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ダンスフロアは大きな、動力化されてゆっくりと回る円盤だった。椅子とテーブルはその外周に列をなして並べられていた。その上方には大きなシャンデリアが天井から吊るされ、曇りなく磨かれた木のフロアがその光を氷の敷布のように反射していた。円盤の向こうにはバンドのステージが、競技場の観覧席のように一段高く作られていた。そのステージでは二組のフルオーケストラが30分交代で演奏し、一晩中休みなく豊潤な音楽を供給していた。右側のひとつは二組のフルドラムセットを備え、ミュージシャンたちは赤い象のロゴの入ったブレザーを着ていた。左側のオーケストラのメインの出し物は10人のトロンボーンセクションで、この一座は緑色の仮面を着けていた。

(訳者注:文末が「~た。」の連続で単調な訳になっているのは分かっているが、面倒なのでそのままにしておく。基本的に、15分以内で訳すのを毎回の仕事量としているので。そうでないと根気が続かない。本当は辞書を引くのも面倒くさい。しかし、英語に訳された文章を読んでいると、村上春樹の作品は、日本人が考えているより名文なのだろうな、という感じはする。構成の妙、比喩の妙、小道具や細部の妙、ストーリー展開の妙を含めての話だ。だが、他の作品を知らないので、これは「踊るドワーフ」に関しての感想だ。ある意味、英語で読むと良さが分かるような性格の名文なのかもしれない。彼の作品の世界的な評価が高いのはそのためではないか。)


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私は彼女を求めて群衆を掻き分けた。私に気づいた友人たちが私の肩をつかみ、話しかけてきた。私は彼らにでっかくフレンドリーな笑顔を見せたが、一言も喋らなかった。すぐにバンドが演奏を始めたが、彼女は見当たらなかった。
落ち着け、ドワーフは言った。夜は若い(訳者注:これは直訳で、日本語としては不自然だろうが、英語のジャズやポップスを聞く人なら直訳の方がぴったりくるかと思う。)。期待するに足る時間はたっぷりある。






そのダンスフロアは工場の中心的な門の傍に建っていて、フロアは毎土曜日の夜には製象工場で働く若い男や女で一杯だった。実際にはこの工場の労働者でない男や女もよくここに来て、踊ったり飲んだり我々の友人とおしゃべりをしたりした。(訳者注:この一文の訳には自信無し。まあ、そういうことを言えば、すべて自信無しだが。)カップルになった男女は終いにはそこを抜け出して、セックスをするために林の中に消えた。
どんなに、こういうものに焦がれていたことか、と私の中のドワーフはため息をついた。これらがダンスというものだ。人の塊、飲み物、ライト、汗の匂い、娘たちの芳香。ああ、それが私を昔に返す。



私は深い深いため息を漏らした。いったいどうしたらいいんだろう。私が思い悩んでいる間、ドワーフは別の不思議な図形を地面に描いていた。一匹の蝶がやってきて、その上に留まった。正確に言えばその中心に留まった。私は恐れていたことを白状しよう。私は自分が最初から最後まで沈黙を守ることができる自信が無かった。だが、それがあの素晴らしい娘を自分の手に抱く唯一の手段であるとわかっていた。私は彼女がステージ8で象の足の爪をはめる作業をしている様を思い描いた。私は彼女を手に入れねばならなかった。
「いいだろう」私は言った。「君の言うとおりにしよう」
「OK」ドワーフは言った。「我々は合意に達した」



「彼女に一言も口をきかないで、どうして彼女を誘惑できるなんて思えるんだ?」私は抗議した。
「心配するな」ドワーフは首を振って言った。「君が私にダンスをさせる限り、まったく口も開けないでどんな女だってモノにできる。だから、ダンスホールに入ってから君が彼女を手に入れるまで、君が一言も口をきくことは許されない」
「もしも口をきいたら?」
「君の体は私のものになる」彼は、当然のことのように言った。
「そして、僕がまったく口をきかないですべてやり終えたら?」
「そうしたら、その少女は君の物になり、私は君の体を離れて森に帰る」




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