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彼女の肩に腕を回し、草が一杯に生えた野原に彼女を導き、一言も言わずに私は彼女を地面に横たえた。「あなたはあまりお喋りじゃないわね」微笑みながら彼女は言った。彼女は自分の靴を遠くに投げ、自分の腕を私の首に巻いた。私は彼女の唇にキスし、もう一度彼女の顔を見るために彼女から身を離した。彼女は夢のように美しかった。私は自分が彼女をこんなふうに腕に抱いていることがまだ信じられなかった。彼女は、もう一度キスされるのを待って目を閉じた。
その時、彼女の顔が変わり始めた。白い、生肉のようなものが彼女の鼻孔のひとつから這い出した。それは蛆だった。巨大な、私がかつて見たどんな蛆よりも巨大な蛆だった。そして、もうひとつ、もうひとつと蛆たちは彼女の二つの鼻孔から現れ、突然、死の悪臭が我々の周囲に立ち込めた。蛆たちは彼女の口から彼女の喉に落ち、彼女の目を横切って彼女の髪の中に隠れた。彼女の鼻の皮膚は滑り落ち、その下の肉は溶けて二つの黒い穴だけが残った。その間にも蛆たちは争いあうように現れてきて、その青白い体は周囲の腐肉を油のように汚した。




(訳者注:原作を読んでいないで、ここまでこの作品を読んできた人は、この成り行きにかなり驚いたのではないか。正月そうそう、何てものを!と思った人もいるだろう。しかし、私は村上春樹のいい読者ではないが、この短編小説は、構成といい話の進展といい、比喩や文章の巧みさといい、村上春樹のベストではないか、と思っている。だから、紹介の意味も含めて、英訳からの再日本語訳という妙なことをしているのである。)
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私たちはダンスホールを離れ、川に沿って歩いた。私は車を持っていなかったのでただひたすら歩き続けた。すぐに道は丘に向かう上り坂にさしかかった。空気は夜に開く白い花の芳香に満たされてきた。私は振り返って、下に広がる工場の黒い姿を眺めた。ダンスホールから、その周辺に、黄色い光が無数の花粉のようにこぼれ、オーケストラは跳ねるような音を奏でていた。風は柔らかで、月の光は彼女の髪を浸しているようだった。
私たちは二人とも黙っていた。あんなダンスの後では、何かを言う必要は無かった。彼女は誰かに手を引かれて道を歩む盲人のように私の腕にすがりついていた。
丘の頂上に来ると、道は松の林に囲まれた野原に続いていた。その広がりは静かな湖のように見えた。どこも等しく腰くらいの高さの草に覆われ、野原は夜風の中で踊っているようだった。あちらこちらに、輝く花が月の光の中に頭を突き上げ、虫たちを呼んでいた。






これは、製象工場なんかで働いているよりよっぽど楽しいだろう? ドワーフは言った。
私は何も答えなかった。私の口はとても乾いていたので、答える気があってもできなかっただろう。
私たちは何時間も踊り続けた。私がリードし、彼女がフォローした。時は「永遠」にその場を譲ったかのようだった。とうとう彼女は踊りをやめた。完全に消耗しているように見えた。彼女は私の腕を取り、私も、ーーあるいはドワーフは、と言うべきかーー踊りをやめた。ダンスフロアのちょうど中央で我々はお互いの目の中を覗きこんだ。彼女はハイヒールを脱ぐために体をかがめ、それを手にぶら下げて、再び私を見た。














私は踊り始めた。最初はゆっくりと、だが次第に速力を速め、しまいにはつむじ風のように。私の体はもはや私のものではなかった。私の腕も足も頭も、すべてが荒々しくフロアの上を動き、私の思考とは関係しなかった。私は自分自身をダンスに捧げ、その間ずっと私は、星々が通過し潮が流れ風が吹きすぎるのを明確に聞くことができた。これが真実にダンスをするということだった。私は足を踏み鳴らし、腕をスイングし、頭を空中に高く上げ、そして旋回した。私が回れば回るほど白い光の球が私の頭の中で爆発した。
再び彼女は私をちらりと見て、それから彼女は私と共に旋回し足を揃えてステップした。彼女の内部でもまた白い光が爆発したのを私は知っていた。私は幸福だった。これまで経験したことが無いほど幸福だった。




彼女は素晴らしいダンサーだ、ドワーフは言った。彼女のような踊り手とは踊る価値がある。さあ、行こうか。
ほとんど自分の動きを意識しないまま私は立ち上がってテーブルを離れ、ダンスフロアに向かった。たくさんの男たちを押しのけて前に進み、彼女の傍に来ると、私は踵を鳴らして、彼女と踊る意思を周囲に伝えた。彼女は旋回しながら私をちらっと眺め、私は彼女に微笑みかけたが、彼女は反応しなかった。その代わり、彼女はひとりで踊り続けた。
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冬山想南
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