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ちょっと妙な試みをしてみようと思う。昨年イギリスに旅行に行った時に買った「BEDTIME STORIES」という本の中に村上春樹の短編小説が載っていたのだが、同じ本に載っている他の作者を見るとナサニエル・ホーソンとかR・L・スチーブンソンとかモーパッサンとかロード・ダンセイニなどの大物がほとんどで、新しいところではウラジミール・ナボコフとかアーシュラ・K・ル・グインなど、やはり知名度の高い作家ばかりである。その中に入っているのだから、村上春樹も大したものである。
私は実はどちらかと言えば村上春樹の作品は苦手で、あまり読んだことは無いのだが、この中に入っていた「ダンシング・ドワーフ」を少し読んでみると、これがなかなかの傑作であると思われた。そこで、英語からの重訳という形で、この作品を訳してみようと思う。
もちろん、私はこの作品の日本語原作は読んでいない上に英語も不得意なので、誤訳がたくさん出てくると思うし、実は真面目に辞書を引く気もあまり無い。辞書を引くのは必要最低限にして、知らない単語の大半は推測で訳すつもりである。だから、村上作品のまったくのパチモンになるわけだが、それでも村上作品のテイストが少しは出ることになるのか、ひとつの実験である。
とにかく、この作品のファンタジー風味はたいしたもので、村上春樹は短編作家としてのほうが才能はあるような気がする。と言っても、先に書いたように私は彼の作品はほとんど読んでいないのだが。
なお、著作権の問題は、先に書いたように、これは英文からの翻訳であり、村上作品そのものではない、ということで見逃してもらいたい。むしろ、作品の宣伝になる、くらいの広い心を原著者にはお願いしたい。
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名所などで案内掲示や地図に英語や中国語とともにハングル表記が併用されていることが増えているが、それを見ていて、ハングルとは要するに、出来の悪いローマ字だな、と気が付いたので、ネットで探してみると案の定であった。まあ、出来が悪いというのは失礼だが、ローマ字で済むところを妙な字形にしたために、不要な負担を多くの人々に与えているから悪口を言ったのである。
見てのとおり、母音に相当する記号を子音相当記号の右か下につけるだけだから、ローマ字と何も変わりはしない。
そして、ハングルを強制的に国民に使わせた結果、漢字が読める人口が激減したというのは嫌韓サイトなどでよく言われることだが、それも事実だろう。
私自身は、差別意識はゼロだと断言したうえで、ハングルの採用は韓国や北朝鮮の人々にとって不幸だったと思う。



参考資料

  1. 「NHKラジオ基礎英語2」テキスト(平成11年5月号)
    「華麗なる世界の文字ハングル」金裕鴻 (NHKラジオ講師、NHK国際局アナウンサー等)
    ハングルでの五十音表が紹介されています。
  2. K.K氏(静岡県伊東市高校教諭)社会科の先生
    ハングルで自分の名前を書く、粘土板に楔形文字で名前を刻む等のユニークな授 業実践をされています。
    メールで自作の五十音表をお寄せ下さいました。「ん」の表記については、氏の方法を参考にさせていただきました。


下に書くのは、「ちくま文学の森」の「もうひとつの話」に出てくる、或る作家の簡単な紹介だが、その生涯があまりに悲惨すぎて、ナンセンスの域に達している。ついでに、その作家の作品の一節もその下に抜き書きしておくが、こちらもナンセンス・ユーモアに満ちている。


「ドイツのハンブルグに生まれる。実業学校を出て俳優をめざした矢先に召集を受け、東部戦線へ送られる。負傷して国内送還。この間、兵役忌避の疑いで死刑になりかかる。重禁固六週間、出獄後、再び前線へ送られ、病にかかり国内送還。退院後、またもや前線。ついでナチス誹謗のかどでベルリンの刑務所。出獄後、前線へ。戦争が終わったのち、故郷ハンブルグの病院に入院。療養のためバーゼルに転じたが、そこで死去。二十六歳だった。死の前年、短期間に書いたのが一つの戯曲と五十あまりの短編。」



二人(伯父と給仕)が初めて知合になったとき、わたしはそばについていた。その当時わたしの背は、ちょうど鼻がテーブルにのるようになったばかりだった。もっともテーブルがきれいなときでないと鼻はのせられなかった。むろんテーブルはそういつもきれいではあり得なかった。またわたしの母にしても、わたしにくらべて、たいして齢をとってはいなかった。むろんいくらかは齢は上だった。      
           (ボルヒェルト「シシフシュ」小松太郎訳)
興味深いデータなので、メモしておく。

なお、「タイガー! タイガー!」は、実は前回のところまでしか書いていない。グエンが旅芝居をするところが一番書きたかったところで、これはもちろん「グイン・サーガ」にも出てくるエピソードを下敷きにしたものだ。あそこが一番好きな部分なのである。ちなみに、「グエン・バードン」は「くたばれヤンキース」で女悪魔を演じた女優の名、「ソフィ・マルソー」はフランスの美少女俳優だった人だ。

最近は、何か「技痒」を感じるような刺激が無いので、お話を考える意欲もあまり無いのである。
もしかしたら、昔書いた話を載せるかもしれないが、それは他の人との合作のようなものなので、私には公表する権利は無いし、そのまま死蔵しておくのも勿体ない、ということで考慮中だ。




都道府県の犯罪発生率番付

 47都道府県を対象とする犯罪発生率についての地域ランキングです。

 犯罪件数として、政府統計の刑法犯認知件数を使用しています。刑法犯とは、殺人、強盗、強姦、暴行、傷害、詐欺、窃盗、放火などの犯罪を指し、軽犯罪や交通事故(危険運転致死傷など)は含みません。

 世のなか聖人ばかりではないですから、人口が多ければ犯罪件数が増えるのは当たり前なので、単純に件数を比べても、その地域が安全か判断することはできません。そこで、犯罪発生率として、刑法犯認知件数÷人口総数を地域ごとにパーセンテージで算出し、ランキングにしてみました。実質的に人口100人あたりの犯罪件数の比較となっています。

 人口総数は住民登録に基づいているため、昼間の人口が夜間に比べて少ない「ドーナツ化現象」傾向の地域は、大きめの数字が出る点に注意してください。田舎の住人が都会に出てきて犯した犯罪は、都会の犯罪件数にカウントされるということです。

 なお、2010年以降のデータについて、統計局から公表される刑法犯認知件数が都道府県単位のみとなり、現在のところ市区町村単位の新しいデータが公表されていません。各都道府県の公式サイトにて、市区町村単位のデータを公表しているところもあります。

 最上位(1位)は、大阪府の2.059%です。 2位は、愛知県の1.968%です。 3位は、福岡県の1.697%です。

 最下位(47位)は、秋田県の0.529%です。

都道府県の犯罪発生率ランキング
1 大阪府大阪府の番付 2.059 100% 182,537 8,865,245
2 愛知県愛知県の番付 1.968 96% 145,807 7,410,719
3 福岡県福岡県の番付 1.697 82% 86,057 5,071,968
4 京都府京都府の番付 1.690 82% 44,538 2,636,092
5 兵庫県兵庫県の番付 1.623 79% 90,670 5,588,133
6 埼玉県埼玉県の番付 1.579 77% 113,632 7,194,556
7 東京都東京都の番付 1.563 76% 205,708 13,159,388
8 千葉県千葉県の番付 1.551 75% 96,400 6,216,289
9 茨城県茨城県の番付 1.431 69% 42,491 2,969,770
10 和歌山県和歌山県の番付 1.393 68% 13,962 1,002,198
11 三重県三重県の番付 1.377 67% 25,540 1,854,724
12 岐阜県岐阜県の番付 1.342 65% 27,928 2,080,773
13 岡山県岡山県の番付 1.329 65% 25,862 1,945,276
14 栃木県栃木県の番付 1.294 63% 25,981 2,007,683
15 高知県高知県の番付 1.276 62% 9,751 764,456
16 群馬県群馬県の番付 1.201 58% 24,110 2,008,068
17 愛媛県愛媛県の番付 1.175 57% 16,827 1,431,493
18 奈良県奈良県の番付 1.105 54% 15,478 1,400,728
19 宮城県宮城県の番付 1.101 53% 25,859 2,348,165
20 香川県香川県の番付 1.093 53% 10,884 995,842
21 静岡県静岡県の番付 1.091 53% 41,069 3,765,007
22 神奈川県神奈川県の番付 1.085 53% 98,203 9,048,331
23 滋賀県滋賀県の番付 1.082 53% 15,258 1,410,777
24 広島県広島県の番付 1.009 49% 28,853 2,860,750
25 鳥取県鳥取県の番付 0.993 48% 5,845 588,667
26 沖縄県沖縄県の番付 0.986 48% 13,738 1,392,818
27 佐賀県佐賀県の番付 0.973 47% 8,271 849,788
28 福島県福島県の番付 0.962 47% 19,527 2,029,064
29 北海道北海道の番付 0.946 46% 52,092 5,506,419
30 山梨県山梨県の番付 0.942 46% 8,134 863,075
31 徳島県徳島県の番付 0.941 46% 7,389 785,491
32 長野県長野県の番付 0.937 45% 20,161 2,152,449
33 熊本県熊本県の番付 0.936 45% 17,015 1,817,426
34 新潟県新潟県の番付 0.934 45% 22,189 2,374,450
35 山口県山口県の番付 0.897 44% 13,025 1,451,338
36 宮崎県宮崎県の番付 0.846 41% 9,602 1,135,233
37 富山県富山県の番付 0.799 39% 8,740 1,093,247
38 大分県大分県の番付 0.794 39% 9,495 1,196,529
39 福井県福井県の番付 0.790 38% 6,369 806,314
40 石川県石川県の番付 0.753 37% 8,812 1,169,788
41 鹿児島県鹿児島県の番付 0.752 37% 12,837 1,706,242
42 青森県青森県の番付 0.726 35% 9,970 1,373,339
43 島根県島根県の番付 0.719 35% 5,157 717,397
44 山形県山形県の番付 0.685 33% 8,003 1,168,924
45 長崎県長崎県の番付 0.645 31% 9,199 1,426,779
46 岩手県岩手県の番付 0.619 30% 8,240 1,330,147
47 秋田県秋田県の番付 0.529 26% 5,740 1,085,997


第十七章 アンセルムの村

 

フロス・フェリたちに別れを告げてから三日後にグエンたちは森を抜けた。なだらかな草地が上がったり下がったりして、時々は林もあるが、もはや密生した森林地帯ではない。周りの明るくなった景色に、一行は何となく心が軽くなる気分だった。実際には、森の中よりも人里のほうが危険は多いのだが、グエン以外の人間は、やはり人間の世界でこれまで生きてきたのだから。

「まず、道を探しましょう。その道を通っていくか、わざと道を避けるかは別にしても、どこをどう行けばどこに向うかという大体の見当くらいはつけておかないと」

フォックスの言葉にグエンはうなずいた。

「ならば、遠くまで見晴らせる高いところを探してみよう」

そう言って、グエンはゆるい斜面を先に立って登っていった。

その後からフォックスが早足でついていく。

「あなたたちはその辺で休んでいてもいいわ。近くに人はいないようだから」

後からついてこようとする子供たちにはそう声をかけたが、二人の子供は首を振ってグエンたちを追う。

やがて小高い丘の頂上に出た。

西の遠方には、彼らが来た森があり、その北には大山脈が続いている。この大山脈がサントネージュとユラリアの国境だったのである。そして、丘の東にはなだらかな平地が広がっていた。ここからタイラスの中心地に続いていくのである。

ずっと向こうに細く野原を横切っている薔薇色の線がランザロートに続く道だろう。その大都会は、もちろんまだ視界には入らない。だが、その道の途中途中に灰色の集落が見える。村が幾つかあるのである。

「まず、あの村に行きましょう。旅芸人としての初舞台ですよ」

「ああ、そうだな。後で、少しまた打ち合わせをしよう。俺たちの素性についての作り話もまだきちんとできていないからな」

「そうですね。名前はこのまま、ソフィ、ダン、グエンでいいと思いますが、私は変えましょう。フォックスという名前はサントネージュ宮廷では少し知られてますから。そうですね、ええと、前はフローラだったかな。似合わない名前だこと。いいわ、フォッグにしよう」

「フォックスに似すぎていないか?」

「そうかしら。じゃあ、フォギー」

「フォギーだな」

「いい、ソフィ、ダン、私はあなたたちのお母さんで、グエンの奥さんのフォギーよ。忘れないで、人から聞かれたら、そう答えるのよ。ただし、あなたたちはグエンの連れ子ということにします。いくらなんでも、こんな大きいこどもたちのお母さんでは、私が可愛そうよ」

「どうしてさ」

「つまりね、あんたやソフィを私が生んだとしたら、私は30歳くらいの年だと思われるの」

「そうじゃないの?」

「あのねえ、私はまだ25歳よ」

「たいして違わないじゃん」

「たしか、前には24だと言っていたが」

グエンが口をはさむ。

「えっ? そうでしたっけ。まあ、どっちでもいいでしょうが。案外と細かいことを覚えているわねえ」

「いや、すまない。なるべく打ち合わせは正確にしておきたいのでな」

「はいはい、25ですよ。大年増です」

「フォギーは若いわよ。それに、サントネージュ一番の美人だわ」

「ありがとう。ソフィはやさしいわね。それに比べて、この男たちは」

グエンとダンは肩をすくめた。フォギーの年が20歳だろうが30歳だろうが、彼らにはまったく関心の外である。

 

半日ほど歩くと、後少しのところに集落が見えてきた。

「さて、旅芸人ならば、本当は馬車の一つもほしいところね」

フォギーが言う。

「エーデル川を渡る時に、馬も馬車も捨てたからな」

「幸い、お金はあるけど、タイラスのお金ではないからねえ」

「あの、少しならタイラスのお金があります」

「えっ?」

フォギーはソフィを見た。

「あの、緑の森の盗賊たちと一緒にいたお姉さんから貰ったんです」

「貰った?」

「はい。その代わりに、サントネージュのお金を少しあげました」

「何だ。交換したわけね。でも、良かった。どれくらいある?」

「はい。これは、いくらくらいなんでしょう」

「ふうん、金貨と銀貨だから、結構あるんじゃないかしら。助かるわ。少なくとも、食事代や宿代くらいにはなりそうね」

「宝石は金にはならんのか?」

「都会なら金に換えることもできるでしょうけどねえ」

「物のほうが金に換え易ければ、俺の剣を売ってもいいぞ」

「まさか。売るなら、私の剣を売りますよ。私が剣を持つより、グエンが持つほうが百倍いいに決まってます」

「まあ、どうせ敵から奪った剣だから、それほど愛着もない。必要なら、そう言ってくれ」

「はい、じゃあ、必要なときは言います」

 

グエンたち一行が村に近づくのを、畑で農作業をしている農夫や農婦たちは奇異の目で見ていた。グエンの雄大な体格と、その虎の頭が人々を驚かせたのは当然だが、その驚きはグエンの持っている旗に書かれた「グエン一座」という看板の文字でいくぶんか治まった。この旗の文字は、少し前に、ソフィとフォギーが苦労して縫い付けをしたものである。

人々の驚きというものは、どんなインチキな弁明であれ、何かの説明があればそれで納得し、治まるものであるらしい。グエンの虎頭は、彼が旅の芸人であるというだけで作り物として受け入れられてしまったようだ。

「とざい、東西。ここに現れ出ましたるは、天下にまぎれもない驚異の一座、恐怖の虎男グエン・バードンとその一行。御用とお急ぎでない人は、この出し物を見逃すと、一生の後悔のもとだよ」

フォギーが流暢に弁じると、あたりに百姓たちがぞろぞろ集まってくる。

 

「お客さんたち、出し物が気に入れば、お金があれば結構だが、無ければ芋でも瓜でも結構。ただし、只見をするようなケチなお客は御免だよ。お代は見てのお帰りだ。では、はじめるよ。まずは、地上に降りた天使の歌声とはこのこと、歌姫ソフィ・マルソーの歌を聞けば、どんな悩みも消えて、地上の天国が味わえる。さあ、歌っておくれ」

ソフィが歌い始めると、遠くで働いていた者たちも集まってきた。まさしく、彼らにとっては、生まれて初めての「芸術」との遭遇だったのである。あるいは、生まれて初めて美の奇蹟を味わったのである。

「こりゃあすげえ。あの子は本物の天使じゃねえか」

「まるで頭の中に、きれいな光があふれるみてえだ。こんな気持ちは初めてだ」

「おらあ、何だか悲しくなってきちまったよ。こんなきれえなもんがこの世にあるなんて、うれしいよりも、悲しいみてえだよ」

「ああ、死んだ妹の声がおらに呼び掛けているみてえだ。お兄、うちは今、天国さいるんだ、幸せだから心配するなって」

歌声が終わると、人々は、その感動を失うのが怖いみたいに、しばらく黙っていた。ソフィはそのために居心地の悪い思いをしたが、やがて起った大きな歓声と拍手に、自分の歌が成功したことを知った。

「さて、お次は、この一座の看板の出し物。『悪党グエンと悲しみの姫君』だよ!」

今度はダンが幼い声を張り上げて、演目を叫ぶ。そのあどけない可愛さは、観客たちを喜ばせた。

「世にも奇怪な悪党グエン、頭は虎で体は人、そしてその心は、虎なのか、人なのか。彼は美しい姫君をさらって逃げました。しかし、正義の騎士、フォギーと、その従者にして利口者のダンは彼を追っておいつきます。はたして、フォギーとダンは、囚われの姫君を救えるでしょうか!」

小さな木の茂みを舞台の袖代わりにして、そこからグエンが飛び出してくる。上半身裸のその体は、それだけで見る者の度肝を抜いた。何しろ、2マートルもある身の丈の威圧感だけでなく、その逆三角形の見事な筋肉質の体は、ただの農作業などをしている普通の人間ではまずありえない体格であった。赤銅色の体はまるで油でも塗ったように午後の日差しに輝き、そして彼は観客に向かって棍棒を持った両手を大きく広げ、威嚇するように咆哮した。それはおそるべき虎の咆哮だった。聞いている者たちの中で気の弱いものは腰を宙に浮かせ、逃げ出そうとしたほどである。

「うわあ、虎だ、虎だ! 本物の虎だ!」

「ば、馬鹿言え、あの体は人間じゃねえか。あれはかぶり物だよ」

「だが、あの恐ろしい声は、ふつうの人間じゃあ出せねえぜ。あいつは本物の虎男にちげえねえ」

「本物の虎男って何だよ。虎か人間かどっちかに決まっている」

「しかし、あの体のすげえこと! ありゃあ、10人力くらいあるなあ」

「何、見かけだおしってこともあるぞ。何しろ、相手は役者だからな、すべてお芝居ってこった」

観客たちは興奮してめいめい勝手な感想を述べている。

その間にグエンはあたりをのそのそ歩き、時々恐ろしい咆哮をあげて観客を震え上がらせる。時には、わざと観客の一人に顔を近づけて唸り声を上げると、相手は「ひっ!」と叫んで飛び退る。

上半身裸のグエンの体は午後の日差しを浴びて、油を塗ったように赤銅色に輝いている。その見事な体だけでも、たしかに見物料を払う価値はある。

一回り回ると、グエンは茂みからソフィを引きずり出した。ドレスと呼べるほどの服は持っていないが、布地をつづり合せてそれらしく作ったドレスは、遠目にはお姫様のドレスに見える。

「あーれー」と芝居がかった悲鳴を上げてグエンに引っ張られるソフィの演技は、確かに芝居の中のお姫様そのものである。田舎芝居の役者にしては顔立ちが上品すぎるのだが。

「待て! 悪党グエンめ、姫を返せ!」

茂みから、今度は騎士風の格好をしたフォギーことフォックスが飛び出す。なかなか美青年風である。

「この正義の騎士フォギーが来たからには、姫は返してもらうぞ」

「ウウ、グルルルル!」

グエンは唸り声で不同意を示す。そして、両手に持った大きな棍棒を振り上げる。

ただでさえ雄大な体格のグエンが両手に持った棍棒を振り上げると、まさに神話の怪物である。

その棍棒が激しく振り下ろされる。フォギーの体は木端微塵か、と思われた次の瞬間、彼女はひらりと身をかわしてそれを避けている。もちろん、グエンが、当たらないように振り下ろしたのだが、観客にはフォギーの神速の動きに見える。

今度はフォギーが剣を構え、次々に技を繰り出すと、グエンはそれに煽られるように、必死に剣を避ける。そして、最後に両手の棍棒を打ち落とされ、剣で刺された格好で地面にどうと倒れる。

「姫、どうぞ私とともに参りましょう」

「はい、有難うございます。あなた様は命の恩人です」

「なあに、危難にあった人を救うのは騎士のつとめです。今頃宮廷ではあなたのお父上である王が、あなたの御無事を祈って待っているでしょう」

二人がしずしずと木の茂みに退場すると、ダンがつけひげをつけて、代わって出てくる。

「フォギー様、どこに行ったのですか? おや、ここに虎男が倒れているぞ。そうだ、私がこの虎男を倒したことにして、姫を私が貰うことにしよう。まだ生きていないだろうな?」

ダンは腰の木剣を抜いて、地面に倒れたグエンに打ちかかる。

すると、グエンがむっくりと体を起こし、猛烈に吠える。

ダンは悲鳴を上げて逃げていく。その後からグエンが追って木の茂みに走り込み、これで芝居の終わりである。この程度の内容でも、芝居を知らない観客たちは手に汗を握り、最後のダンの逃げっぷりに大笑いであった。

 

その夜は、村の大百姓である男の家に泊めてもらえることになった。

 

夕食の席で、その大百姓のゲオルグが聞いてきた。

「失礼な質問だが、その頭は、仮面なのかな?」

「まあ、そうなんだが、商売の都合で、本物の虎の頭ということにしている。この牙も本当は細工物だ」

「そうか、素晴らしい出来の細工だ。どう見ても、本物の虎の頭にしか見えない。と言っても、本物の虎など見たことはないが。それはともかく、あんた方は、この仕事を初めて長くはないだろう」

「なぜ分かる?」

「衣装だよ。どんなに下手な一座でも、長い間旅興行をしていれば、衣装はそれなりに充実してくるものだ。しかしあんた方の衣装は、うまく作ってはいるが、正直言って、今出来のものだ」

フォックスとソフィは顔を見合せた。

「まあ、そう言うな。確かにこの衣装はそこの女たちが素人細工で作ったものだが、田舎の見物衆には、これで十分だろう」

「まあ、そうだが、あんた方なら町で興行しても大喝采を受けることができる。その時には、さすがにこの衣装では貧弱だ。私のところに、昔、宿代代わりに旅芸人が置いていった衣装があるから、それをあんた方にやろう」

「ほう、それは嬉しいが、なぜそこまでしてくれる?」

「あんた方の芝居が気に入ったのと、あんた方の人物が気に入ったんだ。あんた方は将来名を上げるだろう。その時には、私の名を思い出してくれ」

「分かった。ゲオルグ殿、いずれ、このお礼はしよう」

「荷物が増えれば、荷馬車も要るだろう。古い荷馬車も一台やろう。ロバも一頭つけてな」

「そこまでしてくれると心苦しいが、何か今、お礼にできることはないか?」

「そうだな、あんた方の剣の腕は本物だと私には見える。もしも、次の町に向かう途中で盗賊に出会ったら、そいつを退治してくれたら助かる。まあ、無理な願いかもしれんが」

「ほう、盗賊が出るのか」

「ああ、シルヴェストルという、騎士崩れの山賊だ。手下が3人ほどいるから、あんたたちだけでは無理かもしれんな。しかし、我々百姓は、相手がたった4人でもかなわないのだ」

「そのシルヴェストルとはどんな様子だ?」

「やせて、背が高く、口鬚を顎まで垂らしている。頭は禿げている。年は30くらいで、目が非常に鋭い」

「手下たちの様子は?」

「最近シルヴェストルの仲間になったので、あまりはっきりしない」

「武器は?」

「剣と槍と棒だな。弓は使わないと思う」

「そいつらを我々が殺して、問題にならないか?」

「シルヴェストルを退治してくれたら感謝こそすれ、問題にはならない。これまでシルヴェストルのために5人が殺され、7人が不具にされている」

「まあ、うまく出会えたら、やってみよう。ただし、こちらも命は惜しいから、山賊に出会って逃げても我々を恨まないでくれ」

「それは当然だ。無理な願いなのは知っている」

 

ゲオルグに礼を言って退出した後、グエンはフォックスと相談をした。

「シルヴェストルという山賊は、次の村との間にあるモルドーという山に住んでいるらしい。山というほどの高さは無いようだが、街道がその山の中を通っており、その途中で山賊に襲われるということだ」

「人数はたった4人なの? じゃあ、多分大丈夫でしょう」

「しかし、こちらは子供連れだから、子供が危険な目に遭わないかどうか」

「意味の無い冒険なら、子供たちを危険にさらしたくはないけど、その山賊を退治することはゲオルグさんへのお礼にもなるんでしょう?」

「まあな。俺は、やる気は十分にあるんだが、相手は、卑劣な手段はお手の物の連中だ。だから、フォギーにはくれぐれも子供たちに注意していてもらいたい」

「分かった。私にとっては、子供たちを守るのが一番の使命なんだから、言われるまでもないけど、油断はしないようにするわ」

グエンはフォックスの言葉に頷いた。

 

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