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  ダークエンジェルズのアジト。例の廃工場である。その事務室で、薫が、いらいらした顔で、無線機の前の透の様子を見ている。

薫「なぜ、サンタマリア号は来ない! 本当なら、もう十二時間も前に着いているはずだ」

透(クールに)「南方海上での時化のため、遅れるそうだ。到着は、明日の夕方以降になると言っている」

薫(あきれた顔で)「二日近くも遅れるのか! まさかこんなつまらん事で、すべてがパアになるんじゃないだろうな」

「男」「うろたえるな、薫。みっともないぞ。それより、お前らみんな指名手配されてるんだから、絶対に外に出るんじゃないぞ」 

薫「もう遅いですよ。ほら、奴ら、やってきました」

  パトカーのサイレンの音。夕暮れの中、無数のパトカーがアジトに迫ってくる。

  アジトのビルの屋上から、見渡す限りパトカーに埋め尽くされた情景を眺める「男」と薫。

「男」(微笑して)「壮観だな。これだけのパトカーを総動員したのは、日本警察始まって以来だろう」

薫「そして、我々は壮大な失敗者として犯罪史に名を残すってわけですか?」

「男」「まだ、そう決まったわけじゃない。我々には、あのヘリがある」

薫「しかし、あのヘリは、航続距離がたった70キロしかないんですよ。10トン近い荷物を抱えて、ここから東京湾まで持つかどうかもわからないくらいだ。それに、持ったとしても、船はまだ来ていない。東京湾まで出たところで、海にボチャンだ」

「男」「海まで出る必要はない」

薫(不思議そうに)「どこに下りるんです? どこに下りようが、下りたところで逮捕、あるいは射殺、爆殺ですよ」

「男」「いいから、全員をヘリに乗り込ませて、エンジンを掛けておけ。いや、健太郎とタカヨシの二人は、バズーカ砲を持ってここにくるように言え。少し時間稼ぎをしよう。」

  廃工場の周りを埋め尽くすパトカー。パトカーばかりでなく、トラックから機動隊がぞろぞろ出て、ピストルやライフルを手に、配置についている。

  真っ赤な夕焼けの中、ビルの屋上に一人立って、下を見下ろす「男」。手にはライフルを持っている。

  警官隊の中から、小林刑事が前に出て、拡声器を口に当てる。

小林「ダーク・エンジェルズの諸君! 君たちは完全に包囲された。武器を捨てて、手を上げて出てきなさい」

  ライフルを肩に当て、小林を狙う「男」

  スコープの中の小林の上半身。発射音とともに、その眉間に穴が開いて、血が噴き出すのが見える。

  一斉に射撃を開始する警官隊。

  屋上の物陰に腰をかがめる「男」。

  二階の窓からバズーカ砲で警官隊のパトカーを狙う健太郎とタカヨシ。

  バズーカ砲が発射され、轟音とともにパトカーが火柱をあげて吹っ飛ぶ。

  次々にパトカーを砲撃する二人。恐慌に陥る警官隊。

  屋上から飛ぶように駆け下りる「男」。バズーカ砲を捨てた健太郎とタカヨシがそれに続く。

  ビルからの砲撃がやんだのに気づいて、ビルを見上げる警官隊。

  異様な振動音がビルの背後から響き、やがてビルに隠れた中庭からビルの後ろ側に、巨大なヘリコプターが現れる。

  呆然とする警官隊。だが、すぐにヘリコプターへの射撃を開始する。それを後目に、ヘリコプターはどんどん上昇し、夕日に輝きながら射程距離を離れていく。

  夕闇の中を飛行する巨大ヘリコプター。その姿は、モビー・ディックさながらである。

  内閣官房長官室。警視総監と内閣官房長官が、腕組みをして思案している。

  警察官僚並木警視正が、事件の報告に現れる。

並木「総監、連中の行く先が判明しました。この進路からして、連中は、ここに向かうつもりです」

  地図の一点を指す並木の手。官房長官は奇妙な悲鳴を上げる。

官房長官「こ、皇居だと?」

並木「はい。単に着陸するためか、皇居を攻撃するつもりかはわかりませんが、皇居を目指していることは確実だと思われます」

警視総監「そ、それだけは何としても避けなくてはならん。連中が皇居に達する前に、爆破できんか?」

並木「しかし、下はすべて民家で、上空であのヘリを爆破した場合、少なくとも百人以上の死傷者が出ますが?」

官房長官「それは困る。そんなことになったら、内閣総辞職だ」

警視総監「背に腹は代えられんでしょう。並木君、すぐに自衛隊に連絡して、奴らが皇居に達する前に、ヘリを爆破するように頼んでくれ」

並木(不賛成だ、という感じで頭を振りながら)「奴らが、皇居を攻撃するとまだ決まったわけではありませんよ」

警視総監「何を悠長な事を言ってる。陛下の御身が危ないんだぞ!」

  官房長官の机の上の電話が鳴る。受話器を取る官房長官。

官房長官(他の二人を振り返って)「犯人たちから電話が入ったそうだ。今、拡声器につなぐ」

拡声器から流れる「男」の声「警視総監はいるか? あるいは総理でも誰でもいい。とにかく、そちらの最高責任者に伝える。我々は、ヘリコプターに、ロシアから入手した小型原爆を搭載している。広島、長崎に落ちた原爆くらいの威力はある奴だ。もしも、我々を攻撃したら、すぐにこの原爆を東京の中心地に落とすつもりだ。少なくとも、東京の都心地はすべて破壊されるだろう。我々の邪魔をしなければ、これ以上の被害は与えないと約束しよう。後ほど、我々の要求は伝える。期待して待っていたまえ」

  腰を抜かしたように、ソファに座り込む官房長官。

官房長官「げ、原爆!……」

警視総監「はったりです! ブラフに決まってます!」

官房長官「なぜ、そう断言できる? もしブラフでなかったらどうするつもりだ?……東京に原爆が落ちる!……そんな馬鹿な」

並木(携帯電話に耳を当てて)「ヘリが降下し始めました。やはり、皇居に着陸する模様です」

  頭を抱える警視総監と官房長官。(フェイド・アウト)

 

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  大日本興業銀行頭取、三ツ木守の家の前の道路。午前3時頃。音もなく近づいてきた一台の車が静かに停止し、三人の男が下りる。三人とも黒いスーツ姿である。薫、透、「男」の三人だ。

  薫と透が手を組み合わせてはしごを作り、「男」が、それに足を掛けて、軽々と塀の上に飛び乗る。

  塀の外で待つ二人。

  門が開いて、「男」が現れ、二人に頷く。

  中に入る二人。門の近くに、「男」に殺された番犬、ガードマンの死体が転がっている。

  三ツ木守の寝室。大いびきをかいて寝ている三ツ木の姿。

  三ツ木の肩を揺すって起こす「男」

  寝ぼけた感じで目を開ける三ツ木。「男」を見て驚愕する。

三ツ木「ど、泥棒! 誰かいないか」

  ベッドから這い出し、逃げる三ツ木。「男」はそれを止める様子もなく、見送る。

  あたふたと廊下から階下の居間に下りる三ツ木。そこには、ガムテープで猿ぐつわをされ、縛られた家人と、ガードマン、女中がいて、その側には薫と透がピストルを手にして立っている。

三ツ木(虚勢を張って)「お前達、何が目当てだ。うちには金などないぞ」

薫(さげすむように)「有り金を出して、家の人間の命を救おうとは思わないのか? けちな爺さんだ」

三ツ木「い、いや、十万円くらいなら、ある」

透(テーブルの上に、小型金庫を乗せ、開けてみせながら)「これが十万円か。少なくとも、五百万はありそうだぜ」

  いつの間にか、居間の戸口に「男」が立っている。

「男」「そんなはした金はどうでもいい。三ツ木さん、あんたにやってもらいたい事がある。いやだと言えば、ここであんたの家族もあんたの命も貰う」(フェイド・アウト)

 

  大日本興業銀行。朝。黒いBMWから、三ツ木と「男」が銀行の前に下りる。

  階段を上り、行内に入る二人。

  頭取の姿を見て、挨拶する行員たち。

  頭取室の前で、秘書の女が頭取に挨拶し、側の「男」を不審そうに見る。

三ツ木「こちらは、大蔵省の大石さんだ。大事な用件で、緊急に見えられた。すぐに児島君を呼んでくれ」

  頭取室に入る児島。

  頭取の側の「男」に不審そうな目を向けながらも会釈をする児島。

三ツ木(やや早口に)「こちらは、大蔵省の中でも、特別な部局におられる方だ。特別会計というか、いわば国家財政の隠し金専門だ。で、実は、この銀行にもそういった隠し金があるんだが、それを緊急に、大蔵省の中に移したいとおっしゃるんだ。もちろん、もともと大蔵省の金だから、こちらとしても断ることはできん」

児島「大蔵省の隠し金と言うと?……(ポンと手を叩いて)あの、旧満州国の財宝ですか?」

三ツ木(頷いて)「そうだ。で、君を呼んだのは、その搬出の手配をして貰いたいんだ。なにしろ、五千億から六千億に上る金塊が大半だから、その重さだけでも大変なものだ。手の空いている行員を総動員して、運ばせてほしい。(時計を見て)10時には、大蔵省からのトラックが来ることになっている。あまり、時間がない。行員たちには、このことは知らせるな。変な噂になりかねん。それでなくても、今は不祥事続きで大蔵省はマスコミにはナーバスになっているからな」

児島(頭を下げて)「承知しました」

  部屋を出ていく児島。出ながら、一言もしゃべらない「男」にもう一度不審の目を向ける。

  窓をバックに、腕組みして立っている「男」

  銀行の裏口に停まる10トントラック。制服姿の警官が、その荷台から10人ほど出てくる。

  児島によって鍵を開けられる地下金庫。大金庫の中には、天井近くまで積まれた金塊と、無数の木箱がある。

  裏口から、台車でどんどん運び出され、トラックに積み込まれる財宝。金塊には、カバーがされている。児島がそれを眺めている。

  報告のために、金庫室に戻る児島。

  三ツ木と「男」が、カラになった金庫室に立っている。

児島「搬出は完了しました。受け渡しの書類などは?」

三ツ木「ああ、それは私がサインしておいたからいい」

  児島、何気なく三ツ木の左手を見る。三ツ木は、「男」に見えないようにして、左手の人差し指と中指をクロスしたサインを出している。

  児島、事態に気が付き、青ざめてかすかに頷き、部屋を出る。

  地下金庫室の廊下の端にある緊急電話に急ぎ足で近づく児島。

  電話に手を掛けようとした瞬間、後ろから「男」の腕が伸び、児島の首に巻き付く。

  地下室を出る「男」。その後ろに転がる、三ツ木と児島の二つの死体。(フェイド・アウト)

 

  東京近郊の廃工場の倉庫。10トントラックが現れ、倉庫の一つに入る。

  倉庫の中で、ダークエンジェルズが荷物を下ろし、その一部を小型トラックに積み分ける。

  小型トラックに乗り込み、発車させる「男」

  湾岸道路を走る小型トラック。運転する「男」

  とあるヨットハーバー。「男」のトラックが停まったところには、一台のクルーザーが停泊している。「男」がマイアミで購入したクルーザーである。

  トラックから降り、クルーザーに乗り込む「男」

  クルーザーの後方の屋根が開き、クレーンがトラックを持ち上げ、屋根の中に格納する。

  港に停めてあったメタルグレーのベンツに乗り込む男。

  走り去るベンツ。(フェイド・アウト)

 

  警察。尋問に答えているのは、吉岡の恋人だった奈美である。

奈美「だから言ってるでしょ。あたいの五百万は、ダークエンジェルズのメンバーの吉岡から貰ったもんだって。金の出所なんか知らないわよ。あいつが勝手にあたしに惚れて、くれたんだから」

刑事「薫って奴は知ってるか?」

奈美「知ってるわよ。ちょっといい男だけど、うるさい奴」

刑事「この男か?」(モンタージュ写真を見せる)

奈美「似てるわね。あいつ、何したの?」

刑事「銀行から、五千億円相当の品を強奪したんだ。これは、殺された三ツ木頭取の家族の証言で作ったモンタージュだ。どうやら、ダークエンジェルズの全員が、一連の事件に関わっているらしい」

奈美「私は関係ないわよ。金は吉岡が勝手にくれたんだから」

刑事(舌打ちして)「ああ、その通りだ。あんたは、貰い得ってわけさ」

  小林刑事(マジックミラー越しに尋問の様子を見ながら、他の刑事に指示して)「すぐにダークエンジェルズ全員を指名手配しろ。もちろん顔写真付きでだ」(フェイド・アウト)

  アジトの一室。薫と「男」が向き合って立っている。

薫(唇をきっと噛んで)「俺を抜けさせてください」

「男」「イエスと言うと思うのか?」

薫(挑戦的に)「抜けるのは殺すと言ってましたね。俺を殺しますか? いいですよ。抵抗はしない。どうせあんたに勝てないからな。ノーなら、俺を殺してください」

「男」「なぜ抜けたい? 命が惜しくなったわけではあるまい」

薫「ヨシオの仇をうちたいんです。あいつは、俺達の居場所を白状しないために、自分の頭をぶちぬいて死んだんだ。それに、あいつの母親も殺された……その敵討ちがしたいんだ。あんただって、マキさんの仇がうちたいでしょう。ヨシオの仇がうてないなら、俺は生きていたってしょうがない」

「男」「わかった。『仕事』の後ではだめなんだな?」

薫「正直言って、今度の仕事、成功の確率は五分五分だと俺は思っている。成功しても、何人死ぬかわからない。つかまっても、殺されてもいいが、それではヨシオの仇がうてない」

「男」「一人で抜けて、東亜会相手に何ができる?」

薫「何も東亜会全部と戦うわけじゃない。会長一人でもぶっころせば、俺の気は済む。日本一の大ボスだ。そいつと差し違えたと思えば、ヨシオだって満足だろう。それに……俺が殺した吉岡だって、間接的には東亜会のために死んだようなもんだからな」

「男」「わかった。これはこれで、面白い仕事かもしれん。どうせみんな金だけが目当てで生きているわけじゃない。全員でやろう。透を呼べ。作戦会議だ」

薫(顔がぱっと明るくなって)「はいっ!」(フェイド・アウト)

 

  東京。正月風景。明治神宮の人通り、六本木、渋谷のにぎわい、等々。

  世田谷の閑静な高級住宅街の一画。広い通りには車通りは少ないが、高い塀で囲まれた、巨大な敷地内にある豪壮な屋敷の周辺に、黒塗りのベンツがずらりと路上駐車しているのが目を引く。20台ほどの車の周りには、黒服にサングラスのヤクザたちが、徳大寺の新年会に出席している親分たちを待って、たむろしている。

  塀の中。神宮の参道にも見まがう広い道から屋敷の建物の途中にも駐車場があり、そこにもベンツやキャデラック、リムジンやロールスロイスまで三十台ほど停まっている。

  屋敷の大広間。東亜会の新年会が行われている。百畳敷きの広間に、ばかでかい一枚板のテーブルがあり、その左右に全国の東亜会傘下の暴力団組長がずらりと並んで座っている。

  上座に、徳大寺が機嫌良さそうに、でんと座っている。その背後の床の間には「天照大神」と書かれた掛け軸が掛かり、その前には、全国の大企業、政治家からの年始の品が山のように並んでいる。

  広瀬が徳大寺のそばに腰をかがめて近寄り、小声で報告する。

  天井を向いて高笑いする徳大寺。

  何事か、と戸惑いながら、追従笑いを浮かべる親分たち。

徳大寺(面白そうな顔で)「いや、失敬失敬。今、総理からの年始の品が届いたらしい。あの男、総理になってから、わしに挨拶無しだったが、この前少し注意したら、反省したとみえる」

  どよめき、笑い声を上げ、拍手する親分たち。

  屋敷の駐車場。宅急便のトラックが停まっており、その前で、制服を着た薫と透が黒服の男に形式的な尋問を受けている。

組員「よし、荷物をそこにおろせ」

  薫と透、トラックの荷台の後ろを開ける。振り向いた時、その手にはピストルが握られている。

  あっという間に、三人の組員を撃ち倒す薫と透。

  トラックの後部から、ダークエンジェルズがばらばらと飛び降りる。全員自衛隊風の軍服姿で、その手には、それぞれ機関銃があり、肩には予備の弾倉、腰の周りにはハンドグレネードが五個ずつつり下げられている。最後に下りてきた二人は、バズーカ砲らしきものをかついでいる。

  薫と透、ピストルを腰のガンベルトにつっこみ、機関銃を仲間から受け取る。

  異変に気が付いて、玄関から出てきた組員を、二人の機関銃が撃ち倒す。

  門の外から入ろうとしたボディガードたちも、ダークエンジェルズの機関銃であっさり撃ち殺される。

  玄関から、屋敷に突入する薫と透。屋敷のあちこちから飛び出してくるボディガードたち、組員たちが二人のマシンガンで倒されていく。

  薫のマシンガンが、弾切れしてカラ撃ちする。「しまった」という顔をする薫。

  しめた、と飛び出す組員。その手のピストルが薫を狙っている。

  観念した顔の薫。

  轟音とともに、薫を狙った組員の体が後方に吹っ飛ぶ。

  薫が振り向くと、いつの間に来ていたのか、「男」が例の大型ピストルを両手に構えて立っている。

  「男」「薫、弾切れには気を付けろ。早めにマガジンを換えるんだ」

  頷く薫。

  先頭に立って、大股に進む「男」。

  大広間で右往左往する親分たちを薫と透のマシンガンが撃ち倒していく。

  まったくひるむことなく仁王立ちする徳大寺。

徳大寺「何だ! 貴様ら、どこの者だ」

そのド迫力に、一瞬ひるむ薫と透。

「男」(つまらん、という顔で)「お前が東亜会会長か?」

徳大寺「そうだ! どこの者か聞いとるぞ! 答えろ!」

  発射される「男」のピストル。

  徳大寺の頭部が西瓜のようにはじけ飛び、首のない胴体が、ゆらりと揺れて、すとんと座り込む。

「男」周りの少年達に「全員殺せ」と命じ、踵を返して、大股に去っていく。

  他の部屋を開いて、隠れていた親分達、飛び出してくる組員達にマシンガンを乱射する少年達。

  (上空から)屋敷の外の敷地で、やくざたちにハンドグレネードを投げ、バズーカ砲でロケット弾を撃っている少年達。

  薫(他の少年達に)「よし、全員引き上げだ!」

  宅急便のトラックに乗り込む少年たち。

  それを見て、隠れていた組員が一矢を報いようと、ピストルを持って飛び出す。

  車の助手席に乗っていた「男」が、窓から、その男を大型ピストルで吹っ飛ばす。

  炎上する大徳寺の屋敷を後目に、猛スピードで逃走するトラック。(フェイド・アウト)

 

  警察と報道陣でごったがえす徳大寺邸。まだあちこち煙が立ち上っている。

テレビレポーター(カメラに向かって)「襲われた東亜会会長宅は、新年会の最中で、全国の東亜会傘下の暴力団組長が何十人と集まっており、徳大寺会長を初め、全員が死亡した模様です。正確な人数は不明ですが、少なくとも、死者百人以上に上るものと思われます」

  都内全体にわたって敷かれた警戒網。あちこちで、車を停めて不審尋問が行われている。

  カメラが引くと、それがテレビ画面に代わり、「男」と薫がその画面に見入っている。。

「男」「これで、都内に入るのが難しくなったな。だが、長引くと、かえって危険だ。最後の仕事をすぐに決行するぞ。全員をここに呼べ」

  厳しい顔で頷く薫。

  会議室に集まるダークエンジェルズ。いよいよ、という緊張感と興奮に溢れた顔である。

男(かすかに微笑して)「ダークエンジェルズ諸君、お前達とも長いつきあいになったが、いよいよ最後の仕事だ。これが終われば、一人五十億ずつ手に入れて残りの人生は死ぬまで遊んで暮らすのだ。いいか、最後の最後でドジを踏んで、せっかくのチャンスを棒に振るなよ」

  頷くダークエンジェルズの面々。

「男」「決行は、明日の朝だ。今晩9時に出発する。昼の間に少しでも仮眠を取っておけ。狙うのは、東京都内のある銀行だ。そこの地下には、旧満州国の財宝が眠っている。少なく見積もっても、五千億相当の品だが、その大半はお前らには処分できる品ではない。主な仕事は、俺と薫と透がやる。だが、それ以外の誰の仕事が欠けても失敗するだろう。特に、検問にぶつからないように気をつけるんだ。透、どこで検問が行われているか、警察無線と電話の盗聴をこれまで以上に しっかりやるんだぞ」

  透、頷く。

「男」「タカヨシ、健太郎、今から通過予定ルートを教える。お前らは、オートバイで我々より先に行き、検問がないか、不審な点がないか調べるんだ」

  タカヨシ、健太郎、頷く。

「男」(にやっと笑って)「言っとくが、お前らがドジを踏んで警察に捕まっても、お前らを助ける余裕はないぞ。捕まるくらいなら、死ね。ヨシオのようにな」

  タカヨシ、健太郎、顔を見合わす。だが、不敵な笑いを浮かべ、兵隊風に力強く「サー・イエッサー!」と答える。

「男」(満足そうに頷いて)「グッド・ボーイズ。では、全体の計画手順を説明しよう。テーブルの側に集まれ」(フェイド・アウト)

  六本木のバー。薫と「男」が奥のボックス席で飲んでいる。他のボックス席と違って、側に女がいない。

薫「マキさん、殺されてたんですね」

「男」(無表情に)「ああ」

薫「やっぱり、東亜会でしょうね」

「男」(黙って頷く)

薫「マキさんは、俺達の秘密に詳しくないから、大丈夫だと思いますが、何かヤバイことしゃべってませんかね」

「男」「気にするな。次の仕事が終われば、これですべて終わりだ。全員が、一生遊んでも使い切れない金を手に入れて、日本から永遠におさらばだ」

薫「その仕事ってのは何です? いや、ボスはいつも直前まで言わないってのは知ってますが、まさか、造幣局でも襲おうってんじゃないでしょうね」

「男」「口数が多いぞ。場所をわきまえろ」

  バーの女(近づいてきて)「こちら、お静かね。お代わり、作りましょうか?」

「男」「ああ、作ってくれ。(女の顔を見て)あんた、名前は?」

女(軽薄に)「ミキでーす」

  ホテルのベッド。絡み合う「男」とミキ。(フェイド・アウト)

 

  ヨシオのぼろアパート。季節は冬になっている。アパート前の物寂しい風景。どこからか、「ジングルベル」の歌がかすかに聞こえてくる。

  アパートのドアが開き、ヨシオが出てくる。後ろを振り向いて、母親に最後の言葉をかける。

ヨシオ「じゃあな、母ちゃん。体に気を付けなよ」

母親(布団の上で。ドアからのショット)「ヨシオ、お前、まさかこのままどこかに行ってしまうんじゃないだろうね?」

ヨシオ「大丈夫だよ。また、顔見せるから……」

  外に、誰もいないのを確かめ、安心した顔になるヨシオ。

  角を曲がるヨシオ。そこに待ち伏せていた黒服の男たちを見て、蒼白な顔になる。

  にやっと笑ってヨシオに近づく男たち。

  背後を振り返るヨシオ。そこにも、黒服の男たち。

ヨシオ(泣き笑いの顔で)「またやっちゃったよ、薫。でも、今度はもうみんなに迷惑はかけねえ」

  スーツの内ポケットから、小型拳銃を素早く取り出し、口にくわえるヨシオ。

  アパートの室内。母親が、前に置かれた数百万の現金をぼんやりと見下ろしている。

  外から鳴り響く銃声。母親は、はっと顔を上げる。

母親「ヨシオ!?」(「ジングルベル」がかすかに響き、フェイド・アウト)

 

  ダークエンジェルズの新アジト。軽井沢。ある倒産会社の保養施設で、周りは金網で囲まれ、4面のテニスコートがある。

  会議室。ダークエンジェルズの全員が集まり、沈痛な表情である。薫がメンバーの前に立っており、「男」は、オブザーバーのように、端のソファに掛けて、会議の様子を無表情に眺めている。

薫(暗い顔、厳しい調子で)「ヨシオが、無断で家に帰ったのは許せない。それを阻止できなかった、俺の監督責任もある。だが、いくらなんでも、東亜会がヨシオの家を一年以上も見張っていたというのはおかしい。俺達が日本に帰っていたのが、連中には分かっていたんだ。その原因は、これだ」

  薫、テーブルの上に、ボストンバッグを置く。

薫「前に菊岡組を襲った時に、金庫から奪った物だ。中身は、知ってるとおり、コカインだ。売れば、何十億になるが、足がつきやすいから、誰にも手をつけるなと言ってあったはずだ。どうせみんな金には不自由してないだろうから、これは俺の部屋の押入につっこんであった。誰でも手は出せただろう。こいつを持ち出した者がいる。自分でわかってるな?」(メンバーの顔を見回す)

  メンバーの一人、吉岡が青くなってうつむく。

薫「みんなに内緒にしていたのは悪いが、このアジトから掛ける電話は、すべて録音してある。みんなの安全のためだ。……吉岡、前に出ろ!」

  吉岡、蒼白な顔で全員の前にでる。

薫「この前、お前のつきあっていた奈美に電話していたのを聞いた。シャネル狂いの奈美は、サラ金に五百万の借金があって、ヤクザに追い回されていると言っていた。そいつに、お前は、心配するな、俺がなんとかすると言っていたな。お前は、前の五千万は全部使い切っていたはずだ。その五百万はどうした?」

吉岡(うつむいて)「すまん、俺がそのコカインに手をつけた。誰かに借りるのはいやだったんだ」

薫「馬鹿な奴だ。お前から金を貰った奈美が、サラ金に金を返した後、どうしたか知ってるか? サラ金にまた金を借り直して、その足で、また洋品店に行って、高いバッグを買ったよ」

吉岡(唇を噛んで)「あいつ……」

  薫(同情するような、厳しいような、複雑な表情で)「吉岡、ついてこい」

  薫、「男」の顔を見る。「男」は、軽く頷く。

  部屋を出る薫と、首をうなだれておとなしくその後についていく吉岡。

  会議室で、次の事態を待ち受けるダークエンジェルズ。

  部屋の外から鳴り響く銃声。顔を見合わせるダークエンジェルズ。

  立ち上がって、窓の外を眺める「男」。(フェイド・アウト)

 

  特訓中の、ダークエンジェルズ。ほとんど、軍隊の訓練である。それも、グリーンベレー並のハードさである。

  それを眺めている「男」とサム。

サム(英語で。以下同様。字幕説明)「あの、薫ってのは筋がいい。うちのナンバーワンにも匹敵する喧嘩の才能だ」

「男」(興味なさそうに。英語で)「そうか。それより、頼んだ品物は、いつ来る?」

サム(笑って)「あせるな。今、軍のお偉方に手を回しているところだ。中古のおんぼろヘリコプターといっても、そう簡単に軍からちょろまかすわけにはいかん。もっとも、あんんな化け物、使いようがないから、値段は格安だがな」

「男」「お前が手数料をあんなに取らなきゃあ、もっと安いだろうさ」

サム(大笑いして)「まあ、そう言うな。これも俺の楽しい老後のためだ。傭兵には恩給はないからな」

  格闘技の練習をしている薫。鮮やかな動きで、相手を倒す。

サム(驚いて、軽く口笛を吹き)「見ろよ、とうとう薫がうちのナンバーワンを倒したぜ」

  薫、紅潮した顔で、「男」たちのところに近づいてくる。

薫「お願いします、ボス、一度俺と相手してください」

  無表情に薫を見る「男」

「男」「いいだろう。だが、死んでもしらんぞ」

薫「簡単には殺されません」

  向かい合う二人。薫は身構える。だが、「男」は何の構えもなく、すたすたと薫に歩み寄る。

薫(かっとなって)「なめるな!」

  薫の出したストレートパンチをかいくぐり、男の貫き手が軽く薫の右脇の下を突く。

  うめき声をあげて倒れ、気絶する薫。(フェイド・アウト)

  (フェイド・イン)薫を心配そうにのぞき込んでいる仲間達の顔。

  薫(身を起こしながら、うっと脇の下を押さえ)「いったいどうなったんだ? 俺は何をされたんだ?」

  サム(気の毒そうに)「薫、お前はいいファイターだが、あの男には百回やっても勝てんよ。俺は、どんなプロレスラーでもボクサーでも恐れんが、百地とは素手で戦おうとは思わん。こっちにライフルでもなきゃあな」(フェイド・アウト)

 

  青空。轟音と共に降下してくる一台の巨大なヘリコプター。ジープが5台積め、人間が50人乗れる怪物である。(自衛隊のCH-47Jあたりでもよい)

  着陸したヘリコプターから降りてくるサム。

「男」(サムと握手して)「やっと来たな。荷物の方も大丈夫か?」

サム「ああ、ちっぽけな国となら戦争ができるくらいあるぜ」

  ヘリコプターの荷物出し入れ口から次々に下ろされる木箱。

  木箱のふたがバールで開けられると、中にはぎっしりと武器が詰まっている。機関銃、ピストル、ハンドグレネード、バズーカ砲まである。

サム「どうだい、これだけありゃあ十分だろう? それに、こいつは俺が特別にあつらえたものだが、あんたにやろう」

  木箱の一つから、油紙に包んだ物を取り出して開けると、中から出たのは、巨大なピストルである。

サム「こいつは、ピストルだが、威力は小型の大砲並だ。象だって一発で倒せるぜ」

  サムは、そのピストルを両手で構え、20メートルほど先の立木を狙う。

  サムが引き金を引くと、轟音とともに、立木がまっぷたつになって倒れる。

「男」「気に入った。寄こせ」

  無造作に片手で構える「男」。

サム(心配げに)「おい、こいつの反動はすごいんだぜ。片手では、手首が折れちまう」

「男」「心配いらん」

  引き金を引く「男」

  半分になった木のど真ん中に弾が命中し、さらに半分に裂く。

  感嘆するサムとダークエンジェルズ。(フェイド・アウト)

 

  マイアミ。高級ヨットハーバー。抜けるような青空の下、無数の豪華ヨット、クルーザーが停泊している。

  (遠景)桟橋で、透が「男」と一緒に、ユダヤ系アメリカ人と商談をしている。

  (遠景)商談がまとまったらしく、握手する透とアメリカ人。

  二人の側に停泊しているクルーザー。小型戦艦並の耐久性とスピード、搭載能力を持つ、豪華クルーザーである。真っ白な外観は美しい。

  クルーザーに乗り込む「男」。(フェイド・アウト)

 

  再び、ダークエンジェルズの訓練風景。簡潔に。特に、銃砲の訓練を中心に。季節が夏から秋に移り変わることも、暗示する。(フェイド・アウト)

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