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  アジトの一室。薫と「男」が向き合って立っている。

薫(唇をきっと噛んで)「俺を抜けさせてください」

「男」「イエスと言うと思うのか?」

薫(挑戦的に)「抜けるのは殺すと言ってましたね。俺を殺しますか? いいですよ。抵抗はしない。どうせあんたに勝てないからな。ノーなら、俺を殺してください」

「男」「なぜ抜けたい? 命が惜しくなったわけではあるまい」

薫「ヨシオの仇をうちたいんです。あいつは、俺達の居場所を白状しないために、自分の頭をぶちぬいて死んだんだ。それに、あいつの母親も殺された……その敵討ちがしたいんだ。あんただって、マキさんの仇がうちたいでしょう。ヨシオの仇がうてないなら、俺は生きていたってしょうがない」

「男」「わかった。『仕事』の後ではだめなんだな?」

薫「正直言って、今度の仕事、成功の確率は五分五分だと俺は思っている。成功しても、何人死ぬかわからない。つかまっても、殺されてもいいが、それではヨシオの仇がうてない」

「男」「一人で抜けて、東亜会相手に何ができる?」

薫「何も東亜会全部と戦うわけじゃない。会長一人でもぶっころせば、俺の気は済む。日本一の大ボスだ。そいつと差し違えたと思えば、ヨシオだって満足だろう。それに……俺が殺した吉岡だって、間接的には東亜会のために死んだようなもんだからな」

「男」「わかった。これはこれで、面白い仕事かもしれん。どうせみんな金だけが目当てで生きているわけじゃない。全員でやろう。透を呼べ。作戦会議だ」

薫(顔がぱっと明るくなって)「はいっ!」(フェイド・アウト)

 

  東京。正月風景。明治神宮の人通り、六本木、渋谷のにぎわい、等々。

  世田谷の閑静な高級住宅街の一画。広い通りには車通りは少ないが、高い塀で囲まれた、巨大な敷地内にある豪壮な屋敷の周辺に、黒塗りのベンツがずらりと路上駐車しているのが目を引く。20台ほどの車の周りには、黒服にサングラスのヤクザたちが、徳大寺の新年会に出席している親分たちを待って、たむろしている。

  塀の中。神宮の参道にも見まがう広い道から屋敷の建物の途中にも駐車場があり、そこにもベンツやキャデラック、リムジンやロールスロイスまで三十台ほど停まっている。

  屋敷の大広間。東亜会の新年会が行われている。百畳敷きの広間に、ばかでかい一枚板のテーブルがあり、その左右に全国の東亜会傘下の暴力団組長がずらりと並んで座っている。

  上座に、徳大寺が機嫌良さそうに、でんと座っている。その背後の床の間には「天照大神」と書かれた掛け軸が掛かり、その前には、全国の大企業、政治家からの年始の品が山のように並んでいる。

  広瀬が徳大寺のそばに腰をかがめて近寄り、小声で報告する。

  天井を向いて高笑いする徳大寺。

  何事か、と戸惑いながら、追従笑いを浮かべる親分たち。

徳大寺(面白そうな顔で)「いや、失敬失敬。今、総理からの年始の品が届いたらしい。あの男、総理になってから、わしに挨拶無しだったが、この前少し注意したら、反省したとみえる」

  どよめき、笑い声を上げ、拍手する親分たち。

  屋敷の駐車場。宅急便のトラックが停まっており、その前で、制服を着た薫と透が黒服の男に形式的な尋問を受けている。

組員「よし、荷物をそこにおろせ」

  薫と透、トラックの荷台の後ろを開ける。振り向いた時、その手にはピストルが握られている。

  あっという間に、三人の組員を撃ち倒す薫と透。

  トラックの後部から、ダークエンジェルズがばらばらと飛び降りる。全員自衛隊風の軍服姿で、その手には、それぞれ機関銃があり、肩には予備の弾倉、腰の周りにはハンドグレネードが五個ずつつり下げられている。最後に下りてきた二人は、バズーカ砲らしきものをかついでいる。

  薫と透、ピストルを腰のガンベルトにつっこみ、機関銃を仲間から受け取る。

  異変に気が付いて、玄関から出てきた組員を、二人の機関銃が撃ち倒す。

  門の外から入ろうとしたボディガードたちも、ダークエンジェルズの機関銃であっさり撃ち殺される。

  玄関から、屋敷に突入する薫と透。屋敷のあちこちから飛び出してくるボディガードたち、組員たちが二人のマシンガンで倒されていく。

  薫のマシンガンが、弾切れしてカラ撃ちする。「しまった」という顔をする薫。

  しめた、と飛び出す組員。その手のピストルが薫を狙っている。

  観念した顔の薫。

  轟音とともに、薫を狙った組員の体が後方に吹っ飛ぶ。

  薫が振り向くと、いつの間に来ていたのか、「男」が例の大型ピストルを両手に構えて立っている。

  「男」「薫、弾切れには気を付けろ。早めにマガジンを換えるんだ」

  頷く薫。

  先頭に立って、大股に進む「男」。

  大広間で右往左往する親分たちを薫と透のマシンガンが撃ち倒していく。

  まったくひるむことなく仁王立ちする徳大寺。

徳大寺「何だ! 貴様ら、どこの者だ」

そのド迫力に、一瞬ひるむ薫と透。

「男」(つまらん、という顔で)「お前が東亜会会長か?」

徳大寺「そうだ! どこの者か聞いとるぞ! 答えろ!」

  発射される「男」のピストル。

  徳大寺の頭部が西瓜のようにはじけ飛び、首のない胴体が、ゆらりと揺れて、すとんと座り込む。

「男」周りの少年達に「全員殺せ」と命じ、踵を返して、大股に去っていく。

  他の部屋を開いて、隠れていた親分達、飛び出してくる組員達にマシンガンを乱射する少年達。

  (上空から)屋敷の外の敷地で、やくざたちにハンドグレネードを投げ、バズーカ砲でロケット弾を撃っている少年達。

  薫(他の少年達に)「よし、全員引き上げだ!」

  宅急便のトラックに乗り込む少年たち。

  それを見て、隠れていた組員が一矢を報いようと、ピストルを持って飛び出す。

  車の助手席に乗っていた「男」が、窓から、その男を大型ピストルで吹っ飛ばす。

  炎上する大徳寺の屋敷を後目に、猛スピードで逃走するトラック。(フェイド・アウト)

 

  警察と報道陣でごったがえす徳大寺邸。まだあちこち煙が立ち上っている。

テレビレポーター(カメラに向かって)「襲われた東亜会会長宅は、新年会の最中で、全国の東亜会傘下の暴力団組長が何十人と集まっており、徳大寺会長を初め、全員が死亡した模様です。正確な人数は不明ですが、少なくとも、死者百人以上に上るものと思われます」

  都内全体にわたって敷かれた警戒網。あちこちで、車を停めて不審尋問が行われている。

  カメラが引くと、それがテレビ画面に代わり、「男」と薫がその画面に見入っている。。

「男」「これで、都内に入るのが難しくなったな。だが、長引くと、かえって危険だ。最後の仕事をすぐに決行するぞ。全員をここに呼べ」

  厳しい顔で頷く薫。

  会議室に集まるダークエンジェルズ。いよいよ、という緊張感と興奮に溢れた顔である。

男(かすかに微笑して)「ダークエンジェルズ諸君、お前達とも長いつきあいになったが、いよいよ最後の仕事だ。これが終われば、一人五十億ずつ手に入れて残りの人生は死ぬまで遊んで暮らすのだ。いいか、最後の最後でドジを踏んで、せっかくのチャンスを棒に振るなよ」

  頷くダークエンジェルズの面々。

「男」「決行は、明日の朝だ。今晩9時に出発する。昼の間に少しでも仮眠を取っておけ。狙うのは、東京都内のある銀行だ。そこの地下には、旧満州国の財宝が眠っている。少なく見積もっても、五千億相当の品だが、その大半はお前らには処分できる品ではない。主な仕事は、俺と薫と透がやる。だが、それ以外の誰の仕事が欠けても失敗するだろう。特に、検問にぶつからないように気をつけるんだ。透、どこで検問が行われているか、警察無線と電話の盗聴をこれまで以上に しっかりやるんだぞ」

  透、頷く。

「男」「タカヨシ、健太郎、今から通過予定ルートを教える。お前らは、オートバイで我々より先に行き、検問がないか、不審な点がないか調べるんだ」

  タカヨシ、健太郎、頷く。

「男」(にやっと笑って)「言っとくが、お前らがドジを踏んで警察に捕まっても、お前らを助ける余裕はないぞ。捕まるくらいなら、死ね。ヨシオのようにな」

  タカヨシ、健太郎、顔を見合わす。だが、不敵な笑いを浮かべ、兵隊風に力強く「サー・イエッサー!」と答える。

「男」(満足そうに頷いて)「グッド・ボーイズ。では、全体の計画手順を説明しよう。テーブルの側に集まれ」(フェイド・アウト)

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  六本木のバー。薫と「男」が奥のボックス席で飲んでいる。他のボックス席と違って、側に女がいない。

薫「マキさん、殺されてたんですね」

「男」(無表情に)「ああ」

薫「やっぱり、東亜会でしょうね」

「男」(黙って頷く)

薫「マキさんは、俺達の秘密に詳しくないから、大丈夫だと思いますが、何かヤバイことしゃべってませんかね」

「男」「気にするな。次の仕事が終われば、これですべて終わりだ。全員が、一生遊んでも使い切れない金を手に入れて、日本から永遠におさらばだ」

薫「その仕事ってのは何です? いや、ボスはいつも直前まで言わないってのは知ってますが、まさか、造幣局でも襲おうってんじゃないでしょうね」

「男」「口数が多いぞ。場所をわきまえろ」

  バーの女(近づいてきて)「こちら、お静かね。お代わり、作りましょうか?」

「男」「ああ、作ってくれ。(女の顔を見て)あんた、名前は?」

女(軽薄に)「ミキでーす」

  ホテルのベッド。絡み合う「男」とミキ。(フェイド・アウト)

 

  ヨシオのぼろアパート。季節は冬になっている。アパート前の物寂しい風景。どこからか、「ジングルベル」の歌がかすかに聞こえてくる。

  アパートのドアが開き、ヨシオが出てくる。後ろを振り向いて、母親に最後の言葉をかける。

ヨシオ「じゃあな、母ちゃん。体に気を付けなよ」

母親(布団の上で。ドアからのショット)「ヨシオ、お前、まさかこのままどこかに行ってしまうんじゃないだろうね?」

ヨシオ「大丈夫だよ。また、顔見せるから……」

  外に、誰もいないのを確かめ、安心した顔になるヨシオ。

  角を曲がるヨシオ。そこに待ち伏せていた黒服の男たちを見て、蒼白な顔になる。

  にやっと笑ってヨシオに近づく男たち。

  背後を振り返るヨシオ。そこにも、黒服の男たち。

ヨシオ(泣き笑いの顔で)「またやっちゃったよ、薫。でも、今度はもうみんなに迷惑はかけねえ」

  スーツの内ポケットから、小型拳銃を素早く取り出し、口にくわえるヨシオ。

  アパートの室内。母親が、前に置かれた数百万の現金をぼんやりと見下ろしている。

  外から鳴り響く銃声。母親は、はっと顔を上げる。

母親「ヨシオ!?」(「ジングルベル」がかすかに響き、フェイド・アウト)

 

  ダークエンジェルズの新アジト。軽井沢。ある倒産会社の保養施設で、周りは金網で囲まれ、4面のテニスコートがある。

  会議室。ダークエンジェルズの全員が集まり、沈痛な表情である。薫がメンバーの前に立っており、「男」は、オブザーバーのように、端のソファに掛けて、会議の様子を無表情に眺めている。

薫(暗い顔、厳しい調子で)「ヨシオが、無断で家に帰ったのは許せない。それを阻止できなかった、俺の監督責任もある。だが、いくらなんでも、東亜会がヨシオの家を一年以上も見張っていたというのはおかしい。俺達が日本に帰っていたのが、連中には分かっていたんだ。その原因は、これだ」

  薫、テーブルの上に、ボストンバッグを置く。

薫「前に菊岡組を襲った時に、金庫から奪った物だ。中身は、知ってるとおり、コカインだ。売れば、何十億になるが、足がつきやすいから、誰にも手をつけるなと言ってあったはずだ。どうせみんな金には不自由してないだろうから、これは俺の部屋の押入につっこんであった。誰でも手は出せただろう。こいつを持ち出した者がいる。自分でわかってるな?」(メンバーの顔を見回す)

  メンバーの一人、吉岡が青くなってうつむく。

薫「みんなに内緒にしていたのは悪いが、このアジトから掛ける電話は、すべて録音してある。みんなの安全のためだ。……吉岡、前に出ろ!」

  吉岡、蒼白な顔で全員の前にでる。

薫「この前、お前のつきあっていた奈美に電話していたのを聞いた。シャネル狂いの奈美は、サラ金に五百万の借金があって、ヤクザに追い回されていると言っていた。そいつに、お前は、心配するな、俺がなんとかすると言っていたな。お前は、前の五千万は全部使い切っていたはずだ。その五百万はどうした?」

吉岡(うつむいて)「すまん、俺がそのコカインに手をつけた。誰かに借りるのはいやだったんだ」

薫「馬鹿な奴だ。お前から金を貰った奈美が、サラ金に金を返した後、どうしたか知ってるか? サラ金にまた金を借り直して、その足で、また洋品店に行って、高いバッグを買ったよ」

吉岡(唇を噛んで)「あいつ……」

  薫(同情するような、厳しいような、複雑な表情で)「吉岡、ついてこい」

  薫、「男」の顔を見る。「男」は、軽く頷く。

  部屋を出る薫と、首をうなだれておとなしくその後についていく吉岡。

  会議室で、次の事態を待ち受けるダークエンジェルズ。

  部屋の外から鳴り響く銃声。顔を見合わせるダークエンジェルズ。

  立ち上がって、窓の外を眺める「男」。(フェイド・アウト)

 

  特訓中の、ダークエンジェルズ。ほとんど、軍隊の訓練である。それも、グリーンベレー並のハードさである。

  それを眺めている「男」とサム。

サム(英語で。以下同様。字幕説明)「あの、薫ってのは筋がいい。うちのナンバーワンにも匹敵する喧嘩の才能だ」

「男」(興味なさそうに。英語で)「そうか。それより、頼んだ品物は、いつ来る?」

サム(笑って)「あせるな。今、軍のお偉方に手を回しているところだ。中古のおんぼろヘリコプターといっても、そう簡単に軍からちょろまかすわけにはいかん。もっとも、あんんな化け物、使いようがないから、値段は格安だがな」

「男」「お前が手数料をあんなに取らなきゃあ、もっと安いだろうさ」

サム(大笑いして)「まあ、そう言うな。これも俺の楽しい老後のためだ。傭兵には恩給はないからな」

  格闘技の練習をしている薫。鮮やかな動きで、相手を倒す。

サム(驚いて、軽く口笛を吹き)「見ろよ、とうとう薫がうちのナンバーワンを倒したぜ」

  薫、紅潮した顔で、「男」たちのところに近づいてくる。

薫「お願いします、ボス、一度俺と相手してください」

  無表情に薫を見る「男」

「男」「いいだろう。だが、死んでもしらんぞ」

薫「簡単には殺されません」

  向かい合う二人。薫は身構える。だが、「男」は何の構えもなく、すたすたと薫に歩み寄る。

薫(かっとなって)「なめるな!」

  薫の出したストレートパンチをかいくぐり、男の貫き手が軽く薫の右脇の下を突く。

  うめき声をあげて倒れ、気絶する薫。(フェイド・アウト)

  (フェイド・イン)薫を心配そうにのぞき込んでいる仲間達の顔。

  薫(身を起こしながら、うっと脇の下を押さえ)「いったいどうなったんだ? 俺は何をされたんだ?」

  サム(気の毒そうに)「薫、お前はいいファイターだが、あの男には百回やっても勝てんよ。俺は、どんなプロレスラーでもボクサーでも恐れんが、百地とは素手で戦おうとは思わん。こっちにライフルでもなきゃあな」(フェイド・アウト)

 

  青空。轟音と共に降下してくる一台の巨大なヘリコプター。ジープが5台積め、人間が50人乗れる怪物である。(自衛隊のCH-47Jあたりでもよい)

  着陸したヘリコプターから降りてくるサム。

「男」(サムと握手して)「やっと来たな。荷物の方も大丈夫か?」

サム「ああ、ちっぽけな国となら戦争ができるくらいあるぜ」

  ヘリコプターの荷物出し入れ口から次々に下ろされる木箱。

  木箱のふたがバールで開けられると、中にはぎっしりと武器が詰まっている。機関銃、ピストル、ハンドグレネード、バズーカ砲まである。

サム「どうだい、これだけありゃあ十分だろう? それに、こいつは俺が特別にあつらえたものだが、あんたにやろう」

  木箱の一つから、油紙に包んだ物を取り出して開けると、中から出たのは、巨大なピストルである。

サム「こいつは、ピストルだが、威力は小型の大砲並だ。象だって一発で倒せるぜ」

  サムは、そのピストルを両手で構え、20メートルほど先の立木を狙う。

  サムが引き金を引くと、轟音とともに、立木がまっぷたつになって倒れる。

「男」「気に入った。寄こせ」

  無造作に片手で構える「男」。

サム(心配げに)「おい、こいつの反動はすごいんだぜ。片手では、手首が折れちまう」

「男」「心配いらん」

  引き金を引く「男」

  半分になった木のど真ん中に弾が命中し、さらに半分に裂く。

  感嘆するサムとダークエンジェルズ。(フェイド・アウト)

 

  マイアミ。高級ヨットハーバー。抜けるような青空の下、無数の豪華ヨット、クルーザーが停泊している。

  (遠景)桟橋で、透が「男」と一緒に、ユダヤ系アメリカ人と商談をしている。

  (遠景)商談がまとまったらしく、握手する透とアメリカ人。

  二人の側に停泊しているクルーザー。小型戦艦並の耐久性とスピード、搭載能力を持つ、豪華クルーザーである。真っ白な外観は美しい。

  クルーザーに乗り込む「男」。(フェイド・アウト)

 

  再び、ダークエンジェルズの訓練風景。簡潔に。特に、銃砲の訓練を中心に。季節が夏から秋に移り変わることも、暗示する。(フェイド・アウト)

  アメリカ。ミネソタの地方空港。

  小さな飛行機が着陸し、ダークエンジェルズのタカヨシ、ミツルの二人がタラップを下りてくる。

  周りを見回す二人。

  殺風景な周囲の景色。

タカヨシ「ひでえ田舎だな」

ミツル「おい、迎え、来てるよな……。こんな所に置いてかれたらたまんねえよ」

  空港の外に出る二人。

  猛スピードで近づく一台のジープ。

  運転席から二人に笑い賭ける仲間の健太郎。日焼けした、たくましい様子である。

健太郎「おせえぞ。お前達が一番最後だ。ぎりぎりに来やがって。どうだ、南米は楽しかったか?」

タカヨシ「ああ、面白かったぜ。これで楽しい毎日も終わりかと思うと寂しいよ」

健太郎「薫さんは、ずっと退屈だったと言ってる。貰った五千万円の金も、ほとんど使ってないみたいだ」

タカヨシ「馬鹿じゃねえの。いや、薫さんに、馬鹿は失礼だが、金持ち向きの性格じゃないんだな。俺なんか、五千万円ぎりぎり使ったぜ」

ミツル「そのほとんどは、競馬ですったんだがな」

健太郎「競馬場から奪った金を競馬ですってりゃあ世話はねえ。さあ、乗りな。みんな待ってるぜ」

  走るジープ。

  運転席の健太郎に話しかける二人。

ミツル「なあ、こんな所にホテルなんてあんの?」

健太郎「ホテル? 馬鹿、観光じゃねえぞ。キャンプ、地獄のキャンプだ」

タカヨシ「ひえーっ! また特訓かよ」

健太郎「今度は、前より凄いらしいぜ。これに比べりゃあ、前のはお遊びだ、って言うくらいのもんらしい」

  ジープの前方に、米軍基地のような金網張りの敷地が見えてくる。金網の向こうには、カマボコ兵舎。

  フェンスの前で、太い葉巻を吸っていた、軍服を着た巨漢のアメリカ人が、近づくジープを見て、葉巻を地面に投げ捨てる。

  男の前で停まるジープ。

サム(凄みのある微笑を浮かべて、英語で)「地獄のキャンプにようこそ」(フェイド・アウト)

 

  奥多摩。キャンプに来ていたアベックの一人が、木の間に倒れている人間の裸の足らしいものを見つけて近づく。

  茂みをかき分けて、下を覗く男。その顔が驚愕でひきつり、男は悲鳴を上げる。

  うつぶせになって、顔だけ横を向いているマキの全裸死体。(フェイド・アウト)

 

  府中。東京競馬場。快晴の日曜日。

  レース風景。熱狂する観客。

  最終レースが終わり、閑散としたレース場。風に舞う外れ馬券。

  現金輸送車に積み込まれる現金の袋。

  ガードマンの一人の顔。薫である。

  発車する現金輸送車。

  府中市内を走る現金輸送車。

  人気の無い細い道に入る現金輸送車。

  現金輸送車の前を大型トレーラーが急に道を塞ぐ。続いて、その背後も大型トレーラーで塞がれる。

  後ろのトレーラーに乗っていた若者が、座席から下り、「道路工事中、迂回せよ」の看板を道の真ん中に置く。

  強盗の出現に驚く運転手と、助手。

  後部室内で異常に気づき、驚き慌てて、携帯電話を出し、本部に通報しようとするガードマン。

  その横に座っていた薫が、アイスピックで、その心臓を刺す。

  床に崩れ落ちるガードマン。

  運転席から引きずり出される運転手と助手。

  開けられる後部荷台。中から薫が仲間に笑いかける。

  後部荷台に放り込まれる運転手と助手。手足は縛られ、口にはガムテープ。

  (上空からのカメラで)動き始めるトレーラーと現金輸送車。

  (同じく上空から)まるで楽しいドライブででもあるかのような軽快な音楽と共に移動していく三台の車。(フェイド・アウト)

 

  新聞の見出し「中央競馬界現金輸送車襲わる!」「日本犯罪史上最大。35億円強奪!」

 

  新聞を手にしていた人間が、その新聞を畳んで立ち上がり、歩きながらくずかごにポイと入れる。ここは空港の出発ロビーであることがわかる。そして、男は薫である。どこから見ても、大金持ちのお坊ちゃんという感じの身なり。粋なサングラス。

  ロビーの売店で、煙草を買う薫。

  その横に、同じく週刊誌か何かを買おうとして近づいてきた若者。透である。

  売店の前の二人を正面から。二人が、互いに無視しているのが、少々わざとらしく見える。

  出発ロビー全体を映すと、あちこちにダークエンジェルズの姿が見える。みんな、それぞれ他の仲間を無視して、めいめいに行動している。

  飛行機のタラップを上る薫。良く晴れた気持ちのいい天気である。

  サングラスをはずして空を見上げ、眩しそうに目を細める薫。その顔は、実に気持ちよさそうである。

  後ろにいた透を見て、思わず笑いかける薫。驚いたようにそっぽを向く透。

  離陸する飛行機。青空の中に機体は吸い込まれていく。(フェイド・アウト)

 

  コート・ダジュール。(または、カンヌでもモナコでもプロヴァンスでも可)高級ホテルのプールサイド。

  「男」がデッキチェアに寝そべっている。その側に薫もいる。

  側を通る水着姿の美しいフランス女が、「男」に視線を落とす。「男」に非常なセックスアピールを感じている様子。男はそれに気づかないのか、無視している。

  もったいない、という顔で女を見送る薫。

薫(「男」に)「ボス、金持ちの暮らしってのも、案外退屈ですね」

「男」(サングラスの顔を薫に向けて)「ボスはやめろ。今は百地三郎だ」

薫「すみません。でも、あいつらどうしてるかなあ。慣れない大金を持って、ドジを踏んでなきゃあいいが……」

「男」「考えても仕方のない事は考えるな。あいつらがどうなろうと、自分の責任だ。それより、後で今後の予定を話すから、透にも俺の部屋に来るように言っておけ」

薫(無為から逃れられる嬉しさで顔を明るくし)「はいっ!」(フェイド・アウト)

 

  銀座。アイスクリームを舐めながらウインドウショッピングをしているマキ。

  ショーウインドウに映るマキ。その側に、二人の黒服にサングラスの男が現れる。

  驚いて振り返るマキ。その腕を、男たちが捕まえる。

  強引に、黒塗りのベンツに乗せられるマキ。通行人たちが、その様子を驚いて見ている。

  東亜会の事務所。大会社のオフィスといった感じ。壁には、本物の一流絵画。

  事務所の奥の部屋。マキが、猿ぐつわをされ、後ろ手に縛られて椅子に座っている。

  部屋のドアが開き、徳大寺と部下たちが入ってくる。

徳大寺(マキを見下ろし)「ほほう、なかなかの美人ではないか。猿ぐつわをはずして、顔をよく見せてもらおうか」

  マキの猿ぐつわを外す部下。大きく息をついて、徳大寺を睨み付けるマキ。

徳大寺「こんな美人なら、拷問のしがいもある。だが、そのきれいな顔が台無しになる前に、少し楽しませてもらおう」

  服を脱ぎ始める徳大寺。

  マキを押さえつける部下たち。

  悲鳴を上げ、暴れるマキ。

  (マキの目から見た視点で)裸になってマキに近づく徳大寺。(フェイド・アウト)

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