楽しい毎日も終わりかと思うと寂しいよ」

健太郎「薫さんは、ずっと退屈だったと言ってる。貰った五千万円の金も、ほとんど使ってないみたいだ」

タカヨシ「馬鹿じゃねえの。いや、薫さんに、馬鹿は失礼だが、金持ち向きの性格じゃないんだな。俺なんか、五千万円ぎりぎり使ったぜ」

ミツル「そのほとんどは、競馬ですったんだがな」

健太郎「競馬場から奪った金を競馬ですってりゃあ世話はねえ。さあ、乗りな。みんな待ってるぜ」

  走るジープ。

  運転席の健太郎に話しかける二人。

ミツル「なあ、こんな所にホテルなんてあんの?」

健太郎「ホテル? 馬鹿、観光じゃねえぞ。キャンプ、地獄のキャンプだ」

タカヨシ「ひえーっ! また特訓かよ」

健太郎「今度は、前より凄いらしいぜ。これに比べりゃあ、前のはお遊びだ、って言うくらいのもんらしい」

  ジープの前方に、米軍基地のような金網張りの敷地が見えてくる。金網の向こうには、カマボコ兵舎。

  フェンスの前で、太い葉巻を吸っていた、軍服を着た巨漢のアメリカ人が、近づくジープを見て、葉巻を地面に投げ捨てる。

  男の前で停まるジープ。

サム(凄みのある微笑を浮かべて、英語で)「地獄のキャンプにようこそ」(フェイド・アウト)

 

  奥多摩。キャンプに来ていたアベックの一人が、木の間に倒れている人間の裸の足らしいものを見つけて近づく。

  茂みをかき分けて、下を覗く男。その顔が驚愕でひきつり、男は悲鳴を上げる。

  うつぶせになって、顔だけ横を向いているマキの全裸死体。(フェイド・アウト)

 

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  府中。東京競馬場。快晴の日曜日。

  レース風景。熱狂する観客。

  最終レースが終わり、閑散としたレース場。風に舞う外れ馬券。

  現金輸送車に積み込まれる現金の袋。

  ガードマンの一人の顔。薫である。

  発車する現金輸送車。

  府中市内を走る現金輸送車。

  人気の無い細い道に入る現金輸送車。

  現金輸送車の前を大型トレーラーが急に道を塞ぐ。続いて、その背後も大型トレーラーで塞がれる。

  後ろのトレーラーに乗っていた若者が、座席から下り、「道路工事中、迂回せよ」の看板を道の真ん中に置く。

  強盗の出現に驚く運転手と、助手。

  後部室内で異常に気づき、驚き慌てて、携帯電話を出し、本部に通報しようとするガードマン。

  その横に座っていた薫が、アイスピックで、その心臓を刺す。

  床に崩れ落ちるガードマン。

  運転席から引きずり出される運転手と助手。

  開けられる後部荷台。中から薫が仲間に笑いかける。

  後部荷台に放り込まれる運転手と助手。手足は縛られ、口にはガムテープ。

  (上空からのカメラで)動き始めるトレーラーと現金輸送車。

  (同じく上空から)まるで楽しいドライブででもあるかのような軽快な音楽と共に移動していく三台の車。(フェイド・アウト)

 

  新聞の見出し「中央競馬界現金輸送車襲わる!」「日本犯罪史上最大。35億円強奪!」

 

  新聞を手にしていた人間が、その新聞を畳んで立ち上がり、歩きながらくずかごにポイと入れる。ここは空港の出発ロビーであることがわかる。そして、男は薫である。どこから見ても、大金持ちのお坊ちゃんという感じの身なり。粋なサングラス。

  ロビーの売店で、煙草を買う薫。

  その横に、同じく週刊誌か何かを買おうとして近づいてきた若者。透である。

  売店の前の二人を正面から。二人が、互いに無視しているのが、少々わざとらしく見える。

  出発ロビー全体を映すと、あちこちにダークエンジェルズの姿が見える。みんな、それぞれ他の仲間を無視して、めいめいに行動している。

  飛行機のタラップを上る薫。良く晴れた気持ちのいい天気である。

  サングラスをはずして空を見上げ、眩しそうに目を細める薫。その顔は、実に気持ちよさそうである。

  後ろにいた透を見て、思わず笑いかける薫。驚いたようにそっぽを向く透。

  離陸する飛行機。青空の中に機体は吸い込まれていく。(フェイド・アウト)

 

  コート・ダジュール。(または、カンヌでもモナコでもプロヴァンスでも可)高級ホテルのプールサイド。

  「男」がデッキチェアに寝そべっている。その側に薫もいる。

  側を通る水着姿の美しいフランス女が、「男」に視線を落とす。「男」に非常なセックスアピールを感じている様子。男はそれに気づかないのか、無視している。

  もったいない、という顔で女を見送る薫。

薫(「男」に)「ボス、金持ちの暮らしってのも、案外退屈ですね」

「男」(サングラスの顔を薫に向けて)「ボスはやめろ。今は百地三郎だ」

薫「すみません。でも、あいつらどうしてるかなあ。慣れない大金を持って、ドジを踏んでなきゃあいいが……」

「男」「考えても仕方のない事は考えるな。あいつらがどうなろうと、自分の責任だ。それより、後で今後の予定を話すから、透にも俺の部屋に来るように言っておけ」

薫(無為から逃れられる嬉しさで顔を明るくし)「はいっ!」(フェイド・アウト)

 

  銀座。アイスクリームを舐めながらウインドウショッピングをしているマキ。

  ショーウインドウに映るマキ。その側に、二人の黒服にサングラスの男が現れる。

  驚いて振り返るマキ。その腕を、男たちが捕まえる。

  強引に、黒塗りのベンツに乗せられるマキ。通行人たちが、その様子を驚いて見ている。

  東亜会の事務所。大会社のオフィスといった感じ。壁には、本物の一流絵画。

  事務所の奥の部屋。マキが、猿ぐつわをされ、後ろ手に縛られて椅子に座っている。

  部屋のドアが開き、徳大寺と部下たちが入ってくる。

徳大寺(マキを見下ろし)「ほほう、なかなかの美人ではないか。猿ぐつわをはずして、顔をよく見せてもらおうか」

  マキの猿ぐつわを外す部下。大きく息をついて、徳大寺を睨み付けるマキ。

徳大寺「こんな美人なら、拷問のしがいもある。だが、そのきれいな顔が台無しになる前に、少し楽しませてもらおう」

  服を脱ぎ始める徳大寺。

  マキを押さえつける部下たち。

  悲鳴を上げ、暴れるマキ。

  (マキの目から見た視点で)裸になってマキに近づく徳大寺。(フェイド・アウト)

 

  武道館。桜の花が満開の周辺の風景。武道館に急ぐ人々。生真面目そうな顔の中高年の男女に混じって、明らかに右翼らしい人間や、和服の人間、黒塗りの高級車から下りる、最高級の仕立ての背広を着た政財界の大物らしい人物の姿が見える。

  「天声神霊会全国大会」と書かれた大看板が、武道館会場入り口に立っている。

  一際豪華な黒塗りのリムジンから、一人の男が下りる。身長、体重とも常人の一倍半はありそうな巨漢で、奈良の大仏によく似た福々しい顔に、見事な白髪の、七十前の男だ。だが、にこやかな笑顔とうらはらに、その目は、異様に鋭い。

  彼を見つけて、口々に「徳大寺様だ!」「生神様だ!」と叫んで土下座し、拝む人々。それらに向かって片手で拝む仕草をしながら、ゆっくりと会場に入る徳大寺。

  会場の控え室。大きなソファに沈み込んでテレビに見入る徳大寺。

  テレビの画面。十五歳くらいのアイドル歌手が歌っている。

  黒いスーツの中年男、東亜会若頭の広瀬が部屋に入ってくる。凄みのある顔である。

  徳大寺に一礼する広瀬。

徳大寺(厳しい顔で、テレビを見たまま)「菊岡組の件はどうなっておる?」

広瀬「今の所、情報はありません。申し訳ありません」

徳大寺「盗まれたヤクも大事だが、俺の顔に泥を塗った奴らは生かしてはおけん。さっさと見つけだして、始末しろ」

広瀬「はい」

  一礼して引き下がろうとする広瀬を、徳大寺が呼び止める。

徳大寺「おい、この娘はなんという?」

広瀬「はい?」(テレビの画面を見る)

  画面の中で歌うアイドルタレント。清純な感じである。

広瀬「確か、沢村ユリといった人気タレントです」

徳大寺(好色そうな顔で)「プロダクションに電話して、今晩、サヴァランに来るように伝えろ。名目は対談でもなんでもいい」

広瀬(無表情に)「承知しました」

  画面の中で、インタビューを受ける沢村ユリ。

  それを見る徳大寺。

  控え室のドアが開いて、進行係が顔を出す。

進行係(おどおどした感じで)「徳大寺様、恐れ入りますが、間もなく出番でございます」

  横柄な感じで頷き、ソファから腰を上げる徳大寺。その間も、テレビから目を離さない。(フェイド・アウト)

 

  超高級フランス料理レストラン「サヴァラン」。

  徳大寺が、個室で一人でフルコースのディナーを食べている。

  料理長が、怯えたような恭しい態度で、部屋に入ってくる。

料理長「今日の料理はいかがでございましたでしょうか、徳大寺様」

徳大寺(にこやかに)「よかったよ。いつもながら、君の腕は、天才としか言いようがない」

料理長(安堵したような顔で頭を下げる)「恐れ入ります」

徳大寺「特に、カキは絶品だったな。だが、オマールは少し大味だ。君のソースで、うまく誤魔化していたがね」

料理長(青くなって)「さすがに、徳大寺様です。今年のオマールは、少し悪いようですが、それに気がつかれたのは徳大寺様だけです」

ボーイ(ドアの方から)「沢村様がお着きになりました」

  料理長、一礼して退出する。それと入れ替わるように、沢村ユリが入ってくる。自分の今晩のスケジュール変更に戸惑い、対談の相手が何者かわからず、あいまいな微笑である。

  立ち上がって、にこやかにユリを出迎える徳大寺。

ユリ「遅くなってすみません」

徳大寺「いやいや。こちらこそ。どうしても、今晩以外都合が悪くてね。無理に君の方のスケジュールを変えて貰った」

  ボーイがユリの前に、メニューを持ってくる。

  部屋の外。ユリのマネージャーが、心配そうに立っている。そこに、黒服、サングラスの男が近づいてくる。

男「ユリのマネージャーだな? 今晩は、あんたの仕事はこれで終わりだ。ユリは我々がちゃんと送って返すから、心配しないでいい」

マネージャー「し、しかし……」

男「プロダクションの社長から聞いてないのか? あの方は、東亜会の徳大寺会長だぞ。ただのタレントごとき、一晩相手をするくらい、光栄だと思え」

  男は、マネージャーに、封筒に入った金を渡す。マネージャーは観念して、頭を下げて立ち去る。

  ウェイターが料理を運んでくる。

男「ちょっと待て。毒味だ」

スープの中に、小瓶から何かの液体を垂らす。

  怯えた顔のウェイター。

男「このことは、外でしゃべるんじゃないぞ(にやっと笑って)お前も、女優やタレントが抱きたければ、政治家かやくざになるんだな」

  無心に料理を口に運ぶ沢村ユリ。やがて、その顔が硬直し、テーブルの上にすとんとうつぶせになる。

  それを満悦した顔で眺める徳大寺。

  ユリを抱えて運び出す男。その側に、並んで店を出る徳大寺。いつの間にか、数人のボディガードが、彼らを取り囲んでいる。

  徳大寺に頭を下げる、オーナー。

徳大寺(オーナーに)「沢村さんは、ワインに酔われたようだ。もしかして、悪い物でも食べたかな?」

オーナー(青い顔になって)「ご冗談を!」

  高笑いして、リムジンに乗り込む徳大寺。その側には、すっかり眠り込んでいるユリ。車を発車させると、徳大寺の手は、待ちきれないようにユリのスカートをまくり、そのしなやかな太股を撫でさすり初める。

  無表情に運転する運転手と、同じく無表情に横目でバックミラーに映る徳大寺の痴態を見るボディガード。(フェイド・アウト)

 

  六本木。良く晴れた日差しの中、人出でにぎわう六本木風景。ビジネススーツ姿の薫が通りを急ぎ足で歩き、裏通りの目立たない雑居ビルに入っていく。

  階段を上る薫。「信頼証券」と金文字で書かれたドアを開けると、中は一応、ビジネスデスクがずらりと並び、パソコンや電話が揃っているが、そのデスクの前にいるのは、板に付かないビジネススーツを着てネクタイを窮屈そうに締めた、ダークエンジェルズたちである。パソコンの画面をよく見ると、ほとんどはゲームかインターネットのHサイトである。

  薫が奥の部屋のドアを開けると、どっしりとしたデスクの後ろで、ふかふかのソファに沈み込んで本を読んでいる「男」の姿が見える。

薫「ボス、野村が発見されたようですよ。発見したのは菊岡組です」

「男」「そうか。日本のヤクザは警察よりは優秀だな。では、我々の事も知られたな」

薫「野村はうんと脅しときましたが、拷問されれば、すぐに吐くでしょう」

「男」「少し仕事を急ぐ必要が出てきたな。野村の奴、殺しとくべきだった。で、お前らの足取りは悟られてないだろうな」

薫「あの仕事が我々の仕事らしいということは、おそらく警察も推測していると思います。なにしろ、我々全員が失踪して、もう三ヶ月になりますから。メンバーの中には、家族に会いたいと言う者もいますし……」

「男」「家族? 何を馬鹿なことを。お前らは、捕まれば無期懲役か死刑間違いなしの犯罪者だぞ。そんな人間が家族に何の用がある」

薫「もちろん、メンバーの大半は、その覚悟を決めてます。だが、中には家族思いの奴もいて……」

「男」「家族のことはあきらめるように、お前からよく言い聞かせておけ。偵察目的以外では、自分の家の近くには立ち寄るなとな」

薫「はい」

  電話の音。ドアが開いて、透が顔を出す。

透「ボス、例の刀剣商から、注文の品が出来たという電話です。届けさせますか? それとも、俺が取りに行きましょうか?」

「男」「いや、俺が自分で行く。薫、後は任せたぞ」

薫(深々とお辞儀をして)「はい。いってらっしゃい」

  刀剣商の店。「男」が店内に入ってきたのを見て、店の主人が会釈をする。

「男」「できたそうだな。見せてくれ」

  主人、無言で、品物を差し出す。見かけは只のステッキだが、男がその上部をひねって抜くと、刀身が現れる。鍔のないサーベルを仕込み杖にしたものである。

「男」(満足そうに)「見事なものだな」

主人「観賞用としてもたいしたものですが、切れ味はもっといいですよ。奥の部屋に、試し切り用の巻き藁がありますが、お試しになりますか?」

「男」「いや、後で試してみよう。支払いはこれでいいな?」

  「男」は背広の内ポケットから札束を取り出し、主人に渡す。

主人(不審そうに)「お約束より、だいぶ多いようですが?」

「男」「取っておけ。その代わり、この品のことも、俺のことも、誰にも言うな。もしも、口外したら、この剣、真っ先にお前の首を取るかもしれんぞ」

主人(男の目の色に震え上がり)「は、はい、もちろんです」(フェイド・アウト)

 

町で聞き込みをするヤクザたちを数ショット連続、無音で。(フェイド・アウト)

 

  背後を気にしながら六本木のアジトを出るヨシオ。

  電車に乗っているヨシオ。

  オンボロの自分のアパートの前で、キョロキョロとあたりを窺うヨシオ。人気の無いのを見極め、アパートに入る。

  汚い煎餅布団から首を起こして、ヨシオを見るヨシオの母。

ヨシオの母「ヨシオ! 今までどこに行ってたの!」

ヨシオ「母ちゃん、御免な……」

○ ヨシオのアパートの前の貧しげな風景。

  アパートのドアが開いて、ヨシオの顔が見える。背後に心を残しながら、出ようとしている。

ヨシオ「……じゃあな、母ちゃん。金を無駄遣いすんなよ……」

  ヨシオ、ドアの前に立ちふさがる男達にぶつかる。

  ヨシオを見下ろす男たち。ヤクザである。

ヤクザ(にやりと笑って)「ヨシオだな。やっとつかまえたぜ」

  蒼白になるヨシオの顔。(フェイド・アウト)

 

  六本木の「信頼証券」。「男」の部屋で薫が男に頭を下げている。

薫「お願いします。俺はあいつを助けたいんです」

「男」「規律を破って家に戻り、捕まった奴だ。殺されて仕方がないところだが、今度ばかりはお前に免じて助けてやろう」

薫「菊岡組の連中は、俺達が盗んだ金を全部持って、今晩、組の事務所に来いと言ってます。俺一人で来いと言いましたが、一人で持てる金じゃないと言うと、三人までいいと言っていました」

「男」(頷いて)「わかった。透を呼べ。今から、ヨシオを助ける段取りを話す」(フェイド・アウト)

 

  新宿歌舞伎町。夜。大通りから少し奥まった所にある菊岡組のビル。貧相な三階建てのビルである。一階は不動産屋、二階三階が組の事務所である。

  菊岡組の事務所内部。窓から見下ろしたチンピラが、後ろを振り向いて報告する。

チンピラ「来ましたぜ。ダークエンジェルズのガキどもです」

  菊岡組の実質的ナンバーワンの富永。ゴルフのパター練習をやめて、窓に近づく。

富永(窓から見下ろし)「三人だな。奴らが来たら、武器を持ってないか、入り口でボディチェックしろ」

  下の舗道から菊岡組に入ろうとする薫、透ともう一人のダークエンジェル。それぞれ、両手にボストンバッグを持っている。

  見張りのチンピラにボディチェックを受ける三人。

  二階の事務所。いかにもヤクザの事務所らしい凶悪さと悪趣味さに溢れた調度や掛け物。

富永(ふてぶてしい態度で相手を威圧しながら)「薫ってえのはお前か。お前ら、とんでもねえことしやがって、自分らのやったことわかってんのか? 日本中のヤクザが目の色変えて、お前らの後を追ってんだぞ」

  顔を見合わす三人。本当はたいして怯えてもいないが、精一杯しおらしい表情を作っている。

富永「金は持ってきたな? そのテーブルの上に置きな」

薫(バッグをテーブルの上に置きながら)「ヨシオは? 引き換えが条件のはずだ」

富永(テーブルを拳でどすんと殴って)「このガキャあ! 条件だあ? 生きて帰れるかどうかてめえの心配しろ!」

  ビルの側面の狭い路地。闇の中から姿を現した「男」が、上を仰いで、手にした細いロープを投げ上げる。ロープの先端のフックが、屋上の一部にかかる。

  ビルの壁を、ロープで鮮やかに上る「男」。

  三階の窓から、中をのぞき込む「男」

  窓の中の情景。大きなデスクの後ろに、ソファに座った菊岡組組長のでっぷり太った姿が見える。そして、その前の絨毯敷きの床に転がっているのは、ヨシオの姿である。彼は後ろ手に手錠をかけられ、顔は拷問されて青黒く腫れ上がっている。室内には、もう一人、若くたくましいヤクザがいる。

  窓に手を掛け、それを開く「男」。

  室内に飛び込んできた男に驚く組長と、そのボディガード。「男」は素早く若いヤクザに近づき、背後に持っていた仕込み杖のサーベルを、横になぎ払う。

  宙を舞う若いヤクザの首。

組長(驚愕して、銜えていたパイプが口から落ちる)「き、貴様!」

  その太いのど頸に、「男」のサーベルが、すっと突き刺さる。

  二階事務所。上を見上げる富永。

富永「上が騒がしいな。誰か、様子を見てこい」

  部屋を出ようとしてドアを開けるチンピラ。足を止めて、後ずさりする。

  不審そうな顔になる、室内のヤクザたち。

  チンピラの胸に突きたったサーベルが見え、そのままチンピラは床に崩れ落ちる。

  室内にゆっくり入ってくる「男」

  「手前!」と叫びながらピストルを抜く富永。その手首を、「男」のサーベルが切り落とす。

  ピストルを握ったまま、ぼとっと床に落ちる手首。

  床に転げて苦悶の声で泣き叫ぶ富永。その間にも、男は素早い身のこなしで、室内の、他のヤクザを次々に斬殺する。

  床に転がる富永を見下ろす「男」

「男」(富永の首にサーベルを当てて)「ヨシオの手錠の鍵と、金庫の鍵をよこせ」

富永(苦痛の声をあげながら、やっと答える)「……手錠の鍵は、三階の、見張りが持っているはずだ。金庫の鍵は、組長のポケットか、デスクの中だろう」

「男」(頷いて)「なかなか素直だ。今すぐ楽にしてやる」

  富永の心臓に突き立てられるサーベル。

  三階のヨシオを救出し、金庫を開ける薫たち。

  菊岡組の事務所を出て、近くに止めてあったライトバンに乗り込む「男」とダークエンジェルズ。

  闇の中に消えていく車。(フェイド・アウト)

「丸正電設」の前で張り込みをする野村の数ショット。

  夜。携帯電話が鳴り、電話機を耳に当てる安田。

  「男」のアジトの前で、携帯電話に小声で話す野村。

野村「安田さんか? チャンスだ。今日は中からどんどん人が出て行っている。数えたら、十五人いた。中に残っているのは、あと一人か二人だ。もしかしたら、まったくカラかもしれん」

安田「よし、わかった。すぐ行く」

  中古のBMWを飛ばす安田。

  自動車の運転席から、「男」のアジトの前に立つ野村が見える。

  手を上げて合図する野村。

  車から下りる安田。二人は、頷き合う。

  塀をよじのぼる二人。

  開いたままの玄関から入る二人。安田はピストルを抜く。野村にもピストルを渡す。

  一階のトレーニング場。常夜灯がついているだけで、人はいない。

  二階の大食堂。同じく、ガランとしている。

  三階の会議室も同じ。

  四階。ここは廊下があり、部屋が幾つかある。その部屋の一つから明かりが漏れ、人のうめき声がする。マキのあえぎ声である。顔色を変える野村。

  ドアから覗く野村。

  ベッドの上で、裸で絡み合う「男」とマキ。喜悦の声を上げるマキ。

  屈辱と憤怒に唇をかむ野村。

  野村の後ろから、安田が彼の肩を叩く。

安田「マキの奴、嬉しそうな声を上げてるじゃねえか。だが、野郎を片づけるのは、後だ。まずは金が先だ」

  もう一つの部屋に入る二人。懐中電灯で照らし出された室内には、金庫らしいものはない。

  突然、部屋の明かりがつく。

  二人が驚いて見回すと、部屋の入り口には、ダークエンジェルズの少年達が並んで、彼らを見ている。

野村(仰天して)「て、手前ら!」

薫(一歩前に出て、冷たい口調で)「やっぱりあんたか。先輩、用事なら、昼間堂々と来てくださいよ。そちらは菊岡組の安田さんだね。ヤクザがうちに何の用です」

野村「うるせえ! サラ金強盗が手前らの仕業だってことはつかんでるんだ。金をよこしな。それとも、死んでみるか?」

  野村と安田、威嚇するようにピストルを誇示する。薫の顔に、かすかな動揺の色が現れる。

安田「おい、兄ちゃん、玄人を甘く見るんじゃないぞ。え? こっちは遊びじゃねえんだ。いきがってると死ぬぜ」

  別の方角から、「男」の声。「金はこっちだ」

  振り返る野村と安田。全員の死角になっていたドアが開いていて、「男」がボストンバッグを手にして現れる。「男」は、バッグをテーブルの上に載せて、それを開いてみせる。中の札束が見える。

「男」「これが欲しいのなら、やろう。そら!」

  「男」はバッグを安田の足元に放り投げる。

  思わず、かがみ込んでバッグに手を伸ばす安田。

  テーブルの上のガラスの灰皿を掴む「男」の手。その灰皿は、鋭い手首のスナップで投げられる。

  宙を飛ぶ灰皿。

  (スローモーションで)安田の額に激突し、額を砕く灰皿。後方にのけぞって倒れる安田。

  (同じくスローモーションで)警棒を腰のベルトから抜き、野村のピストルを持った腕を打ち据える薫。腕が折れる音。

薫(「男」と野村を交互に見て)「こいつ、どうします?」

「男」「その死体と一緒に地下室に閉じこめておけ。食料は一週間分くらいも入れておけばいいだろう。日本の警察やヤクザがここを突き止めるのが早ければ、生きて出られるだろう」

  野村を引き立て、安田の死体をかついで部屋から運び出す少年たち。

「男」「ここも引き上げ時だな。お前ら、要らない物や、足のつきそうな物を一時間で処分して、車に乗り込め」

  闇の中を、車に乗り込むダークエンジェルズたち。次々と車が発進した後、闇の中に静まり返るアジト。(フェイド・アウト)

 

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